軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

89.やっぱりコカトリスですか!?

……物凄く聞き覚えのある単語だな。

ステラはどうですか、と言わんばかりの顔だ。

もちろん【のボール】という言葉は前世で聞いたことがある。

そう……【のボール】は確か正岡子規が用いたペンネームのひとつだ。

漢字はもちろん【野球】。ベースボールの訳言がまだなかった頃の話だったか。

ベースボールを野球と訳したのは 中馬(ちゅうま) という人だったと思う……。

そんなことが瞬く間に頭を駆け巡って――いや、そんなことは今考えることじゃない。

駄目だな。野球のことに触れると思考が引っ張られる……!

とにかく今はステラの案を読むことに集中しよう。

ぱらぱらっとメモをよみよみ……。

なになに……?

・ボールを投げる人と打つ人に分かれる

・打った方向と飛距離で得点を決める

・何回か投げて打ったら交代する

・打つ人や投げる人にボールを当てちゃダメ

……ふむ、やはり野球ではないな。

イベント用の余興ゲームといった所か。

とはいえ、基本的なルールはシンプルでそれでいて遊びがいがある。

どのみち野球は対戦相手が必要で、そこまで人数を集めるのも今は難しいかもだしな。

だが村の名物として考えれば、スポーツは決して悪いアイデアではない。むしろ現代の地球でも通用している。

まずはこういう所から風物詩を作っていかないとな……。

「ああ、いいんじゃないか?」

「本当ですか……!?」

「ただステラの基準でやるとハード過ぎるからな……。他の冒険者に意見を聞いたりして、ルールを整える必要はあるだろうが」

「そうですね……」

「でも着眼点はとても良い。村を盛り上げるのにいいアイデアだと思う」

俺は褒めて伸ばすタイプだからな。

それに現地のステラから出た振興策は、俺が考えるよりも良いかもだし。

そしてステラの瞳の中にはきらきらと燃える火がある。

これをさらに大きく、炎にしていく方がいいだろうな。

「ありがとうございます……!」

「必要な物が見えてきたら言ってくれ。場所と道具のお金は用意するから」

「そ、それは……エルト様が資金を出されるのですか? よいのですか?」

「ふむ、良ければ村全体でやっていけないかと思うんだけどな」

「……ぜひ!!」

ぐっとステラが身を乗り出す。

かなりのやる気だ。バットを作った時と同じくらいか。

……焦る必要はない。少しずつ、少しずつ広がって大きくなればいい。

野球も何百年もかけて、一大スポーツになったのだから。

「頑張ろうな」

「はい……!!」

それから数日後、いよいよ地下通路の調査で会合が設けられた。

出席メンバーは俺、レイア、ステラ、イスカミナと冒険者の皆。

後はステラに抱えられたディアだ。

大樹の塔に集まり、円卓を囲っている。

ちなみにスペシャルアドバイザーとしてコカトリス姉妹がいる。何せ地下通路に一番詳しいのは彼女達だ。

ディアを連れてきたのは彼女の翻訳が必要だからだが……。

「ぴよ」

「ぴぴよ」

うん……ぴよぴよしているな。

さらにコカトリス帽子を被っているレイアが、紙を配りながら言う。

「この数日間、まずは予備調査としてイスカミナに地下通路の安全性を調べてもらいました。崩落の危険はないか、ガス等の有害物質はないか、魔力反応はどうか……。まずはその結果から発表します」

「もぐ、さしあたりドリアードの旧い家周辺の地下通路を中心に調査しましたもぐ。結果から言えば、あの周辺に危険はないと思いますもぐ。通路は強固で、有害物質も過剰な魔力もありませんでしたもぐ」

「良かった、朗報だぜ」

「これで調査ができる……!」

という声が冒険者達から上がる。

俺は事前に説明を受けていたが……とりあえず調査できそうな遺跡でよかったな。

この予備調査で埋めなくちゃいけない可能性もあったわけだし。

「歴史的にはやはり千年近く前に作られたらしいもぐ。なのでザンザスのダンジョン、第三階層まで繋がっている可能性もあるもぐ」

冒険者達の空気が段々と熱を帯びてくる。

ここまではとてもいい話だ。

ステラもディアのお腹をさわさわしながら、興味深そうに聞いている。

「……しかし問題もありますもぐ。地下通路にトラップの存在を確認しましたもぐ」

「侵入者に対する防衛設備だと思います。つまり地下通路の調査は、慎重に行う必要があります」

そこで冒険者達のざわめきが大きくなる。

「トラップ、それくらいあるか……」

「でも魔物の巣窟ってわけじゃないなら、全然良くないか?」

「ああ、それに比べたら……。にしてもどんなトラップがあるんだ?」

レイアが続けて説明をしていく。

「それですが……防衛型ゴーレムです。範囲内に入ってきた相手を攻撃してきます」

「……わたしも攻撃されかけましたもぐ。トラップは生きていますもぐ」

そこでアラサー冒険者が首を傾げながら、イスカミナに問い掛ける。

疑問に思うよな。俺も思ったんだし。

「そりゃおかしいな。そこにいるコカトリス姉妹は地下通路を使っていたんだろ? トラップが作動していたら、攻撃されてたんじゃないか?」

「ええ、それが不思議だったのですが……。この予備調査で調べたのは泉とドリアードの旧い家の間の地下通路。そこにもトラップはありました」

レイアの言葉に、一斉に首を傾げる冒険者達。そこで俺が言葉を引き継ぐ。

「つまりトラップはコカトリスには反応しないんじゃないかと思ってな」

目でステラに合図を送る。

打ち合わせ通りだな。

ステラにディアとコカトリス姉妹の話を仲介してもらおう……。

以下、その様子。

「地下の道に石でできた何かは覚えています?」

「ぴよ」(あれかなー?)

「ぴよぴよ」(おねえちゃんがたまに突っついてたやつ?)

「ぴよぴよ……」(かたい、なんかいきものっぽいのだよね)

「あったみたいぴよ。いきものみたいな……ぴよ」

やはりちゃんと目にはしているか。

当然、そうだよな。普通に歩いていたら、道にあるみたいだし。

聞いた話だと防衛型ゴーレムは虎の頭部みたいな形をしているらしい。

それが通路の真ん中に固定砲台のように置かれている。

その口から雷の球が飛んでくるのだとか……。

第二層の雷の球に似ている、とレイアは報告してきたな。

とりあえず防衛型ゴーレムは動かないらしいが球は意外と早いため厄介とのことだ。

「何か、そこからバチバチしたのは飛んできましたか?」

「ぴよー?」(そんなのあったー?)

「ぴよよー?」(ないよねー?)

「ないみたいぴよね」

「わかりました、ありがとうございます……!」

これで決定的だな。

防衛型ゴーレムはコカトリスには反応しない。少なくともコカトリス姉妹には反応しないのだ。

……本当にザンザスの地下にはコカトリスの神がいるのか……?

あるいはよほどのコカトリス好きがダンジョンを作った可能性もあるが……。

まぁ、本当の所はわからないか。

「……ということだな。推定される防衛型ゴーレムの能力は紙を見てくれ」

「正直なことを言えば、かなり厄介ですね。他にもコカトリス以外を攻撃する仕組みがあるかもしれませんし」

そこでレイアは自身のコカトリス帽子を撫でる。いくぶんか残念そうに。

「残念ながら私のコカトリス帽子では攻撃されてしまうので……」

「というわけだ。調査はするが、慎重にならざるを得ない。とりあえずステラとコカトリス姉妹と厳選されたメンバーで少しずつ進めていく」

こうなると防衛型ゴーレムの専門家も欲しいところだな。

……まぁ、都合よくそんな人物はいないか。

だが雷の球ならステラで攻略経験はある。

ゆっくりなら調査は出来るのだ。

頑張ろう、少しずつ。

その日、この国のどこかの馬車で。

ガタゴトと揺られる馬車のなかは満員であった。

その中で、一人だけ異様な人物がいた。

コカトリスの着ぐるみ。

体躯からして子どもだろうか。

だが、馬車の同乗者達は特に気にしない。

実は珍しくないのだ。

特定の種族は時に必要に迫られて服装を変えないといけないのだから。

馬車の中にいる太鼓腹の商人が、その着ぐるみに声をかける。

「あなた、ヴァンパイア?」

「うん……そうだよ」

「やっぱりね。日を避けるのに着ぐるみはヴァンパイアと決まっているし。他でも色々と見てきたよ。なぜかコカトリスの着ぐるみしか見ないんだけど」

「……これしか選択肢がないから」

「ああ、確かどこかの変人が発明したんだっけ? 意外と快適らしいね……」

「そう、コカトリスマニアの変人が作ったの。僕達は楽になったけど」

ガタゴト、ガタゴト。

着ぐるみはしっかりと受け答えをしていた。

目の部分は薄暗い遮光ガラス。

体の各部に仕込まれた魔法具のおかげで温度や湿度も適切に保たれている。

日光や暑さに弱いヴァンパイアにとって、完全防備の着ぐるみは必須アイテムである。

たとえそれがコカトリスの着ぐるみであったとしても……。

「元は着ぐるみショーに使う奴だけど、僕達には必要」

自分は可愛いと思うし。

Sランク冒険者のナナは心の中で呟いた。