軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22.鱗

「……完成した。これで釣れるぞ」

俺は植物魔法でちょっとした竹の囲いを作った。

ペットボトルの飲み物容器を半分にしたような形である。

使い方はとても簡単。

中に草だんごのかけらを入れて、魚が筒に飛び込んできたら引き上げる。

前世で得たサバイバルの知識だな……おびき寄せる餌がよければ、結構捕まえられる。

本当は大きな網があれば良かったのだが、それだともう釣りじゃなくて漁だしな。

とりあえず今日はこれでいい。

「んにゃー、面白そうな仕掛けですにゃん。筒の中に魚が来たら引き上げるんですにゃん?」

「ああ、そうだ。あれだけ勢い良く魚が来るなら、釣糸よりこっちの筒の方がいいだろう」

「糸だと切られそうな勢いでしたにゃん……。体全体を捕まえる方が合理的ですにゃん」

「エルト様はすぐにこういう道具を作れるのですねー、とっても器用です」

ブラウンとテテトカが感心したように言ってくる。

最近は植物魔法の精度が上がってきて、イメージ通りに小物を作れるからな。

細かいものを作るのはそれはそれで魔力を使うのだが、今の俺には余裕だ。

ちなみに草だんごは、テテトカにとって食べ飽きたおやつだそうだ。なので、魚の餌にするのは全然いいらしい。

何がどこでどう役に立つのかわからないものだな……。

この前もドリアードが地面に埋まるのが役に立つと思っていなかったし。

とりあえずはこれで魚を釣ってみよう。

……記憶が戻る前にチャレンジしたときは、あんまり釣れなかったんだよな。

再チャレンジというわけだ。

それから草だんごでの釣りは大成功だった。

どんどん筒に魚が来てくれるんだからな。

浅いところでも入れ食い状態だったし。

魚から来てくれるのだから、うまくいくに決まっている。

「よし、結構釣れたな」

魔法で作った大きい桶には十匹の魚が元気に泳いでいる。

俺とブラウンとテテトカの成果だ。

七色の鱗がきらきら光って、とても綺麗な魚だ。形は鯉に似ているな。

だけど知らない魚だ。ブラウンもこの魚はわからないということで、どうするかは冒険者に聞いた方がいいか。

そしてそのブラウンは芝生で寝転んで一休みしている。テテトカも地面に埋まって休んでいた。

……テテトカは隙あらば地面に埋まろうとする。

俺達にとって芝生で横になるのと同じ感覚なんだろうが、種族が違うとこうも休み方が違うんだな。

「あ、向こうで釣りしてた冒険者のひとたちが来るー」

「ん? いや、見えないが……」

「地面がちょっと揺れてるから、もうすぐ来るよ」

「……お、おう」

長年、土に埋まっていた経験だな。

さすがドリアード。

と、少しして冒険者達がやってきた。

テテトカの振動感知通りだ。

「おあっ……!? あ、あ……テテトカか」

「はーい、今休んでいるんだよー」

「そ、そうだな……。少しずつそれにも慣れてきたよ」

冒険者達はなんだか少しがっくりしているようだ。

あまり釣れなかったのだろうか。

まぁ、聞いてみようか。

俺は先頭にいる、アラサーの冒険者にたずねた。

「お疲れさん、そっちの釣りの戦果はどうだった?」

「いえ、ここの魚は警戒心がすごく強くてね。俺達も冒険者――サバイバルは得意なんですが、全然駄目でした」

冒険者でもここの魚を釣るのは難しいのか。

それだと前に俺がやった程度では、釣れなかったはずだ。

「そちらの方は――えええっ!? こんなに釣れたんですか!?」

「あ、ああ……テテトカの草だんごがいい餌になってな。入れ食い状態だったが、餌がなくなったからな。とりあえずここで終わらせたんだ」

「領主様はなんでも出来るんですね……。森での採集だけじゃなくて、釣りも極められているなんて」

「テテトカの草だんごが凄いだけなんだが……」

俺の魔法で作った筒がなければ、釣り上げるのが面倒だったのは事実だけれど。

思いっきり驚いた冒険者達。

どうやら彼らは、さらに俺への尊敬を深くしたようだ。

それより、確認したいことがある。釣れたこの魚のことだ。

「あと、この魚について知っているか? 俺も見るのは初めてなんだ」

「この魚は――レインボーフィッシュですね。ああ、コイツなら普通にやったら釣れないか……」

アラサー冒険者は納得したように頷いた。

「レインボーフィッシュは食べられないレアな魚なんですが、特殊な習性がありましてね。よく鱗が生え変わって落ちるんです」

「……すでに桶の底に数枚、鱗があるな」

「その鱗が素材として使えるんです。魔力が含まれていて、色合いによって用途が違うんですが……」

ほう、そういう魚だったのか。

食べられないのは残念だが、鱗の方に価値があったとは。

俺は水の張った桶の底から、鱗を一枚取り出してみた。

今、俺の手の中にある鱗はオレンジだ。こうして持ってみると、確かに少しの魔力を感じ取れる。

結構脆そうだな。ちょっと力を入れると砕けそうだ。

「オレンジは肥料用ですね……。砕いて使うと、植物がよく育つはずです」

「ほー、そんな力があるのか……。それは便利だな」

そこまで聞いて俺の記憶がちょっと揺さぶられた。思い出してきたぞ。

うん、ゲームの中でも魔力を含んだ肥料は存在したな。

サブクエストで触れられていたと思う。

ちょっとしたアイテムなので、あまり印象はないが……。

「なんにせよ、いいことを聞いた。この鱗にそんな力があるなんてな。俺の領地にぴったりだ」

「ええ、ですが――体に付いている鱗は駄目なんです。魔力が鱗に溜まっていなくて使えない。自然に剥がれ落ちた鱗でないと、価値がないんです」

「わかった。じゃあ一旦、この魚はリリースだな」

持ち帰って飼育しようにも、設備がない。

生態もよくわからないしな。とりあえず後で湖に帰そう。

と、地面に埋まって首だけテテトカが俺の方をじっと見ている。

いや――テテトカが見ているのは俺の手に持っている鱗の方か。

「これに興味があるのか?」

「なんだか、とてもおいしそうな……」

「おいしそう!?」

ドリアードにはそう見えるのか。

ま、まぁ……肥料になるらしいからな。

「じゅるり」

「わ、わかった……。砕くからちょっと待っててくれ」

「そのままがいいですー」

「生の鱗だぞ。指の力だけでも砕けるとはいえ……」

「……じゅるり」

「よ、よし。草だんごのかわりだ。食べてくれ」

首だけ出ているテテトカの口元へ、俺は鱗を持っていく。

かなり危ない光景だ。首まで埋まった人に鱗を食べさせようとするなんて……。

人から聞いたら斬新な拷問だと思うだろう。

しかし、テテトカはなんのその。気にした素振りは少しもない。

差し出された鱗に迷わず食い付く。

さっきのお魚みたいなのは、言わないでおく。

ぱくり。ぱりぱり……。

そのときの俺はまだ、この行為の意味を知らなかった。

つまりドリアードは鱗を食べると、レベルアップするのだった。