軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2つの発見

普通なら9階層のような広々空間でも、目印に高い旗でも立てていけば、探索は十分可能のはずなのだが。

ダンジョンは、外から入って来た物質がダンジョン内部に数日放置されていると、勝手に飲み込んで消し去りポイントに変換するという性質があるため、その手の目印を残していくという方法が使えない。

そんなクソゲーの9階層の探索なんてやってられねえ! もう8階層までで済ませてしまえ!

という理性的な判断を、探索者のみなさんに下された場合どうするか。

そう……。

10階層への階段をすぐわかる位置に作って、9階層を丸ごとスルーしてもらえばいいんだね。

簡単だね。

10階層はマッピング可能な、一般的なダンジョン形式だ。

また従来通りに騎士団員を送りつけての探索が再開されることだろう。

「ふーん、女王様ずいぶん理性的だったなぁ。

地下にいい湯ができるたび、バカみたいな大軍引き連れて入りに来るから、9階層に1万の兵を送り込み何としてでも温泉を発見せよ!

みたいな大馬鹿な判断を下してくる可能性もあるかもしれないと思ってたけど、さすがにそんなことはなかったらしい」

「あはぁ~あは~10階~……。もう10階……やったよ~やった~。

私もこれで、二桁階層の大型ダンジョンの仲間入りよ~、うふふふふ……うへへへへ」

ペタちゃんは、ダンジョンが大きくなるたびに顔をふにゃふにゃにして、幸せそうにとろけている。

実のところペタちゃんと魂を共有している俺も、ある程度はその気持ちがわかるのだ。

巨大化欲求という人間の頃にはあるはずのなかった欲求。

とことんまで迷宮を巨大化し続けなければならない、という使命感が、俺の心の中にも存在している。

……まあ、街を巨大化できるタイプのゲームをプレイしたら、いけるところまでとことんやってやろうじゃん! って欲求は人間だった当時からあった気もするが。

とにかく、今は俺もダンジョンをデカくするのを止めたいとは思わなくなってきている、そのためにはどんどんお客様には来ていただかないとね。

誰でも見つかる位置にいきなり出来た10階層への階段。

これの発見者に対し、ユーザ女王陛下は賞金をちゃんとシーフちゃんに支払ったのか?

もちろん、ちゃんと支払われていた。

借金苦でどうしようもなくなっていた女シーフちゃんは、賞金を受け取ったあと、すぐに借金を返済し。

即、城下町一等地の邸宅を買い。

よりを戻そうと言って、ノコノコ帰ってきた、借金を押し付けて逃げていたモト彼をボコボコに殴り飛ばし。

ご満悦の気分で、優雅に過ごすための家具と服を買い集め。

一夜にしてプチ富豪の仲間入りを果たしていた。

ユーザ女王いわく。

「ちゃんと払わんと、あのクッソ広い平原の湯を探すやつが誰もいなくなるじゃろ……?」

とのことらしい。

ごもっともな理由である。

夢を掴んだ一人が現れたその翌日には。

温泉も意外と近いところにぽつんとあったりするかも!

そんな甘い期待を求め。

閑古鳥が鳴いていた9階層に探索志願者が、また大量に殺到しはじめた。

正規の女騎士軍も、10階層の探索のために準備を整え始めた。

9階層があのような状態だったのだ、10階層ともなるとかなりの難易度になるはずである。

ダンジョンが贄を求めて急速に牙を剥いてきたと考えることもできる、準備はいくらしてもし過ぎということはない。

そして、超高難易度ダンジョンに挑むような装備と準備で10階層を探索開始したところ。

温泉ダンジョンの10階層は、至極一般的な10階層ダンジョンと同じくらいの難易度であり。

500人もの人員が動員されていたため、10階層の捜索は2日足らずで完全に終了した。

思い切り気負って過剰な準備を整え。

いざ参らん! と挑んだ女騎士達は正直拍子抜けした。

一体9階層の異常さはなんだったというのだ!!!??

「……で? ここの温泉の効果は?」

「わかりません……。5階層と同じで効能不明……ですね」

「またか……。こういうのが一番困るな」

現状5階層の湯の効果は不明である。

入っても、自分の身体に何が起こっているのか全くわからない。

では、身体に何が起こっているのか全くわからないから不人気の湯なのか? と、言われると違う。

1階、2階、6階の、肌艶があきらかに良くなる湯が、一番人気の湯なのは間違いないが。

次いで、5階の効能不明の湯は人気があるのだ。

「きっと、老化をゆっくりにする効果があるんだわ」

「ここの温泉で得た効果を~長く保つ効果があるのよ~きっと」

など、各々が心に思い描く素敵な効果効能を想像して入っている。

シミ消えや、傷消えのように、一度入ればしばらくの間は用事のない湯と違い。

何が起こっているのかは全くわからないが、なにかいいことが起こっているはずである、といった想像の余地がある期待の要素が、5階の湯の熱烈なリピーターを生んでいるのである。

仮に、本当に何も起こっていなくとも5階の湯は入り続けられることだろう。

信じる者は救われるの精神である。

10階層の湯に浸かりながら女騎士たちが雑談する。

「はー……。でも効能はわかんないけど、やっぱり気持ちいい……いいことありますように」

「あーあ……。もうやだやだ、ムダ毛ボーボー」

「ここまで来るのに2日……ここの探索も2日したからね~」

「ふっふっふ~、ちゃんと私はキャンプ中にしっかり処理してるわよ」

「なんでそこまでしてんのよ……? こんなダンジョンで誰に見せるわけでもあるまいし」

「帰る頃にはまた中途半端に復活よ、帰ってからメイドに脱毛させればいいのよ、こんなの」

「ふう……。これ陛下へご報告するの嫌だなぁ……。温泉は見つかりました、でも効能はよくわかりませんでした……。 ってさぁ」

「でもなぁ……。こういう湯も見逃せないからな」

「そうよね……。肌老化速度が半減~なんて効果だったなら、絶対入っておかないと……だしね」

「9階層にさ、また冒険者がいっぱい入ってきたけど、あそこの温泉って見つかると思う?」

「無理でしょ……。あれはめちゃくちゃよ、超幸運以外に見つける方法はないと思うわ」

そして大量の冒険者が9階層の捜索を開始し始めてから。

たった4日後。

温泉が発見されたという報が届くこととなった。

その発見者はわずか6名の探索チーム。

計画立案者の指導の下、調査を行った結果、9階層到着から、わずか数時間で今回の発見に至ったのだという。

計画立案者の名前は。

アウフ・ナウサ・オトロウリュ。

セパンス王国、ナウサ公爵の三女。

1階層の湯で、肌が治るまで自室に引きこもり、ダンジョンの勉強を続けていたあのご令嬢であった。