軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

304.不屈のぴよ

ザンザスのブースを後にして、ステラ達は次のブースへと向かう。

確かに人波は心なしか少なくなっていた。

「はぁ……ディアちゃんから、トマトの匂いがする」

今、ディアを抱えているのはオードリーである。

「ぴよ。ここのせっけん、つかったぴよ。オードリーからもトマトのにおいするぴよよー」

ふにふに。ディアがオードリーの顔にすりすりと体をすり寄せる。

「はぅ……気持ち良い……!」

「これなら、いくらでもしちゃうぴよ!」

「ありがとう……!」

ほわほわ幸せ気分なオードリー。

そしてマルコシアスは今、クラリッサに抱えられていた。

「い、いいの?」

「……うん。一回は抱えたし……。交代交代、ね」

「ナイスアイデアなんだぞ」

そんなマルコシアスをケイトは着ぐるみハンドでふにふにと撫でる。

「仲の良いことはいいことですね」

少し離れたところで見守るステラの感想に、ヴィクターも頷く。

「普段はふらふらしがちな娘だが、オードリー達といると落ち着いている。年長者としての振る舞いを自然とするようだからな……」

「なるほど。なんとなく片鱗がありますね」

コカ博士の素性についてはよく知らないが、やはり大貴族なのは間違いなさそうだった。

次のブースはヴァンパイアの歴史的遺産の展示ブースのようだ。縄で区切られたガラスケースに色々と飾られている。

「トマト……」

「トマトだね……」

「トマトぴよね」

「トマトなんだぞ」

一番最初のガラスケースには鉢植えのトマトがそのまま置かれている。ある意味、無造作であった。

「……これは北の国のトマトの原種だね。実は小さいけど寒さに強くて、よく育つ」

「そうなんだ! ケイトお姉ちゃん、物知り!」

「……ふふふ……」

そこでケイトが思い出したように補足する。

「ちなみにかなりすっぱい。味は……やや残念」

「残念なんだ……」

「残念なんだね……」

「ざんねん、ざんねんぴよ」

「そういうモノなんだぞ」

「とおさまがいってたぴよ。すべてをみたすのは、むずかしいって……」

ディアは思い出していた。頭を抱えながらバットを生み出していたエルトの姿を。

「ええ、至高のバットは難しいものです……」

うんうんとステラが頷く。

それからそのブースを歩いて回るが、全てがトマトに関わるものであった。

とことこと歩いていきながら、ガラスケースの中身を見ていく。

「品種改良したトマト、トマトスープ用のボウル……」

「トマトマしてるぴよね!」

「そうだね、トマトマしてるね……」

他に言いようもなく、オードリーが答える。

トマトマ……。嫌いなわけじゃないけれど、ここまで好きでもない。

世界の全てがトマトマし始めたら、きっとトマトをトマトマしながら食べることにはなるんだろうけど。

大人になるってそういうことかも知れないと、オードリーは思った。

「あっ……!」

トマト関連コーナーが終わり、着ぐるみコーナーになった。

ドキドキ。オードリーの心がときめく。

前まではまだセットされていなくて、ここで着ぐるみを見るのは初めてだった。

「これが……『不屈のぴよ』ね!」

ガラスケースのなかに置かれていたのは立派なコカトリスの着ぐるみだった。

槍と盾を持ち、しゅっと目つきが鋭い。

ケイトが着ぐるみハンドで『不屈のぴよ』の着ぐるみを指し示す。

「アダマンタイトの鉄板を仕込んだ、凄く頑丈な着ぐるみだね……」

「確かに頑丈そう!」

「今だと軽くて丈夫なミスリルになるんだろうけど……」

そこで言葉に詰まるケイト。

クラリッサがマルコシアスを撫でながら、

「そうだね。アダマンタイトって、今はほとんど使われてないんだっけ……?」

「そうなんだぞ?」

そこですすっとヴィクターが解説に入る。

「アダマンタイトは硬いが重いからな。解説にはないが、この着ぐるみで大人と同じくらいの重さがある」

「おもぴよ!」

「うん……。それだと重すぎるような……」

「着て動けないよね?」

オードリーとクラリッサが顔を見合わせる。

「だが、この着ぐるみがかつての王族で使われたことは事実だ。考えてごらん。どうやって着たら動けない着ぐるみを使ったのか?」

ヴィクターの問いかけに、子ども達一同うーんと考え始める。

「ぴよ……。かあさまも、うごけないぴよ?」

「私は動けますが、それは答えではないですね……」

「母上は特別なんだぞ」

うーんと悩む子ども達。

そこでディアがぴよっと気付く。

羽をぴっと上げて、ディアが答える。

「ぴよ! はかせぴよとおんなじで、そらとんだぴよ!」

「当たりだ」

「あたったぴよー!」

羽をバタバタさせて喜ぶディア。

オードリー達も口々にその答えに納得する。

「凄い! ディアちゃん、正解だ!」

「言われてみるとそうだね、魔法を使えばいいんだ!」

「……歩かなくても良かったんだ」

「その通り。これを作った人は、元から歩くことは考えなかったんだ。魔法で飛んだり、浮かせたり……そういう使い方をしていたのだ」

ヴィクターの解説に、ディアが羽を上げる。

「ぴよ! すべったりはしなかったぴよ!?」

「……滑る……なるほど。それはナナのアレを見てかな?」

「そうぴよ!」

ふむ、とヴィクターはひとつ考えるとケイトに向き直る。

「どう思う、ケイト?」

「…………うん」

ケイトはその明晰な頭脳で即座に答えを弾き出す。ケイトも前提となる知識があれば、正確な答えを出せるのだ。

そしてケイトは答える。

『不屈のぴよ』の着ぐるみを見上げながら。

「……雪に沈んじゃうか、滑って止まらない……」