軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帝国中枢の会議はお菓子と共に 前編

人によって訪問の目的が違うから、皇宮のイメージってばらばらなんじゃないかな。

華やかで豪華だってイメージは当然あるし、広すぎて迷子になりそうだって思っている人もいるだろう。

私にとっての皇宮はどでかいオフィスビル超豪華版。

舞踏会や夜会は目も眩むほど豪華だけど、あれだって社交というお仕事みたいなものよ。

皇宮で開催されるイベントに招待される頻度で、貴族としてのランク付けがされちゃうんだから。

特に実務の行われているエリアは、まさしくオフィスビルか役所の雰囲気よ。

制服を着た文官や女官が、まっすぐ前を向いて足早に行き来しているの。

そこにお供を連れた大臣や高位貴族が通りかかると、さっと道を譲って胸に手を当てて壁際で待機する姿とか、大臣達より格好よく見える時もあるわよ。

ここはそれぞれの分野のプロや国を動かしている人達が集う場所なんだから、ヒラヒラのドレスを着た十二歳の女の子が来るのはおかしいんだって、誰か早く気付いて皇太子に進言してほしい。

六歳の時から来ているんだけどさ。

すれ違う人達も、ひとりだけ背の小さな私の姿を遠目に見つけて、何事? って顔で注目して、私だってわかった途端に納得した顔になるのよ。慣れって怖いよね。

皇宮で話をする時、たいていは応接室か高位貴族が少人数で打ち合せするための会議室に通されていたので、皇太子の執務室近くの謁見室に入るのは初めてだった。

謁見室って言ってもお客様を迎える部屋じゃないのよ。

くそ忙しい皇太子はいろんな部署の人の話を聞く必要があるから、順番に来いやって呼びつける部屋なの。

つまりここは文字通り政治の中心地。

国の、時には世界の歴史を動かしている場所なのよ。

渋いココア色のドレスを着てきたから、今日はたぶんあんまり浮いていないと思いたい。

案内してくれた人がノックをして私達の到着を知らせると、ガタガタと中にいた人達が椅子を引いて立ち上がる音が聞こえた。会議中だったのかな。

どうぞと言われて両親に続いて中にはいったら、大きなテーブルの向こうに皇太子を中心に、右にパウエル公爵とローランド様が、左にクリスお兄様とコルケット辺境伯が立っていて、テーブルの両側には大臣やら事務次官やら二十人近くが立ってこちらを注目していた

えー、こんなに大勢の人の中で話をするの? って、一瞬このまま帰りたくなったよ。

「奥の部屋を使う。おまえ達は仕事に戻ってくれ」

皇太子とブレインになっているメンバーだけが奥の部屋に行くみたい。

案内されて部屋を奥まで進む途中、お父様が何人かの人と挨拶したんで足を止めて、立ったまま動かないで待っている人達に目を向けたら、見知った顔が何人かいるのに気付いた。

政治の中心で活躍している人達の中には、エーフェニア陛下とやりあった謁見室にいた人達も当然含まれているのよ。

あれ以来会っていなかった人もいるから六年ぶり?

「あれ? もしかして……」

「おおお。覚えていてくださいましたか!」

「すっかり見違えるように大きくなられましたなあ」

親戚のおっちゃんが、突然何人も増えたような気分よ。

ものすごく嬉しそうな顔で挨拶されるから、こっちも笑顔で応えないと申し訳なくなってくる。

お母様も普段はこういう場には来る機会がないから懐かしい人もいたようで、何人かと話をしていた。

「皇太子殿下をお待たせしてますよー」

最後尾にいたアランお兄様が小さな声で言わなかったら、このまま話し込んじゃっていたかも。

みんないっせいにやばいって顔になって、ではまたーって言葉を交わして、私達は奥の部屋に向かった。

奥の部屋は皇太子の執務室だと思う。今まで部屋に入ったことがないからよくわからないけど、繋がっていたのね。

その部屋は、機能優先の会議室とは打って変わって、居心地のいい男性の部屋はこう作るんだ! という見本のような濃い茶色とブルーで統一された部屋だった。

窓の前に置かれた仕事机は、片側に引き出しがいくつもついている事務机の豪華版ね。黒に近い茶色の木製で、上で私が寝られそうなほどの大きさよ。

机の向こう側に置かれた椅子は大きくて座り心地よさそうで、なにより驚いたのは物の少なさだった。

机の上にはペン立てや照明以外何も載っていないし、部屋には本棚もないのよ。

たぶん資料や書類は、必要な時にさくっと用意されて片付けもしてくれる人がいるのね。

それか、下手なものを置いておいて、私がこれ何ー? って見たらやばいと思って片付けたかな。

「よく来てくれた。話しておかなければいけないことがいくつもあるから、さっそく始めてくれ」

ソファーセットはあったけど執務室だから、九人分も椅子がなかったみたいで、どこかから椅子をいくつか持ち込んでいた。

皇太子は自分の仕事机を背にした位置のソファーに座り、うちの家族は入り口側の三人掛けのソファーに、私が中心に両親に挟まれて腰を下ろした。

お母様がアランお兄様にも座る? って、横に詰めながら聞いていたんだけど、アランお兄様はもうでかいからね。三人掛けにぎゅうぎゅうに四人で座るのはきついし、思春期の男の子は嫌がるでしょう。それでお母様の背後に立っている。

テーブルを挟んで向こう側には、ひとり掛けの椅子が二脚並んでいて、そこにコルケット辺境伯とパウエル公爵が座って、クリスお兄様は皇太子と向かい合う位置のひとり掛けの椅子に陣取った。

ローランド様はブレインの中では新人だからか、他の人より壁際に小さな椅子を置いて座っていた。会議室の椅子かもしれない。

最年少のクリスお兄様の方が、明らかに態度が大きいわよ。

ローランド様って気が小さいの? 私を怖がっているような気もするし。

私はローランド様にとっては妹の友人のはずなのに解せぬ。

パティから私の話を聞いていないのかしら。

それとも聞いたから怖がっているのかしら。

皇太子の背後にはいつものように側近が並んでいる。

彼らはこのまま補佐官になるんだってさ。

宰相や各大臣になるには、家柄とか爵位が足りないの。

本来皇太子の側近って高位貴族の嫡男がなるものだけど、バントックはエルドレッド皇子推しだったからね。

それに暗殺されそうになっている皇太子に、大事な嫡男を側近として差し出す家はなかったんだね。

ってことは、次期宰相って誰がなるんだろう?

「それではまず、誘拐事件について当事者の話を聞かせていただきたい。報告は受けているので、いくつか疑問点に答えてもらうだけで済みます」

パウエル公爵が進行役なのね。

うちの家族全員が頷くのを待って、まずは誘拐事件についていろいろと聞かれた。アランお兄様が。

私は何も聞かれないので、ただ黙って座っているだけ。

公爵や辺境伯、そして皇太子と高位貴族の男性陣の中に、私がぽつんとひとりでいることになるのがお母様は心配で、今回はお母様も参加しているけど、こういう場って普通は女性は関わらない領域なのよ。

さっきの会議室にも女性はひとりもいなかった。

誘拐事件や憲兵が殺害されたなんて話題は御婦人の耳に入れる話題ではないし、宮廷の政治の話は男の仕事というのが、この世界の常識なの。

でも私は、意見を聞きたいとか、報告しろとか、何度も呼び出されているから慣れているのだ。

そして私の保護者として参加する機会が多いから、お母様も慣れている。

ちゃんとお茶と一緒に、片手で摘まめる一口大のお菓子まで用意してくれているのよ。

つまり、私の機嫌を損ねるような話題もあるってこと?

「学生の茶会の時にあれだけ失礼なことをしておいてのこの事件ですからね。諸外国は帝国の味方です。それにディアドラ嬢が壁一面の大きさの空間を港に繋げたことも、自国の精霊王に会えたことで恐怖をあまり感じていないようです。少女を守るために活躍したという話も加わって、妖精姫は怒らせなければ無茶なことはしないと思われたんでしょうな」

パウエル公爵が何か話しているけど、当分私の出番はなさそうね。

お菓子がね、綺麗で美味しそうなのよ。お茶も美味しい。淹れ方ばっちりよ。

「それに妖精姫はいずれルフタネンに嫁ぐので、自分の力を帝国で戦争のためには使わないだろうと思われているようですよ」

「イースディル公爵と共に各国の精霊王と人間の橋渡しをするように頼まれている妖精姫が、他国に攻め込むために力を使ったりはしないと思ってるんだろう。おかげで諸外国の帝国への友好度がだいぶ上がっているからな。外交が楽だ」

それはよろしゅうございました。

そっか。諸外国へのイメージアップになったから文句を言わないのね。

いつもなら、なんでお前は無茶ばかりと怒られているところだもん。

じゃあこのお菓子はご褒美かな。どれから食べよう。

「現在シュタルクでは、王族のやり方に反対する貴族達が国王を捕らえ、今回の事件についても調査中だそうです。おそらく王族は全員処刑されるでしょう」

「全員?」

「怪しいとは思わないか? あの馬鹿王子を帝国に送って来たり、誘拐事件を起こしてみたり」

テーブルに肘をついて、皇太子はお父様に話しかけた。

シュタルク問題ではベリサリオが最前線だからね。この打ち合わせが終わったら、お父様はすぐにグラスプールに戻るんだって。

「近々、シュタルクから新たな代表団が来ることになっています。現状では彼らを皇都まで迎える必要はないと考えています。グラスプールに私がまいりますので、その時はよろしくお願いします」

「こちらこそ。今回ばかりは徹底的にやるつもりですよ」

シュタルクはベリサリオ辺境伯とパウエル公爵を相手にしなくてはいけないのね。

ベリサリオも帝国全体も、今回のことを簡単に許す気はないわよ。

ニコデムスが絡んでいるんですもの。

ルフタネン、ベジャイア、シュタルクと、ニコデムスが絡むとどこも大変なことになっているんだから、帝国にやつらを入れるわけにはいかないの。

「その話は、捜査が終わりシュタルク側の態度がはっきりしてからまた話しましょう。本日、ナディア夫人とディアドラ嬢に御足労いただいたのは、意見をお聞きしたい話が二件あるからです。まずは戴冠式についてです」

そういえばシュタルクって言えば、パイが有名よね。

パイが食べたくなってきたぞ。

「以前はディアに王冠を被らせてもらうという話をしたが、他国に嫁ぐディアに頼むのはまずい。それで、精霊王に祝福をもらう……だったか?」

「……ディア?」

もう頭の中がパイでいっぱいだったのね。

だからお母様が私の腕に手を乗せて名前を呼んだ時、はっと顔をあげてお母様を見て、位置的に呆れた顔のクリスお兄様が視界に入って、ようやく注目されていることに気付いたの。

「食べていいぞ」

「……ありがとうございます」

皇太子のにやにやした顔が憎たらしい。

こうなったら食べないと損だから、クリームの載っている一口大のパイを食べてたら、部屋中の男共にほっこりした顔を向けられた。

私の性格とかやってきたことを知っているくせに、そうやってすぐに子供を見る保護者の顔になるのはなんなのかな。

守ってあげたい系美少女にまだ見えるのかしら。

「戴冠式の話だ」

「ふゃい」

「口の中の物を飲み込んでからでいい」

無言で待たなくていいから、話を進めてよ。

戴冠式がどうしたのよ。