軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

相変わらずのディア

私自身は、自分がそれほどたいそうなことをしてきたという自覚はあまりなかったの。

まったくないわけじゃないのよ。

エーフェニア殿下を玉座から引きずり下ろした張本人だから、それだけでも歴史に名前が残っちゃうのは確実よね。

あの頃はまだ怖いもの知らずで、精霊王とすっかり仲良くなって、領地以外にも出かけてお友達も出来て、フルスロットルで帝国中を駆け回っていた。

このままだと家族やお友達にまで被害が及ぶと思ったら、放置出来なかったのよ。

でもそれからはそんな派手なことはしていないよね?

ルフタネンのことは帝国内ではノーカンでしょ?

あれは私は叫んだだけで、実際に動いていたのはカミルだし。

精霊王が集合しちゃったのなんて、私はむしろ巻き込まれた側よ。私のせいじゃないもん。

精霊王と各地の貴族代表との関係は良好で、精霊の数も順調に増えている。

中央だって精霊が戻って何年も経って、地方と同じ状況になったじゃない

そしたら他に何があるの?

精霊の森には皇太子専用の精霊車で行くことになった。

精霊車の中にはうちの兄妹と皇太子とモニカ、そしてエルトンしかいない。

周りにはいるわよ。

フライに乗った近衛騎士団が、精霊車の周りを取り囲んでいるはず。

フェアリー商会が製造したこの精霊車は空間魔法を最大限に活用していて、普通の馬車の大きさの精霊車の中に、広い客室の他に皇太子専用個室がついている。

客室は少人数で話の出来るソファーセットのある区画と、丸いテーブルの周りに椅子が並ぶ会議スペースがあるから、実質二部屋みたいなものよね。

私達が今いるのは会議スペースの方で、中華の丸い回転台を置いたら十五人くらいが食事出来そうな大きなテーブルに、エルトン以外のメンバーが座っている。

執事も侍女も別の精霊車に乗っているから、エルトンは居心地悪そうだし忙しそう。

ギルは皇太子が仕事を押し付けてきたので、今頃執務室でお仕事中だ。

「まずは先程のモニカの侍女の話をした方がよさそうだな」

テーブルが広いから、モニカと皇太子が座っている位置と私が座っている位置は結構遠い。

お兄様ふたりはいつものように私の両側に座って、のんびりとお茶とお菓子を楽しんでいる。

どんなことがあったか説明はしたけど、私に被害が及んだわけじゃないから冷静なのよね。

モニカも見た感じはいつも通りかな。

私が持ち込んだ新作のイチゴチョコレートを嬉しそうに食べている。

「侍女の態度が悪いという報告は受けてはいたんだ。だが、俺がどこまで口を挟んでいいかわからなくてな。モニカと合流した後で、女性達でその件も話し合ってもらおうと思っていたところだった」

「あのね、外で起こった女同士の喧嘩に男が口を出すと火に油を注ぐことは多いわよ。でもね、家庭内の問題にその家の主が口を出すのは当たり前でしょう。ましてや何年も女主人がいなくて無法地帯だった皇宮に、十三歳の女の子が突然放り込まれて、何をどうしろっていうの。モニカを守ってくれる相談役はつけなくちゃ」

「へスターがいるから平気だと思っていたんだ。だが、俺に言っても無駄だからモニカを攻撃しようという貴族が出始めたようだ。スキナー伯爵家だけで今回のようなことをする度胸はない。おそらく仲間内で集まって仕掛けようとしたんだろう」

窓から見える木々はすっかり葉を落としていて、行き来する人達は暖かそうな上着を着こんでいる。

もうすぐ学園や冬の社交シーズンが始まるというのに、次から次へと問題が起こって嫌になるけど、政治の中心ってこんなものなのかな。

前世でも一年中、政治家がいろんな問題を起こしていたし、こいつ自分では何もしないし何もわかってないだろうって大臣も珍しくなかったもんな。

「私がもっと早く相談していればよかったんです。母に頼るのはいけないと思って、でもじゃあ誰に言えばいいかわからなくて。……私は今まで恵まれていたんですね。ノーランドの侍女達はみんな優しくて、一度も嫌な目にあったことがなかったので、そんなに私のマナーは中央の人から見たらひどいのかと思ってしまったの」

「グッドフォロー公爵夫人なら、経験豊富な人材を集めてくれるだろう」

「ねえクリスお兄様、ミーアに相談したらどう? 彼女も公爵家に嫁ぐ立場だし、モニカと同じような悩みがあるかもしれないでしょ? 相談し合える相手がいるのは心強いんじゃない?」

友人と話をするのも楽しいけど、環境の近い人と愚痴を言い合ったり、相談しあえたりするのって重要よ。

「わかった。わかったからこの話は、あとはアンディーとモニカにまかせておこう。グッドフォロー公爵夫人にノーランド辺境伯夫人。母上にミーアまで揃ったら、ディアが出る幕はないだろう。いや、出ない方がいい」

「そうよ、ディア。クリスの言う通り。私達はディアに助けてもらってばかりでしょ? 友達は片方が助けてもらってばかりじゃ駄目だと思うの」

「そんなことないわ。今回は、私の存在が邪魔になってる」

「なってないわよ。ディアは何も悪くないでしょ」

そうかもしれないけど、妖精姫って言う面倒な存在のせいで、モニカにプレッシャーがかかっているでしょ?

イレーネのことも、私の存在が原因のひとつになっていたし、これからもっと、こういうことは増えるかもしれない。

「まったくおまえ達は真面目だし、優しいな。今回のことは俺の読みが甘かった。まだ今ならディアが他国に嫁いでも、これほどの騒ぎにはならないと思っていた。結果的にこうなるなら、二年前にカミルが現れた時に、婚約者の振りだけでもさせればよかったかもしれない」

「なんだと?」

皇太子の言葉にクリスお兄様がすっと目を細めた。

「実際に婚約しているんだし、仮定の話だろう。いちいち怒るな」

「カミルを焚き付けたんじゃないだろうな」

「そこまではしていない。だが、彼を見ていて他国に嫁ぐというのはいいかもしれないとは思った。ディアがあのまま目立ち続ければ、妖精姫への信望は崇拝に変わる。本人の意思に関係なく祭り上げられて、皇妃にならなくても身動きが取れなくなる未来が予想出来たからな」

だからね、私はそんなすごいことはしていないでしょ。

なんで祭り上げられるの?

「アンディ、ディアは精霊王との関係の話だと思っているよ」

「ああ、それで間の抜けた顔をしているのか」

「どこがだ。うちの妹はいつも可愛いぞ」

「めんどくさい男だな。毎回その台詞を言うな」

なんだろうこの、ダシに使われていちゃつかれている感じ。

エルダやブリたんがこの場にいたら、床に正座して拝むんじゃないかな。

「ディア、問題はお金だよ。フェアリー商会が新しい商品を次々に世に送り出しているのは、妖精姫の力だと中央では思われているんだ」

「はああああ?!」

じゃれている皇太子とクリスお兄様の代わりにアランお兄様が話してくれた説明を聞いて、思わず叫んだわよ。

だって、私がしたのって思い付きを話しただけよ?

精霊車だってカートリッジ型の魔道具だって、私はアイデアだけ出して、そこから先は周りの人達がやったのよ?

はっきり言ってぶん投げただけよ。

「でもそれは外部にはわからない」

「いやいやいや。神童と言われるクリスお兄様がいるじゃない。考えるのはクリスお兄様の担当だと思うでしょ?」

「僕がチョコやビスチェを考えると思う人はいないよ?」

うんうんと兄弟揃って頷かないで。

なに? フェアリー商会の新製品はみんなまとめて私が企画開発していると思われているの?

やだ。私天才?

「最近、近衛騎士団が専用のフライをまとめて発注しただろう? それも最初に考えたのはベリサリオだと聞いて、フェアリー商会に関われば儲けられると噂になっている」

「クリス。儲けるという言い方をするな。彼らは、ベリサリオと同じくらい中央の産業を活性化したいんだよ。以前は流行の中心も産業の中心も中央だった。でも今は辺境伯領や地方に負けているだろう? 貴族の数が減って商品が売れなくなったせいで、多くの店が消えたんだ。ようやく精霊が得られるようになって、パンドック派に地方に追いやられていた貴族が戻っても、一度潰れた店は戻らない」

「だから私が皇妃になれば、中央の産業を活性化させてくれるんじゃないかと思っているの?」

「そういうことだ」

私が十八になるまで六年あるのは、どう考えているのかしら。

それに、私は経済の勉強なんてしたことがないから、産業や経済の活性化とか言われても何をすればいいかなんてわからないわよ。

「俺はモニカと婚約し、ディアはカミルと婚約している。妖精姫が他国に嫁ぐと聞いて、今は衝撃が大きいだろうが納得してもらうしかない」

「僕達だって中央の経済を立て直すために動いているんだよ。実際、少しずつ良くなっているんだ。ただ、ケチャップやチョコのようにわかりやすく派手じゃないから、まだ経済が上向いている実感がないんだろうね」

ブレインと皇太子が揃って動いているんだから、私がでしゃばる必要なんてないのよね。

だけど妖精姫という、わかりやすい存在があるせいで頼りたくなる。

毎日、仕事に追われて頑張っている人達の働きは、当たり前のことと受け取られて、誰も目を向けない。

一番信用出来るのは、そういう人達の力じゃないのかな。

「ディアが皇都に来ないのも、彼らを不安にさせる要因なんだ。中央が嫌いなんじゃないか。地方ばかり助けて、中央は見捨てる気なんじゃないか。実はモニカを避けているんじゃないか。皇太子を嫌っているんじゃないか」

「うえーーー」

「それだけディアは名声と権力を手にしてしまっているんだ。注目の的なんだよ」

そういうのが嫌でベリサリオに籠っていたのに、駄目だったか。

「ねえ、さっきの女官長も侍女達も、ルフタネンの精霊王達がカミルの後ろ盾になったことを知らなかったわよ。もしかして経済の活性化のために、どんな計画があって、何年後にどうなるか知らない人が多いんじゃないの?」

なんでそこで顔を見合わすの?

私はまた変なことを言った?

「そりゃあ、あの場にいたのは高位貴族の子息ばかりだからな。関係のない貴族にまで情報を流したりはしないだろう」

「貴族は自分の得にならなければ、情報を教えたりはしないよ」

皇太子もアランお兄様も、情報を集めるためには労力を惜しまないのに、情報を発信することは考えていないの?

「噂を故意に流しはする……」

「そういう陰謀めいた話じゃなくてね、必要な情報はちゃんと届けないと。たいていこういう問題を起こすのは真面目だけど不器用だったり、時代の変化について行けない人達なのよ? 今はこういうことをあなた達のためにしているよ、だから来年にはこうなるよって、皇宮のどこかに大きな紙に書いて展示したらどう?」

どこの役所も会社も、流しちゃいけない情報はしっかり管理して、流した方がいい情報はいろんな方法で流していたよね。

「宣伝は大事よ。広報部を作らなくちゃ。モニカと私の仲の良さも噂にして流して。アランお兄様出番よ」

「なんで僕が」

「お願い」

「……しょうがないなあ。どんなふうに流せばいいんだよ」

「妖精姫と親しくなりたかったらモニカにたのむといい。皇太子に精霊の森について相談された妖精姫がモニカと一緒に、あの森に人と精霊が触れ合える場所を作ろうとしているって」

フェアリー商会とは関係なく、国営のカフェを作ればいいじゃない。

中央は自然が少ないせいで、精霊がいると噂が立つと貴族が占領してしまって、平民が精霊に出会えないのよ。

だから精霊の森は貴族用にして、のんびりと一日優雅に過ごしながら精霊と触れ合える場所にすればいいのよ。

そしたら他の場所は、貴族に遠慮なく平民が使えるでしょ。

「カフェの運営はモニカに任せればいいでしょ。定期的に精霊と触れ合えるお茶会を開催したらどう? 特に子供達には精霊に出会える機会をたくさんあげたいわ」

「素敵。それで今日、私を誘ってくれたのね」

「え? 今、思いついただけ」

「……そうね。ディアだもんね」

「フェアリー商会でもこんな感じなのか」

最近はあまり見る機会のなかった残念なものを見る目を、皇太子とモニカにされているんですが。

気にするのはよそう。

「あ、思い出した。皇都の道の整備ってやっているんですよね」

「やっている。精霊車や馬車が多く通る箇所から始めているから、まだ中心部分だけだがな」

「潰れてしまっている店舗は放置?」

「……おそらく」

「建物をぶっ潰して建て替える時に、屋根の色や壁の色は統一しましょう。皇都の下町は歴史が古い分、いろんな時代の建物がごちゃごちゃしていて見た目が悪いです」

「街の再開発の予定はあるよ。屋根の色を統一する意味は?」

クリスお兄様にも苦手な分野はあるのよね。

苦手というか、興味のないことは調べない。考えない。放置する。

だからベリサリオは観光業で成功出来なかったのよ。

「景観は大事です。美しい街並みなら、それを見るために人が集まりますし、自分の住む街が美しいと住民はそれを誇りにして守ろうとします。治安が良くなりますよ」

「……久し振りで忘れていた。そうだった」

「え? 殿下、なんですか?」

「いや、続けてくれ」

なんか変なこと言ったっけ?

もう子供って年でもないし、私が思い付きを言うのはいつものことよね?

「他には特に……道を広くして、歩道は作るでしょ?」

「歩道ってなんだ?」

「歩く人と馬車が往来する場所を分けるんです。精霊車はスピードが出やすいから、この先いろんな人が使うようになって、台数が増えたら事故が起こりますよ。だからベリサリオでは、間に柵を作って歩く人を守っています」

「ああ、そんな話をクリスもしていたな。歩道というのか」

「他には……十字路で馬車が鉢合わせしたら、確か御者同士でやり取りして先にどっちが通るか決めるんですよね」

「たいてい身分で決まる」

なんだそりゃ。時間の無駄だわ。

魔道具で信号って作れないかしら。

混雑する道はそう多くないし、ベリサリオにも欲しいなあ。

「し……」

「待った」

クリスお兄様にがっしりと口を塞がれた。

「思い付きでポンポン喋らない。これ以上は権利的な問題が生じる可能性がある。ベリサリオで話し合った後、使えそうなアイデアは知らせよう」

「ディア、この世界にない単語を言いすぎ」

アランお兄様が耳元で囁いてから、頭を小突いてきた。

危ない。やらかすところだった。