軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

93.お休みの日そのに

同時刻――大樹の塔の前では土風呂が大盛況であった。

今日は日差しが強く、野外でもそれほど寒くないからだ。

ドリアード達もご機嫌に土に埋まっている中、アナリアも女性用スペースで土風呂を満喫していた。

「はー、いいですねぇ……。体の奥に効いてくるような……」

「……いいもぐねぇ……」

隣ではイスカミナもうつ伏せで土風呂に入っている。すっかり順応していた。

「それでイスカミナ。土風呂を改良するとか言っていましたが、どうです? もっと良くなっちゃうんですか……」

「そうもぐねぇ……。今の問題は野外だから、快適さが天候に左右されることもぐ」

土風呂のスペースも増設されたが、第一はドリアードの利用にある。

そのドリアードは晴れでも雨でも関係ない。

構わず土風呂に入る。

一応、雨避けの天井付き土風呂もあるにはある。しかし柱を立てて、天井を乗せただけの代物――横殴りの雨には無力だ。

さらにドリアード達は天井より日光優先のため、雨避けの天井付き土風呂はそれほど増やしていないのだ。

「じょうろで水はまだしも、雨ざらしは素人には難易度が高すぎますからね」

「天井というか、車輪付きの囲いを作ればいいもぐ……。そうすれば必要に応じて、設置と移動が出来そうもぐ……」

「はー、なるほど……」

元々、土風呂はドリアードのパワーを注入するという目的がある。

定期的に掘り返しては植物の肥料にしているのだが、全て屋内にすると土を移動させる手間が増える。

その辺りは植物の栽培にも関係するので難しいところであった。

「とりあえず移動式の天井はいいかもですね」

「夜に図面を書いて、休み明けに提案するもぐ」

「手伝いますよ、もちろん……」

二人がのほほんとしている所に、テテトカがぽてぽてと歩いてきた。

今はじょうろではなく、草だんごが乗ったお盆を持っている。

草だんごの売り歩きである。

「はーい、草だんごはいかがですかー? ドリアードの作りたて草だんご、おいしいですよー」

「食べますー」

「わたしもひとつ、頂くもぐ」

「はいはいー、いつもありがとうございますー」

テテトカは二人のすぐそばで足を止める。

そして草だんごを手に取ると、二人に食べさせた。

もちもち……。

ほどよい弾力性。

それとほのかな甘さが口に広がる。

「ああ、おいしい……」

「ドリアードスタイル、いいもぐねぇ……」

「どういたしましてー! このあと、トロピカルジュースも持ってきますからねー」

ぽてぽてとテテトカは立ち去っていく。

他にもドリアードは歩き回りながら草だんごを売っているが……その様子を見てイスカミナは少し不思議に思った。

「……そう言えばドリアードは休まないもぐ?」

「ああ、それはですね――」

アナリアは説明をした。

ドリアードは休日という概念があまりない。

なぜなら普段も疲れたらすぐ休むし、お腹が空いたらその場で食べるからだ。

現代的な、時間を区切って働く考えに乏しい。その分、仲間内で適度に仕事を回すやり方に長けているのだが……。

そのため、エルトはドリアードの自由にさせている。ドリアードもそれで大いに満足していた。

「というわけなんです。実際にはローテーションで休んでいます」

「なるほどもぐね……。フリーダムもぐ」

「その方が合っているということなんでしょうね。それにしてもトロピカルジュースですか……。うう、甘くておいしいんですよね」

「休みだし、飲んじゃうもぐ」

アナリアはすぐには答えず、少ししてから口を開いた。

「……困ったことがひとつ」

「なにもぐ?」

アナリアが声をひそめて言った。

「ちょっと体重が危ないかも……です」

大樹の塔の裏手――最近作られた第二広場。

そこは周囲を簡素な網で囲み、芝生が敷き詰められていた。

マルコシアスとディア、コカトリス姉妹が第二広場に姿を現すと、すでに何人もの人が汗をかいている。

ちなみにマルコシアスはエルトお手製の木製ヘルメットと、上から羽織るタイプの軽装鎧を身に付けていた。

ディアとコカトリス姉妹もエルトお手製の木製ヘルメットを被っている。

守りは完璧である。

「おおー、もう皆やっているな!」

「ぴよ! ねっきがあるぴよ!」

「ぴよっ!」(たのしそう!)

「ぴよぴよ!」(私達でもできるかな!)

第二広場では、より本格的な野球っぽい何かが行われていた。

もちろん、それは野球ではない。

だが木の棒をフルスイングして、紐付きボールに当てる。

あるいは手袋をしてキャッチボールをする。

恐らく現代人が見れば草野球の練習だと思うだろう。

第一広場はニャフ族がいたり、他の高齢の薬師が散歩していたりする。

正直、ボールを真剣に投げたり打ったりするには危険である。

対してこの第二広場は、いわゆる運動ガチ勢のための場所である。網もあるし民家からは離れている。フルパワーでやれるのだ。

当然本格的なので、全員が木製ヘルメットや鎧で防備をしている。

「来ましたね……!」

「いいタイミングだな、ちょうど一区切りついた所だ」

二人を目にして走り寄ってきたのは、これまたレイアとアラサー冒険者であった。

二人にお辞儀するマルコシアスとディア。

それを見てコカトリス姉妹もお辞儀する。

「今日はよろしく頼む!」

「よろしくぴよ!」

「「ぴよ!」」(よろしくー!)

「こちらこそ歓迎するぜ。怪我のないように楽しもうや」

「私も指揮を取ってばかりで鈍りましたからね。一緒に体を動かしましょう」

アラサー冒険者は第二広場の取りまとめ役。

年齢が上なので押し付けられたとも言うが……最近、妙に打ったり投げたりが楽しい年頃である。

もちろん終わった後は、土風呂に入ってさっぱりするまでがお決まり。

レイアはどちらかというと、運動不足解消が目的。

しかしザンザスでもこの運動を取り入れられないかと思っていた。ステラ印でもあるし……。

ちなみにレイアはコカトリス帽子の上に木製ヘルメットを装着している。

どこから突っ込むべきかわからないが、もはや誰も突っ込まない。

「……ところでその、持てるで良かったんだよな。ボールとかバットとか……」

ディアやコカトリスを見て、ちょっとだけ心配そうにアラサー冒険者が言う。

「だいじょーぶぴよ、マジカルパワーでもてるぴよ!」

「ああ、心配はいらないぞ!」

マルコシアスが懐からいくつかボールを取り出すと、かがんでディアに手渡した。

ディアは羽の先に魔力を集めて、それをぽんぽんとお手玉のように回していく。

今のディアにとっては、この程度は造作もない。

ちなみにコカトリス姉妹も同じことができる。本質的にコカトリスはとても強い生き物なのだ……。

「す、すげぇ……! お見それしましたぜ」

「……物凄い魔力ですね。さすがはエルト様とステラ様のお子さん……!」

「ありがとうぴよ!」

そんなこんなで、皆で野球の練習を始めるのであった。

それから数時間。

傾く太陽が、大地を茜色に染める頃。

村の裏手側からコカトリスの着ぐるみが歩いてきていた。

Sランク冒険者のナナである。

「さて、と……そろそろ村につくはず」

少し前に馬車から別れて、目印の大木を目指して歩いていた。

方向はこれでいいはず――。

「ん? なんだろ、この網?」

ふと目の前に張り巡らされている網に、ナナは首を傾げる。獣避けだろうか。

さらに不思議なのは、皮の球みたいのがひとつ引っ掛かっていることだが……。

と、そこへ木製ヘルメットを被った不思議な【何か】が通り掛かる。小さくて、ぴよぴよ鳴いている。

それはなにかを探すように、地面を見ながら歩いていた。

ゆっくりと【それ】はこちらに近付いてくる。

「ぴよ。このへんにボールがとんだはずぴよ」

「えっ……?」

ナナは近付いてそれを初めて認識した。

歩いていたのは、小さなコカトリス。子どもだろう。

さらに常識的に喋るはずのない、コカトリスであった。

「コカトリスが喋ってる……?」

ナナが素直に驚きを口にする。

それもそのはず。ナナに渡された情報は村の概要と地下通路のことのみ。

ディアのことは一切、書いてなかったのだから。

ナナが声を上げた瞬間、ディアも上を向いて――着ぐるみのナナに気が付いた。

「もしかして、なかまぴよ? ……ボールみなかったぴよ?」

「皮の玉ならここにあるけど……」

思わず答えてしまうナナ。

この網に引っ掛かった玉を探していたのか……。

つんつん。

そしてナナは網に引っ掛かったボールを、とりあえず着ぐるみの羽先で突っついた。

ボールはそのまま網から外れて、コロコロとディアの足元に転がっていく。

それを見て、ディアが飛び上がって喜ぶ。

「ないすぴよ! ありがとぴよ!」

「……ど、どうも」

とりあえず、何がなんだかわからないが……そう答えておく。

敵意はなさそう。むしろ人懐っこい。

これがSランク冒険者ナナ。

第一村人ディアとの出会いであった。

領地情報

地名:ヒールベリーの村

特別施設:冒険者ギルド(仮)、大樹の塔(土風呂付き)

来訪者+1(コカトリス着ぐるみのナナ)

総人口:156

観光レベル:D(土風呂)

漁業レベル:D(レインボーフィッシュ飼育)

牧場レベル:D(コカトリス姉妹)

魔王レベル:F(悪魔を保護)