軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

皇族誕生日会は波乱続き

帝国で婚約者になる令嬢の家族に挨拶に行った時、普通はどういう状況になるのか見学したことがないのでよくわからないけど、たぶんクリスお兄様がスザンナの実家に行った時はこうじゃなかったはず。

それでもベリサリオではこれでいいらしい。

お父様とカミルが握手して、三月にカフェがオープンする時に両親と私がルフタネンに行くことに話が決まった。

国王に挨拶して、ルフタネンの精霊王にも報告して、少しは観光する時間が欲しいな。

「苦労をかけるな。よろしくたのむ」

お父様がカミルの肩を叩いて、しみじみと言っているのが納得出来ない。

苦労って何かしら?

イースディル商会を私がどーーんと発展させるかもしれないじゃない。

でももっと納得出来ないのが、私だけもう一度着替えなくてはいけないってことよ。

「なんで? このままで皇宮に行けばいいじゃないですか!」

「それはカミルくんに会うためのドレスだろう? 公式行事に妖精姫として参加するためのドレスに着替えるんだよ」

その差は何?

「じゃあカミルやお母様も着替えるんですか?」

「私はもう皇宮に行くためのドレスを着ているわ」

「これしか持ってきていない」

私だけ?!

それはおかしいでしょ。断固抗議します!

「今のドレスでも可愛くていいんじゃないかな?」

「そうよね、さすがカミル」

「可愛いから駄目なんだろう。各国の来賓と会うんだぞ。まだ自国に嫁がせようと思っている奴がきっといるよ」

「……もっと地味な服がいいな」

「カミル、クリスお兄様に丸め込まれないで!」

どんなに文句を言ってもこういう時は無理なのよね。

私だけ侍女に囲まれて別室に連れていかれて、ドレスを脱がされて、すぐに鉄色って言えばいいのかしら。光の加減によっては黒に見えないこともない暗い緑色のドレスを頭から被せられた。

髪も化粧もそのままでいいようなので、たいした時間はかからないけど気力と体力はごっそり減った気がするわ。

暗い色のドレスでも宝石やレースがついた豪華なデザインなんだから、全然地味じゃないのに。

「落ち着いた雰囲気で、これはこれで目立つんじゃないか?」

両親は先に皇宮に移動していて、お兄様達とカミルが転送陣の近くで待っていてくれた。

カミルは来賓なのに、私達と一緒でいいのかな?

「仕方ないだろう。ディアは何を着ても目立ってしまうんだ」

「それはまあそうなんだけど」

「その色も似合うね。いつもより大人っぽく見えるよ」

あまり時間がないから転送陣に移動しながらも、クリスお兄様は私を褒めるのを忘れない。

私の手を取ってリードしているのもクリスお兄様よ。見た目を裏切らないエスコートぶり。

ただね、どうせ目立つなら着替える必要はなかったよね。

確かにこちらのほうが落ち着いたデザインで、十二歳の私が着るにはずいぶんと大人っぽくって、そのアンバランスさが妖精姫のイメージなのかもしれない。

私はこのドレスのイメージに合うように、大人びた雰囲気で神秘的なイメージでいろってこと?

無理でしょ。

「そういえば婚約者とは皇宮で待ち合わせか? 銀色の髪の奇麗な女性だったな」

「そうだな」

カミルの問いかけに答えるクリスお兄様の態度がそっけない。

全く興味がなさそうに転送陣の間にはいり、全員揃って皇宮に移動した。

「ディアの話はたくさんするのに、婚約者の話はしないのか?」

「なんでスザンナのことを、他の男に教えてやらないといけないんだ?」

……え? 今、デレました?

うはっ。クリスお兄様ってば、そんな風に考えていたの?

「へーーーーーー」

カミルがにやっと楽しそうに笑って、その横ではアランお兄様もものすごく楽しそうな顔をしている。

もちろん私も扇で口元を隠しつつ、ふふふ……っと笑いが漏れてしまった。

「……なんだよ」

「さすがですわ、クリスお兄様。独占欲が強くていらっしゃる」

「カラーチェンジストーン付きのバレッタを贈るやつほどじゃない」

カミルがうっと息を詰まらせて視線を逸らした。

「それに僕は誰かとは違って、本人の前では必要なことはちゃんと伝えているよ」

「……僕だってちゃんと伝えてるよ」

今度はアランお兄様が反撃を食らっている。

クリスお兄様をからかうのはこわいわね。

「ディアだって……」

「女子会で聞くから大丈夫です」

「え?」

「ふふふ。スザンナとパティにいろいろ聞いちゃおう」

「ちょっと待て」

「おい、ディア」

慌てるクリスお兄様とアランお兄様とじゃれていたら、いつの間にかすごい注目を浴びていた。

皇宮に移動したのを忘れていたわ。

時間も差し迫っていたのでここでカミルとは別れて、私達兄妹は謁見の間に向かった。

謁見の間には何度も来ているので、豪華な内装や家具にもすっかり慣れてきて感覚が麻痺している。外国からのお客様を迎える部屋が貧相じゃ困るもんね。

でもね、私としてはもう少し違うお金のかけ方をしてほしい。

皇族はいつものように三段ほど高くなっている壇の上の大きな椅子に座れるし、モニカも婚約者ということで、皇太子の横に席が設けられているの。

だけど、それ以外のメンバーは、一段下がった位置で全員立って来賓を出迎えるのよ。

誤解しないでね。私も座らせろって言うんじゃないの。

ずっと立ちっぱなしなのは舞踏会も立食パーティーも同じ。慣れている。

エレベーターもエスカレーターもないこの世界なので、みんな足腰を嫌でも鍛えられているけど、石の上に立つのと木の上に立つのは違うと思わない?

クッション性がほしいのよ。

前世の病院の床まで柔らかくなくていいから、せめてもう少しだけ足に優しく出来ないもの?

けっこうお年の方もいるのよ?

それか、浮いてちゃ駄目?

駄目だよねー。

帝国の人全員がふわふわ浮いていたら幽霊の集会みたいだよね。

「ディアの位置はここだよ」

クリスお兄様に指定された場所は、モニカのお隣だ。

私の隣がクリスお兄様で、他の家族は少し下がった位置にいる。

引退した前ノーランド辺境伯のバーソロミュー様もお父様の近くに立っていて、代わりに今回は皇太子の近くには、グッドフォロー公爵家嫡男のローランド様と前コルケット辺境伯のドルフ様が並んでいる。そこにクリスお兄様が加わって、パオロが近衛騎士団団長として加わった堂々たる布陣よ。

私だけ場違いなのはいつものことで、すっかり慣れたわ。

今回はモニカがいる分、少しは気が楽よ。

順番に来賓を迎え入れて、お祝いの言葉をいただいて、たいていは婚約者のモニカの美しさを褒めて、妖精姫である私にも挨拶がある。どの国も言葉や言い回しが違うだけで、内容は同じことの繰り返しよ。

そして皇太子が、わざわざ遠方から足を運んでくれたことをねぎらって、贈り物へのお礼を言って、今後話し合いしたい内容が双方から告げられて来賓退場の段取りになっている。

夜の食事会や舞踏会も控えているからね。各国に割ける時間はあまりないのよ。

学生の茶会で精霊王に会えたことをどの国の人達も喜んでいて、和気あいあいとした雰囲気でスムーズに事が進んでいく。

ベジャイアの時はどうなるかなと思ったけど、ともかく平謝りされたわ。

精霊王が他国の精霊王に叱られて、入国禁止にされたことが衝撃だったみたい。

あの後、他所の国の精霊王達もベジャイアの精霊王に苦情を入れて、アゼリアの精霊王から許してもらえるまでお付き合いは遠慮したいと言われちゃったんだって。

そして一番の問題のシュタルクの使者は、神経質そうな侯爵を中心とした外交官達で、歩き方や挨拶、話し方全てが貴族の見本のような人だった。

やんわりと詫びを告げる時に、ほんの少し王子をディスっていた雰囲気からして、貴族達は今の国王のやり方に嫌気がさしているのかもしれない。

それも仕方ないよね。

王都は着々と砂漠化していて、今では精霊を持つ人が傍にいないと、野菜さえ王都に運んだ途端にしなびてしまうらしい。もう末期よ。

「それでは……妖精姫に来ていただくというのは無理なのですね」

「そちらの精霊王に来るなと言われている以上、無理だし意味がない。かねてから聞きたいと思っていたのだが、ここまで精霊王を怒らせた原因はなんなんだ?」

皇太子の質問に侯爵はため息をついて緩く首を横に振った。

「もうずいぶん昔から徐々におかしくなっていたようです」

「八十年前に起こったことは知らないのかな? そちらの精霊王に聞いたのだが」

「あ……いえ……何か、誤解があったようで……」

誤解で、精霊王に好かれていた全属性精霊獣持ちの少女を自殺に追い込んだのか。

「精霊王の住居はどうなっているんだ?」

「……どこが、そのような場所なのか存じませんので……」

「ほう。歴史と伝統を重んじる国だというのに、精霊王の住居を知らないものなのか。精霊王がお怒りだと知っているのに、調べていないということはあるまい?」

私、知ってまーす。

ちゃんとウィキくんで調べましたー。

「ああ……少しは存じております。たしか、風の精霊王様の住居は少数民族の住む地域にあり、土の精霊王様の住居は、オベール辺境伯領にありまして」

「学生の中にオベール辺境伯の御子息がいたな。精霊を連れていた」

「ええ、地方では今でも精霊を育てられる地域もあります」

「水と火の精霊王の住居は?」

皇太子はシュタルクの侯爵ではなくて、私に顔を向けて問いかけてきた。

この侯爵、話し方がのろいのよ。いちいちもったいぶるというか、考えながら話すというか。それがシュタルク貴族の中では普通の話し方なの?

帝国のさくさく話を進めるやり方は、シュタルクからしたら品がないのかもね。

「水の精霊王の住居だった入江は軍港に、火の精霊王の住居は王族の離宮になっているみたいです」

「それは怒るだろうな。他国の令嬢に力を借りようとする前に、まずは自分達が精霊王に誠意を見せるべきではないのか?」

「私がそちらに行っても、余計に精霊王を怒らせるだけですよ」

シュタルク一行の私を見る視線は敵意に満ちていた。

皇太子にガンつけるわけにはいかないから、私を脅そうとしているのかもしれない。

黙って言うことを聞いていればいいのにくそ生意気なガキが、って感じの目つきよね。

でも私は、そういう顔を向けられるのは慣れているの。

だからにっこりと微笑んであげたら、慌てて目を逸らしていた。

山ほどの贈り物も、白々しいくらいの賛辞も、帝国の考えを変えることは出来ない。

自分達はいっさい今までの生活を変えずに、精霊王に許してもらおうなんていまだに考えているのがやばい。

冷静な第三者から見たらかなり末期なのに、本人達は、まだ大丈夫なはずだと自分に言い聞かせながら、現実から目を逸らして平和な日常にしがみついている。

そのうえあの王子の態度でしょ?

あの場にいた全ての国のシュタルクの印象は最悪よ。

どこの国よりも煌びやかで豪華な服を着て、どこの国よりも多くの贈り物を持ってきたシュタルクだけど、どこの国よりも暗い空気で謁見室を出て行った。

「あれは駄目だな」

誰の声かはわからなかったけど、ほとんどの人が大きく頷いていた。

「最後はルフタネンか」

皇太子が呟いた途端、その場にいた全員が私に視線を向けた。

たぶん婚約のことをお父様から聞いているんだろう。

なんというか……言いたいことがあるけど言えないような微妙な雰囲気よ。

お祝いの空気じゃないの。

私が帝国を出て行くって、やっぱり反対の人が多いのね。

入場してきたルフタネンの人達は、シュタルクの人達とは正反対の非常に明るい雰囲気だった。

全員が黒髪で、いつもの黒い民族衣装姿なのは独特な雰囲気がある。

デュシャンやタブークの人達も民族衣装姿で、とてもよく似合っていて素敵だった。

その地域の人に似合うようにデザインされているんだろうから当然よね。

それに比べると帝国の人達の中には、微妙に表情が強張っている人や、カミルに厳しい目を向けている人が何人かいたの。

皇族兄弟とモニカがいつも通りで、カミルやルフタネンの外交官にも親しげに声をかけていたからほっとしたわ。

もう何度も顔を合わせている人もいるし、国同士はいい関係を築いているんだもん。私の縁談が原因で関係が悪くなっては困るわよ。

お祝いのやり取りの後、話題になったのは難民の話だ。

シュタルクでは作物の育たない地域が増えてきているのに、今まで通りに税を取り立てようとする貴族がいて、農民が逃げ出しているらしい。

ほとんどが隣国のベジャイアに流れるけど、中には帝国やルフタネンに来る人もいるのよ。

私はこの話を知ってはいても、詳しく聞く機会がなかった。

クリスお兄様がベリサリオにいた頃は、食事をしながらこういう話もしてくれていたんだけど、今はベリサリオにいるのは両親でしょ? 親としては、食事中に子供と話題にする話ではないんだろうな。

お兄様達と違って、私に前世の記憶があることを知らないし、令嬢は普通なら政治的な話に首を突っ込んだりはしないから。

でも気にはなる。

農民が手に入れられる船なんてぼろい小さな船ばかりで、特にルフタネンに行くには外洋を航海しないといけないから、途中で沈む船も少なくないらしい。

帝国には海峡を横切ってくればいいから少しは楽な代わりに、貴族達が逃げ出す労働力を捕まえようと目を光らせている。

無事に帝国に来られたとして、仕事はあるのかしら。

「最後に……この場で伝えるべきか迷ったのですが、殿下には一刻も早くお伝えするべきだと思いまして」

「何かあるのか?」

ん? なんの話になっているの?

「この度、ルフタネンの精霊王達が、私の後ろ盾になってくださることになりました」

「…………は?」

私も何年か前はよくやったけど、精霊王を後ろ盾にすると使える技みたいなものかしら。

その場の空気が凍り付いた。