軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

86.やるべきこと

じょうろからぬるいお湯を浴びたアナリア。

……ほわほわと湯気が出ている。

「はーい、拭きますねー」

「お願いしますー」

テテトカが取り出した、これまた湯気が出ているタオルでアナリアの顔を拭く。

割りと丁寧な拭き方だな。

ぽむぽむ……。

拭き終わるとタオルを広げて、アナリアの顔に被せたままにする。

ちょっと湯気が出ているし、このタオルも温かいんだろうな。

それが終わると、テテトカは俺にお辞儀する。

「エルト様、それでは失礼しますー」

「ああ……。皆にお湯を掛けて回るのか?」

「はいー、これは結構好評なのでー」

テテトカはそのまま、ぽてぽてと次の人へと歩き出した。

俺は少し感心して呟く。

「なるほど……これなら保温性はあるな」

「そうですよね? 私が考えたんです!」

顔に置かれたタオルのせいで声がくぐもっているけど……。

悪くないアイデアだな。

見るとドリアード達が手分けして、土風呂に入っている人にぬるま湯を掛けて回っている。

前は掛けてたのはただの水だったと思うが、少し進化したらしい。

これから寒いものな……。身を切るほどではないとはいえ、野外で水はつらい。

日本よりかは大分マシな寒さだが、それでも厚着は必要だしな。

ドリアードはおそらく全然気にしないのだろうが。いままでも、あの森の中で土風呂していたんだろうしな……。

土風呂も村の収入源だ。お客が減って良いことはない。

屋根付きの土風呂はちょっとだけあるが、吹き抜けだしな……。寒さにはあまり関係ないだろうし。

季節の変化に対応して、快適度を損なわないようにしないとな。

この辺りも少し考えるか。

銭湯やスパみたいにすればいいのかな……?

いまいちその辺りの知識は怪しい。多少嗜んだことがあるだけで、作ったり経営したりは全くないからな。

だがうまくやれば観光的にも役に立ちそうだ。

もちろんテテトカ達の意見も聞きながらやらなければならないだろうが。

「この土風呂も近いうちに、寒くないようにしたいものだ。完全屋内とか」

「それはいいですね! 台風が来ても大丈夫そう!」

ふむ、台風が来たら土は吹っ飛ぶ気がするな……。

「……ああ、そうだな。いつでも入れるというのは重要だし。邪魔したな」

「いえいえー。こんな形で失礼します!」

それから俺はレイアに会いに行き、四役が揃ったことを伝えた。

まぁ、ナールとアナリアの仕事は大きく変わらない。

四役の部下はいくら増やしてもいいんだからな。単純な書類仕事は任せて、チェックをする体制でも構わないわけだ。

そうでもしないと、ザンザスの冒険者ギルドのような巨大組織はとても回らない。

……地方で小さい冒険者ギルドだと、四役だけで回している所も結構あるらしいが。

まぁ、魔物も素材もあまりなければ連絡員の駐在所なだけか……。

逆にレイアみたいにコカトリス帽子の開発とかやり始めると大変になるわけだ。

そしてこれで冒険者ギルドに必須の四役は確保できた。

あと必要なのは建物と細かい物品か。

物品はナール経由で揃えるとして、冒険者ギルドの建物も厳格な規格はないらしい。

最低、四役が入れればいいそうで――山小屋みたいな事務所もあるとのことだ。

ふむ、それもまた魔法で建てればいいか。

必要な書類はレイアが大特急で揃えるということだし、とりあえずはここまでか。

建物はすぐに作れる。ある程度物が揃ってきてから建てた方がいいだろうしな……。

あとレイアは地下通路の調査も進めると言っていたな。

手紙は出したから、ふさわしい人材が来るのを待つそうだ。長期的な話になるし、村を気に入ってくれると嬉しいのだが……。

エルトが去った後、レイアと忍者の人は慌ただしく書類の準備をしていた。

ヒールベリーの村に冒険者ギルドを作るための書類である。

その作業中、手を止めずに忍者の人が呟く。

「……それにしても即断即決でござったな。もう少し判断に時間がかかるものと思ったのでござるが」

「メリットは明白だ。聡明なエルト様ならすぐに決めてくれると思っていたよ」

レイアはさらさらと書き物をしながら答える。右手にはペン。左手には新作のコカトリスぬいぐるみ。

もみもみ。さらさら……。

両手を器用に動かしながら書類を進めていく。

「それにしてもレイアは良いのでござるか? 支部長は軽い地位ではござらん。国家を横断する法的根拠がござる」

冒険者ギルドは世界各国が加盟する世界連合直轄の機関である。

普通の人間がそれを意識することはほとんどないだろうが……。

それぞれの国の状況に左右されずにダンジョンと魔物を統制する。

これが冒険者の第一の使命である。そのために設立されたのだから、法的な後ろ楯は強力なものである。

「もちろん。冒険者ギルドの支部を新しく設立するのも、新しい支部長を任命するのも、私の役目だ」

「……グランドマスターでござるからな。それはそうでござろうが」

多くの冒険者ギルドの支部長は世襲であり、決められた地域の保安のみに力を注ぐ。

それは大貴族であっても変わらない。

しかし、いくつかの地域はそれでは困る。

ザンザスのダンジョンのように千年もの間、最深部がわからないダンジョンは極めて稀だ。

上層階で数百年に渡り死者が出ていないとはいえ、世界十大ダンジョンであることは変わらない。

未来永劫、監視と統制が必要なのだ。

そのため冒険者ギルドの本部は、このような要監視地域の支部長にさらなる権限を与えている。

これがグランドマスター。

レイアはこの地位を強調したりはしない。ザンザスの冒険者ギルドでもこれを知る者は多くないのだ。

レイアにとっては大層な名前よりもコカトリスの実態の方が大事だから。

だがここぞという時には、レイアは権利を使うことをためらわない。

グランドマスターは独自に新しい支部を設立し、その支部長を推薦する資格を持つ。

この決定は極めて強力で、一国の国王と言えど拒否権はない。

「エルト様はそれだけの可能性がある少年と言うことでござるか」

「ああ、その通りだ。私の父の悲願でもある」

「ダンジョンの最深部。伝説を除外すれば五百年は踏み入れた者はいないでござる」

「……そう、踏み入れた者はいない。見果てぬ夢だからな……」

そこまで言うと、レイアはぐーっと体を伸ばした。

「ふぅ、一休みするか。朝から飛ばしすぎると持たないからな」

「お茶を淹れてくるでござる。ここの茶葉は大変良いでござる」

「ああ、すまないな」

レイアはごそごそとお気に入りのコカトリスぬいぐるみを取り出す。

それは枕代わりに使っている、大きめのぬいぐるみだった。

ザンザスでの昼休みは、ここに顔を埋める。

それがレイアの習慣であった。

「とりあえずは目の前のことをひとつずつ」

冒険者ギルドの新設、地下通路。

それらも大切だが年中行事もやらなければならない。

冬の祭りと春の祭り。

ザンザスにも季節に応じた盛大な祭りがある。

それを盛り上げるのも、根付いた冒険者の大切な役割であった。

「コカトリスフェスの準備もしないとな……」

レイアはぬいぐるみに顔を埋めたまま、呟いた。

ザンザスのマスコットである、コカトリスの新商品も投入しないといけない。

まぁ、九割くらいは自身の楽しみでやっているのだが。

数日後、村に一人の来訪者がやってきた。

地下通路探索のプロとして招かれたのだ。

スコップ片手に、茶色の毛で覆われた体。大きさはニャフ族とあまり変わらない。二足歩行するもぐら、モール族。

「……もぐ。ここがヒールベリーの村ですかもぐ」

彼女は村の看板を見て、ふんふんと頷く。

「土風呂……わかってるもぐ……」

きらりとスコップを輝かせて、彼女は呟く。

「アナリアは元気もぐ……?」

領地情報

地名:ヒールベリーの村

特別施設:冒険者ギルド(仮)、大樹の塔(土風呂付き)

来訪者+1(モール族の調査人)

総人口:155

観光レベル:D(土風呂)

漁業レベル:D(レインボーフィッシュ飼育)

牧場レベル:D(コカトリス姉妹)

魔王レベル:F(悪魔を保護)