軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

316.さよなら、虎さん

……これまでは、ある意味簡単だ。

前回の東の国に行ったのも、明確な目的があった。

悩む状況はなかったのである。

でも今回は違った。

ステラ自身が選択肢を与えられ、答えなければならないのだ。

「絵を破壊せずに虎を現れなくすることは可能なんですか?」

「可能だよ。もっとも、繊細な作業が必要になるけど――もちろんリスクもある」

ナナが『半身の虎』の絵に近づく。

「絵の具の下に回路があるから、全てを調べ切ったわけじゃない。調べ切るのにも回路に魔力を流さないと行けない」

「でもそうすると、虎は活性化するのでは……?」

「まさにその通り。回路に魔力を流せば、恐らく虎が現れる」

それにマルコシアスがふむふむと頷く。

「虎を現れなくするのに、虎を出現させないといけない……ということだぞ」

「わかりやすいぴよ!」

「……それで頭を下げられていたんですね」

ステラがぽつりと呟く。

ホールドが頭を下げたまま、静かに言う。

「しかも条件がある。回路を破壊するまでは、魔力は流しておかないといけない。つまり……虎を現れなくするまで、時間稼ぎが必要だ」

「そう、虎が出てきたままでね。これまでの獅子や燕と同じく、やるには魔力がないと無理だ」

あのときも物凄い魔力が吹き荒れていた。

要は、魔力が流れている状態でないとうまく回路は壊せないということだろう。

「虎はふっと現れ、煙のように消えます。都合良く時間稼ぎに付き合ってくれるでしょうか?」

それに対して、ナナがふもっとハンドであごをさする。

「なぜだかバットに引き寄せられているみたいだけど……そこは確かに不安だね」

「それならちょっとした手立てはあるんだぞ」

ステラに抱えられたマルコシアスが、ディアのふわもっこ撫で肩をぽんとする。

「ぴよ!?」

「……何かありましたか、マルちゃん」

小声で尋ねるステラに、マルコシアスも小声で答える。

「忘れてるんだぞ。我が主の力を……!」

「……?」

「召喚の力を、いまこそ使うときなんだぞ!」

大聖堂の第四倉庫。

ここはかつて、食料保管庫として作られた倉庫である。

広々として天井は非常に高い。

数千人分の食料を数カ月備蓄できるだけの広さがあるのだ。

だが、今ではほとんど棚も物もない。それだけの備蓄が必要な時代は過ぎ去ったからである。

そこに『半身の虎』が移された。

虎との決戦のためだ。

「ぴよ。これでほんとうにいいぴよ……!?」

「大丈夫だぞ……!」

そしてディアは、スネアドラムを肩から吊り下げていた。子ども用のごく小さいドラムである。

ナナが持ってきた予備のうちのひとつだ。

「これで音と魔力をぱーんすると、大気中でいいカンジになるんだぞ」

「ほんとぴよ……!?」

羽でスティックを持ちながら、ディアは唖然としている。

ステラは屏風の前で目を閉じていた。

精神統一のために。

「マルちゃんを信じましょう、ディア」

「かあさま……! だいじょうぶぴよ?」

「我を信じて屏風から虎を呼び出すんだぞ」

そんなやり取りをするステラ達から少し離れて、ホールドとナナは作業をしていた。

屏風の裏で配線やら器具やらをごそごそセットしているのだ。魔力を流して回路だけを破壊するためである。

「本当に大丈夫なのか……。あの小さなコカトリスがドラムを叩いて踊るらしいが」

「じゃあ、屏風壊す?」

「うっ……それは出来れば避けて欲しい……」

「なら、黙って作業する」

言葉に詰まるホールド。

そうして黙って作業を続ける。

『エルト様は芸術品を救う手立てがあるなら、そうすると思います』

それがステラの結論だった。

ステラは口にしなかったが、エルトはホールドに対してはそれなりの情愛を持っていると思う。

そうでなければ、この芸術祭に自分やディア、マルコシアスを行かせたりはしなかっただろう。

つまり屏風は破壊せずに虎だけを消し去る。

それで良いはずだ。

デュランダルを構えて、ステラは精神を落ち着ける。大丈夫。これで間違ってない。

燕よりも虎は力を無くしている。

十二分に闘えるはずだ。

ステラの後ろでは、スティックを構えたディアがぴよぴよしながら待っている。

マルコシアスはその隣だ。

「いっせーのせで始めるんだぞ」

「ぴよー! らじゃぴよ……!」

「……ところでマルちゃんは何かしたりするんです?」

「だぞ! リズムを取るんだぞ」

「なるぴよ! たいせつぴよね!」

……。

大丈夫。

虎はきっと出てきてくれる……!