軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

誕生日祝いという名の密談会  後編

話をしていたはずなのに、ふと見回してみたらまだ食べているのは私だけだった。

会話していたお母様も、しっかり前菜を食べ終わっている。

話に集中していると手が止まっちゃうものでしょう?

「給仕を呼びますか」

エルドレッド殿下が、私がようやく前菜を食べ終えたのに気付いて、皇太子に声をかけた。

どうするのかと思ったら、エルドレッド殿下の精霊がふよふよと動き出して、扉を擦り抜けて外に出て行ったの。

「うわ。すり抜けた! あんなに離れても平気なんですね」

「平気じゃないもんなのか? 俺も兄上も、人を呼ぶ時はいつもああするぞ」

今回は食事をする部屋があまり広くないので、精霊獣達は精霊状態でみんなの頭上に浮いている。

彼らは、基本的には主人の傍を離れない。

命じられた時に、どのくらいの時間どのくらい離れられるかは、精霊獣の強さや魔力の高さや信頼度に関係しているみたいなので、部屋の外に出て行くってことは、かなり良好な関係を築いているってことよ。

「おふたりとも、精霊をちゃんと育成しているんですね。精霊がそんなに離れるのは、その場が安全で、おふたりを信頼していて、精霊が強くなっているからですよ」

「そうなのか」

「ほう」

ふたりの魔力も、会うたびに少しずつだけど増えているんだよね。

うちの皇族は真面目だわ。今でも毎日魔力を増やす努力を続けているんだね。

すごくない? こんな指導者が帝国を治めているんだよ。

それなのに文句を垂れるやつらは、頭に木を生やしてやろうかな。

「失礼いたします」

精霊が戻ってくるとすぐに給仕達が部屋に入ってきたところを見ると、このやり方にみんなが慣れているようだ。

ベリサリオで同じようにしたらと思ったけど、シロが大声で叫んでいる姿が目に浮かんでやめた。

今でも賑やかなのに、大変なことになりそうよ。

テーブルの上の空いた皿が片付けられて、料理が運ばれる様子をぼんやりと眺めて、ふと気付いてしまった。

まったく会話がなくなっている。

室内が静まり返って、食器が触れ合う音や衣擦れの音しかしないよ。

よっぽど重要な話をしていたみたいだよ。いや、していたけどさ。

伯爵達、今夜の様子を噂に聞いたら震えあがるだろうな。

これ絶対、わざと噂にするでしょう。

「それで考えたんですけど……彼らやベジャイアの侯爵の失礼な態度にショックを受けたので、私はしばらく社交の場には出ませんわ」

給仕が全員外に出て、扉が閉まる音がしてようやくお母様が口を開いた。

今度は遅れないように、さっさとお肉を食べましょう。

「そこまで追い込まなくても、彼らは自然と孤立していくだろう。すぐに許してくれと泣きついて来るぞ」

「そうでしょうけど、時期的にその方がこちらとしても楽なんです。まず戴冠式の準備がありますでしょう?」

「ああ、ヨハネスが……」

「そうなんです。秋までベリサリオとブリス伯爵領はホテルがどこも満室なんです」

中央も招待客の滞在場所の確保で大変らしい。

学園用に作った寮が、ここで活躍するみたいよ。

「それが終わるとすぐに、パオロとミーアの結婚式がありますからな。クリスがブレインの仕事をしてくれていますし、私もしばらく領地に籠りましょう」

「辺境伯もか!」

「ランプリング公爵家はパオロだけしかいないんですもの。彼ひとりでは大変ですわ」

「エドキンズ伯爵家も公爵家に嫁ぐ準備と言われても困るだろう」

何年か前までは貧乏で、侍女さえ雇えなかったエドキンズ伯爵家から娘が公爵家に嫁ぐって、時間の流れを感じるわ。

ミーアにもパオロにも幸せになってもらいたい。

「それに、結婚式が終わっても次はアランのデビュタントが控えています。アランは成人とともに独立して皇都で生活するので、いろいろと準備があるんですよ」

今まで黙々と食事をしていたアランお兄様は、自分が話題になったので、肉を口に頬張ったまま、こくこくと何回も頷いた。

一口であんなに肉が減っていくんだから、食べるのが早いのは当たり前だ。

「確かに忙しそうではあるが……」

「大丈夫ですよ。これから精霊の森に通うつもりですし、私が皇都に行きますから」

「ええっ?!」

そこで動揺しないでください、お父様。

「貴族達に、妖精姫は下手に近付くとやばいと思わせる必要があるんですよ」

「いつからそんな話になった」

「……ディア」

なんでだろう。

また残念な目で見られている。おかしいなあ。

「まあいい。時間があまりないからな、本題に入ろう」

「え?」

今のは本題じゃなかったの?!

前振り長いぞ。

「ベジャイアをどうするかというのが本題だ」

「なるほど」

忘れてはいなかったよ?

ものすごく失礼だったからね。

「ガイオの件を許し、留学までさせてやったというのに今日もまた問題を起こしたということは、帝国はだいぶ軽く扱われているんだろう。今回はそう簡単に許すわけにはいかない」

「お母様に無礼を働いたやつを、私だって許しません」

「それにな、我々はニコデムスを放置する気もないんだ。彼らは妖精姫を聖女に仕立て上げ攫おうとした。帝国民は、ニコデムスも、彼らを野放しにしているシュタルクも許さない」

それで人払いしたのか。

これはかなり重要な話だったわ。

「戦争になるんですか」

「シュタルクの出方次第だな。精霊王の住居を元に戻す作業はしているようだが、いまだにニコデムス教を信仰している貴族は多い。今年いっぱい様子を見て、シュタルク首脳部が行動を起こさないようなら戦争もあり得る」

皇太子殿下がここまではっきり言うってことは、もう首脳部では準備が始まっているのかも。

でも戦争で被害にあうのは庶民でしょ。

私が原因で戦争になるのは嫌だな。

「もちろん、普通に戦争をする気はない。庶民に被害が広がり帝国に恨みを持つものが増えれば、ニコデムス教を喜ばすことになる」

「ですよね」

「ディア、話を聞きながら食べないと」

クリスお兄様に言われてはっと自分の皿を見て、それからみんなの皿を見たら、また私だけ料理がたくさん残っていた。

でも皇太子が話しているのに、しかもこんな重大な話なのに食べていていいの?

食べてるか。

エルドレッド殿下が目の前で、がっつり肉に噛り付いてたわ。

「今のシュタルク相手なら軍力はベリサリオだけでも充分だ。ルフタネンもシュタルクを放置する気はないそうで、帝国がシュタルクに攻め入る時には、北島から軍を派遣すると言っている」

お父様が話すのをちらちら見ながら肉と格闘して、口も動かしつつ脳も動かす。

もうルフタネンとの根回しも済んでいるのね。

「戦闘する必要はない。我々が上陸すると同時にシュタルクの精霊王が姿を現してくれるだけで、王都まで押し切れるだろう。その時には妖精姫に是非、力を借りたい」

「戦闘なし?! それはいいですね。もちろん協力します」

私と精霊王が派手に登場して、ニコデムスの嘘をばらしながら、魔力を放出して練り歩けばいいんでしょう?

「ふふふ。ニコデムスへの怒り、だいぶ溜まっていますからね」

「そこで問題なのがベジャイアだ。帝国はシュタルクを占領しようとは思っていない。しばらくはニコデムスにまた傾倒しないように人を派遣するが、シュタルクの貴族の中からまともそうなやつを選んで王位に就けるつもりだ」

「殿下、現国王では駄目なのですか?」

「それはこの一年の動き次第だな」

今の国王はペンデルス人と結婚しているからな。

国王自身は信者じゃないみたいだけど、貴族に信者が多いから無視出来ないんだろう。

「しかしベジャイアは、シュタルクを三分割しようと言い出しそうだろう? 帝国にその気がないなら自分達の属国にすると言うかもしれない」

クリスお兄様の説明を聞きつつ、もごもごと口は動かす。

会議の時もお菓子を食べている私が言うのはどうかとも思うけど、食事会にする話題じゃないよ。

もっと集中してさ、じっくり話す話題だよ。

「だからね、ベジャイアの弱みを握るか、大きな貸しを作っておきたいんだよ」

「もう貸しならあるだろう」

「父上、脳筋の彼らでさえ、忘れられないほどの貸しでなくては駄目なんです。それか……」

「それか?」

「先程ディアが話していたように、妖精姫を怒らせるとどうなるのか、こわさを身に染みてもらうというのもいいかもしれない」

おお、クリスお兄様も私が新生ディアドラになった方がいいと思っているのね。

まかせてもらいましょう。

お母様に無礼を働いたあのおじさんを、心底後悔させてあげるわ。

「アッケルマン侯爵はどうなったんですか?」

「帝国に裏取引を持ち掛けたことも、ベリサリオ辺境伯夫人と妖精姫に無礼な態度を取ったことも、すでに転移魔法で使者を送って報告済みだと知らせてある。特にルフタネンに婚約者のいる妖精姫は、帝国とルフタネンの間に亀裂が入るような取引を持ち掛けたうえ、母親を侮辱されてたいそうお怒りだと伝えた」

「彼は予定通りに帝国に滞在予定ですか? 焦って娘に近付いて来るのでは?」

「お父様、それが狙いじゃないですか」

「いや、直接ディアが相手をすることはない。そんな危険なことはさせられないよ」

いいえ。新生ディアドラはやりますよ。

ベジャイアは精霊王までやらかしているから、ガイオと今回と合わせて三回目よ。

前世には、仏の顔も三度までっていうことわざだってあったんだからね。

「それに彼らは誰も、精霊を育てていないことが気になっていたんです。精霊王がガイオとあれだけ仲良くしていたんだし、関係は良好なはずなのに精霊を育てないなんて。恩恵だけ受けながら、自分達は何もしないなんてありえない。精霊王達にお世話になっている身としては放置出来ません」

うちの精霊王達は、まだベジャイアの精霊王を許していなかったはず。

あとで会う時に、この話をして協力してもらおう。

それからは重い話題はもうなくて、美味しく料理をいただきながら歓談することが出来た。

私とお母様の料理は男性に比べて少量にしてくれていたから、ちゃんとデザートまで食べるわよ。

私の誕生日祝いらしさはまったくなかったけど、楽しかったからまあいいか。

「そういえば、この中で婚約者が決まっていないのはエルドレッド殿下だけですね。誰か意中の方はいらっしゃるんですか」

突然お父様が話をふったので、私も興味津々で殿下を注目した。

いないと笑い飛ばすか、困った顔をするか、そういう反応だろうと思っていたのに、殿下は真剣な表情で首を横に振った。

「俺は、兄上が結婚して子供を授かるまでは婚約しないと決めている」

ええっ?! なんで? まだ後継者問題で殿下を煩わせる馬鹿がいるの?

「そこまでしなくていいと何度も言っているんだがな」

「兄上の邪魔になるようなことはしたくないんですよ。なにも一生独り身でいようとは思っていません」

両親がしたことが、きっと一生このふたりの人生にはつき纏ってしまうんだろう。

ジーン様の最期を私だって忘れられないもん。

だがしかし、ここで暗くなってはいけないわ。

「殿下はモニカ様と同じ年ですよね」

「ん? ああ、そうだ」

「モニカ様が十八になって皇太子殿下と結婚して、子供が授かるまで二年くらいは猶予があるとして、ニ十歳ですか。男性だったら遅くないですね」

「そうだろう? それから婚約でも何も問題ない」

「高位貴族の御令嬢は婚約が決まるのが早いから、その頃に十五歳くらいの子に目星をつけておきましょう。殿下が二十歳になるのは六年後なので、十五から六を引いて九歳。ちょっと余裕を見て八歳。七歳もありえますね。うわー、そんな子供の中から選ぶんですねえ」

犯罪じゃない? 大丈夫?

「今の年齢で考えるなよ。それに十五の子と婚約したら、それから三年は結婚出来ないんだぞ」

「ええー?! じゃあ、殿下が二十歳くらいの時に十八とか十七くらいの女性ってことでしょう? もう選んでおかないと、学園に通っている年齢じゃないですか!」

「そうか。私もモニカが十八になる時には二十二歳だし、普通だな」

「待ってください、兄上。今から選ぶ気はありません。兄上が結婚してから考えます」

「……実は子供好き疑惑」

「違う!」

どちらにしても政略結婚になるんだろうな。

それとも殿下も皇太子の時のように、何人かの中から選ぶんだろうか。