軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

強力な援軍

この世界に生まれて今までに私が訪れたことのある場所は、それなりに大きな町ばかりだった。だから田舎の小さな村がどういう感じかわからなくて、悪い意味で衝撃を受ける覚悟をしていた。

お風呂なんて贅沢で、みんな汚れた服を何日も着ているような生活かもしれないでしょ?

貧しい村なら、家だってぼろいかも。

上下水道は完備されているのかしら。

みんなやせ細っていたりしたらどうしよう。

もしそうだとしても、ショックを受けた顔をしないようにしようって、それより新しい産業を広げて、村人の生活水準をあげられるように頑張ろうって思ってた。

日が暮れるまでそんなに時間がないから、移動は転移魔法にすることになったけど、大人数を転移するなら私の転移魔法しかない。

でも農村の普通の平民は、突然空間が切り裂かれて、そこから兵士がぞろぞろ出てきたらびっくりしちゃうわよ。

だから村の近くの人目につかない場所に、まずは私とアランお兄様と伝令部隊の人が転移して、そこで私が転移魔法を使った。

村の周囲は木の柵に囲まれていて、入り口は村の名前のはいった大きな門になっていた。

ノーランドやコルケットほどではないけど野獣や魔獣がいるから、畑を荒らされたら生活が成り立たなくなっちゃうからね。

門から村の中心までは、馬車が通れるくらい広い道が続いていて、左右に農地が広がっていた。

家がある場所まで距離があるから、野獣の侵入は防げても人間が柵を乗り越えて侵入した場合は、誰にも気付かれないようにするのは簡単だな。

村の中心は広場になっていて、煙突がある木の家々があっちにひとつ、こっちにひとつ。

どの家も庭が広くて、綺麗な花がたくさん植えられていた。

よかった。素敵なスローライフってイメージの、絵本に出てくる田舎の村のようだわ。

村の人達も、質素だけど清潔な服を着ていて、女の人達だって服に可愛い刺繍を入れていたり、ブローチをつけていたり、おしゃれを楽しむ余裕があるなら、食べ物にも困っていないわよね。

獣を狩って、漁村で魚を買って、野菜は自給自足か。

むしろ新鮮でおいしい食べ物がたくさんあるのかも。

そうよね。叔父様は優秀な方なんですもの。

ちゃんと村人の生活も考えてくれているに決まっているじゃない。

私ってば心配症ね。

「ハドリー様、わざわざ来てくださったんですか?!」

「やあ村長。捜索を手伝おうと思ってね」

「留学からお帰りになられたばかりだというのに、ありがとうございます」

ハドリーお兄様は村の人と顔馴染みになるくらい、この小さな村に来ているってこと?

担当している地域の村は全部、自ら顔を出して話を聞いているの?

海峡側の地域を、ハリントン伯爵家がしっかりと治めてくれているから、お父様やクリスお兄様は安心して皇都に行けるのよね。

「こちらがベリサリオ辺境伯家次男のアラン様と妖精姫のディアドラ様だ」

「ベリサリオ?!」

「妖精姫ですって?!」

うわあ。広場にぞろぞろと出てきた村人が、いっせいに平伏してしまった。

アランお兄様、いつものように目立たないように後ろに下がろうとしないでください。私に任せていいんですか?

「非常事態だから、畏まらないで顔をあげてくれ。アラン様もディアドラ様もとても気さくでお優しい方なんだよ」

だったら、いつもみたいに話せばいいじゃない。

ハドリーお兄様が敬語を使うから、余計にみんな緊張しちゃうんじゃないの?

「この村では姉妹が行方不明になっているんだね? 経緯を聞かせてもらえるかな」

ガイアにアランお兄様の背後を取らせて、ぐいぐい押したら、諦めたのか村長と話し始めたので、話はアランお兄様に任せて、私はぐるりと周囲を見回した。

魔道具の明かりがいくつか灯ってはいるけど、この数では夜は真っ暗ね。

ちょっと広場から離れたら、もう民家の窓から漏れる明かりしかなさそう。

庭には木々が植わっているし、使っていない場所は自然のままに木々が生い茂っている。

隠れる場所はたくさんあるわね。

「怪しい男達が目撃されたのは南東の森です。海峡側の崖まで、獣道が続いています」

森か。

「アランお兄様、精霊獣に捜索してもらいましょう。浮いて移動した方が動き回れます」

「そうだね。僕の精霊獣も使おう」

「お願いします。今日も兵士や村人が捜索したんですが、邪魔な木々を切りながら進まなくてはいけなくて、広範囲を捜せなかったんです」

村の警備をする兵士は平民ばかりだから、精霊のいない人もいるし、いても一属性だけだったり、まだ精霊獣にはなっていなかったりで、主から離れて捜索してくるなんてとても出来そうにない。

でも話は聞けるかも。

「何か見たり聞いたりしている精霊がいたら教えて」

私が声をかけたら、村人達の精霊が集まってきた。

「おおお」

「さすが妖精姫様だ」

夕焼けに遠くの空が赤く染まり、こうして話をしている間にも藍色に染まり始めている村の中で、ふわふわと光りながら漂う精霊に囲まれている私は、幻想的に見えたのかもしれない。

中には涙を流して拝むお婆さんとか、うわーって口をポカーンと開けている子供とかがいて、こんな派手なことはやるんじゃなかったと後悔した。

「姉妹が攫われた日には特に何か見た精霊はいないみたいです。少女達はふたりで村を出たんですよね」

「はい。野草を取りに。でも、野草のはいった篭は村の入り口近くに落ちていまして」

村に戻ってきたところを襲われたのか。

平民しかいないから精霊の数が少ないし、育っていなくて、あまりめぼしい情報はないみたいだ。

私が精霊と会話しているのを驚いた顔で見ている村人達は、対話しろっていう話を聞いていないのかしら。もう常識になっていると思ったのに。

それとも人前で話しかけるのは恥ずかしいとか?

「やっぱり南東の森なの?」

『うん』

『いるって感じる』

「おおお、俺の精霊が喋った!」

本だけでは駄目か。

精霊に話しかけるのを仲間に見られるのって恥ずかしいのかな。

「僕の精霊もそれは感じているみたいだ。でも遠すぎてそこまではいけないらしい」

アランお兄様の精霊獣の報告によると、森を抜けた先に何かありそうなんだって。

もうそこに行くしかないんじゃないかしら。

「ディアの精霊獣はもっと奥まで行っているのか?」

「どうなの? イフリー」

ハドリーお兄様に聞かれたのでイフリーに聞いたら、当然だと言いたげに頷いた。

イフリーだけは私の護衛のためにここに残って、他の奴らは飛んで行ったきりなのよ。

私の精霊獣達はフリーダムだからなあ。

『家があった!』

突然、ジンが姿を現したので、びっくりして飛び上がりそうになったわよ。

『家。家』

「人間はいた?」

『リヴァが見てる。僕は報告』

「なるほど。ありがとう」

『がんばった。遠くまで行った』

イフリーの背中の上で得意げに尻尾をピンとあげて、先だけ傘の柄のように曲げて、ジンは羽をパタパタと揺らした。

「距離があるのなら、この時間から行くのは無理なのでは?」

「森の中では遭難しかねません」

兵士達の言うことはわかる。

でもそうしたら、少女達はまた一晩、恐怖の中で過ごさなくてはいけない。

それにもし、深夜に犯人が少女達を移動させたら?

もっと遠くに行かれたら、さすがに精霊でも捜索出来ないわ。

「アランお兄様。精霊が魔法を使うのなら、精霊が行った場所には転移出来ますよね」

「森の中に、敵にばれないように転移出来る場所はあるのか?」

ジンはただ首を傾げただけだった。

「ううん。建物の陰なら転移出来るんじゃないですか? 事態は一刻を争います」

『戻った』

『犯人、十人いた』

リヴァとガイアも戻ってきた。

『建物ふたつ。小さい』

『外にも男いた』

「十人では、この数では厳しいですよ。援軍が来るのを待ちましょう」

兵士達は日が沈んでしまったことで、慎重になっているな。

伝令が援軍を要請しに戻って、ここに来るまでにどのくらいかかるの?

もっと暗くなって、真っ暗になってからの転移は危険よ。

行くなら今。

そうじゃなかったら明日の朝になってしまうわ。

「アランお兄様」

「気持ちはわかるし、ディアと僕が暴れれば何とかなりそうだけど、少女を人質に取られていることを忘れないで。さすがに危険が大きくて了承出来ないよ」

「……援軍が来ればいいんですよね」

「……そうだね」

「私が危険に首を突っ込みそうだから、私を守ってもらえればいいんですよね」

「……またとんでもないことを考えていない?」

「私を守るのなら、人間に干渉したことにはなりませんよね」

「……喜んでやってきそうで嫌だ」

なんでよ。

喜んでくれるならいいじゃない。

「なんの話?」

「たいした話ではありませんわ、ハドリーお兄様。ちょっと精霊王に手伝ってもらおうかなって」

「は? アラン。おいアラン」

「落ち着いて」

「落ち着けないだろう!」

ベリサリオでも、この辺の人達は精霊王を見る機会がなかったから、兵士達もざわざわしちゃってるし、村人達は私の会話が聞こえなくて、兵士が慌てている様子を見て不安になっちゃってる。

精霊王は敵じゃないんだから、そんな騒ぐ必要はないのよ。

「でもいい案ではあるな。もう三人拉致しているのに、まだそんな近くに潜伏しているってことは、もっと攫う予定なんじゃないか? この辺の村で、まだ複数の精霊を持っている人はいるのかな」

「西の村の少年が、風と水の精霊を持っていると聞いたことがあります」

「何人か、その子の護衛につかせて。不審者はみんな捕らえてくれ。相手が誰でもかまわない」

「はっ!」

これでまた連れて行ける兵士の数が減ったから、援軍は必要でしょ。

正直なところ、真っ暗な森の中で精霊のいない兵士では役に立たないと思うのよ。街灯なんてないんだから。

アランお兄様もそう考えたようで、護衛の方に多めに行ってもらって、こちらは不安そうな顔をした七人の兵士を連れていくことになった。

「イフリー、瑠璃のところに行って、私が人さらいの集団に突撃するようなんで護衛を頼みたいですと話してきて」

『……おとなしくはしないのか』

イフリーまで呆れ顔でため息をついてる。

私、そんなに精霊王に迷惑はかけていないと思うのよ。

ルフタネンの時はモアナに振り回されたんだし、その後は他所の国の精霊王が来て、むしろ迷惑をこうむった方だからね。

『行ってくる』

イフリーがいない間は、ガイアが私の傍にぴったりと張り付いて、ジンとリヴァはガイアの上空で周囲を警戒していた。

村にふたりの兵士を残し、村の門を出たところで西の村に向かう兵士達と別れて南に向かう。

外はもうすっかり藍色に包まれて、徐々に森が暗い闇に沈んでいく。

鳥の鳴き声と虫の声がうるさくて、風が吹くたびにこずえが揺れる音も不気味に聞こえるくらいに周囲が暗くなってきた。

「本当に行くのかい?」

兵士達の気持ちを代弁するみたいにハドリーお兄様が聞いてきた。

「当たり前じゃないですか。少女達が怖い思いをしているんですよ。助けなくてどうします」

「そうだけど……」

「みんな精霊形になって足元を照らしてくれ。精霊のいる者は自分の精霊にも手伝わせてくれ。上だと目立つから照らすのは足元だ」

アランお兄様の指示で、私以外のみんなが精霊を足元に移動した。

私はライティングの魔法で、精霊のいない兵士や自分の足元を照らして、どんどん先に歩いていく。

私やアランお兄様だけ先に行かせるわけにいかないから、ハドリーお兄様も兵士もついてくるしかなくて、すぐに村から離れた場所に移動出来た。

「さて、転移しましょうか。傍によさそうな場所はあった?」

『狭くて暗いよ。海側から少し歩かないと駄目』

ガイアの答えにリヴァとジンもそうそうと同意する。

それは仕方ないよね。

「じゃあ、転移したら道案内をお願いね」

『この子は今度は何をしでかすのだ』

瑠璃が私とアランお兄様の後ろに姿を現す場面を目撃してしまった兵士達は、叫び声をあげて、すぐにその場に平伏した。

そんな勢いよく膝をつかなくても……。痣になるよ?

『面白そうじゃないか。人攫いを退治するんだって?』

「蘇芳も来たの?」

『来たら悪いか。いつもいつも瑠璃ばかり呼びやがって』

『ふふん』

『こいつの得意げな顔がむかつく』

仲がよろしくて私も嬉しいわ。

でもふたりいる分、驚きも二倍なんじゃないかな?

兵士達のメンタルが心配よ。

「精霊を複数持つ少女が三人、行方不明なんです。ディアの精霊獣がこの森の奥で、不審な建物と人間を確認しています。出来るだけ早く助けたいんです」

『我らは人間の行動には不干渉だ』

「わかっているわ。だから瑠璃と蘇芳は私を守ってくれればいいの。ちょっと私、人攫いをぶっ飛ばしに突撃するから」

『おう、派手にやろうぜ』

『蘇芳、少しは止めろ』

『楽しそうだぞ?』

『それは……まあ……』

普段時間を持て余している精霊王としては、この状況は無視出来ないでしょう。

「犯人はおそらくシュタルク人です」

『とうとう帝国でも誘拐を始めたのか。よし、手伝おう』

さすが瑠璃。

この間の失礼な態度の件もあるし、ここは容赦なくやろうじゃない。