作品タイトル不明
794.カイと教官
その日の夜。カイはベッドでうなされていた。
「コカトリス、うーん……」
それは忘れもしない、騎士課程のある日のことである。
カイを始めとする騎士見習い全員が森に集合していた。
「これよりコカトリス訓練を開始する!」
大声で呼ばわったのは、カイ達の教官である大柄な狼の獣人だ。
剣が折れてなお、トロールを投げ飛ばし勝利したという剛の者である。
もちろん毎日のように騎士見習いを投げ飛ばす鬼教官としても名高い。
そんな鬼教官が、訓練でめったに見ないフルプレートアーマーを着込んでいた。
「コカトリスは、恐ろしい魔物ではない! 温厚、草食性だっ!」
鬼教官が兜の奥から騎士見習いをぐりんと睨みつける。
それだけで弱気な騎士見習いは卒倒しかけるほどだ。
カイ達の心音と緊張が高まる。
これほど殺気立った鬼教官はワイバーン討伐訓練以来、初めてであった。
「だが、それは弱い魔物であることを意味しない……! 諸君らにそれを示そうっ!」
鬼教官が森の開けた箇所を指差す。
そこには前日にセットされた野菜と果物がある。コカトリスを集めるためのご飯だ。
「ぴよよー!」(たっくさんのご飯だー!)
すでにコカトリスは集まり、もしゃもしゃと食べ始めていた。
「ぴよ……ぴよ!」(イチゴ、メロン、ブドウ……これはまさか!)
「ぴよよ~? ぴよ?」(毎年のアレ? もうそんな季節?)
「良いか! コカトリスがいかに強力な魔物か、その目に刻めー!」
鬼教官が雄叫びを上げながら、コカトリスの群れに突っこんでいく。
「うおおぉぉーーー!!」
「ぴよー!」(あ、ツルっとした人だー!)
「ぴよよー!」(待ってましたー!)
カイ達はその光景を驚きながら見守る。
身長二メートル、全身鎧の鬼教官はそれ自体が武器といっていい。
やわな壁や扉なら、そのままぶち破る破壊力がある。
騎士見習いは訓練でよく吹き飛ばされて骨身に沁みているのだ。
「ど、どうなるんです……?」
カイ達がお互いに顔を見合わせ――鬼教官はコカトリスにタックルした。
「ぴよー!」(どっせーい!)
「ぬぐぐぐーー!」
「あの教官が止められた!?」
だがふわもっこしたコカトリスによって、鬼教官は完全に受け止められていた。
「嘘でしょ……」
カイ達が呆然と呟く。そこから先の光景は、信じられないものであった。
「ぴよぴよぴよー!」(なでちゃえ、なでちゃえー!)
「ぴよよー!」(ツルツルきもちいー!)
「うおおおおーー!」
鬼教官の必死のタックルも、コカトリスにとってはお遊びである。
否、じゃれて遊んで欲しいと思われているのだ。
「「ぴよー!!」」
……数十分後、鬼教官と遊び疲れたコカトリスは木陰で寝ていた。
「教官ー!」
ぼろぼろになった鎧の中から、鬼教官がカイ達に呟く。
「わ、わかったか……。コカトリスと戦うなかれ。こ、これがこの授業の教えだ……」
「は、はい!」
「コカトリスと出会ったら、寝たふりをしろ。そうすれば……憂いなし」
ガクッ。鬼教官は気力・体力を使い果たして気絶した。
怪我はなかったもののそのまま医務室へと運ばれたのだ。翌日にはピンピンしていたが。
鬼教官のそんな姿は最初で最後であった。
そしてカイ達の心には刻まれたのだ……コカトリス恐るべし、と。