軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

等身大人型精霊廃止

案内されたのは季節の花々に囲まれたサンルームだった。

不純物がなく薄く透明なガラスを作れる職人は限られているし、皇宮のガラスは全て職人と魔導士が協力して、防御魔法を付与してあるらしい。天井までガラスなのに、室内の温度調節まで完璧とかさすが皇宮。

うちの城では、何回か私とアランお兄様がガラスを割ってしまったので、サンルームは撤去されました。

わざとじゃないのよ。転んだだけなのよ。あと鉢植えをひっくり返しちゃっただけなのよ。

これ一枚いくらなんだろう。ほんと反省してます。

「よく来てくれたね」

笑顔で迎えてくれた陛下は、ホリゾンブルーの薄手のドレスの上に、濃いブルーのレースのショールを羽織っていた。肩の上では、精霊が大きく成長して元気そうに飛び回っていて、時折、隣に立つ将軍の精霊獣にたわむれるように寄っていく。

将軍は略式の軍服姿で、公爵になったジーン様やふたりの皇子は、襟元にリボンタイを結び正装の上着を着ている。

将軍とジーン公爵は今日も精霊獣を顕現させていた。やっぱり皇宮では顕現させるのが普通らしい。

「ディアドラ、ずいぶん背が伸びたな。あいかわらず可愛らしい」

「皇帝陛下、将軍閣下。お招きいただきありがとうございます」

「どうだ。私の精霊もだいぶ育っただろう」

カーテシーをして顔をあげると、陛下が心配そうな顔でこちらを見ていた。

「はい。とっても大きくなったのですね」

「ああ。あれから一回も魔力を与えるのを忘れていないぞ」

私の笑顔に安心したのか、陛下の表情も明るくなった。

「まだ精霊獣にはなっていないのでしょうか」

「それが……なかなかならなくてな」

「もう顕現できる大きさだと思います。きっとすぐです!」

「そうか」

二年前とは違って、陛下もちゃんと睡眠も食事もとれているみたい。

無理は駄目絶対。今まで平気だったからって次も平気とは限らないのよ。

「本日は新しい菓子をお持ちしました。フェアリー商会の店舗でも扱う商品です」

説明しているのはお母様だ。

デザート関係、服飾関係の相談をしたら、お母様と付き合いの長い商会を教えてくれて、そのやり取りに立ち会ううちに、すっかりお母様もやる気になっちゃって。今では服飾部門の責任者よ。

デザートだって、こうしてまず茶会で貴族に広めて、話題にして、流行に乗せながら店舗展開する作戦をお母様が考えてくれたの。その店舗の代表者もお母様なの。

私はアイデア出すだけの人だから、目立たないように名前を出さないで済むのなら、まかせてしまえたほうがいい。ただでさえ精霊関連で名前が売れてしまっているから、これ以上、他の事でも有名になるのはやばいでしょ。

でもしっかり、私個人の口座を作ってもらって、売り上げのお金は貰っているよ。

本日持ってきたのは、ジェラートです。

レモンとベリーとバニラの三種類で、冷えた容器に入れて運び込まれ、目の前でガラスの器にバラの花びらのように盛り付けていく。

ずっと冷えたままにしておける容器も、それがはめ込まれた浮かせて動く屋台も、ジェラートを 掬(すく) うへらも、全てフェアリー商会製。

もちろんこの場に運ぶ前に検閲は受けているよ。それでも溶けず、ガラスの器も冷え冷え。

この夏には、我が領地の街角でジェラートを売る屋台を見かけられるはず。

もっといろんな種類をトッピング付きで、座って食べられる直営店もオープンするよ。

「冷たい」

「これはおいしい」

どうやら皆さん、気に入ってくれたみたい。

ジェラートが出来上がるまで、厨房であらゆる素材を凍らせて怒られた私のおかげよ。

派手に凍らせるのって簡単だけど、ほどよい加減がむずかしくてね。

出された紅茶はベリサリオ領の一級品ブランドの物だった。陛下も我が領地の物を愛用しているよと示してくださったのかな? 焼き菓子はしっとりとして口の中にアーモンドの香りが広がった。さすが皇宮のパティシエ。腕がいいわ。

ぽかぽかと温かい日差しの差し込む部屋で、精霊獣達がそれぞれの主の足元でリラックスして寝そべるのをほんわかした気分で眺めながら、美味しいお菓子と紅茶をいただく。

優雅だわ。

もうあの大勢の注目する中に行きたくないわ。

でも帰りも通らなくちゃいけないんでしょう。

「ベリサリオ辺境伯、先ほど言っていたいい知らせとは?」

「そうでした。なによりも一番にお知らせしなくてはいけませんでした」

アンドリュー皇子に聞かれて、お父様は急いでナプキンで口元をぬぐい、それはもう楽しそうな笑顔を皇帝一家に向けた。

「なんなのだ? 辺境伯」

「先日、ディアドラの六歳の誕生日会に精霊王にお会いしまして、琥珀様より伝言を預かっております」

わざわざ一拍、次の言葉の間に溜めを作るところが、お父様も性格が悪い。このいい知らせで、皇帝一家を喜ばせるのが嬉しくてしょうがないらしい。

陛下達は、すでにいい知らせと聞いているので、期待に満ちた顔でお父様に注目している。

クリスお兄様の風の精霊猫が、早くしろよと言いたげにみゃあと鳴いて場を和ませた。

「この秋に、皇帝陛下、将軍閣下、皇子様方と我がベリサリオ家全員で、アーロンの滝を訪れるようにとのことです」

「秋? 三年経っていないが?」

将軍がテーブルに手をついて身を乗り出した。

「はい。精霊の数に偏りがあると魔力の関係で、天候に悪影響が出る恐れがあるそうです。また、学園の森に毎日誰かしらが通い、魔力を放出し森を育てていたことを高く評価してくださっているようでした」

「では、秋になれば皇都周辺の森にも精霊が戻るのか?」

「アーロンの滝にて琥珀様の許しを得れば、その場で精霊を戻してくださるそうです」

「おお」

両手で口元を覆い感激に震える陛下の肩を、将軍がそっと抱いて引き寄せる。

今まで、陛下に女性として妻として接する将軍を見たことがなかったので、とても新鮮な光景だ。

「よかった。これで皇子達も精霊が持てる」

「ああ。あなたが頑張ったからだ」

「そんなことないわ。私は……」

陛下が女性らしい言葉を使っている?! と驚いている私に気付いて、ふたりの世界を作っていた陛下はかっと顔を赤くして、将軍の胸を押し退けて身を離しいずまいを正した。

「そ、そうか。では予定の調整をしなくてはいかんな。そなたらはコルケットやノーランドにも向かわなければいけないのだろう」

「はい。ですがこちらはいかようにも致しますので、陛下のよろしいように」

「すぐに予定の調整に入ろう。周囲の領地にも知らせなくてはな」

背筋を伸ばしいつものように幾分低い声で話す陛下を見ても、将軍との夫婦モードを見てしまった後だと可愛く見えてしまう。

「よかった。これで私も精霊を増やせるよ。ディアドラ、私の手紙の返事が欲しかったんだけど?」

「スタンフィールド公爵、いつのお手紙ですか?」

「ジーンでいいって手紙に書いたでしょう?」

にこにこと親し気に話しかけてくるジーン様は、もう十八になられて、背も伸びてすっかり大人っぽくなっている。

「ディアドラに送ってくださったお手紙の事なんですが」

「ああ、きみが読んでいるのは知っているしかまわないよ」

クリスお兄様とジーン様の会話を、大人達とふたりの皇子が会話をやめて聞いている。ジーン様が私にたびたび手紙を送ってきたのを、陛下は知らなかったんだね。ぎょっとした顔をしているもん。

「返事を出来なかった理由を説明するために、ここに手紙を持参しております。これは、四歳の頃にいただいたお手紙なのですが、大人でないと返事が難しいかと」

「叔父上、見てもいいか? 子供に答えられない内容とはなんだ?」

「もちろんかまわないぞ」

手紙を受け取り読み進めるうちに、アンドリュー皇子の眉間に皺が寄っていく。横から覗き込んだエルドレッド皇子も呆れた顔で手紙とジーン様を見比べた。

「見せてもらっていいか」

「はい、父上。しかしこれはなんとも……」

「ジーン、なにを書いたのだ?」

手紙がどんどん手渡されていく。

「精霊獣の顕現について。使用する魔法の偏りにより変化があるのか。人型の精霊獣を顕現させた者は存在するのか。存在する場合、どの属性の精霊獣が多いのか。ぜひ統計を取り傾向を協議したく……四歳の子供にこの手紙に返事を書けと?」

中身おばさんだから、書かれていることはわかるんだけどさ、普通の四歳児には返事の書きようがないでしょう。それに人型の精霊獣を欲しがりすぎでしょ。

なに? 女の子の精霊獣ときゃっきゃうふふしたい人なの?

「なにかおかしい?」

「おかしいわ! だいたい子供にこんな文章を書いても意味がわからないだろう!」

「ああ、それで返事がなかったのか」

「いや、文章が難しいし、そんな統計はとっていないと返事を書きましたよね」

「統計とろうよ! 女性の精霊獣とお友達になりたいでしょう」

この人、駄目な人だ。人の話を聞いていないし、女性陣の前で真剣な顔で力説してしまっている。

「魔道士長がいろんな調査をしていると聞きました」

「うん。それで聞いてみたんだけど、不純だって相手にしてもらえなかった」

「……不純」

「叔父上」

「それは大っぴらに言ってはいけないやつです。女性に聞いてもダメです」

「そうなの?!」

おい、エルドレッド皇子がなんか言っているぞ。おおっぴらじゃなければいいのか。というか、おまえそういうやつだったのか。まだ七歳だよな。それに驚く叔父もどうなんだ。

「あの、女性の精霊獣というのは妖精型の事ではないのですか?」

「そうそう。妖精型でもいいんですよ。等身大でも嬉しいですけれど、別に手乗りでもかまいません」

「それでしたら私の精霊獣が……」

「妖精型なんですか?!」

あ、お母様の元までダッシュしたよ、この公爵。

「見せていただけませんか!」

「その前に私の妻の手を離していただけませんかね」

「ジーーン!!」

勢いのままお母様の手を両手で握り締めて懇願するジーン様に、お母様は驚いて逃げ腰になっているし、お父様は冷ややかな声と眼差しで立ち上がった。陛下と将軍までが、慌てて腰を浮かして止めようとしている。

「見せるのはかまいませんから離れてください」

「はい」

「精霊にも触らないでくださいね」

「……はい」

残念そうな顔をすんな。

お母様が顕現できる精霊獣は、風の精霊と土の精霊だ。風の精霊は緑の髪と羽根を持つ可愛い妖精で、土の精霊はドライアドといえばわかりやすいかな。緑の葉や枝が髪から飛び出し、下半身が人間の足になったり木になったり変化する。こちらも綺麗な女性の姿だけど、どちらの精霊獣も最大の状態でも掌に乗るサイズにしかならない。

「これは……素晴らしい。夢のようだ」

誰か止めて。この人、涙ぐんでいるから。

ジーン様の精霊獣がドン引きしているから。

「あー、ディアドラ。次に精霊王様にお会いする機会があった時には、人間と同じ大きさの人型の精霊獣は、出来ればやめていただきたいとお願いしてもらえないだろうか」

「え?!」

「そうですわね。間違いが起きてからでは困ります」

「そ……そんな」

茶会の事は精霊王達に知らせてあるから、たぶん見ているんじゃないかな。

たしかに人間と見分けのつかない精霊獣は、いろんな問題が出てきそう。

『心得た』

「私の方から、精霊王に伝えておきます」

さすがにもう伝わったとは言いにくい。

がっくりと膝をついているジーン様から、そっと目を逸らしたら、こちらをじっと見ていたアンドリュー皇子と視線が合った。

「ディアドラは、いつでも精霊王に会いに行けるのかい?」

「いいえ。うちの城には連絡役の精霊がいるのです。精霊獣にその精霊に伝言をお願いしてもらって、精霊王のご都合を伺います。私だけでなく、お兄様達もお会いしたことがありますよ」

「連絡役の精霊? 他国でもそういう事があるんですか?」

「いや、調べてみたが前例はない。祝福を得る者はそれなりの数いるようだが、後ろ盾になると明言された者もいないようだ」

それは、私が転生者だからだ。

今は他に転生者がいないらしいから、私だけが特別扱いになってしまう。

「ディアドラ、きみが仲良くしている御令嬢はいるかな?」

「え?」

「皇太子妃がきみと仲が悪くてはまずいからね。ぜひ、妃候補を選ぶ時にはきみの意見も聞きたい。なんなら何人か選んで知らせてほしい」

「アンドリュー、なにを言い出すんだ」

「陛下、彼女に皇宮での生活は無理ですよ。それに彼女が私の妃候補だという噂が流れるより、私が彼女を妹のように大切にしているから、彼女と仲のいい女性を妃にしたいと思っているという噂が流れた方が、彼女は平和な学園生活が送れます」

そうか。いじめられちゃう可能性あるのか。

こんな娘がアンドリュー様の妃になるなんてありえませんわ!!って。

大丈夫。私もありえないと思っているよと言っても、信じてもらえないんだろうな。

「学園で探さないのですか?」

でも、私のためにそこまでしてもらうのも申し訳ない。

お妃教育って、令嬢としての教育をきちんと受けていれば、五年くらいやればいいって聞いたのよ。皇太子の方は結婚するのが二十二くらいでもかまわないんだし、ちょっと年下から探せば恋愛結婚だって出来ないことはないはずなの。その辺、うちの国は緩いのよ。陛下だって恋愛結婚だし。

「たしかに、その噂はありがたいですね」

「嫌がらせがあった場合、相手の令嬢が心配だからね」

ちょっとそこのお兄様ふたり、あとでゆっくり話し合う必要があると思いますわ。

「でも殿下にも好みがあるでしょうし」

「好み?」

「髪や目の色とかほっそりしている方がいいとか、む……」

「む?」

やばい。私は今何を言おうとした?!

調子に乗って皇太子相手に言ってはいけないことを!!

「むずかしいです」

好みの胸の大きさはどんなですかって聞くのは、令嬢としてはアウトだーー!