作品タイトル不明
平和なお茶会
学園が始まる前にモニカ主催の茶会を 急遽(きゅうきょ) 開催することになった。
精霊の森を生き返らせるのを琥珀が楽しみにしているし、屋敷を改修しないといけないし、新年になってすぐルフタネンに行くし、並行していくつものスケジュールが組まれているから、やけに忙しく感じるわ。
茶会の日はお母様に選んでもらったドレスを着て、片方だけ耳が出るように編み込んで髪飾りをつけて、もう片側は自然におろして銀色の髪が目立つようにした。
ネックレスとイヤリングは宝石は小さめで、でも高級品だとわかる色合いのものを選んだ。高級品は、品よくさりげなくよ。
「どう? 変なところはない?」
「お綺麗ですわ。本当に妖精のようです」
身内はいつも褒めてくれるものだから、調子には乗らずに出来るだけお淑やかにしないと。
「カミル様の黒い髪も瞳も素敵ですけど、アクセサリーに取り入れにくいのが難点ですよね」
「大丈夫です。このペリドットはイースディル公爵家の色をしていますから」
「そうでしたわね」
ダナもネリーも楽しそうね。
私より侍女達の方が、カミルとの婚約にはしゃいでいる。
相手が見つからないのではと心配していた私が、こんなに早く条件のいい相手を見つけたものだから、城中が安心していると言ってもいい。
外国に嫁ぐことをもう少し気にすると思ったんだけどなあ。
どうせ転移魔法でしょっちゅう帰ってくると、家族以外にも思われているのが解せぬ。
「準備出来ましたよ」
部屋の外には茶会に一緒に行くジェマと、なぜかレックスとアランお兄様までが揃っていた。
「お嬢、今日は誰を倒しに行くんですか?」
「どうしてさ」
突然レックスが変なことを言い出して、アランお兄様は大笑い。
「そこまで気合を入れて綺麗にしているので、心を折ってやりたい御令嬢でもいるのかと思いまして」
「確かに。可愛さも度が過ぎると暴力だな」
「もっとまともに褒められないんですかね、この男共は」
もう無視無視。
私、知らない人がいるお茶会って初めてなのよ。
寮のお茶会は初対面の人もいたけど、お兄様達が一緒じゃない?
それ以外は、仲のいいお友達しかいないお茶会にしか行ったことがないの。ベリサリオからほとんど動かない引き篭もりだから。
これからはそれではまずいらしいので、こうして気合を入れて皇宮に乗り込むんじゃない。
「心配だから僕も行こうかな」
「女性だけのお茶会に、お兄様と一緒に行けるわけないじゃないですか」
「外までしか行かないよ。そんな可愛くしたら、変な男が寄ってくるかもしれないじゃないか」
たった今、暴力がどうこう言っていませんでしたかね。
「その時にはイフリーが踏み潰してくれます。ジェマ、行くわよ」
ジェマとふたりで転送陣を使って皇宮に向かい、まずはモニカと合流する。
一緒に皇宮内を移動することで、お茶会とは関係ない人達にも仲の良さをアピールしたいの。
「モニカ中心で話を進めるからね。何かあった時にはフォローするわ」
「とっても心強いわ」
最近モニカは髪を後ろでまとめずに、ハーフアップや部分的に編み込むような髪型が多くて、豊かな金色の髪がふわりと胸元まで垂れて、とてもゴージャスな印象になった。
これで背が低かったら頭が重そうに見えちゃうんだろうけど、すらっと背が高いから迫力ある美人よ。
最近、ますます綺麗になった気がする。恋する乙女はすごいわね。
招待した令嬢は全部で六人。そこにモニカと私が加わると八人。全員で話をするのは、このくらいがギリギリの人数じゃないかしら。
ブリたんと彼女のマブダチのフルールを招待しているから、私達に話を合わせてくれるはず。
ブリたんは中央の侯爵令嬢だし、フルールはエルダの小説を出版しちゃった令嬢で、他にも何人か作家を発掘していて、その本が御令嬢の中で大人気なの。
彼女達がモニカの味方だと立場をはっきりさせるだけでも、茶会を開く意味があるわ。
私が初めて会う中央の伯爵令嬢は四人。
発言力があって友人の多い令嬢を選んで招待したから、きっと茶会が終わり次第、どんなことがあったのか広めてくれるわ。
部屋の前で深呼吸。貴族風の遠回しな嫌味だろうが、嫌がらせだろうがドンと来い。
モニカが気に入らないっていうなら、私が受けて立つわよと扇を開いて部屋に足を踏み入れたのに、いっさい誰からも敵意は感じなかった。
「よ、妖精姫様?!」
「まあ!」
ブリたんもフルールも私が参加することを話さなかったの?
四人とも驚いた顔で慌ててよろめきながら立ち上がり、私とモニカに対してカーテシーをした。
「そんな畏まらないでくださいな。どうぞお座りになって」
おお、モニカってば皇太子婚約者っぽい。
どのあたりがって言われると困るんだけど、身分が上の女性としての嫌味にならない余裕というか? 私にはないエレガントさというか?
しばらく見ない間に仕草のひとつひとつが洗練された気がする。お妃教育さすがだわ。
「そちらの四人はディアに会うのは初めてでしたよね? 紹介させていただきますわ。妖精姫という呼び名で有名なベリサリオの御令嬢のディアドラです。幼少の頃からの友人なんですよ」
「はじめまして」
怖がらせないように優しい笑顔で会釈して、ブリたん達とも言葉を交わしてから席につく。
なんなの、この子達。頬を染めてうっとり見つめられると居心地が悪いんだけど。
脇腹に穴が空きそうだから、そんなに凝視しないでよ。
「噂以上にお美しくて、私達と同じ人間とは思えませんわ」
「精霊王様達の寵愛を受ける方ですもの」
寵愛……蘇芳が腹を抱えて笑いそうだな。
「モニカ様の髪を見て。皇太子殿下が夢中になるはずですわ」
「尊い」
なんか変な言葉も聞こえてきたけども、皇太子が夢中? そんな噂になっていたの? あれ?
まだあの侍女達の騒ぎから五日しか経っていないのに、お母様達が本気になれば、噂のひとつやふたつ軽く広められるのね。
「ビディ、フルール、おひさしぶり」
「本当におひさしぶりです。もっと皇都に来てくださいな。なかなか会えなくて寂しいですわ」
ブリたんは、さっきから笑いそうになっているのを我慢しているでしょ。
扇で口元を隠しているけど、私をからかいたくて目がキラキラしている。
フルールは真剣な様子で何かメモを取っているみたい。
「精霊の森に別邸をいただいたので、その改修をしないといけなくなったの。だから今後はかなり頻繁に皇都に来ることになると思うわ」
「聞きましたわよ。皇太子殿下がモニカ様とディアに屋敷をプレゼントしたんですよね」
ブリたん、そこでモニカの話を絡めてくれるなんて、話の進め方が素晴らしいわ。
「そうなんです。私は精霊の森を生き返らせる事業に携わるの。琥珀がまた、あそこに住みたいんですって」
四人の御令嬢は、私とブリたんが話すたびに発言している側を食い入るように見つめている。
全員同じタイミングで顔が動いてるわ。
前もってモニカに聞いていた通り、彼女達はみんなそれなりに魔力が多いのに、ふたりは一属性だけしか精霊がいなくて、残りのふたりなんて全くいないのよ。
「私は皇宮側に予約制の貴族専用のカフェを作る予定なの。中央は自然が少なくて、なかなか精霊に巡り合えないでしょう?」
「あ……」
モニカが四人に話しかけると、どう答えればいいのか迷っているようで、私とモニカの肩近くにふわふわ浮いている全属性の精霊を見て、顔を曇らせて俯いてしまった。
嫌味を言ってくるどころか、遠慮しているのかお茶にもお菓子にも手をつけずに、緊張した様子で椅子に浅く座って俯いているのよ。私達が虐めているみたいな雰囲気よ。
「そ……うなんです。困っているんです」
「ちょっと、恥ずかしいわよ」
「だって」
精霊が戻って何年だっけ? 中央にも精霊を手に入れている人が増えている印象だったんだけど、皇宮に勤めている人達は優先的に精霊のいる場所に行ける人達だったからなのね。
中央は街が発展している分、自然が残っている場所が地方に比べて少なくて、そこに人が殺到してしまうんですって。
人がたくさん訪れると、草は踏まれ枝は折られ、人にその気がなくても自然は荒らされてしまう。
だから保護されるようになって、精霊を探しに行けるのは当主や嫡男優先になってしまった。
そこに近衛騎士団や皇宮で働く者達が加わると、女性の行く時間が無くなってしまって後回しにされているの。
「そんな悲しい顔をなさらないで。実はね、精霊の森は何年も人が立ち入らなかったので、精霊がたくさんいるみたいなの。ずっと誰か来るのを待っていたのね。ほんの数分いただけで殿下の精霊が増えたのよ」
「近衛騎士三人も精霊が増えたわよね」
肩を落としていたお嬢さん達は、話の流れが意外だったらしくて、期待していいのか勘違いなのか迷っているみたい。
モニカが何を話すのか、真剣な顔で聞いている。
「ねえディア、学園が始まる前に精霊の森でお茶会が出来ないかしら」
「そうね。モニカ主催のお茶会なら、男性を招待しなくてもおかしくないわよね」
「皇太子殿下の精霊が増えたから、皇宮ではすでに噂が広まっているわ。でもあそこの管理は私とディアがまかされていて、皇族の許可なく立ち入り禁止だから、今がチャンスなの」
学園が始まった時に精霊がいるかいないかの差は大きい。
いれば、男性からのお誘いがぐっと増えるはず。
「いいわよ。協力するわ。入り口から転移して森の奥に行きましょう。屋敷の方は間に合わないでしょ?」
「ディアがいるなら、みんながお茶するスペースくらいは暖かく出来るでしょう? 雪が降る前に、お菓子を持って外でお茶しましょう。四人とも招待状を出すので来てくださいね」
「呼んでくださるんですか?!」
「あ、ありがとうございます!」
ぱあっと四人の表情が明るくなった。
精霊がいないこと、すごく悩んでいたんだろうな。
「あの……私より、姉を招待していただけませんか?」
「お姉様?」
「もう十七歳なのに、精霊がいないからと婚約破棄されそうなんです」
あんだとーー!
婚約者が精霊と出会えるように、協力しようって気が相手にはないのかい。
「そうね。でもお茶会にはお姉様もあなたも来てくださいな。他の方も信頼出来る人を誘ってきてね」
モニカの言葉に感激して、涙ぐむ子もいるっていうこの状況はなんなの?
彼女達伯爵令嬢よ? 待遇悪すぎるでしょう。
下位貴族は反対に領地に自然が多くて、精霊がたくさんいたりするのかな。
それで皇太子は精霊の森をどうにかしたかったのか。
だったら正直に話して相談しろよと言いたいところだけど、無理だよな。
皇太子と私とふたりきりになる機会なんてない。いつも護衛や側近やブレインの誰かが必ずいる。
特にブレイン相手には、皇太子に相応しい働きをしていると現在進行形で証明し続けなくちゃいけないし、女性の精霊の心配なんて話したら、騎士や皇宮の人達は自分達をどうにかしてくれと思うだろう。
それに、私の働きじゃなくてモニカが中心だと思わせたい。
そう。私はあくまでモニカのフォローでいいのよ。
これ以上功績を上げたら、ルフタネンに行きにくくなってしまう。
私は博愛主義者じゃないのよ。
「そういえばブリジット様は婚約がお決まりになったんですよね。おめでとうございます」
「ありがとう。でも私だけじゃないのよ。ディアも決まったのよね」
「ルフタネンの公爵様ですよね」
「黒髪の素敵な方!」
精霊の話で安心したからか、急にコイバナになってるわよ。
ブリたん、自分が話題になるのが嫌で私に振ったでしょ。
「羨ましいわ。最初からディアドラ様しか見ていなかったですよね」
「あのダンス、素敵でしたわ」
やだー。みんな、いい子だ。可愛い。
いや、ダメダメ。ちょろいぞ自分。
こうしてまた手助けしたい相手が増えたら、どんどん忙しくなっていくのよ。
まあ、暇を持て余すよりはいいし、手助け出来る立場にいられるのは感謝するべきよね。
元の予定通り、モニカの味方がどんどん増えそうだし。
「でも外国の方だと、なかなか会えなくて寂しくはないですか?」
「それが……意外に会っているの。年が変わってすぐにルフタネンに行く予定があるし、春先にもあちらに行くし」
きゃあ! って歓声がして、なぜかブリたんやフルールまで加わって、私とカミルの話題で盛り上がってしまった。
もうね、聞いていて恥ずかしいのよ。
そんな物語の主人公のような理想のカップルなんかじゃないからね。
カミルが初めて会った時から私が好きで、口説き落とすために帝国に通っていたと思われているみたいだけど、私とカミルの初対面なんてひどいよ。
カミルは泣いていたし、私は女の子と間違えていたんだから……って、言えない。
「ディアドラ様のためにルフタネンの精霊王を後ろ盾にしたんですよね」
「素敵!!」
「私もそんなふうに愛されたい!」
今度カミルに会ったら、大爆笑しそうだわ。