軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バフ料理訓練

帰還し始めた副隊長さんが、ニワトリを地上まで持ち運ぼうとすると。

ニワトリは地上に近づくにつれ、突然苦しみだして死んでしまった。

「えっ? なんで?」

「ダンジョン地下で作った生物だから、上層じゃ瘴気が足りないんじゃない?」

ええ? それはまずいな、温泉ダンジョンの方にもニワトリは連れてきてもらって、お肉を食べられるようにしてほしかったのに。

卵なら……卵ならいけるかな? 穀物の種くらいはどうにかなったんだから……。

そう考えると、牛や豚が作れなかったのはむしろラッキーだったともいえる。

「地上に生物を送れるんだったら、とっくに深層のモンスターをジャンジャン地上に送り出して、人間を引きずり込むようなダンジョンだらけになってるわよ」

……ペタちゃんが、こともなげにそんな恐ろしいことを言う。

言われてみればそうだ。

ダンジョンのモンスターはポイントを使えば、ある程度操ることは可能なのだ。

冒険者を楽にしてあげるためにポイントを使うと、経営が赤字になるのでやっていないだけである。

28階層のモンスターは、現状人間にどうこうできるものではないらしいので。

その階層のモンスターを、一体でも地上に送り込めば、世界は大パニックになってしまうだろう。

もし地上にモンスターを送り込めるような仕様にダンジョンがなっているのなら、今頃ブグくんは世界を滅ぼせる大魔王である。

あれが大魔王……か。

勇者くんごっこをしているような格好のショタ悪魔が、大量のドラゴンを引き連れて世界を焼き払っているような姿を想像する。

まあ、お子様大魔王などは、ラノベとかでならよく見る陳腐な光景ではあるな。

そんなどうでもいい事をぼんやりと考えていたら、温泉ダンジョンの方に、トウジ隊長がやってきた。

「あれ? なんでトウジ隊長が温泉ダンジョンに?」

飯困らずの新階層に行った副隊長を追いかけて、すぐに戻っていくかと思っていたのに、駆けつけてはこず。

それどころか、副隊長さんの帰還も待たずに温泉ダンジョンの方にトウジ隊長がやってきた。

「ええ~、なんでマスターの方のダンジョンに行くの? お肉出したら飯困らずダンジョンに居着いてくれるんじゃなかったの!?」

「うーん……飯困らずに不足してるのはお肉だから、それを補えば第1部隊はずっとダンジョンに居着いてくれるんじゃないかなって思ってたんだけど……。

なんでこっちの方に来たんだろ?」

考えられるのは、鍛えるという目的で考えれば温泉ダンジョンのほうがはるかにいいから、かな?

今の飯困らずダンジョンのモンスターでは不足ということだろう。

そしてその考えは当たっていた。

トウジ隊長はまず、道中のすべての温泉を無視して、10階層のトレーニング効果の上がる湯に入りに来た。

そしてその後、すぐにでもトレーニングを始めるのかと思ったら、14階層の料理階層にやってきて。

そこで、体が固くなる料理や、速度が上がる料理、力が上がる料理、体力が一時的に減らなくなる料理などをレシピを見ながら作り始めた。

そして、隊長と部下の一人が身体が固くなる料理を食べ、追加で速度が上がる料理も食べた部下と即座に鉄の棒で剣術修行を始めた。

速度が2倍に跳ね上がった部下の斬撃は、流石のトウジ隊長もすべての攻撃をいなしきれず、何度も斬撃を食らう。

しかし、身体が硬質化されているトウジ隊長は、鉄の棒で鋭い一撃を食らっても、大怪我となるダメージは負わない。

「隊長! 大丈夫ですか?」

「くくく、結構痛いけど問題はない程度だね、それよりも、こんなにも容易く! 自分より強い練習相手を作れることに感動してるよ!」

なるほど、バフ食事で、歯ごたえのある対戦相手を作ったのか。

トウジ隊長クラスになると、自分より強い練習相手の用意には困っていた事だろう。

どこにもいないわけではないだろうが、それほど腕のたつ人物となれば、好き放題訓練につき合わせられるような立場の人物ではないはずだ。

しかし、バフ食事を使えば、いとも容易く自分より強い訓練相手を作れるのだ。

素早さに翻弄され、幾度となく打ち込まれ、血を流しながらトウジ隊長は大声で笑い、目を輝かせながら眼の前の強敵の突破口を探る。

4分ほどの打ち合いが経った頃、砂時計で時間を計っていた部下が勝負を止める合図を出し、二人の練習試合は止まった。

硬質化と速度のバフはだいたい5分弱で効果は消えてしまう。

大怪我をしないように、試合は4分で止めるように事前に取り決めてあるのだろう。

「あああ~~!! もう終わり? 何もできなかった~~!!」

一撃くらいは打ち返そうと思っていた、トウジ隊長は、何もできなかったことに心底悔しそうに地団駄を踏む。

「ふーーー……疲れた。 なんでここまで速度差があるのに、冷や汗かかされるような攻防ができるんですか、十分すぎますよ」

打ち合っていた部下の方も、決して楽勝だったというわけではなく、かろうじて無傷で終わらせることができたといった様子だ。

息はゼーゼーと切れていて、汗まみれになっている。

「もう一回! もう一回やろう!」

全身打ち身だらけの血まみれで、トウジ隊長が泣きの一回を懇願する。

「隊長ー、忘れたんですか? 同じ効果の料理はしばらくの空き時間を空けないと作用しないって書かれていたでしょ」

「ぐぬぬぬ……」

トウジ隊長は、物足りない、負けっぱなしは嫌だ、もっとやりたいといった様子の顔で唸る。

楽しすぎるがゆえに、ずっとやり続けられないのがつらいといった感じだ。

格ゲーで負けて、連コインを咎められている子どものようである。

そんな隊長の様子を、部下たちは隊長のイメージが崩れるなぁといった様子で見ているのと同時に。

この人は、今までずっと物足りなさを感じていたんだなぁということも理解できているようだった。

その後は、指一本での腕立て伏せができる回数を計ったあと。

体力が減らなくなる食事を食べ、効果時間いっぱい指立て伏せをしたり。

力が強化される食事を食べたあと、仲間を数名背中に乗せての指立て伏せなどを行っていた。

「マスター、なにやってんのこれ?」

「このバフを使った筋トレの特訓に、すごい効果があるのかないのかをまず検証しようとしてるんじゃないかな?

これでできる回数が大きく伸びてたら、効果抜群って事は簡単に証明できそうだし」

実際こんな訓練で、騎士たちの筋力が鍛えられるのかどうかは俺にも全くわからない。

というより、バフ飯をこんな使い方をするという発想自体が想定外なのだ。

俺は元々、いずれくる下層の攻略に役立つアイテムを作れる場所として、ここを作ったのだから。

それにしても、バフ食事の使い方や、先程の時間を計っての立ち会い、筋トレ効果の検証方法など。

初めて行う特訓法にしては手探り感がない、その方法論が事前にきっちり確立されすぎている。

おそらくこれは、いつものあの娘の差し金だろう。

顔も知らない娘だが。

ダンジョンには入ってはこないようだが、アウフという娘は間違いなくダンジョン攻略のトッププレイヤーの一人だ。

自分自身ではなく、他人に攻略情報を与えることでゲームクリアを目指しているタイプのプレイヤー。

大学時代に、RPGでのRTAのトップランカーで、初期レベルクリアや、最小戦闘回数クリアなどの狂った縛りプレイをずっとやっている友人がいたが。

どうにも、あいつの考え方に近しいものをアウフという娘からは感じる。

単純な攻略方法を模索しているというよりは、ダンジョンの仕様の穴を探してくるような視点とでも言うのだろうか。

その後も、第1部隊の面々は、バフなしでは不可能な強度のトレーニングを次々と行い続けていた。

そして数日ほど経った頃だろうか。

はっきりくっきりと、このバフ特訓には非常に強力なトレーニング効果がある事が立証された。

「………私、ここに住みたい」

トウジ隊長は、風光明媚な美しいリゾート地に泊まったお嬢様のような面持ちで、そうつぶやいた。