軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いざ! ルフタネンへ。

とうとうルフタネン出発の日がやってまいりました!

旅の荷物や贈り物は船便で先に運んだので、今日は身の回りの物だけ運んでもらえばいいはずなのに、城全体が早朝からわさわさしているよ。

同行するパウエル公爵や見送りの人達が城に来るから、その出迎えもあるのかな?

私は朝早くからメイドに磨き上げられて、ピカピカのつるつるですよ。

ルフタネン王太子と婚約者のタチアナ様にお会いするので、失礼のないように準備しなくては。

髪はハーフアップにして、貝殻を模したゴールドと真珠の髪留めをつけている。あちらはベリサリオより暑いそうなので、白を基調にアクアマリン色の入った涼しげなドレスを選んだ。

水や風の精霊がいれば自分の周りは快適にしてくれるから、どんなドレスでも平気だけど見た目の涼しさも重要よ。

それなのにルフタネンの民族衣装って、膝丈までの上着にブーツ姿だよ。見ているだけで暑くなってくるわ。

貴族は精霊を持っているのが当たり前の国だから、この服装でも快適でいられるというのを見せるために、ああいう服装になったんですって。

見栄か。

見栄で作られた民族衣装ってどうなのよ。

しかも黒を基調にしている人が多くて、ターコイズグリーンを基調としているベリサリオの騎士とのコントラストがすごいわよ。

「お嬢、そろそろ中庭に移動する時間です」

一緒にルフタネンに行けるレックスとネリーは、昨日から張り切っている。

ネリーなんて私の小物やアクセサリーを整理して、何度も確認し直して、中庭と部屋を何往復もしていた。落ち着け。

側近だから好きなドレスを着ればいいって言ったのに、メイド服を着ようとしているのよ。

「仕事にプライドを持っていますから」

って、どや顔で言っていたわ。

でもさ、自分のことは自分でどうにかするから、出来れば私ひとりで行動させてくれないかなあ。

私だけならどうとでもなるのよ。ちっとも心配してないの。周囲が心配なのよ。

レックスは自分の身くらいは守れるって言うんだけど、ネリーがいるでしょ。

だから、ブラッドは彼らの護衛として同行することになっている。

危険な状況だからって、妖精姫のお付きが誰もいないなんてありえないんだって。

そして、私にはジェマが張り付く。

クリスお兄様に、第三王子なんかよりカミルを見張っておけばいいと言われているそうだ。

甘いな、お兄様。

カミルを女の子と間違えた時、ジェマもその場にいたのよ。

そのせいか、カミル推しだとひとりで盛り上がっていた。

恐るべしカミル。

女性陣の味方を、着々と増やしているぞ。

中庭には家族の中で一番に到着した。でももう人でいっぱいよ。

私達と同行する執事やメイド、執務官や外交官が順番にルフタネンに転移魔法で連れて行ってもらっているの。

ここはベリサリオ城の中庭だから、あまり多くのルフタネン人がこの場所に転移して来られるようになっては困るので、キースとカミルが大忙しだ。

こうなるのはわかっていたからさ、私が転移魔法で空間を繋げようかって話したんだけど、それはルフタネン側の衝撃が大きすぎて、目撃した人がパニックになると困るからやめてくれと言われてしまった。

転移魔法が使える人が他にふたりいて、彼らは王族から信頼されているルフタネンでも五本の指に入る魔導士なんですって。

彼ら、さっきからこっちをちらちらと気にしているのよね。

私って、魔導士に好かれるタイプなのかな。魔力が溢れてる?

はい。私が妖精姫です。近くで見るチャンスだぞ。

と、にっこり会釈したら、慌てて目を逸らしたり仰々しくお辞儀されたり。

きみ達も落ち着け。

「ディア……本当に行ってしまうんだね」

「ハンカチは持った? 体調は万全?」

どこからかお兄様ふたりが駆け寄ってきた。

クリスお兄様、さりげなく城の中に連れ戻そうとするのはやめて。

「クリスお兄様、引っ張らないでください」

「ああ、ごめん。無意識だった」

「ディア、無茶はしちゃ駄目だよ。多少街を壊してもいいから怪我はしないようにね」

「壊しちゃ駄目でしょう。あ、皆さん到着しましたよ……って、なんだこの顔ぶれ」

なんで帝国の公爵と辺境伯は、すぐに勢揃いしたがるのさ。

辺境伯なんて、先代と今の当主が揃って顔を出しているじゃないか。

結婚式に参列するだけよ? 私はしないけど。

今生の別れじゃないのよ。

でもわざわざ来てくださったのに、文句を言っては失礼だ。

帝国の重要人物であるパウエル公爵とうちの両親の見送りだと思えば、大袈裟ではないのかもしれない。

「ディア、とても綺麗だね。また少し背が伸びたんじゃないかい?」

さすがイケメンのパオロ。

さらっと誉め言葉をかましてくるぜ。

「ありがとうございます。でも、近衛騎士団団長が、こんなところにいていいんですか」

「見送りくらいはさせてくれよ。それにほら、皇太子殿下から預かりものがあるんだ」

なんだこれ。

小さな棍棒? でも十センチくらいの長さしかないわよ。魔道具か何か?

「魔力を通すと伸びるんだ。これで思い切り殴れば、ディアなら相手をぶっ飛ばせるって」

「物理攻撃をしろと?」

「周囲のダメージを考えると、それに属性を付与して殴るのがいいんじゃないかという話になった」

「あの、魔力は強くても腕力は普通なんですが」

「そうなの!?」

なぜそこで驚く。私をゴリラだとでも思っているのか。

戦闘経験だってないんだからね。

護身術をちょっとだけ習っている普通の御令嬢よ。

皇太子も同罪だな。

土産を買ってきてあげようと思っていたけど、海藻を執務室にぶちまけるぞ。

「いいね。何かあったら、それでカミルを殴ればいいんだよ」

「公爵を殴るのはまずいだろう」

「正当防衛なら許されます」

もうクリスお兄様とパオロは放っておこう。

他の方達は、ちゃんと心配してくれて、無理するなよとか、身の危険を感じたらすぐに帝国に転移して逃げておいでよと言ってくれた。

「そろそろ私達もまいりましょうか」

「そうですね」

やっと私達の番だ。

お父様とお母様を転移させてくれるのはキースだ。

私のほうは、カミルが手を差し出してきた。

「準備が出来たなら行こうか」

「はい」

でも、手を取ろうと私が腕を伸ばすより早く、横からクリスお兄様の手が伸びてきて私の手を掴んだ。

「帝国では独身の令嬢に気安く触ってはいけないんだ。きみがエスコートした姿を見て、ルフタネンで変な噂が流れては困る」

「守れと言ったのはきみだろう。俺が彼女の傍にいる必要があるのはわかっているはずだ」

「傍にいてもいいが、触るな」

こんなところで喧嘩しては、帝国でもルフタネンでも噂になってしまう。

だからクリスお兄様は穏やかな笑顔で、近くにいる人にしか聞こえないような小さな声で文句を言っているし、それに言い返すカミルも爽やかな笑顔で、でも目が笑っていない。

私のために争わないで。怖いよ!

「よければ私と一緒に行こうか。それならクリスも安心だろう?」

ほらー!! パウエル公爵に気を使わせないでよ!

「ありがとうございます。ぜひご一緒させてください」

カミルに転移してもらうのは同じなんだけど、ふたりだけだと問題なのよね。保護者同伴ならいいの。

パウエル公爵の腕に右手を添えて並んで立ち、ふたりの前に無造作に伸ばされたカミルの腕にそっと手を置く。パウエル公爵はしっかり腕を掴んでいた。

こういう時、狙われているはずの当人は割と落ち着いているものだ。

勝つ気しかないから。

むしろ周囲が、特に同行できないお兄様達の方が不安だよね。

あんまり心配そうな顔をしているもんだから、

「暴れてきます!」

と言ったら、ようやく笑顔になってくれた。

ルフタネンに転移してから、パウエル公爵が笑いをこらえて口元を押さえていたよ。カミルは呆れた顔をしてた。

ほんの一瞬の移動で、外国に来たという実感は湧かないけど、来たぜ! ルフタネン!

日差しが強いよ。空の色はあまり変わらないかな。

こちらも今日は快晴。カラッとしている暑さで、風が肌に心地いい。

でもみんなの風と水の精霊が、いっせいに魔法を使っているから、やっぱり暑いんだね。

えらいぞ、精霊達!

ルフタネンの建物のイメージはタイっぽいって言えばわかるかな。

とは言っても、行ったことがない私の知っているあの国の建物のイメージは、寺院やホテルの写真からきたものだ。

屋根の形や重なり方が、私の中ではタイ風の決め手だ。

東島の王宮のある町は人口が多いので、五階くらいある建物が並んでいるそうなんだけど、北島は土地が余っているから、貴族の建物でも三階までしかないことが多い。

日差しを遮るために大きい 庇(ひさし) のついた屋根が特徴で、開口部が多く、中庭には必ず池を作る。

平民の住む建物も四角い池の周りに緑を配した中庭を、広いテラスのある建物がぐるりと囲っているんだって。

暑いこの国で、少しでも涼しく暮らそうという生活の知恵だね。

私達が到着したのは、港のすぐ近くにある入国手続きをする建物近くの広場だ。

さすが貿易都市。

税関や倉庫、様々な役所の建物は、歴史を感じさせる重厚さを感じさせる。

さすがにそういう建物にはテラスや、部屋と一体になっているバルコニーはなかった。

「こちらへ……」

カミルの声を遮るように、大きな歓声が私達を飲み込んだ。

驚いて振り返ると、広場と道を区切っている柵の向こうに大勢の人が集まっている。

まず目についたのは、黒髪の比率の多さだ。

外国の人がたくさんいる港近くなのに、ほとんどの人が黒髪だ。

意外だ。

懐かしく感じるより違和感が強い。

この世界に生まれてもう十一年。

銀色や金色の髪を中心に、いろんな髪色の人がいるベリサリオにいるから、ほぼ一色の髪色しかいないって不思議な風景に見えてしまう。

でもそんなことを気にしていたのは一瞬よ。

この歓声、カミルへ向けられたものだけじゃないよね。

私達を歓迎してくれているんだよね。

「あの子が妖精姫!?」

「かわいーーー!!」

「うわあ。消えちゃいそうな雰囲気だぞ」

「おとなしそうな子だね」

あー……私か。妖精姫を見に来たのか。

さすが精霊の国ルフタネン。

私達の周囲にいる精霊獣に驚くより、妖精姫のほうが気になるのか。

でもごめん。私は消えるような特技はないし、おとなしくもないんだ。

見た目詐欺で本当にごめん。

「妖精姫!!」

「カミル様!!」

「帝国の人、美形ばかりだな!」

お母様が手を振ったら、すっごい歓声があがった。

すげえな。こんなに帝国の印象っていいんだ。

大歓迎じゃない?

「きみも手を振ってあげたら?」

「え? あ、そうですね」

パウエル公爵に勧められて、ちょっとだけ遠慮がちに手を振ったら、思わず耳を塞ぎたくなるほどの大歓声に包まれてしまった。

「すごい人気だね」

「いたたまれません」

「なんでまた」

「私は、妖精姫のイメージとは全く違いますから、申し訳ない気になってきます」

「そんなことはないよ。可愛いし優しい。立派な妖精姫だ。ねえカミル」

なんでそこでカミルに振るんですかね。

「……たぶん?」

「そこは、同意するところだろう」

「俺は正直者なので」

この野郎。

「まあ、この男、パウエル公爵が嘘つきだと言いやがりましたわ」

「え? 違うよ」

「こんな失礼な男は放っておきましょう。あちらの建物に行くようですよ」

パウエル公爵の腕を取ってさっさと歩きだす。

「ちょっと待てって」

慌てた様子を見せると、何事かと思われるわよ。

「……お邪魔な気がしてきたよ」

え? なんででしょう。

公爵がいてくれて、とても助かっていますわ。