軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

意識の変化

「あらあら、18階層でも結構苦戦しちゃってるな、第2部隊」

俺は第2部隊が18階層の初攻略で、赤い色した変な熊相手に総崩れになっている様子を眺めながらそう思う。

はたからモニター越しに見ていると。

すごい適当な大振りパンチと、闘牛のように愚直にまっすぐ突進するかの2パターンの行動しかしない、異様に不自然な熊である。

第1部隊は初見でその熊の単調な動きを見切り、適当に流すように躱して処理していたが。

第2部隊は、副隊長さんがいきなり吹っ飛ばされて、周囲が錯乱してしまったのがまずかった。

おそらく動作の性質に気が付いて、冷静に対応していれば別に第2部隊でもさほど問題のない相手だろうとは思う。

「まあこんなこと言っても、ボクシングや相撲の観戦で、ああ動けばよかったのになにやってんだって、テレビ越しに勝手なこと言ってるおっさんと変わらんな」

実際に目の前でモンスターと戦って、そんな動作とっさにできるかよって話である。

できてしまう第1部隊がどうかしているのだ。

「体力完全回復のお湯で訓練したら、騎士団の方はまだどうにかなるのかもしれないけど……そろそろ限界かもなぁ」

「なにが限界なの?」

ペタちゃんが、カレーを煮込みながら聞いてくる。

「王女様や貴族の娘が直接入りにこられるお湯の限界が近い」

おそらくだが、20階層以下になると、護衛が強ければどうにかできる、とかそういう問題じゃなくなってくる。

危険すぎて、王族を立ち入らせるなんてありえないという状況になる。

現段階でも、陛下が入ってくるのは十分狂ってるレベルだからな。

「これは飯困らずダンジョンのほうにお湯を運んでも変わらないんだよ。

あっちだって深い階層になればモンスターは同様に強くなるからね。

だから、19階層と20階層はこれまで温存していたユーザ陛下や貴族みんなが絶対に求める効果の湯を作るぞ」

「へー、それはどんなお湯?」

「あらゆる病気治癒効果と若返りの効果を、できうる限りの効能で出力する。この二つは古今東西、あらゆる権力者が最後まで求める効果だからな」

「……ふーん」

病気も老化もほとんど理解してないダンジョンコアであるペタちゃんの反応は実に薄い。

聞いてはみたけど、いまだに何も実感できない効果でしかないようだ。

「反応薄いなぁ……ペタちゃんだったらどんなお湯がいいの」

「大きくなるお湯ね!」

ダンジョンにとって、大きくなる以外の欲求はあまりないようである。

「身長が大きくなるのもいいけど、胸が大きくなるお湯とかもいいかな、巨乳の湯とかさ」

「は?」

「マスターって、乳が膨らんでる女をすごい集中して見てるじゃない、私の胸が膨らんだらマスターもきっと同じくらい注目するでしょ?」

急になに言い出してるのこいつ。

「マスターが大きい胸とか身体した女を凝視してると、なんだか無性に腹が立つことがあるのよね~。

そうなる理由を考えてたんだけど、自分より大きい身体に注目しているのがダンジョンコアとして敗北感を感じて腹が立ってるんじゃないかなって。

だから私も巨乳になるの」

「何言ってるんだよ、そりゃ俺はでかい胸は好きだけど、小ぶりは小ぶりで好きなんだよ、君はそれでいいの」

小ぶりという単語が気に食わなかったのか、ペタちゃんは歯を見せて一瞬威嚇するように唸った。

初めのころは、風呂場の女騎士の裸を見ていても、昆虫観察をしてる男子を見るような冷めた視線で見ていたはずなのに。

いつの間に、そんな対抗意識だか嫉妬心だかわからない感情をこじらすようになってしまってたの? ペタちゃん。

まあ、俺の感性を取り込んでいって意識が変わっていってるのもあるだろうけど。

最近の飯困らずダンジョンに入り込んでいる冒険者たちの意識も少なからず影響しているんだろうな。

なんだかんだこれまでは、モンスターがいつ湧いてくるかわからないダンジョン内部でみんな真面目に探索するだけだったし。

飯困らずの浅い階層に住み着いている貧民だって、その目的は食事と宝石採取であり、致す時は基本的にモンスターのいないダンジョンの外でするのが常識だったのだ。

しかし最近では居住空間という安全地帯がダンジョン内部にできたものだから、カップルで入ってきて持ち込んだ6階層の湯に入り綺麗になった後、ダンジョン内の居住施設で……その、ねえ。

それどころかフリーの商人も宿泊施設産業に関与し始めて、ダンジョンで何日も探索している冒険者用のいかがわしい店だってもう作られはじめてるんだよね……。

「それよりさ、その煮込んでるカレー美味しそうだね、何カレー?」

「これ? チキンバターカレーよ、付け合わせはナスの揚げ物にでもしようかな~」

今のところは巨乳の湯の事など。

ちょっとカレーに話題をそらしただけで、どうでもよくなる程度のものでしかないようだ。

今のところは。

「ところでペタちゃんはカレーをいつ頃ダンジョンで出す? こっちもそろそろ一流の冒険者か騎士じゃないと取りにこられない階層になってくるからね」

「そうね、18階層で出そうかしら」

「ん? なんで18階層?」

「温泉ダンジョンの18階層のお湯が体力完全回復なんでしょ?

そのお湯をこっちにも持ってきてくれると仮定したら、その効果でいつまでも疲れずに取り続けてくれるわけじゃない?

ついでにケンマのマスターからもらった宝石も出しておきたいわ、これだけ深い階層なら食材と同時に増やしても問題ないから」

なるほど、体力回復が簡単にできる階層は強力な稼ぎ場になるだろうからな。

「いい発想だなペタちゃん、俺もそれで異論はないよ」

だったら、時間経過で復活するタオルより、俺も石鹸みたいにずっと掘り続けられる体力タイプの発掘品にしておくべきだったな、失敗したかな?

いや、発掘作業より効率的な強化トレーニングをしてくれたほうがいいかもしれないから……いいか。

「じゃあ温泉ダンジョンのほうは、またしばらく女騎士の訓練期間になるだろうから、飯困らずダンジョンのほうが同じ18階層まで成長するまでは何もしないよ」

「そうね、温泉をこっちのダンジョンに持ってきてもらえば同じ効果を発揮できるんだから、同じ速度で進んだほうがいいわよね」

「そういうこと、ま、しばらくは居住施設の数が増え続けるだけで、大した変化もしばらくはないだろう、俺はゆっくりさせてもらうよ」

「17階層は開けるまで炭酸が抜けないビールでいいわよね?」

「うん、振っても揺らしても炭酸に影響がない程度ならダンジョン魔力でどうにかできるとわかったし、冷やす氷があればビールは楽しめるからな」

俺の方も次に作る湯は、病気治癒と若返りと決めている。

ここから先、しばらくの間は静観の時期だ。

地上でもせいぜい、移動住居の改良と、その施設で行われる商売がいろいろ増えていくだけだろう。

うん、今は何もやることはないな。

とはいえ意識を消して時間を進めるほど環境変化が起こらない状況でもないから……ゲームでもやって遊んでいよう。

俺は生前やりこんでいたゲームをいくつか取り出して、しばらく遊ぶことにした。

「あーあ、プレイしたことのない新作ゲームは取り出せないんだよなぁ……」

入院中に発表されてた、このゲームの続編は今頃地球ではとっくに発売されているんだろうな、やりたいな。