軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75.バットがささやくというのなら、それは確かに世界の真実

指揮所。

風は止んで、雲が多い。

もしかしたら一雨くるかもな。今日はそんな天気だ。

そして今日も俺はせっせと盾を作っていたんだが――狼煙で何か知らせがあったようだな。

忍者の人が渋い声を出す。

「むう、これは…………」

「……まずいことが何かあったのか?」

「ボス個体が確認できたでござる……。予想通りボス個体はフラワージェネラル。それは良かったのでござるが、しかしどうやら持っている特性は魔弾型でござる」

ああ……という失望の声が指揮所のどこからか上がる。

まぁ、無理もないか。

よりにもよって魔弾型とはな。生産型と同じくらい面倒な奴だ。

この特性はボス級の魔物がよく持っているものだが……元々の攻撃方法と噛み合うと厄介なことになる。

フラワージェネラルは射撃で攻撃してくる魔物だからな。それの特性として魔弾型だと、かなり強くなるのだ。

逆に耐久型とかならやりやすかったんだが、……仕方ない。

こればっかりは運だからな。

「ふむ、フラワージェネラルの魔弾型だと長射程と弾への魔法付与か」

「ええ……フラワージェネラルが持つのは珍しい特性ですが……。これだとおびき寄せるのは少し難しいかもしれません」

「単純に遠くから撃ってくるでござるからな。なかなか近付けないでござる」

「そういうことになるか……」

「敵本陣への攻撃は控えて、他の掃討に力を入れます。とりあえず予定まで削る必要はありますから……。あとは決戦の場所の準備を整えませんと」

最終的に敵本陣はコカトリス姉妹のいた泉へとおびき寄せる予定だ。

というか、防御壁を作りながら泉へと追い込んで沈める作戦なのだが……。

フラワーアーチャーは植物の魔物といえど、長時間水にいることはできない。確か五分くらい水に沈めると倒せたはずだな。

まぁ、感情のないフラワーアーチャーは無機質に追いかけてくるだけだ。

固く守りながら落とし穴や水へ追い込むのはかなり有効な手になる。

しかし長射程の魔弾型だと追い込むのも手間がかかるか……。

まぁ、レアな型に当たったので作戦を修正して時間をかけるのはやむを得ない。

別に討伐の一週間は死に物狂いで守らなきゃいけない納期じゃないからな。

うっ、守れない納期の厳守……少し頭痛が……。

「……そう言えば、ボス個体の確認はステラ班とアラサー冒険者だったな。そこは大丈夫だったのか?」

「すぐに退避したので怪我ひとつなかったようでござる。その辺の判断はさすがでござるな」

「ふむ……」

狼煙から情報を得るのも限度がある。

付与される魔法のこともあるしな。戻ったらステラに詳しく聞いてみるか……。

それにしても魔弾型だとさすがに打ち返せないよな。かなり遠くから撃ってくるし、魔法も付与されてる。

いくらなんでも打てる限界を超えた弾のはずだ、うん。

その日の夕方。

方針を転換し、削りに徹する。それはうまく行ったようだな。

他にイレギュラーはなかったらしい。

盾作りも七割終わった。明日の作業で終わりで、それから俺も参戦だな。

しかし森から戻ってきたステラは大分ぴりぴりしていた。

早足で歩き、顔が強張っている。かつて見たことないほど殺気立っていた。

「……怖いでござるな」

「ええ、なんででしょうね」

忍者の人もレイアも少しびびっている。

……いつもはクールだからこそ、空気さえも冷えているのがわかる。

冒険者も察してか、やや遠巻きだな。声をかけづらい雰囲気になっていた。

ステラは有名人だしな……。

でも俺にはなんとなくわかるが。

あれはイラついているのとは少し違う。プライドが刺激されたのだ。

俺も前世ではゲームの中だけど相当なプレイヤーだった。世界でもトップレベル。

だからこそ、他の人が気にならないことが気になる。

要は「こだわり」が出てくるわけだ。

特にステラは冒険者という仕事に対しては妥協しない。未踏エリアもクリアできるなら挑むタイプだしな。

それが今回だと……魔弾型から一旦、退避した。ステラの実力からしたら、不本意なのかもしれない。

多分、必要な判断だとは理解しても不本意は不本意なのだ。

だからそれが無意識に出ているんだな。

……まぁ、俺は声をかけるが。

「……どうかしたのか」

「いいえ……はい、なんでもありません」

「怖い顔をしているように見えるけどな。ボス個体は確認できて、フラワーアーチャーも倒せたし十分な戦果じゃないか」

「……でも」

「まぁ、一呼吸して落ち着け。ハーブティーでも飲むか」

そこでステラはふぅと息を吐き出した。

「……すみません。ちょっと悔しくて」

「長射程の魔弾型から退避したことか? 仕方ない、たまにはそういうこともあるさ」

「いえ、弾を打ち返せなくて……」

……ん?

あれ、敵から後退したのが嫌だったんじゃないのか?

「フラワージェネラルの魔弾型だとかなり遠くから撃ってくるし、魔法も付与されてるだろ。打ち返すのは無理なんじゃ――」

「いいえ……そんなことはないはずです」

ステラの瞳にめらめらと炎が燃えている――気がした。

あれれ?

どうしてそんなに打ち返そうとするんだ?

「……私、全力を出せたと言いましたよね。昨日、バットを振って」

「ああ、そう言っていたな」

「魔弾が放たれて――私は立ちすくみました。打ち返せませんでした。避けるので精一杯だったんです」

「それは普通じゃないか」

うんうんと周りの冒険者も頷く。

ゲームの中でもさすがにフラワージェネラルの魔弾は防ぐか避けるか。

挑んだ奴は知っているが、トッププレイヤーでも打ち返すなんて無理な芸当だ。

それほどフラワージェネラルの魔弾型の射撃は強い。

「――でも聞こえた気がしたんです」

「……何が?」

「バットから、声が……」

……。

ワッツ?

「『打て』……バットがそう伝えに来たような……」

「いやいやいや」

そんなわけはない。

そのバットは俺が魔法で作った、プロ仕様バットのパチモンだぞ?

塗装も中抜きもしてない。

なんとか素材と形をそれらしくしただけのバットだ。

声が聞こえるはずもないというか、聞こえちゃまずい得物だ。

そんな聖剣や魔剣じゃあるまいし……。

俺の作ったバットだよ……?

そう、俺が作った……。

いや……違うのか。

俺の作ったバット……。

俺が実際に持って、振るっていたバットだろう。

……植物魔法ではよく知らない物は作れない。

記憶して目で見たことのあるものしか再現できない。

ステラに渡したバットは――どこで使っていたか思い出せないが、よく知っているバットのはずだ。

前世、俺の前世の……。

バットの使命はなんだ?

打つことだ。それ以外ない。

もしバットに魂があるのなら、それは俺の記憶を通じて魔法で再現されるのか?

わからない。

あまりに途方もない話だ。

本来の役割を果たすため、バットが持ち手にささやくと思うのか?

わからない。

それほど、あらゆる弾を打ちたいと望むのか。

「……本当にそのバットが、そう言うと思うのか?」

「違うんですか?」

小首を傾げながら答えるステラ。

う……なんてこった。

そんな風に聞かれたら、ノーとは言えない。

それだとバットが泣くだろうな。

俺は半ば呆然と呟いた。

「フラワージェネラルの魔弾が打てなかったのが、悔しかったのか?」

「はい、とても」

「…………」

俺は思った。

昨日、俺はステラにバットを折ってもいいと言った。

そしてステラは挑もうとしている。

本当に声が聞こえたとか、真実はどうでもいいのだ。

ステラが打ちたいのなら……打たせるべきなのだ。

バットを作った者の使命として。

「……わかった。でも今のままじゃ打てない。フラワージェネラルの魔弾はこれまでとは段違いだ」

「はい……多分、そうですね……。今のままでは避けるだけです」

こういうとき、俺はなんというべきか知っている。

前世の知識でわかっている。

まさか自分で云うことになるとはな……。

「特訓だ……! 魔弾を破る!」

俺の言葉にステラが目を輝かせる。

「……はい!」

フラワーアーチャー討伐率

冒険者による撃破+4%

ステラ・ウッドによる撃破+7%

34%