軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

温泉調理の効果

「さて、そろそろご飯を作りましょうか、何にしましょうかね~」

アウフお嬢様がリストにしてくれたレシピを引っ張り出して、持ってきた食材からどの料理を作るかを確認します。

もちろん騎士団員が考えたメニューレシピも数多くあります。

なるべく調理の幅は広いほうがいいとお嬢様は言っておりましたので。

まともな料理ができない娘も好きに作らせたほうがいいとの事です。

私はまずトウモロコシやかぼちゃや芋をシンプルに蒸したものを作りましょう。

紐をつけたカゴに根菜類を乗せて高温の蒸気漂う穴に吊るします、そして盾で蓋をします、あとは待つだけで完成するはずです。

味付けは何もなしと、飯困らずダンジョン産のコショウの2つを試してみましょう。

できれば酒を使って蒸したいところですけれど、あの酒のほとんどはマーポンウエア軍の所有物です。

今はまだ残念ですが実験はできません、……実験に使えるほどこちらにあのお酒を回してくれるのでしょうか?

「……みなさん、ここでしっかりした成果を出せたら、お酒も調理用に回してもらえる可能性がありますので、全力で効果を見極める努力をしてください」

そういうとみんな、なるほど! よし、絶対些細な変化も見逃さない! 頑張るぞ! とやる気になってくれました。

まあ、お酒をある程度調理用に回してくれたところで、ダンジョン探索の任務中に酒なんて御法度もいいところですから、直接飲むことは叶わないでしょうが。

だいたいの騎士団員は、煮込むだけ、蒸すだけみたいなシンプルな料理を試していますが。

高温の壁の穴を使って、いろんな具材を盛り込んで本格的なかまど料理を作っている料理好きの騎士もいます。

凝った料理でいい効果が出た場合、再現するのが難しそうなので避けたほうがいい気もするのですが。

凝れば凝るほど効果が上がるという可能性もあるのでなんとも言えません。

最初は各々好き勝手にやってみるしかないでしょう。

料理を作っている間に、ニコが温泉の熱湯でお茶を入れて飲んでいます。

リーロも興味深そうにそれを見ています。

「あ、いいなそれ、何のお茶?」

「ばあちゃんが、飯困らずで取れた柑橘系の果物の皮を乾燥させて作ったお茶よ。

炒った麦もあるわよ、麦茶の方飲む? それともリーロも柑橘皮のお茶飲む?」

「飲む飲む、その柑橘茶のほう飲んだことないからそっち頂戴」

そんな具合に、自由な発想で色々なものを作って飲んでいます。

自由に調理させたのは幅が広くて正解だったようです。

「何か効果は感じますか? ニコ」

「……いや? わかんないです副隊長」

「ですよね、まあお腹の調子がよくなる、とかならわかりようもないですから……リーロ?」

なんか柑橘茶をかぷかぷ飲んでたリーロが突然すごい顔になってます。

なんだコレ?? といった感じの困惑の顔です。

「んだよリーロ、そんな変な味だったか? この茶」

「あの……ヴィヒタ副隊長、ニコ、あそこ……向こうの方でバントゥ隊長が壁に貼り付けているレシピ、あれ読めます?」

ここから20メートルほど離れた場所で、隊長がパイみたいなものを作っています。

たしかに、壁にはレシピを読みやすいように貼り付けているようですが……あんなものをここから読めるはずがありません。

「読めませんよあんな小さい文字」

「かぼちゃのパイみたいだよ、なんか色々材料も凝っててさ、バントゥ隊長って案外料理好きだよね」

ニコはあの離れたレシピが読めるみたいです、さすが騎士団で一番目の良い娘です。

「あの……ヴィヒタ副隊長もこの柑橘茶飲んでみてください……読めるようになると思います」

「「は?」」

ニコと私は同時に素っ頓狂な声を上げる。

「では……私もこのお茶をいただきます」

みかんの皮で作られたお茶を私も飲みます、飲んでいくうちにだんだん遠くの視界がくっきりしてきました。

「…………読めますね」

離れたところに貼られた、隊長のかぼちゃパイのレシピが私にも読めるようになりました。

ニコは元からこのくらい目がいいので、お茶の効果に気がつけなかったということですか。

「調理で効果が出ることははっきりしましたね、副隊長」

「ですねえ……効果がありすぎて少し気持ち悪いですが」

そろそろ蒸した作物の方も食べ頃になった頃でしょうか、取り出して食べてみましょう。

私は蒸しあがったトウモロコシを取り出し、食べてみます。

美味しいです。

「ふーむ、でも効果の方はなんでしょうか、そもそも効果が出ているのかすら……ん?」

なんだか周辺の様子がおかしいです、周りの動きがやたらと鈍くノロいです。

「ど~う~で~す~か~ぁ? ふ~く~た~い~ちょ~う~~効~果~は~感~じ~ま~す~か~ぁ?」

「 ・・・・・(イヤナンデスカ) ・・・(リーロ) ・・・・・・・・・(ソノオソイシャベリハ) 」

「…は~? な~ん~で~す~っ~て~~? 副~隊~長~?」

なんですかこれは? 周りがみんな遅くなって、いや、違います、これは……もしかすると、私が速くなっているんですか?

私は食事を皿に置き、少し全速力で人のいない方向に走ります、そして走って帰ってきます。

私としては普通に走って帰ってきただけです。

「 ・・・・・(ドウデシタカ?) 」

みんなが気味の悪いものを見るような目でこちらを見てきます。

おそらく通常の倍近い、気味の悪い速度で走って帰ってきたように見えたのでしょう。

それを見たみんなが食事に口をつけるのを止めます。

「え? なにあれ? 食事の効果なの?」

「たぶん……」

「なんかシャカシャカとゴキブリみたいな動きで走ってたわ……」

「というか喋り方も高速になってるし」

「ヤダ怖い、私はあんなふうになりたくない、気持ち悪い」

私にはすごくゆっくりで聞き取りにくいですが、とてもひどいことを言われています。

周りに私はどんな風に見えているのでしょう、なんだかイマイチ想像がつきません。

あれ? ……というか、私ずっとこのままなんですか?

え?

嘘でしょ?

嫌です! 嫌ですよこんなの!? 助けてください!!

♨♨♨♨♨

「マスタ~なにあれぇ?」

「速度が倍速になったみたいだねぇ……」

正直、温泉料理によってどんな効果が出るのかは、俺にもよくわかっていないから、他人事のように言うしかない。

「まあ想定していた範囲内だよ、時間が経てば戻るはずだ、戻るようにしておいてよかった……」

効果に関しては、調理次第でランダムとはしておいたものの、その効果は一時的な時間制限ありのバフと設定した。

永続効果だと、さっきの速度アップのように、日常生活に支障が出るようなバフが出た場合困るだろうから、一時的な効果にしておいたのだ。

これならどのようなめちゃくちゃな効果が出たところでたいした問題はないはずだ。

一時的なバフのほうが効果も高いし、要は強敵が出てきたときにだけ効果があればいい。

なんか倍速状態に絶望して、副隊長さんが泣き出してしまったけど、大丈夫だよ、そのうち効果は消えるから……どのくらいかは知らないけど。

俺は、現世の動画とか、ゲームで見慣れてるからそういう効果か、で済むけど、この世界の人にとって2倍速の動作は不気味すぎるのだろう。

「うへへへ~、飯困らずの方がすっごい人で溢れかえってる、温泉ダンジョンより人が入ってる~、お酒って凄い。

……なんであんなのがこんなに人気なのかしら?

ねえマスター、またお酒を各種出してくれない? これはなんとかして覚えないと……」

大人気だと知ったとたん、まずい、もういらないって言ったものを研究かぁ、ペタちゃんは現金だなぁ……。

とはいえ俺も、自主的に酒をほとんど飲んでこなかったから、接待とか忘年会の酒の席で飲んだ酒以外は出せないんだけどな。

出せるのはビール、日本酒、梅酒、甘酒、ワイン、ウイスキー、チューハイ数種類くらいかな。

ウオッカだのテキーラだのジンだのといった、名前しか知らない飲んだことはないものは出せない。

「えーと、ビールは揚げ物と一緒に食べると美味しくて、日本酒は魚介類、ワインはイタリア料理系と合うんじゃないかな……たぶん」

出せる酒を出しつつ、乏しい知識でとりあえず良さが伝わるように努力はしてみよう。

じゃあ今日はサ◯ゼリヤで出てきそうな料理とワインを出して食べてみようか。

各種パスタやムール貝のガーリック焼きを食べながら、ペタちゃんと一緒にワインを試しているうちに。

倍速効果が消えて喜んでる副隊長さんの姿がみえた。

「うーん、だいたい効果時間は、5分ってところか? いや、食った量で変動するかもしれないしな、わかんね」

ま、そのへんの検証と出てきた効果の運用法は全部、第2部隊とアウフちゃんがやってくれるだろ。

ここで料理をしろって指示を出したのも、副隊長さんが言ってたけど、やっぱりアウフって娘らしいからな。

しばらくは任せておこう。

俺はここで、ぼーっとその結果を眺めて、へえ、そんな使い方ができるんだ、と、楽しませてもらうことにするよ。