軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

条件は満たしても

妖精姫が他国の外交官の目にどういう風に映ったかは知らないけど、ひとまず問題なく誕生日会昼の部は終了。

私は護衛のジェマと執事のレックスと一緒に控室に向かった。

そうそう、大ニュースですよ。

レックスもアランお兄様の執事のルーサーも、一代限りとはいえ男爵の称号をもらったんですよ。

実はお父様が少し前に要望を出していたんだって。

アランお兄様は成人したら近衛入団で皇都生活でしょ? ルーサーが平民のままでは、皇宮内で行動できる範囲が限られてしまう。

レックスだって、私が結婚した時にもついていくって言っているから、どこに行っても平民だからって苦労しないように男爵になれてよかったわ。

ブラッドは家族とベリサリオで生活する今の暮らしが気に入っているので、いずれはクリスお兄様の護衛に異動になる予定だ。執事の仕事も城内なら平民でも問題ないんだけど、本人は護衛専門がいいと思っているみたい。

もうレックスも十九歳よ。すっかり大人っぽくなっちゃってさ、城の女の子に大人気よ。

優しいし、性格もいいからね、モテるのはよくわかる。

男爵になったお祝いに、ベリサリオ家がプレゼントした正装を着たルーサーとレックスは、とっても素敵だった。ただ堅気には見えなかった。

ルーサーはわかるんだけど、なんでレックスまで悪そうに見えるんだろう。

そしてこちらはまだ確実ではないんだけど、ジェマとルーサーがいい雰囲気なんですよ。

いつまでも浮いた話がないから心配していた私としては、ジェマに恋人が出来たなら嬉しいよ。

てことで、レックスも私が皇宮に用がある時に、同行出来るようになったのだ。

アランお兄様は近衛の人に捕まって、カミルはパウエル公爵と皇太子に捕まっていたので、私は控室で待つことにしたの。

混んでいる転送陣の間に行かなくても、転移魔法で帰ればいいじゃない?

でもアランお兄様を置いて、先に帰ってしまうのも冷たいしね。

夜会に出る人達は控室で着替えるから、廊下はどこも人がたくさんいる。

いちいち注目されるのが嫌で、中庭を通って控室に向かうことにした。

相変わらず中腰で壺を抱えている女性の像を眺めながら、ぐるりと噴水の横を回り石畳の道を歩き始めてすぐ、後方から駆け足で近づいてくる足音に気付いた。

誰だろうと振り返った先にいたのは、デリルだ。

ラーナー伯爵家嫡男で、私にとっては同級生だ。

「ディアドラ様、少しよろしいですか?」

「まあ、デリル様、おひさしぶりです。どうかなさいましたか?」

「あの……少しお話したいことが」

おや、意外だわ。

学園に入園したばかりの時に、空間魔法を僕も使えるようになる! と宣言されて以来、挨拶以外の会話を初めてしたかも。

未だにお互いに「様」をつけて呼びあっているのが距離感を表しているわよね。

「なんでしょう?」

「あの……ここでは……」

ちらっと後ろにいるジェマとレックスを見て、あいまいに言葉を濁して私を見る。

少し頬が赤いような気がするけど、走ってきたからかな。

「では少し歩きましょうか。彼らには後ろをついてきてもらいます。声が聞こえないように結界を張りますわ」

「それなら……はい」

デリルはいい意味でも悪い意味でも、昔と変わらない感じがする。

初めてコルケット辺境伯の屋敷で会った時の印象のままだ。

柔らかい栗色の髪に穏やかなグリーンの瞳。男の子と一緒にいても大きな声を出すところも、走り回っているところも見たことがない。

「ふたりともお願いね」

「はい」

「かしこまりました」

レックスが頷くと、彼の足元にいた犬の精霊獣が、任せておけというように鳴いた。

なんでレックスの精霊獣はマメシバになったんだろう。かわいいよ? かわいいけど、この世界にマメシバはいないはずなのよ。

小さくてもふもふでコロコロしているマメシバは、いつも嬉しそうに尻尾を振ってレックスの後ろをついていく。

初めてみた時に私が、

「マメシバだ!」

って騒いだせいで、彼の名前はマメシバになってしまった。

そういえば私がまだ小さかった頃、レックスが精霊獣は犬の姿がいいと話していた時に、マメシバの絵を描いて見せたことがあったかもしれない。

「それで、お話って?」

後ろからジェマとレックスが心配そうな顔でついてくるのを確認してから歩き出し、隣に並ぶデリルに尋ねた。

「やっと空間魔法を使えるようになったんです!」

「まあ、おめでとうございます!」

「成人していない子供では、ディアドラ様に続いて二番目ですよね」

「え? ええ、そうですわね」

嘘はついていない。

うちのお兄様達もパティもイレーネも、まだ安定して空間魔法は使えない。

それが出来ないうちは危険だからと転移魔法は使用禁止になっていて、先生や転移魔法の使える大人がいないと練習もやっては駄目なの。

自信をもって使えるって言うのだから、デリルはもう安定して使えるんだろう。

「これで僕は、条件をクリアしました」

「……条件?」

「ディアドラ様とお付き合いする条件です」

…………は?

………………今、なんて?

「お付き合い?」

まずい。驚きで頭がうまく働いてくれない。

彼は何を言い出したの?

「あの……空間魔法は条件にはいっていませんよ?」

ちがーーう。そういう問題じゃなーーい!!

「それは僕のこだわりです」

「な、なるほど。でも……あー……ちょっと待ってください」

落ち着けディアドラ。

最近、心拍数があがる場面ばかりだけど、私の心臓は大丈夫か。

「ディアドラ様?」

「驚いてしまって。意外でしたから」

「意外ですか?」

「はい。だって私達、ほとんどお話したことがありませんよね? 学園でも挨拶しかしませんでしたわ」

「条件を満たしていないのに、ディアドラ様の気を引こうとしている男の子と一緒にされたくありません」

いやいやいやいや。

気を引こうとしている男子って誰よ。

話さないとわからんだろ。

見た目と性格の格差に定評のあるディアドラだよ? 話さないで決めちゃ駄目よ。

「でもお話しなくては、どんな子かわからないんじゃありません?」

「わかります。ディアドラ様は可愛くて優しい女の子です」

お、おう……。褒めてもらえるのは純粋に嬉しい。

でもね、普段の私は平民の子と変わらない話し方もするんだぞ。

訓練所で走り込みもしているぞ。

なんて、言えない。言いにくい。

大きな緑の目をキラキラさせて、拳を握り締めてまっすぐに見つめてくるデリルくんが眩しいわ。

まだ十一歳だもんね。真面目でまっすぐな男の子なんだよね。

私の周りは子供らしくないやつが多すぎて、普通の男の子がこの年代だとどんな感じかわからないよ。

「えーっと、ラーナー伯爵はこの話をご存じなのかしら?」

「……迷惑なんですか? それで……」

「迷惑じゃないの」

反射的に両手を振って否定しちゃったけど、困ってはいる。

まるっきりこの展開は考えていなかった。

「ただ魔道士長のラーナー伯爵と魔道省の人達は、精霊省をライバル視していて、ベリサリオのこともよく思っていないと噂になっていますよ」

精霊省の責任者は元の魔道士長と副魔導士長だ。

魔法を使うのは精霊で、新しい魔法を開発したかったら精霊と協力しなくてはいけないでしょ?

だったら、精霊省で研究した方がいいじゃないかと、彼らは魔導士長という肩書を捨てちゃったの。

それで今、魔道省は魔道具省と呼ばれてしまっている。生活に便利な新しい魔道具を開発するのが仕事になりつつあるから。

それも大事な仕事だよ。

だけど、魔力の強い者が多いと有名だったラーナー伯爵家としては面白くないよね。

そのうえベリサリオは精霊車を筆頭に、新しいことをどんどんやっている。

魔道具制作でも後れを取りそうで、早く結果を出そうと焦っているみたいなの。

「精霊車は魔道具じゃないですよ」

「そうですね。あれは精霊獣が動かしているだけのただの箱です」

「だからお父様も気にしていません。むしろディアドラ様を心配しています」

「え?」

「ディアドラ様のそばにはいつも、兄君のどちらかがいるじゃないですか。あれは、勝手にディアドラ様が話さないように見張っているんじゃないかって。ベリサリオとしては妖精姫を手放したくないから、他家と親しくさせたくないんじゃないかって」

ぐわああああ。そういう見方もあるか。あるよね。

確かにお兄様達のガードの堅さったらないもんね。

ベリサリオのことをよく知らない人からしたら、私はいつも見張られているお姫様なのか。

「ルフタネンに行かせたり、商会の仕事を手伝わせたり、皇太子殿下まで巻き込んでディアドラ様を利用しているのではないですか?」

うわ。ベリサリオ悪党疑惑炸裂。

「それはありませんわ。全部私が好きでしていることなんですよ」

「仕事をですか? ラーナー伯爵家に来れば仕事なんてしないでいいんですよ」

「仕事をしなかったら、何をするんでしょう?」

「へ? 女の人は、茶会を開いたり刺繍をしたり?」

「私は、茶会も刺繍も大嫌いなんです。仲のいいお友達との茶会は好きですよ? でもそうではない茶会は仕事です。商売の場でもあります」

女にとって茶会は戦場だと、誰か言ってなかったっけ?

本音を笑顔で隠し、自分の家の評判を高め、領地の産物をそれとなく宣伝する。

弱味でも見せて変な噂を立てられたら、あっという間に没落することだってあるらしいよ。

「そう……ですか?」

「デリル様はベリサリオに、あまりいいイメージを持っていらっしゃらないみたいですね」

「ごめんなさい」

「いえ、いいのです。でも私とお付き合いして婚約となったら、ベリサリオと親戚になるんですよ? うちの兄や両親と頻繁に顔を合わせることになりますよ?」

「そんなことないです。ラーナー伯爵家に嫁ぐのですから、会いたくなければ会わなければ……」

「それは無理です。私は妖精姫ですから。おそらくデリル様は皇太子殿下に呼ばれ、皇宮で働くように打診されるでしょう。そして公爵家や辺境伯家と渡り合わなくてはいけなくなります」

「な……んで」

伯爵家なのに、皇太子や公爵家とやりあうのはきついよね。

辺境伯家だって、どこも癖が強いもん。

「精霊王にも会っていただかなくてはいけないし、他国の代表とも会うことになるでしょう。どこも精霊王と親しくなりたくて、私を国に連れ帰りたいみたいなんです」

デリルくん、顔色が悪くなっているけど平気かしら。

ラーナー伯爵に相談していないみたいだし、そこまでは考えていなかったのかな。

「ちょっと待ってください」

背後から、慌てたレックスの声がする。

そちらを見たデリルは大きく目を見開いて、おどおどと左右を見た。

彼が慌てた理由はすぐにわかった。

アランお兄様とカミルとダグラスが、こちらに走ってきていたからだ。

「ごめんなさい。失礼します」

「え?」

彼らをレックスとジェマが止めているのを眺めてしまっていたから、声に反射して振り返った時には、デリルはくるりと背中を向けて走り出していた。

あれ? なんで謝られたのかしら。

私が振られたみたいになってない?