軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

国際デビューは波乱の幕開け

皇族兄弟の誕生日祝いの三日前、私は皇宮の来賓用の廊下をお兄様達と歩きながら、高い天井を見上げていた。

さっすが外国からのお客様を迎えるスペースだ。重厚で豪華な作りになっていて、帝国ってすげえんだぞと威圧感満載よ。

高い位置にある窓にはステンドグラスが使われていて、廊下に色とりどりの光が差し込んでいてとっても綺麗。

「ディア、口を閉じて」

「はっ! いけない」

豪華な物にはすっかり慣れているつもりだったけど、光を使った演出が素敵なんだもん。

出来ればお兄様達がこの廊下を歩く様子を、少し離れた場所から眺めさせてほしいわ。絵にしたら欲しがるお嬢様がうじゃうじゃいるわよ。

「今日は無理におとなしくしなくていい。むしろ、下手に近付いたらやばいやつだと思わせてやれ」

「やばいやつって、どうすればいいんですか?」

「……普段通りに」

そっと視線を外すのはやめてくれませんかね、クリスお兄様。

アランお兄様もにやにやしない!

今日は留学してくる子達と帝国の学生代表の、初めての顔合わせが行われるのよ。

帝国側で参加しているのはほとんどが高等教育課程の生徒達だけど、侯爵以上は学園に通っている生徒全員参加なんだって。

誕生日当日は夜会が開かれ、特別にその日だけは、成人していないエルドレッド殿下も参加することになっているの。

次の日からは、食事会や各国個別の茶会という名の会議のスケジュールがびっしりよ。

私は成人していないお子様なんで、政治の場に顔を出す必要はないし夜会も出ない。でも、大人達が暗躍する前に、今年の冬から学園に留学する子達が帝国にやって来ているから、そこには顔を出さなくちゃいけないのだ。

留学する子達は、学園が始まる前に寮に必要な物が揃っているかチェックしたり、制服を実際に着てみて必要ならお直ししたり、授業に問題なく参加出来る語学力があるかテストを受けなくちゃいけないんだって。精霊の育て方を学びに来る人は、一属性以上の精霊がいなくちゃいけないから、その確認もある。まあ当然よね。

今、学園の寮が並ぶ一角には、次々と異国情緒たっぷりな建物が完成して、万国博覧会でも始めるみたいな雰囲気になっているらしい。ちょっと見学するのが楽しみだわ。

「なんで皇族が、こっちの扉から入場するんですか」

謁見の間に続く扉の前で少し待たされたからどうしたのかと思ったら、皇族兄弟とモニカが合流した。他の人達はもう入場が済んで待機しているらしい。

「ベリサリオと打ち合わせしていたから、この入口の方が近かったんだよ」

「打ち合せしていたんですか。我々は」

「そうだよ」

あいかわらず皇太子とクリスお兄様の話している様子は、仲がいいんだか悪いんだかわかりにくい。それを真に受けて、クリスお兄様に皇太子の悪口を言いに来る馬鹿な貴族がいて、痛い目にあっているのよね。

「ディア、よかった。知っている顔に会えて。外国からのお客様に会うなんて初めてで緊張していたの」

最近モニカは、会うたびに綺麗になっている気がする。

また少し背が伸びて、成人している女性の中でも長身と言われるくらいの身長になっている。体型がけしからんのは前からだけど、蘇芳に会うためにあの草原を何往復もしているような子だから、必要な筋肉はちゃんとついているのよ。剣精がいるってことは、戦闘訓練も受けたってことだしね。

もしかしていざという時に皇太子を守れるって、婚約者としては必要なことなのかな。

だから、アマゾネス系のけしからん体型で顔は年相応に幼い。

こういうタイプを好きな男は多いみたいね。ここ何か月かでモニカの人気は急上昇よ。

そりゃ皇太子も心配して、皇族しか使えないロイヤルブルーのドレスを贈っちゃうわ。

「大丈夫。にっこり笑顔で会釈すればいいのよ」

私はほら、見た目だけは儚げ美少女だから。

大人が着るとぶりっ子になりかねない、背中に大きなリボンのついた白いレースが可愛いスペアミントのドレス姿よ。

「もっと目立たない服はなかったのか」

「こんな可愛いディアが目立たないなんてあり得ないだろう」

「……おまえに聞いたのが間違いだった。アラン」

「いっそ目立って、下手に近付いたらやばいと思わせよう作戦です」

「誰か止めろよ」

ベリサリオに止める人がいるわけないじゃない。やれやれドンドンよ。

どっちにしろベジャイアとシュタルクの人間が来るんだから、問題が起きないわけがない。

「大丈夫ですわ、アンディーお兄様。要は私と結婚しようなんていう輩がいなくなればいいのですから」

「ちっとも大丈夫じゃないし、突然すっかり忘れていた呼び方をするな」

「えー、私のお兄様になってくださるって……」

「いつそんな話になったんですか?」

「まあ、エルドレッド殿下はご存じない?」

「じゃあ、私はディアのお姉様になるの?」

「そうか。そうしたら僕も兄になるのか」

なんでやねん。

兄や姉ばかり増えまくるじゃないか。

いつまでも末っ子は嫌だ。

「あのー、そろそろ入場していただいてもよろしいでしょうか」

「ああ、忘れてた」

大勢待たせているんだったわ。

こんなところで、立ち話をしている場合じゃなかった。

「うへ。瑠璃と蘇芳の像がある」

大きくて分厚い両開きの扉が、すーっと音もなく開かれる。

謁見の間ってどれも似たような雰囲気だけど、ここは床も壁も黒が基調で、金や銀の装飾が入っているせいで、部屋全体が重々しい雰囲気だ。

こんな部屋を使うから、帝国って怖いって思われるんじゃないの? それとも、それが狙いなのかな?

「帝国を守ってくれている精霊王だからね。ちゃんと許可は取ったよ」

謁見の間はどでかい長方形の部屋だ。

天井が弧を描いているので、かまぼこみたいな形の部屋だと思ってもらえばわかりやすいんじゃないかな。

部屋に入ってすぐ、左に蘇芳、右に瑠璃の大きな像が置かれている。

いつの間に彫刻家が姿をチェックしたのかな。そっくりよ。

扉から部屋の奥までボルドー色のじゅうたんが敷かれていて、左右に大勢の人が並んでいた。

左側は学生達で、右側は外交官や各国との貿易を中心に行っていたり、他国の人と知り合いなので留学生の世話役になった人達だ。リルバーン連合国に留学していたハドリーお兄様もそちらに並んでいる。

中央を皇族兄弟とモニカが進むと、手前の人から順番に男性は胸に手を当てて、女性はカーテシーで出迎えるのが、格好いいのよ。皇太子の後ろを歩いているおかげで、まるで私に礼をしてくれているみたいよ。

お友達が並んでいる前を通って、一番奥まで進む。

部屋の奥には琥珀と翡翠の像が、皇族をやさしい微笑で見守るように立っていた。

すごい綺麗で優しい顔つきなんだけど、本物には勝てないね。

見慣れた顔が彫像になっているのって、ちょっと笑ってしまいそう。

広間の一番奥に皇太子とモニカが並び、モニカを挟んでエルドレッド殿下が立ったので、私はお兄様達の後ろに並ぼうとしたんだけど、皇太子に腕を掴まれて隣に並ばせられてしまった。

「え? ここ?」

「妖精姫の位置はここだ」

わからなくはない。妖精姫という名前が独り歩きして、精霊王に愛された特別な令嬢というイメージが出来上がっている以上、特別扱いしないとまずいんだよね。

でもね、皇族兄弟もモニカも背が高いし体格もいいのよ。

クリスお兄様もアランお兄様も長身でしょ?

私だけ身長の低いお子様みたいよ。

この立ち位置はひどいよー。

アランお兄様の隣だったら、横はグッドフォロー公爵家だからパティがいるのにー。

「御来賓の御入場です」

私達が定位置についてすぐに、案内役が大きな声で言った。

細かいことを気にしても仕方ない。

さあ、どんと来い! 今日のためにウィキくんで勉強してあるぜ!

「ベジャイア王国ペスカーラ伯爵家御子息ガイオ様、ティローネ子爵家御子息ジルド様」

最初っからベジャイアの登場よ。

入場の順番は来客の身分が低い順番だから、伯爵家では最初になってしまうんだね。

「あれがベジャイアの精霊王が話していた伯爵子息か」

クリスお兄様が小さな声で呟いたので、声の聞こえる範囲にいた人達はいっせいに先頭を歩いてくる青年に注目した。

とうとう来たか。ベジャイアの英雄。

弱冠十八歳でありながら公爵の元で軍を率い、ニコデムスと手を組んでいた国王側の軍を蹴散らしたって功績で、ベジャイアでは大人気らしい。

おかげで公爵側が勝って国王は処刑されて、内乱の最中に戦死した公爵の息子が今は政権を握っている。

軍を率いていたって聞いたからごつい人を想像していたんだけど、意外にもガイオは細マッチョで長身の男だった。

なんて言えばいいんだろう。イケメンではあるけど貴族らしくないというか、服も着崩していて襟元を大きく開けている。にやにやしながら女性陣を楽しげに眺めて、私に気付くと足元から顔まで、値踏みするように何往復も視線を走らせた。

英雄だから、たぶんベジャイアではモテるんだろうね。

侯爵にしようって話もあるようだし金もあるとなれば、それ目当てで近づく女性もいるでしょ。

だから自分が口説けば女性は誰でも喜ぶとでも思っていそうな、自信満々な顔をしている。

お決まりの挨拶をしたのちは、案内役に先導されて茶会のおこなわれる広間に移動するんだけど、その時にこちらを見てバチンとウインクしやがった。

「駄目だな、あれは」

皇太子がため息をつくのもわかる。

伯爵家程度で他国の最高位の貴族令嬢にあの態度はないわ。

同行してきた外交官かな? 青い顔で話しかけているけど聞いちゃいないみたいだ。

「楽しくなってきたじゃないか」

「準備してあるんだろう?」

「当然だ」

皇太子とクリスお兄様が、私の頭上で会話をしている。

まだ始まったばかりだっていうのに、雲行きが怪しくなってきたわよ。