軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

374.泳ごう、海で!

思い返すと、この十五年間で泳いだことはない。

実家で水泳は特に習わなかった。

まぁ、近くに大きな河もなかったようだし……。

当然プールがあるわけでもない。

前世では……どうだろう。

義務教育レベルでは泳げた記憶がぼんやりある。

もちろんゲームの中と実際の泳ぎは全然違うしな。

マズイ。

これはマズイ気がする……!

現地に行って沈むだけで終わったら、とんだ足手まといである。

ジェシカと別れて、俺達は家に帰る道を歩いている。

こそっと俺は隣のステラにささやいた。

「……なぁ、ステラ。ちょっと聞いて欲しいんだが」

「なんでしょう……!?」

俺の声音で察したのか、ステラもこそこそ声だった。

「俺、泳げないかもしれない」

「……やはり、そのことでしたか……」

「同行すると言っておいて、なんなんだが……」

「いえいえ、特別な訓練が必要ですからね」

ステラの瞳の中が、なんだか燃えていた。

「着ぐるみのまま、泳ぐのは気合が必要です!」

帰宅後、ステラとソファーに腰掛けながら。

「エルト様の身体能力で泳げないのは、考えられません。ある程度はすぐに泳げるようになるかと」

「その上で着ぐるみか」

俺の頭の中に、ぴよぴよ言いながら潜水するコカトリスが思い浮かぶ。

「まぁ、ナナも泳げないはずです。ヴァンパイアですからね……」

「そんなに泳げないのか?」

「わたしが見てきたヴァンパイアは沈むだけと言っていました。種族的に全員カナヅチなのです……」

ゲームの中では設定レベルの話だったのに。

実際の世界になると、そんな悲しいことになるんだな……。

寝転がるウッドの上、マルコシアスとふにふに遊んでいるディアが言う。

「おにいちゃんも、泳ぎは大丈夫ぴよ?」

「ウゴ……どうだろう?」

「海水でも大丈夫だと思うが……」

「さすが兄上なんだぞ。ぽむぽむしちゃうんだぞ……!」

ぽむぽむ。肉球マッサージである。

「ウゴウゴ……」

「いずれにしても、泳ぎの質を高めるのは無駄にはならないと思います。着ぐるみができ次第、湖で訓練するのはいかがでしょう? わたしも自己点検したいですしね」

「そうだな……。そのほうがよさそうだ」

「さて、そうしたらまずは――」

そう言うと、ステラは台所へ立ち上がった。

木桶に水をなみなみと注ぎ、テーブルに置く。

「しばらく振りのチャレンジですね……」

「なにぴよ?」

「この水に顔をつけて、呼吸がどれだけ保つか……自己点検です」

「いきなり過酷な修行なんだぞ」

「ウゴ……。どれくらいやるの?」

「最初は一時間を目安にします」

……お、おう。

さくっと人間の限界を超えているような……。

……それは俺には、必要じゃない……はずだ。

その頃、畑のなか。

コカトリス二体がぴよぴよ農作業しながら、お腹のたぷを燃焼させていた。

「ぴよ」(冬のたぷがまだ残ってるぜ……)

「ぴよっぴ」(ご飯がおいしいからね。仕方ないね)

たぷは適度に。

それはコカトリスも変わらない。

「ぴよよー?」(それより聞いた?)

「ぴよ?」(なーにー?)

「ぴよ、ぴよよ」(今度、ディアちゃんが海に行くんだって)

「ぴよっぴ……ぴよ?」(海……海ってなんだっけ?)

「ぴよ……ぴよよ!」(海……なんだか大きくて水がいっぱいのところだったと思うよ!)

コカトリス達は薄ぼんやりとした記憶を引っ張り出していた。

青い空、しょっぱめの水、荒波に揺られる体……。

揺られて、それなりに減る脂肪。

「ぴよ……」(たぷ……)

コカトリスは見合って、自分のお腹をつまむ。

たぷ、たぷたぷ……。

「……ぴよ?」(……ねぇ?)

「ぴよよ……」(キノコ狩りに行った子は、かなりたぷみが減ってたよ……)

「ぴよぴ……」(なるほど……)

泳ぐだけなら湖でもいい気がする。

しかし、波に逆らうのはパワーがいる。たぷも使うに違いない。

きらーんとコカトリス達の目が光る。

「ぴよ!」(泳ごう、海で!)