軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

71.指揮所にて

打ち合わせが終わった帰り道。

太陽が木々の間に消えようとしていた。

そんな薄暗がりの中、家の上をびゅんびゅんと影が動いている。影は大樹の家にある枝や幹を掴み、高速で移動していた。

ふむ……レイアが言っていたな。

あれがこちらの偵察役か。

もう暗くなりつつあるので、狼煙は使えない。直接レイアに報告に行くんだろうな。

目をこらすと迷彩服に身を包んでいるようだ。

パルクールみたいだが、忍者という方が正確かもしれない。

枝を片手で掴みながら、体は斜めにして次の足場へ。

しかしよくあんな動きが出来るものだ。

ディアとマルコシアスも目をぱちくりさせていた。

「あのひとたち、すごいぴよね……」

「目にも止まらぬ速さだったぞ」

「そうだな。訓練を続けるとあんな風に動けるんだな……」

あの人達は偵察専門の冒険者だ。仮にちょっと戦闘をしても安全な遠距離攻撃のみ。

そして情報を持ち帰るのを徹底させているらしい。

ゲームの中だと建物や樹の上はオブジェクト扱いで移動不可だったりするんだが……ああいう動きも出来たら面白そうだな。

「ぴよ……あたしもあんなふうになりたいぴよ!」

「主、我もやりたいぞ!」

「マルちゃんもやるぴよ?」

「なんだか格好いいじゃないか!」

「……ディアはもう少し成長したらな」

ディアはまだよちよち歩き――をちょっと脱した所だ。

あんな風に動けるようになるかは別として、それ以前に体を大きくしないとな。

マルコシアスは……そうだな。

かつての力を考えれば出来なくもない、のか?

ゲームだと目にも止まらない超加速とかやってたし。

かつてと似たような体の動きをさせることで、力が戻るかな?

良い刺激にはなりそうだ。

これまでやっていなかったが、試してみる価値はあるかもな。

「……とりあえずこれが終わったらマルシスからやってみるか。そのあと、ディアに教えればいい」

「おおっ、ありがとう父上! 頑張るぞ!」

「がんばるぴよー!」

乗り気だな。

……ふむ。今度はマルコシアスが持っていた能力を再取得する方向でも考えてみるか。

意外と成果は出るのかも知れないし。

翌日。

天気は良好だ。

日差しは強く、風の冷たさを補っている。

朝からステラとウッドはフラワーアーチャー討伐へと出発していった。

いよいよ討伐作戦が本格化するわけだな。

ここ数日は偵察役が指定した敵部隊をひとつずつ倒していく作業になる。

そうすることでフラワーアーチャーはこちらを排除しようと全体が動き出すからな。

最終的にはボス個体と護衛――本陣を前線へと引っ張り出して撃破するという流れだ。

こちらの指揮所は旧ドリアードの家になる。

もっとも大きいし、頑丈だからな。

俺もレイアと一緒にそこにいる。

盾を作りながらリアルタイムで戦況を把握するためだ。

万が一の救援役という感じだな。一応、本格参戦は盾を作り終わった数日後だが。

机に地図が広げられ、ばたばたと人が出入りする。

そんな中、俺は盾を作り始めていた。

魔力を集中させ――腕から放つ。

使うのは植物の初級魔法。

【緑の武具】

床から木が盛り上がり、ゆっくりとタワーシールドの形になる。

大人の半身が隠れるくらいの縦長の盾だ。

とりあえず盾を叩いてみる。

……こんこん。

ふむ、悪くない。

とはいえ見映えは幹をそのまま削りました、だな。木目が丸見えである。

頑張れば塗装まで出来る魔法なのだが、そこまでやると結構大変だ。

「こんな感じか……」

昨日の話し合いで、取っ手部分は付けてない。見ようによっては単に大きな板だな。

気付くと周りの冒険者達が俺をじっと見ている。

「な、なんだ?」

その中の一人、偵察のまとめ役――黒づくめの忍者が身を乗り出してくる。口元まで黒布で覆っているので、かなりの本格派だ。

「いえ……本当に凄い魔法でござるな、と!」

「とりあえず盾を生み出すだけだがな」

「それが素晴らしいのでござる……! 切る必要も削る必要もなく、これほどの盾を作れるとは。レイア殿から聞きましたが、いやはや……この村といい、驚きっぱなしでござる!」

「ふむ……他ではやはりこういう魔法はあまりないのか?」

そこら辺は少し興味があった。

実家に居た時も外界の情報はあまりわからなかったし。

ここに来てからも、そもそも魔法自体が珍しいからな。

なにせ治癒の初級魔法が一日一回使えれば一生食うに困らないらしいし……。

適性がなくても初級魔法は使えるが、それは平民が魔法をじゃんじゃか使うことを意味しない。

冒険者はだいぶマシなはずではあるが……ステラとかは貴族並みだし。

平民は魔力が足りないし、成長しないのだ。

さらに魔法はイメージ、教える方も重要だ。良い師匠が居ないとせっかくの魔力も活かせないからな。

「こういう魔法どころか、魔法そのものが珍しいでござるよ」

「冒険者になれば多少、目にはしますが……。基本的に魔力の余裕はありませんからね。こうした用途で使ってもらえるのは、ほとんどありません」

レイアが付け加える。

ふむ……顎紐がもふもふなバンドになっているな。

より着ぐるみ感が増している。

誰も突っ込まないので突っ込めないが……きっとこれが普通なんだな。

なんとなくレイアの扱いがわかってきた気がする。

「差し出がましいですが、こういうのは輸出品に加えないのですか? 売り物になると思いますが」

「あまり考えはしなかったな。これだと普通の木製武具と大差ない。高くは売れないだろう」

この【緑の武具】で生み出す武具には制限がない。イメージできれば剣も盾も鎧も生み出せる。

問題は――本当にただの木製の武具止まりということ。何の付加能力もない。

それが欠点なのだ。

それだと高値で売ることは難しい。

どこでも作れるし手に入るわけだからな。

ぶっちゃけ、メロンやイチゴの方がキログラム単位だと遥かに高価。

これは現代日本でも変わらないだろう。消費するものの方が高く売れるのである。

なのでこの方面はあまり追求しなかったのだ。

俺が目指すべきは宇治だからな。抹茶と言えば宇治。

ヒールベリーと言えばこの村、そんな風になりたいものだ。

俺の説明に納得したのか――冒険者達は皆、頷いている。

この辺りは前世の知識による判断もあるので、難しいところだが……。

「さて、次の盾を作るか……」

「もう作れるのでござるか? 魔力の回復に休憩が必要なのではござらんか?」

「このくらいなら大していらないぞ。そうだな、一時間に十個くらいは作れるか」

「そこまででござるか……!?」

俺の言葉で冒険者達に衝撃が走ったようだ。

レイアだけは事前に聞いていたので、うんうんと頷いているが。

「なんという魔力……俺達とは比べ物にならないな……」

「貴族ってのは皆、こうなのか……?」

「いや、エルト様が特別なだけだろう。他の貴族ではこうは……」

「……だよな。聞いたことないし……」

「さすが、ステラさんが主と仰ぐだけはあるな……」

「ああ、これだけの若さで……」

……ふむ。

そう言えばザンザスの冒険者の前で魔法を使うのはあまりなかったな。

あっても移住の時に家くらいか。連続で唱えることは珍しいかも。

まぁ、俺は俺のやることをやるだけだ。

魔力を鍛えるので連続で魔法を使うのは慣れっこになっている。

実際、ポーションを作りまくっていた時の方が集中していたし。

と、俺は盾を作り続けていたのだが――どうやらそれが思わぬ意味を持っていたらしい。

冒険者達は語る。

「あの領主様、初めての前線で動揺せずに魔法を使い続けてたらしいぜ……」

「マジか? よく集中できるな」

「ああ、確かだ……。なぁ、十五歳の時にこんな現場で魔法使えたか?」

「無理無理。十五歳って言ったら駆け出しだろ。その頃はちょっとしたことで魔力が乱れて……」

「……そうだよな。凄い落ち着きぶりだぜ」

「ああ、魔力も胆力も一流というわけだ……」

英雄ステラに領主エルトあり。

どうやらそんな噂が広まっていったようなのだった。

フラワーアーチャー討伐率

偵察役による撃破+1%

冒険者による撃破+3%

ステラ・ウッドによる撃破+7%

16%