軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊の宿り木   2

長雨で日差しが差し込むのは久しぶりのはずなのに、庭の地面は乾いていて、花も心地よさげに風に揺れている。

上の階からではわからなかったが草花が生えているのは木の周囲だけで、建物の周りには石畳が残っていて、そこより中に入れないように柵が設けられていた。

「この外から魔力を放出するのか」

『この中に入らないように徹底してね。幹に傷をつけたり草や花を踏み荒らしたりしたら、二度と歩けないようにするわよ』

水の精霊王の言葉を、ぞろぞろと外に出てきた人達は神妙な顔で聞いていた。

どれだけ注意しても馬鹿なことをするやつってどこにでもいるから、進入禁止にするのは大賛成よ。

「じゃあさっそく、魔力を放出してください」

偏らないように木の周りに人を配置して、さあどうぞと促してみたけど、これがまたひどい。

物理攻撃至上主義で今まで過ごしてきた民族だから、一部の専門職を除いて、魔道具を動かす時しか魔力を使っていなかったんだね。魔力量がある人でも、上手く扱えていない人がほとんどだ。

「魔道士達はさすがね」

この国にも魔道士は少数ながらいて、彼らはすぐに魔力を放出してみせた。

今までは後方から戦う臆病者だと馬鹿にされていた彼らが、これからは教える立場よ。

立場が逆転したせいで、いざこざが起きるだろうなあ。

でもそこまで私が気にしてあげる必要はない。

「無理はしないでくださいね。毎日少しずつ慣れるのが大事です。でも陛下と宰相は精霊が見つかるまで頑張ってくださいね」

国の最高権威者として、ここは見本を見せてもらおう。

『ディア、まだ木は生まれたばかりで魔力が満ちていない。彼らの魔力量では、この地に魔力が満ちるまでにも何日かかかる』

「そうなの? 精霊はそのあと?」

『そうなる』

傍にいたのでカミルとアランお兄様にも瑠璃の言葉が聞こえたようだ。

「誰も精霊を見つけられないと、どうせ無理だと投げ出す人がいるかもしれないな」

カミルはベジャイアの人達の様子を見ながら呟いた。

「僕達の精霊獣を羨ましそうに見ているなら、さっさと挑戦すればいいんだ」

アランお兄様は肩を竦めて呆れ顔になるのもしかたない。

私達は三人とも精霊獣を顕現させているので、興味津々で精霊獣を見ているくせに、じゃあやってみろと言われると、おまえが先にやれと仲間と押し付け合いを始めるのよ。

庭にいる人達も、建物の窓から様子を窺っている人達も、実際に精霊獣を見るのはこれが初めてだろう。

帝国の大使館員をしていた人達が精霊を連れているのだって、初めて見た人達のほうが多いはず。

彼らにとって精霊獣は、魔力の強い民族にしか育てられない遠い存在で、自分も育てられるなんて信じられなくて、はなから諦めていてやる気が感じられないの。

「失敗するのがこわいのか?」

「精霊王が現れて一度は期待して、でも何をどうしていいかわからなくて落胆した人が多いのかもな」

ベジャイアにもベリサリオのように、知識を伝授する人達が必要だってことね。

だからこそやっぱり、この場で何人かに精霊を見つけてもらいたい。

「いいわよ。出血大サービスよ。木に魔力が満ちればいいんでしょう?」

「手伝うよ」

「精霊王が後ろ盾になっているコンビで頑張ってくれ。僕はやり方をレクチャーしてくる」

アランお兄様は文句を言いつつも、戦士達を集めて説明を始めた。

そこは、戦士より先に陛下や宰相に説明してって言いたいところだけど、彼らには盗み見て覚えてもらいましょう。

「カミルはあの辺りでお願い。ふたりで同じ場所でやって、また枝がそっちにだけ伸びたらまずいから」

「わかった」

『ディア達の魔力は強いから、いつも通りにしたら、生まれた精霊が他の人間の魔力では育たなくなるかもしれない』

「え?」

歩き出していたカミルと、腕を上げかけていた私は動きを止めた。

『イフリーの言う通りだよ。こんな魔力の弱いやつらとディアやカミルじゃ、まるで魔力の質が違うよ』

ジンが言うと、そうだそうだとカミルの精霊獣達までもが頷く。

頷きながら竜達は、枝の間をふよふよと飛び回っている。

精霊にとってこの木の傍は、とても居心地のいい空間なんだって。

「うーーん。木に魔力を満たすまでなら大丈夫じゃないかな。それ以降は精霊を育てたい人達に頑張ってもらうしかない」

「そうね。どっちにしろこの木に魔力を満たすのは、けっこう大変でしょう」

『ベジャイアの精霊王の魔力が込められて生まれた木だ。おまえ達ふたりにとっては、それほど大変ではない』

つまり私達ふたりの魔力量は、ここにいるベジャイア人が何日もかけないと集められない魔力を、軽く超えていくって瑠璃は言っているのよね。

もうそれは、人間じゃないんじゃないかな。

「私達、大丈夫?」

「今更そこに悩むのか?」

カミルが気にしないならいいんだけど、私達と死別する時を遅らせたくて、帝国とルフタネンの精霊王が協力して、いつの間にか魔力量を増やしたり寿命を増やしたりしている気がするのよ。

余命三百年ですとか言い出しかねないでしょ。

『木に魔力が満ちたら教えてやろう』

その話は近いうちに改めて確認してみよう。

いつも瑠璃にはお世話になってばかりなのに、ルフタネンに嫁いじゃう立場としては、あまり文句を言いにくい。

でも海で繋がっている北島の港町で暮らすなら、瑠璃にとってはたいした距離ではないそうだし、いつでも行き来出来るように、ベリサリオにも瑠璃の家にも繋がる扉を常設する予定だから、今後もお世話になる気満々よ。

……私とカミルが生活するようになったら、屋敷がやばいことになりそうじゃない?

外国や精霊王の住居に通じる扉がいくつもあるのよ?

屋敷で働く人達には注意してもらわないと、屋敷内で行方不明者が出たりして。

「まあ、なるようになるでしょ」

「そんないい加減な……」

「あ、今の話じゃないの」

「?」

でも結婚した後の屋敷のことを考えてたなんて、カミルに言うのは恥ずかしいから黙っておこう。

「薄く全体を包む感じで、上の方まで」

四歳の頃、魔力をばーって言いながら手を広げてみせたことがあったっけ。

放出って言葉は、まだ早すぎると思ったからね。

でも私ももう十三歳。

「魔力を放出!」

身体に魔力を満たし、循環させ、掌に集めて、空へと、青々とした葉をつけた大樹の枝へと放出する。

淡い光を放つ魔力が、四つの属性の色の光に煌めきながらふわりと大樹を包んでいく光景は、自分がやっているんだけど幻想的で綺麗だ。

「おお……妖精姫の周囲に光が」

「これは美しい」

「あんなに魔力が」

聞こえているわよ。

感心している時間があるなら、あなた達も魔力を放出しなさいよ。

「彼がルフタネンの王子か」

「今は公爵だそうだ」

「妖精姫の婚約者で、精霊王が後ろ盾になっているとか」

「我が国には、妖精姫の相手になる男は……」

「しっ。やめろ。また関係が悪くなったらどうするんだ」

ちらっとカミルを見たら、すっかり目付きが悪くなっていた。

あんた達、今カミルが掌に集めている魔力をぶつけられたら、建物と一緒に吹っ飛ぶわよ。

カミルも、さっさと放出しなさいよ。

掌に溜め込むのをやめなさい。

「カミル」

「……ふん」

ようやくカミルも魔力を木に向けて放出し始めた。

アランお兄様はいろんな人に質問されて、かなり忙しそう。

『もういい』

「もう?」

「え? 俺も魔力量が増えているのか」

そりゃそうでしょ。

精霊王が後ろ盾になるってことは、そういうことなのよ、たぶん。よく知らなかったけど。

「今なら精霊が生まれやすいはずです。みなさん、魔力を放出してください。少しずつですよ。気分が悪くなったら休んでくださいね」

木を見上げると、枝葉が揺れるたびに淡い光が微かに溢れ出しているのがわかる。

あれが精霊の卵のような物なのなら、いつのまにか私は主を持つ前の精霊を見られるようになっているのかもしれない。

新生ディアドラは、みんなが気付かないところでパワーアップしているのだ。

歓声が聞こえたのでそちらに目を向けたら、魔道士の中に精霊をゲットした人が現れていた。

目の前で小さな精霊が、じゃれつくように仲間の周りをぐるぐるしているのを見てしまった魔道士達は、負けてなるものかと真剣な表情になっている。

「今日は一属性見つけたら休憩してください。一度に何属性も育てるのは、魔力が多い人じゃないと無理ですし、精霊獣になれば会話出来るようになるので、他の精霊を育てる時に助言してくれますよ」

「アラン殿、これはどうすれば」

「魔力魔力!」

「おお」

戦士達はすっかりアランお兄様を先生扱いしている。

魔道士や文官達のほうにはカミルが説明に行っているみたいだ。

精霊王達は壊れた宮殿の改築に勤しんでいる。

放置しておくととんでもない建物が出来そうな気もするけど、しーらない。住むのは私じゃないし。

みんな働き者だなあとのんびりしながら、ふと国王を見て、急いで駆け寄った。

「陛下! へーーいか! 魔力出して!」

「ぬお?」

「水を掬うみたいに両手を前にこうして!」

「こ、こうか?」

「魔力!」

「お、おう」

もう私がバルターク国王にどんな態度を取っても誰も気にしない。

国王も私も気にしない。

だから無問題。オールオッケー!

「……水色の光が」

「水属性の精霊です。回復魔法も攻撃魔法も覚えてくれますよ」

「精霊……私のところにきたのか」

「そうですよ。魔力をあげたから、もう契約したことになってます」

「おお……」

掌の魔力を吸収し終えても、水の精霊は甘えるように掌の中にしばらくとどまった後、国王の腕を伝うように飛び、肩の上に収まった。

「見ろ、宰相。私の精霊だ」

「おめでとうございます」

「かわいいと思わないか?」

「精霊はどれも同じに見えますが……」

「わかってないな」

そうして二時間も経てば、戦士の中にも精霊を手に入れる者がちらほらと現れ、魔道士の中には二属性の精霊を見つけた者も出てきた。

そうなると自分も欲しくなるんだろう。

建物の窓から身を乗り出して、魔力を放出している人達もいるようだ。

『毎日魔力を放出して、ちゃんと育てなさいよ。死なせたりしたら、ただじゃおかないわよ』

こんなに一度に精霊を得る人がいる場面を初めて見たベジャイアの精霊王達は心配そうだ。

でも私は、案外うまくいきそうな気がするのよ。

だってこの場の雰囲気が、まるで猫カフェみたいなんだもん。

それも、猫は苦手だと言っていたくせに、いざ家族が子猫を連れてきたらすぐに陥落してしまって、でれでれになって可愛がっているお父さんのようなおっさんの群れている猫カフェ。

精霊が言葉に反応するようになるのは、意外と早いのよ。

そうしたらもっとデレデレになるわよ。

ベジャイアのごついおっさん達は、実は小さなかわいい生き物が大好きだった。

でも男はこうあるべきだという押しつけが強かったせいで、好きなものも好きだと言えなかった。

女性も大変そうだったけど、男性も大変だ。

今後は平和な世の中になって、少しでもそういう考え方が消えるといいな。