軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新年になりました

新年になり、今年はスザンナやイレーネ、エルダにネリーがデビュタントの主役になった。

私は未成年だから夜会は出られなくて、せっかくのお友達の晴れ姿を見られないのはちょっと寂しい。

正式な婚約者として、スザンナはお兄様が、イレーネはエルトンがエスコートしたのよ。きっと素敵なカップルだったんだろうな。

エルダとネリーは相手がいないということで、父親や長男がエスコートしていたそうだ。

それは別に珍しいことじゃないんだけど、エドキンズ伯爵家もブリス伯爵家もベリサリオとの関係が強いでしょ? うちの兄妹は全員婚約者が決まっちゃったから、ベリサリオとの関係を強めたい貴族の狙いは、まだ相手の決まってないネリーとエルダに集中しているんだって。

ネリーは私の侍女としてルフタネンに行くのをエドキンズ伯爵家が認めているけど、姉がパオロと結婚するのよ? ベリサリオだけじゃなくてランプリング公爵家とも親しくなれるのよ?

侍女ってなんなん? 侯爵家嫡男とでも結婚出来そうな立場なのに、何を言っているの? って、誰でも思うよね。

でも本人は、

「妖精姫の侍女として、一生お側に仕えると決めているのに邪魔をしないでください。私はルフタネンに行きますから!」

と、舞踏会の真っ最中に大声で宣言したそうだ。

パオロとミーアがそれを応援すると言ってしまったし、うちの両親とクリスお兄様までディアが外国に嫁ぐのは心配だから、ネリーが傍にいてくれるのはとてもありがたい。さすがエドキンズ伯爵家。これからも、一緒に産業にも力を入れて協力していこうと話しているのを大勢の貴族が聞いてしまったので、誰も文句を言えなくなってしまった。

この状況を一番気に入らないのがエルダの実家のブリス伯爵家よ。

ネリーのようにエルダも侍女にしてほしいと申し出が何度もあったからね。でもエルダがなりたいのは作家だから、父親も長男のエルマーもエルダの嫁ぎ先に頭を悩ませている。

だけど今年はエルトンの婚約があるでしょ? イレーネは私の友人で、正式に婚約する前には邪魔が入りそうになった件でベリサリオやパウエル公爵の世話になっているから、この縁談は絶対に成功させなくちゃいけない。

エルダが、卒業するまでは自分に合う相手を探すと父親に約束してしたこともあって、今年は娘に任せることにしたんだって。

大変なのはエルダよ。

学園では男子に追いかけられるし、縁談話は外国からも含めて山のようにくるしで、もう訳がわからなくなっていた。

その状況でエルマーにエスコートされてデビュタントの舞踏会に出て、皇太子やクリスお兄様とスザンナのカップルに親しげに話しかけられたもんだから、すっかり注目の的よ。踊ってくださいと次から次へと申し出が来て、どう断ればいいかわからなくなったエルダは、

「好きな人がいるので、他の方とは踊りたくないんです!」

と、言ってしまったらしい。

ネリーといいエルダといい、なんで宣言するのよ。目立ってしまうじゃない。

そのせいで、エルダの想い人は誰だ? というのが、新年の社交シーズン真っただ中の貴族達にとって、格好の話題になってしまった。

「どうしよう。ものすごい噂になってる……」

「実は兄上に片思いだった説に、傍に片思いの男性がいたから他の人と踊るのを見られたくなかった説、まだ成人していない年下に惚れている説。どれにする?」

「どれでもないわよ!」

すっかりアランお兄様は面白がってしまっている。

クリスお兄様もからかいたくてうずうずしていそうだけど、正式に婚約するための予定が詰まっているの。エルトンも妹を心配していたけど、イレーネとの婚約のため忙しい。

婚約って家と家とのお付き合いの正式な始まりだから、手順があるのよ。

新年の日の午前中に男側の家が、結納金や贈り物を持って女性側の家に挨拶に行って、そこで誓約書を交わして皇宮に持っていくの。

デビュタントと同時に婚約したい人のために、昼までは係の人が待機してるのよ。

それが済んでいないと、デビュタントの舞踏会で婚約者として振る舞えないの。

二日目は各領地の新年の祭りが開催される。

嫡男の婚約は領民にとっても一大事だから、ベリサリオは今年もお祭り状態よ。

妖精姫の友人で侯爵家のご令嬢でありながら赤毛ではない女性だというので、スザンナは大歓迎されている。

ベリサリオとオルランディの色が使われたグッズが、あちらこちらで販売されているんですって。

港に屋台街が出来て、飲み物や食べ物が振る舞われるのはもちろん、今年はふたりの婚約を知らせる袋に入ったお菓子も配られたの。

大量に用意しなくちゃいけないから高価な物は作れなくて、パンの耳のような食感のチープな揚げ菓子に、ほんのちょっとチョコがかかっているだけの物だけど、結構美味しいのよ。

ただしカロリーは高い。

チョコを食べたくてもお値段的に身近ではなかった庶民達は、とても喜んでくれた。

なぜか貴族の間でも人気だったわ。

甘い物がそれほど好きではない若い男性には、甘さ抑えめでチョコの苦みがあって、お腹にたまる食べ物は嬉しいのかも。

三日目の昼間に、今度は持参金や贈り物を持ったオルランディ侯爵家の方々がベリサリオに来て、こちらの人達との顔合わせが行われた。

友人歴が長いと楽よね。お互い知り合いが多いから。

夜はお祝いの夜会が行われるけど、アランお兄様と私は関係ないので、昼の食事会が終わる頃にカミルが顔を出すことになっている。

「今日の午後にルフタネンに行って、五日の午後に戻るのか? 二泊?!」

「今日は新年の挨拶に来るだけです。ルフタネンに行くのは明日ですよ」

「あいつ、偉いな」

「本当にアランお兄様もルフタネンに行くんですか」

「当たり前だろ。嫁入り前の娘がひとりで宿泊なんて駄目だよ」

うちの家族でルフタネンにまだ行けていないのはアランお兄様だけだから、この機会に行きたいだけじゃないでしょうね。

屋敷の外に出ないよ?

内装や家具を決めるだけよ?

「パティのご両親への挨拶は?」

「新年会でしたよ」

えー、それだけでいいの?

クリスお兄様の婚約や私のお守りを理由に、パティをほっといていいのかなあ。

婚約者が決まってからの方がモテるって、スザンナ達が話してたよ?

「ディアはどうなんだよ」

「まったくモテませんがなにか?」

カミルは挨拶だけして今日はすぐに帰るので、アランお兄様と待っていたら、ネリーがエルダを連れて居間に顔を出した。

「エルダがディア様の部屋に隠れていました」

「はあ? これからイレーネを迎えて夜会があるんでしょ?! なんでエルトンの妹のあなたがうちにいるのよ!」

「次男だし皇太子殿下の補佐官なんで、皇宮の夜会に出席してお祝いしてもらうそうなんですよ」

「余計に出席しなくちゃ駄目でしょう!」

「そんなところに行ったら、またたくさんの人に話しかけられるじゃないですか!」

こんな時ばかり、人見知りを発揮するんじゃない。

顔を出さなかったらエルトンもイレーネもがっかりするだろうし、ブリス伯爵がブチ切れるわよ。今度こそ勘当よ。

ここはエルダにしっかりしてもらわないと。

「エルダ、よく考えて?」

声のトーンを落としてやさしい雰囲気で話しかける。

「まさに今、あなたは恋愛小説のヒロインの立場なのよ?」

「あ……」

「あなたと結婚したいという男達の中から、本当の恋を見つけて、それをネタに新しい小説を書かなくちゃ」

「そうだわ。こんな経験もう二度と出来ないわ」

「そうよ。あなた自身を見てくれて、その性格も作家がしたいという夢も、全部受け入れてくれる男性を見つけなくては。あなたの人生がかかっているのよ!」

「そう……そうだったわ。ありのままの私を愛してくれる人を見つけないと」

エルダ、初対面の時からありのままはやめた方がいいわよ。

作家の話も、相手の考えをちゃんと確認してから話さないと、大惨事になるからね。

「私、行ってくるわ!」

「そのドレスじゃ駄目よ。ネリー、ダナ達に協力してもらって、エルダを最高の貴婦人にしてあげて。私のドレスならどれでも選んでくれてかまわないわ。プレゼントする」

「かしこまりました。行くわよ、エルダ」

「ディアのドレス? ウエスト細くない? 胸も小さくない?」

胸は年齢差の問題でしょう?

十二と十五じゃ違うでしょうが!

エルダを皇宮に送り出してすぐ、カミルがベリサリオにやってきた。

でも、ゆっくりする余裕はないわよ。

カミルの挨拶が済んだら、ルフタネンに運びたい荷物を転移させる仕事が待っているし、その後は婚約祝いに来てくれた人達を出迎えるお仕事がある。

夜会には出なくても、クリスお兄様のお祝いに来てくださるお客様にはご挨拶しないとね。

それが全て終わってようやく夕食よ。

今夜はカミルも一緒にアランお兄様と三人で食事をしていたら、夜会の最中のはずなのにクリスお兄様が部屋にやってきた。

「クリスお兄様! 夜会はどうしたんですか」

「もう挨拶は済んだから少しくらいはいいだろう」

よくないでしょ。スザンナがひとりになっちゃうんじゃないの?

「女性同士で集まって話をする時間も必要なんだよ」

「そんなこと言っていると、今頃誰かにダンスに誘われてるかもしれないですよ」

「すぐに戻る。ルフタネンに行くのは明日なんだよな。今夜はカミルだけ帰るんだろう?」

カミルのことを認めていると言っていたくせに、いまだにこうして思い出したように牽制するようなことを言うのよね。

デビュタントのスザンナに合わせて、白を基調にした衣装のクリスお兄様は王子様みたいよ。

本人が思っている以上に目立っていたはずだから、いないことはすぐにバレると思うの。

置き去りにされたスザンナが独りぼっちじゃないといいんだけど。

「明日は?」

「向こうに泊まる予定です」

「転移出来るんだから、いったん帰ってくればいいだろう?」

クリスお兄様が隣に来たので、肉料理の載った皿をお兄様の前に移動させた。

どうせ忙しくて何も食べていないでしょ。

でも皿にちらっと視線を向けただけだ。

お腹がすいていないのかなと思いつつも、試しに小さく切った肉をフォークに刺して差し出したら、嬉しそうに大きく口を開けて食べてくれた。

「さ、これでスザンナの元に帰りましょう」

「なんでそんな邪魔者にするのかな」

「スザンナが心配なんです。婚約した当日に婚約者がいないなんてありえません。マジで怒りますよ」

「泊まるって聞いたから心配なだけだよ」

なんの心配よ。

十二歳の私にカミルが手を出すわけないでしょ?

無理矢理なんてことになったら、精霊王達にボコボコにされるわよ。

いえ、その前に私がボコボコにするわ。

「荷物の整理をしなくちゃいけないし、どの部屋をどう使うかも決めなくちゃいけない。時間が足りないんだよ。余裕があればカフェの様子も見たいだろう?」

クリスお兄様に文句を言われて、カミルもむかついているのか口調がぶっきらぼうになっている。

「見たい! アランお兄様はルフタネンに行くの初めてだから、街の様子を少し見たいでしょ?」

「今回は屋敷から出ないと言っていただろう。どうしても行きたいならアランだけ行けばいい。ディア、寝る時だけ戻ってこないか?」

「ディアの屋敷で、部屋もあるんだから問題ないだろう」

「おまえが問題なんだ」

「問題を起こす気なんてない。俺がどれだけディアを大事にしていると思っているんだ」

やめて。本人を目の前にしてそう言う台詞を言わないで。

すっごい恥ずかしいから。

「兄上、もう戻らないと。僕が一緒にいるからディアは大丈夫だよ」

「おまえはカミルに甘いだろう」

「ディアの身を守ることに関して、甘くする気はないよ」

「おまえら、ふたりして俺が何をすると思っているんだ? ディアを困らせるようなことはしない!」

「私が困ることって何?」

はっとして三人が私を見たので、首を傾げて微笑んで見せた。

「クリスお兄様は何を心配しているの? 具体的に教えてくださいな?」

「いや……心配いらないかな。僕はスザンナのところに帰るよ」

「僕もそろそろ……」

「そこ、兄弟そろって逃げようとすんな!」

私の目の前で散々話していたくせに、急に居心地悪そうな様子で逃げないでよ。

私には前世があるって三人とも知っているでしょ?

何も知らないとは思っていないわよね?

「カミル?」

「あ、明日何時に迎えに来ればいいかな?」

露骨な話題逸らしね。

ふたりっきりになってからさっきの話題は、さすがに話しにくいからいいんだけど。