作品タイトル不明
272.地下広場ふたたび
「ウゴ、最後のペア……!」
ウッドが青色のパズルマッシュルームを掴み上げる。これが最後の一組だな。
「✕○△〜!」
パズルマッシュルームはじたばたするが、ウッドの力からはとても逃げられない。
「ぴよー!」(こっちー!)
「ぴよっぴー!」(いっくよー!)
コカトリスも青のパズルマッシュルームを取り押さえて、ぐいっと持ち上げる。
「ウゴ、せっーの!」
「「ぴっよ〜!」」(そーい!)
ウッドとコカトリスが青のパズルマッシュルームを投げ合う。
それらは空中で衝突し――チカっと魔力の光が閃いた。
「○✕△ー!」
ぼてっとパズルマッシュルームが落下し、動かなくなる。
よし……!
見回しても、もう動いているパズルマッシュルームは残ってない。
「お疲れ様、どうやら終わったようだな!」
俺が言うと、どっと皆が歓声を上げた。
「よっしゃー!」
「終わったでござる!」
アナリアとイスカミナも駆け寄り、怪我人がいないことを確かめた。
「大丈夫そうですね……!」
「無傷ってやつもぐ!」
ウッドも腕を振り上げて喜ぶ。
「ウゴ、やったー!」
「ああ、よく頑張ったな!」
「ウゴウゴ、とうさんもお疲れ様! これで進めるね!」
そんな風に言われると、少しうるっと来る。
フラワーアーチャーは防衛戦みたいなものだった。
地下通路は見つけたけど、守りだったのだ。
対してこれは息子のためでもあるし、先に進むためでもある。
そう考えると――ちょっと感じ方も違うのだ。
しかしいつまでも感慨には浸っていられないな。
俺は気を取り直して、まずは奥の穴に近付いていく。
「さて……奥のほうはどうだ? パズルマッシュルームは止まっているか?」
盾を詰め込んでいるので、もう奥の穴は見えない。
「ええ、この障害物は微動だにしてやせんや」
ハットリが詰め込んだ盾に顔をくっつけながら、
「……奥にも気配もないでござる。何かしている様子はござらん」
「とりあえず、諦めたのか?」
「器用な連中じゃないですからね。引き返したんだと思いますぜ」
「ザンザスのダンジョンでも反応は鈍いでござるからな」
ふむふむとアラサー冒険者が頷く。
「こうすりゃ追い返せた――と言っても、魔法なしじゃこの戦術はできねぇか。エルト様あってのモノですぜ」
「うむ。こんなに障害物を持って移動はできぬでござるからな」
良かった。俺の存在も役には立ったようだな。
「しかし警戒は必要だな。向こうに何があるかわからないし……」
俺の言葉にアナリアが同意する。
「ここなら拠点も作れそうですし、交代で見張りをするのがよろしいかと」
「水質検査はお任せもぐ!」
てっててーとイスカミナが地下を流れる小川に小走りしていく。そこは任せても良さそうだな。
「ふむ……」
そしてもうひとつ――この地下広場にも坂があった。戦いがあったので、考えるのは後回しにしていたが。
何から何まで村の下にある地下広場とそっくりである。
アナリアも坂には気が付いていたようだな。見上げながら俺に言う。
「行かれますか、エルト様」
「そうだな、同じ構造なら――高さ的にも地上のはずだ」
坂の上は天井に近くなっているが、そこに光は差し込んでいない。
しかし単に埋まっているだけなら、それを除去すれば地上へ出られるはずである。
「この真上となると……どの辺りになるんだろうな?」
「もぐ! ザンザスへの道沿いもぐ!」
イスカミナが手を振って答える。
「周囲には何もないはずですもぐ! 地質も大丈夫ですもぐ!」
「そうか……。なら、確かめてみよう。」
皆に休憩と警戒の指示を出す。それから俺はウッドとともに坂を登っていった。
やはり光る苔は少なめだな。
やや暗いが、歩けないほどではない。
コカトリスはパズルマッシュルームをもにゅもにゅしていた。
「ぴよぴよ……」(もにゅもにゅ……)
「ぴよよ?」(たぷへったかなー?)
「ぴよよ……ぴよ。ぴよぴよ」(もにゅ……まだだね。もにゅもにゅ)
……たまにお腹をつまんでいるな。
脂肪が気になるお年頃なのだろうか……。俺もいずれ気にしないといけないだろうが。
「ウゴ、村の地下広場と同じだね」
「そう思うよな……。坂の上から見ても、そんな感じだ」
足を止めて、地下広場を見渡す。
こうするとよりよくわかる。横の出入り口と流れる小川、坂……瓜二つだ。
「ウゴ……同じ人が作った?」
「恐らくそうだろうな。何から何まで同じように見える。違いは苔の密度とパズルマッシュルームの存在――そして魔力の濃さだな」
ザンザスに近いこちらの広場のほうが、魔力を感じる。これは構造というよりは、地理的な話かもしれないが。
「ウゴ、坂の大きさと高さも同じだね」
ウッドが確信を込めて言う。
「すごいな、わかるのか?」
「ウゴ……うん、かあさんに習った。歩数と歩幅を意識するんだって。マッピングの一種って言ってた」
「一流の冒険者だな」
俺はウッドの体を撫でる。それをウッドは心地よさそうに受け止めていた。
そして坂の頂上に到着し、真上を見上げる。
高さはかなりなくなっている。ウッドだとギリギリだな……。
その奥を、じっーっと見つめる。
「どうだ?」
「ウゴ、ホコリまみれだけど……あった!」
ウッドが天井の一角を指差す。まばらな苔のところに目をこらすと、確かに古ぼけた木の扉がある。
「でかした、ウッド!」
「ウゴウゴ、どういたしまして!」
あっちの広場のときと違い、木の根とかはないな。
扉が開けば地上なわけだ。
まぁ、でも土があれば植物魔法でどうにかできるだろうが。
「よし……開けてみてくれ」
「ウゴ、ラジャー!」
ウッドが天井の扉に手をかけるのを、ドキドキしながら見守る。
ぐっと力を入れたウッドが腕を引くと――。
パカッ!
扉は造作もなく開け放たれる。
そこから光がうっすらと差し込んできた。
「ウゴ、すんなり開いた!」
「ああ、そうだな……! よし、ちょっと足場を作って地上へ――」
と、そこで地上から声がした。
「んにゃー!? 地面に穴にゃん!」
「こ、これは……」
そしてほどなく、天井の穴からひょっこりと声の主が顔を見せる。
お互いにびっくりである。
「エルト様にゃん!?」
「ブラウン!?」
そこには驚いた顔のブラウンがいるのであった。