作品タイトル不明
三年目の学園生活 前編
今年も学園シーズンがやってまいりました。
三年目にもなるとすっかり慣れちゃってワクワクもないね。
でも今年からは外国から留学生が来るでしょ? 今までとはちょっと違う学園生活よ。
入寮が開始される二日前、外国から到着した学生や彼らの世話をする大人達。そして帝国の社交シーズンに合わせて滞在しようという人達が皇宮に挨拶に来るという式典が行われることになっている。
いつものごとく来賓用の謁見の間にずらりと主だった貴族が並んで、一段高くなった席に皇族兄弟とモニカが座って、順番に挨拶をするわけよ。これ毎回やらないといけないのかね?
それで今回、式典の始まる何日か前に皇太子やブレインのいる執務室に行く機会があったので、これは無駄じゃないのかと聞いてみました。誰かが言い出さないといけないのなら、一番角が立たないのは私かなって思って。
「真冬ですよ。床が硬くて女性の靴で何時間も立たされるのは嫌がらせですよ。年配の人もつらいはずです。腰に来ます」
「……なるほど」
「待ち時間が毎回無駄に長いんですよ。我慢大会ですか? せめて椅子を用意してください。お客さんが入場する時に立ち上がればいいでしょう? なんなら客にも椅子を出せばいいんじゃないですかね。それかやめましょう。開園式があるからいいじゃないですか」
「ああ……それは……ええ、本当に……」
実はパウエル公爵もつらかったんだって。ほらみろ!
「そうか。では椅子を用意しよう。式典の間、小型化していれば精霊獣を出してかまわない。魔法で各自温度調節してもらおう」
「素晴らしいですわ!」
いい仕事をしたわ。
こういう小さな改革は大事よ。
そして当日。
前回の茶会は、何年も内政を重視していた帝国の皇太子や貴族達が、どんな考えの人達か、外国人とどう接するのかを確認する意味もあったんだと思うの。だから、学生の数は最小限でほとんど男子ばかりだったのよ。
それが今回学生を出迎えてみたら、定員いっぱいの学生が留学することになって、しかもその半数は女性だったもんだから、謁見の間に順番に入場する団体がとても華やかだった。
侯爵家や伯爵家のご令嬢で、高等教育課程では一番年下の十五歳の女性が多いのは、どう考えてもエルドレッド殿下狙いよね。
王族の姫を寄越さないのは、皇太子殿下への配慮だろうな。
今回は特に大きな問題は起こらなかった。シュタルクは国交断絶状態だしね。
ただ、またベジャイアはちょっとだけやらかしていた。
今回も彼らは自分の国の常識のままに帝国を訪れてしまったの。
ベジャイアの女子学生や彼女達の世話係の女性達は全員、太腿近くまで足が透けて見える薄布を纏った姿で、昼間だというのに夜会用のドレスのように肩を出していた。
まだ十代半ばの女の子なんて薄化粧のほうが可愛いのに、ぶっといアイラインの線で目尻があがっているように見せて、真っ赤な口紅をつけて、胸が半分見えている状態で皇族の前に跪くから、ポロリもあるかもとハラハラしたわよ。
他の国の女性は首元まで隠れた長袖のドレスを着ているから、彼女達だけが目立ちまくっていた。
冬だからね。精霊獣達や魔道具のおかげで部屋は暖かくなっているけど、外は雪が降っているのよ。
見ているだけで寒いわ!
「同盟のお話もいただいていますし、良い出会いがありましたら是非、この機会にアゼリア帝国のご令嬢に我が国に嫁いでいただければと」
「同盟と婚姻に何の関係があるんだ?」
ベジャイアの代表で話をしているのは、外交官よ。
貴族の子供が団体で外国に行くんだから、寮の責任者や指導官もついて来ているはずなの。それなのに露出の多いドレスを女性に着せて平気な顔をしているのよ。喜ばれると思ったのかな。
ベジャイアの人達が謁見室に入ってきた時から、皇太子を始め大人達全員が冷ややかな顔になっているのに、彼らはそれに気付かないみたい。それか、気付いていても理由がわからなかったのかもしれない。
「どうもそちらの国の者達は外交問題を軽く考えているようだ。前回、私と弟の誕生日の茶会の席でのふるまいをもう忘れたのか? 今回は学生の入寮の挨拶を受ける場だ。政治の話を皇太子の俺に直に話すほど、おまえは地位が高いのか」
「いえ……も、申し訳ありません」
「我が国の令嬢をそちらに嫁がせる話もなしだ。ここは帝国だ。留学したいというなら、こちらの風習に合わせろと伝えたはずだ。なぜ女性にそのような服を着せるのだ」
「あ……彼女達にも良い縁談があればと思いまして……あの、顔は地味ですが体は一人前……」
「このような席で自国の女性、しかもまだ子供の彼女達にそのような言い方をする者が、外交官なんですか?!」
パウエル公爵が大きな声で彼の言葉を遮ると、周囲にいた帝国の貴族達がざわざわと話し始めた。特に女性陣は怒り心頭だ。
帝国だって女性は爵位を継げなかったり、政治の仕事には就けなかったりするけど、こんな侮辱を受けることはないわ。まるで商品を品定めさせるみたいじゃない。
ただね、ベジャイアは、南は海、東は山岳、北がペンデルスで西がシュタルクっていう地形にある国でしょ?
ペンデルスは自分の国が砂漠化しちゃったから、ベジャイアの土地を奪おうとしてくるし、シュタルクは精霊のいる女性を攫おうとしてくるという、立地条件最悪な場所なのよ。
そのせいで国境紛争や内戦ばかり起こっていて、戦闘力の強い男性が素晴らしいとされてきたし、戦闘で若くして命を落とす男性が多かったの。
だから女性は国を守って戦う男を喜ばせるために、いつも艶っぽく女性らしい体つきを強調した服を着て男性に癒しを与えるように教育されるんだって。
馬鹿英雄……ガイオもそれが常識だと思っていたから、失礼なことを言ってたんだよね。
「まさか授業もそんな姿で受けるつもりじゃないですわよね」
「ありえませんわ。このような国に娘を嫁がせようとする家があるわけないじゃないですか」
ベジャイアの男達はまずいという顔をして、学生達は驚いた顔をしている。
自分の国では当たり前の常識が、他所では通用しないということを、今初めて知った子もいるのかも。
歴史的背景があって培われた他国の文化を否定するというのはどうかと思うけど、帝国にいる間はこちらの文化に合わせてほしいよな。
「ドレスは私達で用意しません? これでは彼女達が気の毒ですわ」
「そうですわね。化粧も帝国風のやり方を教えて差し上げましょう」
うちのお母様とグッドフォロー公爵夫人がやると決めたら、それはもう決定事項だ。
ベジャイアの女性達はこれから念入りに磨かれて、別人のようになるんじゃないかな。
「ふむ。そうなるとガイオのあの態度が、ベジャイアでは普通というのも嘘ではなかったか」
「いや、普通というわけでは……」
今日のガイオはおとなしい。
この会が始まる前にベリサリオの控室に顔を出し、深々と頭を下げて謝罪もしてくれた。
別人のように礼儀正しくて気持ち悪かったわよ。
前回やらかしたせいですっかり立場が悪くなって、このまま領地に引き篭もるしかないかと思うほど、ベジャイア宮廷で邪魔者扱いされたんだって。それでようやく、自分の立場の危うさを理解したらしい。
彼をよいしょして軍隊の先頭に立たせたのも、礼儀作法や常識を学ぶ機会を与えなかったのも大人達なのにね。
そんな時にシュタルクが私を聖女にするっていうあの教義の事件があって、怒ったカミルがベジャイアに行った時に、名指しで面会を申し込んだのがガイオだったんだって。
カミルはガイオのことは、アホだけどいいやつだと思っているからね。
ルフタネンのキーマンで妖精姫の婚約者と親しいとなれば、ガイオを邪魔者扱いは出来ない。
それで今回チャンスが与えられたんだそうだ。
でも今回、帝国から嫁を貰うか、皇太子なりベリサリオとしっかりと友好関係を築けなければ、今度は本当に宮廷から追放になるんだってさ。
「だが嫁は無理だ」
「……はい」
「どうだ、ガイオ。ベジャイアに居場所がないなら帝国に来ないか」
はあ?! 皇太子がなんか言い出したぞ。
クリスお兄様もパウエル公爵も驚いているじゃない。
「帝国だけじゃなく、いろんな国に行き、自分の目と耳で世界を知るいい機会じゃないか? 英雄と言われるおまえだ。戦いが終わっても、次の生き方を見つけられるだろう。学園シーズンが終わっても帝国に残るのも悪くない選択だぞ? なあ、オーガスト」
「……殿下がそうおっしゃるのであれば、ベリサリオとしても協力いたします」
ベジャイアの英雄は帝国に留学。三年くらいして諸外国とのパイプを築いて、世界的視野を身に付けて帰国したら、ベジャイア宮廷はどういう形で迎えるんだろう。
今は世界中が世代交代の時期で、精霊との共存や、ニコデムスの問題もあって、新しい時代に移り変わる過渡期なんだと思う。
帝国もルフタネンも、シュタルクもベジャイアも、同時期に若い新しい王が生まれるから、どうしたって比べられる。
問題児英雄を受け入れて世界を見せようとする皇太子と、嫁を貰って来ないと宮廷から追放しようとするベジャイアの国王。どっちが評価されるかは考えるまでもないな。
ベジャイアの反応はどうだろう?
ここで駄目とは言えないだろうから、よし帝国で学んで来い! って話にするしかないよなあ。
邪魔なやつがいなくなってラッキーって思うやつもいそう。
帝国に来ても何も学べなければ、英雄もいつの間にか忘れ去られて、ただの人になっちゃうだろうから、ここからがガイオの正念場か。
ということで、学園生活がスタートする時には、ベジャイアの女性も他の国の女性達と同じようなドレスを着て、薄化粧になっていました。
地味なんかじゃなくて、可愛かったわよ。
派手で美人系じゃないとベジャイアではモテないらしいけど、帝国では好まれる顔だと思うわ。