軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

242.村の夕暮れ

大樹の隙間から夕日が優しく射している。

時刻は夕方であった。

長い土風呂から出たアラサー冒険者が、塔の周りに馬車とコカトリス、それにブラウンとララトマを見つける。

コカトリス達は野菜がたくさん入った大きな木箱を持っていた。

どれもアラサー冒険者の目にはとても重そうに見えるが、コカトリスは力持ちである。

軽々と持ち上げている。

塔の近くにはまだ木箱が山と置いてある。

どうやらこれから馬車に積み込みをしていくらしい。

「ぴよ」(ナスー)

「ぴよ」(ピーマンー)

「ぴよ」(トウモロコシー)

並んだコカトリスに、ララトマが指示を出していた。

「ナスの箱はこっちです……! ピーマンの箱は奥の方で! トウモロコシは一番奥にー!」

「「ぴよ」」(らじゃー!)

ぴよぴよぴよ、とコカトリスが馬車へ木箱を積み込んでいく。

実にスムーズである。

アラサー冒険者がブラウンへと近付く。

「積み込みですかい?」

「そうにゃーん。まとめて出荷にゃん」

「ここにいると感覚が麻痺しちまうけど、どれも夏の野菜じゃねぇですか。本来なら今の季節、庶民が食べられねぇ代物だ」

「まさににゃん。半分はザンザスのレストランとかで消費され、残りはさらに遠くへ輸出にゃん。美食好きな貴族や商人、それに催し物で需要いっぱいにゃーん」

ほくほく顔でブラウンが答える。

「うちらも警護やらで潤ってるし、いいことづくめですぜ」

「その辺り、エルト様はしっかりお金をかけますにゃん」

ヒールベリーの村とザンザスの間の道も整備が進んできた。

石を取り除いて、へこんでいるところを平らにする。それだけと言えばそれだけだが、手間も金もかかる。

そしてエルトは魔物や盗賊に備えて、きちんと冒険者を活用する。これもお金はかかるがエルトが惜しむことはない。

おかげでヒールベリーの村とザンザスの往来はしやすくなり、結果として利益も多くなるのだ。

速く安全な交通は、どんな商売でも非常に重要な要素である。転生者であるエルトはそれを熟知していた。

「このあとも注文はひっきりなしに来てますにゃん。来年の冬にもトウモロコシが欲しいという問い合わせもありますにゃん」

「だろうなぁ……」

しかもヒールベリーの村で作られる野菜や果物は本当においしい。

こうした食べ物は一度味わうとやめられない。

人間、食べるもののランクを落とすのは抵抗があるのだ。

おかげで少しお腹周りがキツくなってはいるが……。

「ぴよー」(おわたー)

「ぴよ」(こっちもー)

「ぴぴよ」(おわりー)

と、もうコカトリスの積み込みは終わったらしい。

パワフルなコカトリスにかかれば、あっという間である。

ララトマがぽてぽてと確認にくる。

「オッケーです?」

「はいですにゃん! 全部、所定の馬車に積み込みオッケーですにゃーん!」

話しながらもきちんと確認していたブラウン。

それを聞いて、ララトマがコカトリスに草だんごを食べさせていく。

「お疲れ様でしたです……!」

ひょい、ぱくぱくぱく。

「ぴよ……」(おいしい……)

「ぴよぴ……」(しふく……)

実働時間は十分程度。

もちろんコカトリスは疲れていない。

お腹のたぷたぷ度を適正に保つために、ちょっと動いたくらいなのだ。

「ぴよよー」(んじゃ次はお散歩いこっかー)

「「ぴよー」」(さんせーい)

コカトリス達はそのまま、ぴよぴよと村の広場へと歩いていった。

「コカちゃんはお散歩に行くそうです……!」

「にゃん。なかなか自由な生き方にゃん……」

「うちら、ザンザスの冒険者はコカトリスには慣れてますがねぇ……。コカトリスは自由なもんですよ」

アラサー冒険者の脳裏に、ザンザスのコカトリスの思い出が鮮やかに蘇った。

三段に重なって寝るコカトリス。仲間のコカトリスにマッサージされてうっとりするコカトリス。木陰でお昼寝しているコカトリス……。

コカトリスは強い。ゆえにフリーダム。

しかし協調性は高く、温厚で喧嘩もしない。

強いゆえに争う必要などないのである、と月刊ぴよには書いてあった。

「にゃーん。でもコカトリスが手伝ってくれるおかげで、こちらは大助かりにゃん。うちらだと、重い箱を動かすのはキツイにゃん」

ニャフ族は大人でも、トールマン(エルトのような人間)に比べると背が小さい。

子どもサイズである。

ドリアードもそうなので、重い物を動かすのは不得手だ。

実際、馬車に積み込むのをコカトリスに手伝ってもらうのは、非常に助かるのである。

「俺ももう少し若けりゃなぁ……」

「腰にゃん?」

「そっすよ。屈んで薬草を集めるのも、土風呂がなけりゃ一苦労ですぜ」

肉体労働の冒険者にとって、土風呂の治癒効果は侮れない。

夜通しの採集をした疲れも、数時間土風呂に入ると吹っ飛ぶのだ。

最近では村に立ち寄る商人も、土風呂に入るようになってきた。

地下広場では、十人くらいの商人が並んで土風呂に入るときもある。

馬車が列をなして村から出発していく。

入れ替わりに現れたのは、ふらふらのレイアだった。

アラサー冒険者もブラウンも、なにやらまたレイアが作り始めているのを知っている。

それで突っ走っているのだろう。ちょっと目元にクマができていた。

「おう、土風呂ですかい?」

「行き詰まってな……。もうちょい、もうちょいなんだが」

「無理はいけないにゃん」

「ううっ、それはナナにも言われてる……。だから土風呂入ってリフレッシュする……」

微妙な表情をするレイア。

実のところ、ザンザスの重鎮であるレイアに意見できる冒険者はそう多くない。

レイアもドラゴン討伐を成し遂げ、竜殺しの称号を持つ冒険者だ。

他国に呼ばれて武功を立てたことも数度あり、国内の現役冒険者では五指に入るだろう。

「土風呂、一人……水ありコースで」

「はいはーいです!」

レイアがララトマに言って、土風呂エリアに入っていく。

水ありコースとは、ドリアードから水をかけてもらう上級者向けのコースである。

冬はちょっと寒いが、目はぱっちり覚めるのだ。

「さぁて……それじゃ一杯呑んだら寝るかぁ」

「いいにゃん。こっちももう仕事は終わりにゃーん」

「おっ、そうしたら一緒に行くかい?」

「片付けが終わるまで、待ってにゃーん」

「あいよー」

ゆるやかにアラサー冒険者が手を振る。

ブラウンはぱたぱたと後片付けに向かって行った。

ふとアラサー冒険者が見上げると、空はだんだんと暗くなっている。

遠くで月と星が輝き始め……ヒールベリーの村も夜に包まれていくのだった。