軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

計画

15階層の、装備再生温泉に、あらゆる装備を漬け込んで。

なおかつ自分の着ている装備まで全て洗い。

乾くまでの間、全裸で石のベッドに寝転ぶ女騎士達のあられもない姿を見て、マスターは勝利の踊りを踊る。

「計画通り!」

まあ、15階層では、自分の装備を洗わなくとも。

16階層のダンジョン限定の装備の強化湯では、毎度自分の装備を漬け込まねば意味がない。

いずれにしろ自分の装備は全部脱いで洗う必要はあるのだ。

装備の湯は隙を生じぬ二段構えの脱がし効果。

第1部隊のみなさんだと、鍛えこまれた女体しかないのが気になるが、これはこれで。

いずれ、第2部隊の皆さんも、装備を持って入りに来てくれるだろうからな。

しかしあんまり大量の裸が並んでいる状況を見続けていると、そのうちアダルトショップに務めている店員のごとく裸が風景化してしまう。

こういうのは、やったぜ。と思っているくらいの段階で次の行動に素早く移るのが得策。

「さて、女体はたっぷり拝んだから、手紙の方を見てみるか」

温泉に入る前に、トウジ隊長がこちらに向けて話しかけてきていたからな。

セパンス王国のダンジョン研究家からの手紙をここに掛けておくから、読めるなら読んでくれと。

そのダンジョン研究家とやらが誰なのか、はっきり名前こそ言わなかったが、おそらくアウフとかいう娘の事だろう。

「はあ、たまにいるみたいね、こうやって手紙を送ってくるダンジョン研究者って」

そんなことを、ジト目でポリポリとポテチをかじりながら見ていたペタちゃんが言う。

なぜか最近は、俺が温泉チェックをしている時、ペタちゃんはジト目になってることが多い、退屈なのかな?

「あれ? 結構あるの? こういうの?」

「あるみたいだけど、気が付かないのよね~、マスターだって低階層にいる人間の事なんて、もうほとんどみてないでしょ?

たまたま気づいて拾った手紙も、どうか我らの声に耳を傾けてください、みたいなことが書いてあるだけで、何をしてほしいのかよく分かんないって聞くし」

なるほど、研究者の大半は、ダンジョンの奥底までこないから、低階層で読まれもしない手紙や要望をダメ元で送ってみているだけなのだ。

結果が伴わない手紙を、何度も何度も送っているうちに。

手紙の内容も、こちらに対する要望もへったくれもない簡素な内容になっていき。

訴えの内容が薄すぎて、せっかくダンジョンコアに届いたとしても、放置されてしまうというわけだ。

「でも、この手紙はそういうのとは違うね、ずいぶんびっしりと文字が書き込まれているし……」

うん、細かすぎてとても読めないな。

このモニター形式での覗き見は、全体的な状況を見るには便利だけど、文字を読むのにはあまり向いていない。

監視カメラの映像で、人の見ている小説を読むようなものだ。

おまけに、あの階層は洗濯物がよく乾くように、乾燥したそよ風が吹くように設定してあるため、手紙が書かれた布はひらひらとはためいており、なおさら読みづらい。

「ねー、ペタちゃん、あれをマスタールームまで回収はできる?」

「できるけど、あのまま2日くらい干しっぱなしにされて、自然消滅が始まる時まで待たないと無理よ」

2日か、だるいな。

まあ、いつでも冒険者の持ち物をダンジョンが消滅させて回収できる仕様となると。

殺したい冒険者がいた時、寝てる間にでも、装備の一切を奪えばいつでも殺せるわけだから。

冒険者を殺すことを重視している危険なダンジョンが、あまりに危険になりすぎるだろうからな。

2日くらい回収に時間がかかるのは仕方がないか。

あ、そうだ。よく考えれば、必ずしも監視カメラ映像の形式で見なければいけない理由は何もない。

あの布に書かれた文字を、ブグくんみたいに漫画本のようにして写し出せばいいだけだ。

俺は、周辺の魔素をこねくり、一冊の本を作り出す。

「おー、正解だ、読みやすい。 やっぱりこういう時はアナログ技術のほうが強いよな」

手紙の内容には、今まで飯困らずダンジョンで出てきた食材が、温泉ダンジョンのもたらした効果が。

セパンス王国でどのように広まりどのような評判になっているか。

また、セパンス王国では岩塩が多く産出するため、塩類などには全く困っていない事。

大豆や小豆のような豆類も一大産地のため、貿易の輸出品にするほどすでにある事。

半面、唐辛子や胡椒のような香辛料はかなり希少である。

希少だが、香辛料より塩で保存食を作る文化のため、基本、貴族の嗜好品扱いで、需要が巨大な訳では無い、など。

セパンス王国の交易関係における情報も書かれていた。

これは、普通にありがたい。

今後、飯困らずダンジョンで何を作り出せばいいのかの参考になる。

セパンス王国は塩味の文化か、これは朗報だな、日本人の味覚とはかなり合うはずだ。

そして香辛料は希少……か。やはりカレー粉は最強の手札の一つになりそうだ……いつ出そうかな。

「それにしてもすごい文字量だな……。

ダンジョンが文字を読めると確信していないと、とてもこんな事はしないと思うんだけど。

かなり狂気入ってないか、この娘?」

マスターはこちらがセパンス王国の文字が読めるなんて情報を提示したことはないよな? と思っているが。

実のところ、ダンジョンは文字を読める、とアウフが確信している理由は。温泉ダンジョンの入口に書かれた、温泉ダンジョンという文字のせいである。

当のマスターは、初めてダンジョン制作をする時、深く考えず操作確認がてらに文字を彫り込んでみただけで。

ダンジョン内部の制作作業に気を取られているうちに、すっかり入口に書き込んだ文字の存在の事を忘れてしまっているだけなのである。

ダンジョンがまだできていない時期限定でしか、マスタールームからダンジョン入口の壁の様子は見ることが出来なかった事も忘れてしまった原因だ。

今となっては、入口の壁はダンジョンの外扱いであり、モニターに映して見ることもできないからである。

そして、手紙を読み進めていくと、後半では、とある計画が語られていた。

ダンジョンの内部に宿を建て、冒険者を住まわせるという計画だ。

「ダンジョンの意思、あなたの目的はより深い階層に、より多くの人間を囲い込むことだと考えています。

一部の研究家は、ダンジョンはなるべくダンジョンの奥底で人を殺す事こそが目的だと考えているようですが。

私の予想では、多くの人が探索をしているだけでも、あなたには十分な恩恵と効果があるのではないかと考えています。

最初期の温泉ダンジョンでは、誰も死んでいないにもかかわらず。

数多の女騎士が、温泉に入りに行き続けていただけで、飛躍的な速度でダンジョンが急成長したことから私はそのような仮説を立てています。

ここからが本題なのですが、私たちは飯困らずダンジョンの各階層や、温泉ダンジョン9階層の広場に寝泊まりのできる宿を建てる計画を考えています。

ダンジョンに地上の物質を置いておくと、2日ほどで分解が始まり、ダンジョンに吸収されてしまう事は広く知られています。

しかし、1日に約12メートル23センチの距離を移動させ続けた場合は、地上の荷物であれダンジョンに吸収されないという事も、研究の結果知られています。

つまり、分解して移動できる、組み立て式の鉄道の上に、車輪付きの人力で押して移動できる宿を載せ、毎日13メートルほどの距離を物理的に移動させることで。

安全に寝泊まりできる宿を、ダンジョン内に設置できると考えているのです」

………。

何を考えているのだろうか、この娘は。

「つきましては、ダンジョンの異物の吸収に関して、もしダンジョンの意思によるコントロールが可能なのであれば。

建物とその内部の品々は吸収しないという制限を作ってもらえた場合。

私たちはダンジョン内部に宿はおろか、小さな砦のような町を作る事になるでしょう。

もし、この計画に賛同していただけるのであれば、一度ダンジョン内部に、簡易的な小屋を作成いたしますので。

そちらを吸収せずにいてくれた場合、この計画の方針はより大規模な物に……」

…………。

あまりに、想定していなかった事を、次々に突き付けられたせいか。

読んでいて頭がくらくらしてきた。

「ねえ、ペタちゃん」

「ん? なーに?」

ペタちゃんはこんな手紙なんかに、まったく興味がないようで、マスタールームの隅で、クリームを泡立てながらケーキの作成に勤しんでいた。

比較的、好奇心旺盛な部類のダンジョンコアですらこれなのだ、世間のダンジョン研究家が、よそのコアとの意思疎通に成功していないのもうなずける。

「ダンジョンの異物をさ、条件付きで吸収しない事ってできるかな?」

「無理ね」

あっさりと完全否定されてしまった。

もう少しくらい、考えてくれてもいいじゃない。

「いやほら、この人たちダンジョンの内部に家を建てて住み着きたいらしいんだよ。

深い階層に、頑丈な家の建設を許容出来たらさ、大勢の人間がずっとダンジョン内部に住み込みで戦ってくれて。

ダンジョンポイントを産み続けてくれる結果になるわけだから……」

「うーん、そうねぇ、どう言えばいいのかしら。

あ、そうだショートケーキ作ったから、これ食べてみてよマスター」

「え? あ、うん」

なんだか、意味も分からずショートケーキを食べさせられる。

おいしい。

「じゃあ、今食べたケーキなんだけど、いちごだけは吸収せずにお腹にずっと残しておいてくれる?」

「そんなことできるかよ!?」

「まあ、そういう事ね」

……ああ、なるほど、そういう事か。

無理と即答した理由がよくわかったよ。

そりゃ無理だわ。

「はあ、じゃあこの移動式の宿の計画も、結局はうまくいかないのかな?」

「なに? 移動式の宿って」

「ダンジョンってさ、一日12メートルちょっと動いたものは吸収しないって条件らしいから、鉄道を敷いてこうしてこう……」

俺は、鉄道の模型を作り出して、おそらくアウフちゃんはこういう事がしたいんだろうな、という計画内容を、ペタちゃんに説明してあげる。

要はモンスターに壊されない固さの寝台列車みたいなものを、一日に一度、宿のサイズ+13メートル程度の距離を、足場の線路ごと移動させ続けていればいいのだ。

「……っていう、計画らしいんだけど、結局これだと吸収されちゃうのかな?」

話を聞き終わったペタちゃんは、口を半開きにして、目を真ん丸にしていた。

「え? 天才なの?」

……この反応を見る限り、こちらはどうやらできるらしい。

動いているものは吸収されないようだ。

「じゃあさ、一日13メートル自動で動く場所を作ってあげれば、解決するかな?」

「地上の生物の意思で移動させないと、たぶん駄目だと思うわよ?

たとえばモンスターに刺さったままの矢とかさ、動き続けてるけどちゃんと消えるでしょ?」

知らんわそんな事。

細かい理屈はよくわからないが、ペタちゃんの言ってることが正しいのなら、人間が自力で動かさないと駄目みたいだ。

ダンジョン内部のパワーのみで動いているものは、ダンジョンにとっては動いていないもの、という扱いらしい。

……たしかに、ダンジョンパワーで動いていればOKというのであれば、風でパタパタはためいている手紙も、いつまでも消えないという事になる。

それじゃ、一日に13メートルほどの距離をぐるぐる回り続ける床とかを作ってあげても駄目そうだな。

「湖でも作るか? 船なら荷物や人数をたくさん積んでいても、少し漕ぐだけで簡単に移動が……」

「広い湖なんて作ったら、中にどんなモンスターが湧くのかもわからないし、すぐ沈められると思うわよ」

「うーん、じゃあせっかく協力を求めてきたのに、こっちからしてあげられることが、ほとんどないじゃないか」

できれば協力してあげたいんだけどなぁ。

ダンジョンは人を殺すことだけが目的じゃなく、留まってもらうだけでも十分な価値があるという正しい判断をされているのは大きい。

大体のダンジョンは、冒険者が死んだ時に手に入るポイントの大きさに目がくらんで、危険度を増しているのだから。

「だいたいモンスターといいボスといい、なんで融通が利かないんだよ、16階層のボスは自主的に設置したけどさ!」

5階層の時のように、また変な所にボスが勝手に湧かれても困るので、今回俺は、冒険者にしか需要がない装備強化の湯の守護をさせたのだ。

こうして定期的に退治される状況にしておけば、一般人に需要がある階層に勝手に湧きにくくなるはずだからだ。

ただ、ボスも宝の部屋や、次の階層の階段といった大事な場所の守護をさせるのが安全に取り扱う限界なのだ。

人間と鉢合わせない場所に隔離することはできない。

モンスターとは、ダンジョンの奇跡の淀みが具現化したものなので。

自由にダンジョンを徘徊させるか、できれば定期的にしっかり倒してもらわないと、ダンジョンの瘴気に差し支える。

コアが脳で、ダンジョンが腸ならば、モンスターとは、不純物でありうんこなのだ。

無理に隔離して腸の中に留めておくと、体内で腐敗する病気の元になってしまう。

そう考えれば、人間とは、そんな老廃物を分解してくれるありがたい微生物のような存在なのである。

最深部まで来る人間は、生きて腸の奥深くまで届く。といったところか。

そんな人間が、体内に住みたいと言ってくれているのだ、こんなにもありがたい提案はない。

「うーん、全面協力は無理にしても、協力する意思は示したいなぁ」

「そうね、これは上手くやってくれるほうが絶対にいいわ!」

こうして、俺達は人間をダンジョンに住み着かせる計画に協力をすることにした。

といっても、してやれることは少なそうだが。