軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精霊王宅配便

学園期間が終わり、誕生日も過ぎ、十二歳なんてもう私も大人じゃんって本人だけが思っていた頃、私は瑠璃の住居を訪れていた。

家族の子供扱い、全く変わらないのよ。

お兄様達まで、前世の記憶があるって忘れちゃっているんじゃないの? って思うくらいに子供扱いよ。

親にとっては、子供はいくつになっても子供だ。

クリスお兄様はもう十七になるから、十二歳が子供に見えるのもしかたないかもしれない。

アランお兄様とは二歳しか違わないんだけど、悔しいことにお兄様達と私と、身長差が二十センチ以上あるのよ。子供に見えるんだろうなあ。

むしろ精霊王達の方が、大人扱いしてくれるわ。

今回は挿絵を描きに来たのではないので、広い居室の大きな丸いテーブルの前に全員集合した。

テーブルの上には小さな紙袋がひとつ。

テーブルを取り囲んだ精霊王達が、それをじっと眺めているから最高に居心地が悪い。

瑠璃の住居にはしょっちゅう遊びに顔を出しているし、他の精霊王が同席することだって珍しくはないというか、だいたい集まってくる。

だからこの状況は慣れてはいるんだけど、今日は少し空気が違う。

なぜか瑠璃は不機嫌そうな顔つきだし、琥珀も考え込んでいるみたいだ。

蘇芳は瑠璃をからかっているからいつも通りで、翡翠は仲間達の様子に呆れている。

そして私は、テーブルに置いた袋をそっとしまって持って帰ろうかなと思い始めていた。

「瑠璃を便利に使おうなんて思っていないのよ? ただベリサリオ家から誰か使いをやって届けると、正式な贈り物になってしまうし、家族の誰かが行ってもまずいし、私が自分で行くのはもっとまずいでしょ?」

テーブルに置かれている袋の中身は、先日カミルにもらった髪飾りのお返しだ。

私としては新商品のチョコチップ入りジェラートと冷凍庫がお返しのつもりだったのに、お母様から待ったがかかってしまったの。

「そんな素敵なプレゼントをいただいておいて、お返しが冷凍庫?! それも使い古し?!」

「冷凍庫は高価だし、ディアしか使えないデザインの冷凍庫なんだよ? 彼にはもったいないくらいだ」

「誕生日の贈り物にお返しなんていらないですよ。この間のお礼も兼ねているんでしょう。放っておけばいいんです」

お父様とクリスお兄様は、充分すぎる。むしろ向こうがありがたがるべきだと言っていたけど、

「あなた達はちょっと黙っていて」

お母様の冷ややかな声とまなざしに黙り込んだ。

「カミルくんはいい子だけど、周囲は男性ばかりだと言っていたわよね。こんな素敵な髪留めを選べる人が周りにいるの?」

以前は身の危険があったから女性がいなかっただけで、もう今は普通に侍女はいるんじゃないかしら。

でも高価な装飾品に詳しい女性って……。

「タチアナ様に相談したんじゃないかな」

「そうよね。つまり王太子殿下もこの贈り物は承知しているということよ。それなのに妖精姫のお返しが冷凍庫? それは駄目でしょう?」

駄目なの?!

「お返しじゃなくてもいいわ。いただいたからには、こちらからも誕生日の贈り物をしないといけないでしょう?」

そういえば、カミルの誕生日っていつだったかしらと、その夜に慌ててウィキくんで調べたよ。

その話をお友達にしたら、好きな子の誕生日を知りたいと思わないのかと呆れられたわ。

「ディア……あなた、そういうところは本当に残念だわ」

「カミルが好きなのよね? このままだと冷凍庫が初めての誕生日プレゼントってことになるわよ」

実用的でなかなかのお返しだと思っていたから、念のために将来のお義姉様であるスザンナとパティが遊びに来た時に意見を聞いてみたら、ふたりともお母様と同じ反応だった。

そうか。駄目か。

「ヒロインが彼氏に冷凍庫を贈る恋愛小説なんてありえないって考えれば、自分がおかしいってわかるでしょ」

エルダにまであほかって顔で言われてちょっとむっとして、ならば誰もが納得するプレゼントを贈ろうじゃないかと考えたわけよ。

でもこれが大変。

私のセンスはあてにならないから、お母様に相談してデザイナーを選んで話をして、いい石がなかったから探してもらって、完成品になるまで二か月よ。

出来上がっても渡すのがまた大変なの。

個人的にプレゼントを贈り合うのはお友達同士でもするでしょ?

カミルが帝国に来たついでに、誕生日プレゼントだよって渡してくれたのは個人的なやり取りになって、とってもいい方法だったのよ。

でも私がルフタネンに用事もないのに行って手渡したら、世間が大騒ぎよ。

妖精姫が男に贈り物をするために外国に行ったって。

ベリサリオから使者を出すのも、向こうの出方次第ではまずいことになるって、お父様は嫌がっている。

ベリサリオがわざわざ誕生日に使者を送ってくれましたよなんて言われたら、向こうで私とカミルの縁組は決定したものと扱われる危険があるからね。

王太子やカミルの周囲が乗り気だから、うちの男性陣は警戒度マックスなのよ。

他に相手がいないし仕方ないって言ってたくせに、いざとなるとまだ早い病が出てくるんだから。

「僕がルフタネンに行くまでには渡しておいてくれよ」

「あ、クリスお兄様に届けてもらえばいいんでは?」

「贈り物が特別すぎるんだよ。なんでそんな特別な物を作っちゃったの。それだけの贈り物を辺境伯家公認で、しかも僕が届けたとなると、やはり婚約かと大騒ぎになるよ」

「家族みんなの分を作りましたよ。クリスお兄様にもプレゼントしたじゃないですか」

「世界中でベリサリオ家しか持っていない物を、カミルにだけ上げるっていうことが大きな意味を持つんだよ」

もうさ、フェアリー商会の荷物と一緒に送っちゃおうかとも思ったのだけど、紛失したらさすがにやばいでしょ。高価な物だから。

それで申し訳ないとは思ったんだけど、精霊王宅配便をお願いするしかなかったの。瑠璃からモアナ経由でカミル行きで。

まさか瑠璃がこんな嫌そうな顔をするとは思わなかったなあ。

「うーん。しょうがない。違う方法を考え……」

『駄目とは言っていない』

えー、そんな仏頂面しているのに?

『ディアは、カミルが好きなのか?』

「へ?」

『カミルに決めたのか?』

「はあ?!」

な、なんでこんな時にそんな話になるの?

精霊王勢揃いで注目されているのに?

『それは、いずれはルフタネンに行ってしまうということだ。我々とは会えなくなるのではないか?』

『そうよね。せっかく帝国がいい方向に進んでいるのに。他所の国に行ってしまうの?』

「なんでさ!」

琥珀まで何を言っているの? 思わずテーブルに手を突いて立ち上がってしまったわよ。

「私の後ろ盾になってくれているのはあなた達なんだもん。どこに行こうと、今までと何も変わらないわよ。ルフタネンの精霊王が瑠璃達に会っちゃ駄目だなんて言ったら、ぶっ飛ばしモノよ。あなた達四人は、私にとっては特別な精霊王なの。もう家族みたいに大事なんだから!」

腰に手を当てて胸を張って言い切ったら、驚いて私の顔を見上げていた瑠璃の表情がぱあっと明るくなった。隣では琥珀もほっとした顔になっている。

『だから言っただろ? ディアはそんな冷たいやつじゃないってさ。こいつらずっと、ディアがルフタネンに行ってしまうって落ち込んでいたんだぜ』

行くとしても十八になってからだし、そもそも具体的な話なんて何もないのよ。

もう何か月もカミルに会えていないしね。

結婚とか婚約より前に、本当に好きだって言われたのかさえあやふやになって来たわよ。

私の勘違いじゃないかなって思ってしまう時もあるくらい。

ただ、あの髪留めがあるから。

ちゃんと両想いのはずなんだよなーって、暗くはならないでいられるけどさ。

『結婚してもベリサリオに帰ってくるのか?』

「当然。転移魔法があるんだから、いつだって帰れるでしょ?」

『そうか。では、ここにもいつでも来られるように、ディアの部屋を広くするか? カミルも使う……』

「やめて!」

なんちゅー恐ろしいことを言うの?

作業場は人間立ち入り禁止よ。見たら呪うわよ。

「あそこは私だけしか入っちゃ駄目なの。ひとりっきりの時間だって必要なのよ。お願い。そのままにして」

『ディアがその方がいいならもちろん』

「そのほうがいい! あ、でも置いておきたい荷物があるから、もう少しだけ広くしてもらってもいい?」

『ソファーとテーブルも置かないか? ひと休みしながら一緒にお茶を飲んだり、ディアが絵を描きながら話せるようにしたい』

瑠璃は絵の内容にまでは興味がないのよね。上手いと褒めてくれるけど。

それに雑談しながら作業するのも気分転換にはなるだろう。

「そうね、休むのも大事だし、お願いするわ」

『俺もたまには顔を出したい』

『私も』

私が絵を描いている時に、背後で精霊王達がお茶している光景ってどうなんだろう。

でも機嫌を直してくれているようだし、まあいいか。

「あ、もしかして、いずれ結婚して子供が出来たら、私が絵を描いている時に子供と遊んでくれたり?」

『いいの?! 素敵!!』

やっぱり。琥珀先生は喜んでくれると思ったよ。

『悪くないな』

『そうか。次の世代とも親しくする機会は欲しいな。皇族の子供とも触れ合う機会は必要なのではないか? 人間は少し時間があくと、すぐに忘れてしまう』

『そうね。アンディーに話してみるわ』

少しって、たぶん百年単位の時間よね。

彼らにとっては、私が十八になって結婚するのなんて、もうすぐ先の未来なんだろうな。

『あなた達、それでこれはどうするの?』

今まで会話にはいってこなかった翡翠は、プレゼントの中身が気になっていたらしい。

ひょいっと紙袋を持ち上げて、上から中を覗き込んだ。

『これってアクセサリー?』

「バングルなの。私のこれと同じように、物を収納出来るようにしたのよ」

自分の腕についているブレスレットを見せたら、翡翠の目が楽しそうに細められた。

『もしかしておそろい?』

「デザインは全く違うわよ。そっちの宝石はブラックダイヤモンドで、民族衣装を着ている時でもおかしくないシンプルなデザインなの」

『見たい!』

本当にシンプルなのよ。白金にゴールドのラインが入っていて、宝石が一個付いているだけなの。

わざわざ見るほどでもないんじゃないかな。

『でも、妖精姫の贈り物が、ただのアクセサリーというのはどうなんだ?』

『あなた、たまにいいことを言うわね』

蘇芳も翡翠も私の話を聞いてる?

空間魔法と転移魔法を応用した収納付きのバングルだよ?

国宝物だってクリスお兄様が言っていたよ?

『カミルはおまえの婚約者候補として有名になっているそうだな?』

「……うん。公式行事に一緒にいたからね」

『では、命を狙われる危険もあるのではないか?』

もしかしたらと思ってはいたけど、やっぱりそうか。

特に海峡の向こうの三国、ベジャイア、シュタルク、ペンデルスは危険だよね。

『ならば私の祝福を込めよう。きっとカミルを守るだろう』

「え? 瑠璃の? それはどうなの? ルフタネンの精霊王に悪くない?」

『我がディアのために動くのに何の遠慮がいるのだ』

ま、まあね。

『わかった。これは預かろう。モアナからカミルに渡せばいいのだな』

紙袋を翡翠から受け取り、瑠璃はにっこりと微笑んだ。