軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

97.平常運転

ナナとの話し合いが終わった。

丁寧にお礼を述べたナナが家を出て、宿へと行く。

送っていこうかと申し出たが、夜目は利くしそれには及ばないと固辞された。

ふぅ、とりあえずはこれで良かった……のかな?

ナナの一時滞在は決まったし。

「……帰って行かれました」

「そうだな……。ナナの滞在費用はホールドから貰ったこの小切手をあてがうか」

「それは良いお考えですね。それにしてもエルト様の兄上のご友人、ですか。一筋縄では行かなそうですね」

「多分な。だが向こうは俺に敬意を表していたし、いきなり約束を破ったりはしないだろう。どこまで繋ぎ止められるかは今後次第だな」

そこで俺はステラが手紙に目線をやっているのに気が付いた。

……やはりステラとしては気になるか。

無理もない。

家族について村の誰かに話したことはほとんどない。必要最低限しか話題に出さなかった。

当然だが、俺から家族へ手紙を出したりもしていない。

家族から俺への手紙もこれが初めてだ。

他の人間は貴族の秘密主義だと思うかもしれないが、さすがに一つ屋根の下にいるステラは不思議に思うだろう。

連絡を取り合っていないのか――と。

そう、取り合っていないのだ。

俺はほんの少し迷ったが、やはりステラには説明すべきだろう。

全てではないにしても、ある程度。

ステラに不信感は抱いてほしくはない。

「ステラ、少しだけ聞いてくれるか」

「は、はい」

座り直したステラに、俺はナーガシュ家の現状と兄について話をした。

家と家族について……俺が自分でここまで話したのは初めてだ。

俺の家での扱いとか、この村に来ることになった経緯だとかは省略したが。

ステラは全てにおいて興味深そうに聞いてくれた。

ブランクのある彼女にとって、どこまで納得できる話かはわからないが……。

「エルト様の今のお話だと……ナーガシュ家は王国五大貴族の一角。抱える人口は数百万人。ちょっとした国規模ですね……。私が知っているエルフの国々よりも単独で大きいのですか」

「エルフは数が少ないと言うからな。まぁ、それでも規模としては大きい」

「そして年の離れた兄上が三人……」

「俺とは十歳くらい離れている。さらにその三人は全員結婚している。要は貴族としてしっかりやっているということだ」

「……なるほど」

「しかも俺達四兄弟はそれぞれ母親が違う。まぁ、それなりに複雑だな」

「そうでしょうね……」

「一人年齢が低い俺は、どのみち家督は望めない。望む気もない。この村を盛り上げて楽しくやれれば十分だ。それだけ理解していてほしい」

「今のこの生活が一番、ということでしょうか?」

「もちろんそうだ」

俺は頷いた。

実際、この村以外に大切な物はない。

それだけははっきりしている。

「……私もそうです。この村が一番です」

テーブルの上に乗せていた俺の手。

それをステラがぎゅっと握ってきた。

……ステラの体温を感じる。

「しかし、別に何があるというわけでもないが……。知ってほしいだけだ」

「でも、大切なことです」

そこでステラは微笑んだ。

晴れやかで、俺にはもったいないくらいの美しい笑顔。

「テーブルの上を片付けますので、お茶にしませんか? ナールから買ったブレンド茶が残っていますし」

「俺も手伝うよ。そうだな、飲み切らないと」

俺とステラは同時に立ち上がった。

リビングではマルコシアスとディア、ウッドが遊んでいる。

俺にとってはこれが大切。

それを見誤ることは、決してないだろう。

その頃。

大樹の樹で作られた宿に、ナナは向かっていた。

一人歩きながら、ナナは村の様子を観察していた。第一印象はとても清潔で整えられていること。

決して無秩序にここへ集まっているわけではない。ちゃんとした秩序ある共同体というのがよくわかる。

あとはやはり大樹の家の数か……。

まさに驚異的と言っていい。

ナナも色々と見てきたが、これが数か月前まで野原だったとはとても信じられない。

だが最大の驚きは別にあるとナナは思った。

それは、さきほどの会食。

地下通路の調査は本当に乗り気ではなかった。ホールドの件がなければ、もっと後に来ていただろう。

だがエルトはそれを察すると、すぐに別の方向から話題を切り出してきた。

……トマト。

もちろん断ることも出来たが、非常に興味が湧いた。エルトという個人についてだ。

「あのホールドの弟にしては、出来が良すぎるね……。あれで本当に十五歳かな」

呟きながら、さきほどの会話を思い返す。

誰にも相談せず、即座に新しい提案をしてくる創造力と弾力性。

それでいて破天荒というわけでもない。

ナナよりも年下のはずなのに、むしろずっと年上と話していた気さえする。

ホールドは自他共に認める適当な人間だ。

才能と実力はある。努力を怠ける人間ではない。

だが三男からくる甘えか、ホールドは責任ある立場を避け続けた。

貴族学院でも生徒会に推されながら断っていた。そのせいで、ナナがやるはめになったのだが……。

結局成人してホールドが落ち着いたのは、芸術サロンのオーナーという立ち位置。

金持ちの道楽者とは気が合うのか、色々と融通して資金作りをしているらしい。

「……らしいと言えばらしいけど」

とはいえナナもホールドの世話になった。

要領の良いホールドのおかげで、苦手な日中の授業をクリアできたのだから。

もしホールドがいなければ、あと一年は通わなくてはならなかっただろう。

もっともホールドはホールドで、本当の所はナナの友人の女性とお近づきになりたいという動機があったのだが。

しかしそれについては、結婚まで行き着いたので良しとしよう。

まぁ、しかし……考えれば考えるほど、エルトとホールドは似ていない。

エルトの方がずっとしっかり、領主の責任を果たしている。

てくてく歩いていくと、宿にはあっという間に到着した。

「おや……?」

宿の受付に見覚えというか――忘れられない人物がいた。

コカトリス帽子を被ったレイアである。

ザンザスの冒険者ギルドのマスター。

とびっきり有能だが、変人だともっぱらの噂である。

さっきの第二広場の感じだと、変人なのは確からしいとナナは思ってしまっているのだが。

「お待ちしてました、ナナ様」

「ナナでいいよ。僕の方が年下だし」

「……わかりました、ナナ」

「それで待ち構えて何の用かな?」

レイアはわずかに緊張している。

「折り入ってお話とご相談がありまして」

「……ふぅん」

ナナは小首を傾げる。

このタイミングでの話。普通に考えれば冒険者ギルドからの密命か。

あるいはエルトに関しての何らかの話か。

薄暗い事は嫌だなぁ、と率直にナナは思ったが――無視もできない。

「とりあえず、これを見てください」

「……うん?」

レイアが帽子から垂れ下がった紐を捻ると、コカトリス帽子の両目が光った。

ぺかー!

かなりまぶしい。

「ちょっ、まぶしいんだけど!?」

ナナが突然の事に抗議すると、両目の光がすっと消えた。

「……すみません、見てもらうのが一番かと思って。コカトリス帽子の目が光る機能を取り付けたんですが」

「どうしてそんな機能を付けたの」

「地下通路の調査で役立つかな、と」

「コカトリス帽子の目を、なんで光らそうと思ったの?」

「夜に目が光るコカトリスの亜種がいるそうで、その再現ですが……? 先月の月刊ぴよに書いてありました」

「…………」

ヤバい。

ナナは直感した。

……自分よりも色々と深みにいる気がする。

「それで光る機能は取り付けたんですが、どうしてもすぐ光が消えてしまうんです。解決法がいまいち見えなくて」

「……それで聞きに来たのかい?」

「はい」

「光りはするんだから、光の出力に配線が耐えられないんだろう」

「やはりそうですか……。しかしこれ以上の強い配線は……」

「配線を複数並列に繋げるという手もある。簡単じゃないけど。時間はあるかい?」

「もちろんです!」

「……その小さな帽子にあの光量は驚いた。改良できれば、確かに役には立ちそうだ」

その言葉にレイアは素直に喜んだ。

「そうでしょう! ナナの着ぐるみにも付けますか?」

ふうと軽く息を吐いて、ナナは一言。

「……前向きに考えておくよ」

とだけ答えたのだった。