軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

185.女王の覚悟

東のエルフの国。

王都はジャングルを切り開いた中にある。

建物はレンガと木造が主で、宮殿も高さを誇る造りではない。

しかしジャングルから産出される恵みを受けて、内装は豪華極まりない。

金銀宝石、絨毯でくまなく飾り立てられているのだ。

クラリッサは帰国すると、真っ先に母である女王の元へと向かった。

木造建築の廊下を歩きながら、クラリッサは宮殿全体が重苦しい雰囲気であることを察する。

儀式が近いせいだ。

クラリッサは女王の部屋に入ると、すっと礼を取る。立膝である。

「お母様、ただ今戻りました」

「……クラリッサ、よく戻りました」

答えた女王は寝床から起き上がらなかった――否、起き上がれなかった。

妙齢の女王は蒼白で、肩で息をしている。

周囲の側近達も一様に、心配そうに女王を見つめている。

久し振りに見た女王の様子は相変わらず良くない。

儀式のせいで魔力を消耗しつづけているせいだ。

クラリッサの心配そうな顔色を見て、女王が微笑む。心配をかけまいとして。

「最近は……調子は良いのですよ。西の国から多少、魔力ポーションを融通してもらえるようになりましたから」

「そうですか……でも」

クラリッサは下唇を噛む。

燕を抑える儀式で失う魔力は膨大だ。

あまりに一気に、そして恒久的に魔力を失う過酷な儀式なのである。

女王はクラリッサを見据えた。

「今年の儀式は、なんとしてもこなします。しかし、恐らく私が執り行えるのはこれが最後でしょう」

「……!」

その言葉の意味するところを、クラリッサは瞬時に悟った。

女王はこの儀式で死ぬつもりなのだ。

まさかそこまでの事態だとは、クラリッサは思っていなかった。

実際は、考えるより何倍も悪かったのだ。

「クラリッサ――私の魔力は弱りに弱り、いまや貴方よりもはるかに弱くなっています。もう王族としての責務は果たせないのです。私は義務をまっとうせず、生き長らえようとは思いません」

「でも、でも……!」

クラリッサはなんと言っていいか、わからなかった。

「いいですか、これは我が王族が負うべき責任なのです。かつて過ちにより国を滅ぼしかけた、その罪の清算。未来永劫、私達が燕を抑えなければなりません」

歴史は語っている。

かつて王家の祖先達が身命を賭して、燕を抑えたと。

「……ステラ様が……!」

クラリッサは思わず、ステラの名前を口走った。

「西の国に、ステラ様がおられました……。助けを求めてはっ!?」

「ステラ様……?」

女王が首を傾げる。

クラリッサはあらましを女王達へと語った。

英雄ステラが復活したこと。今、彼女は西の国にいること。直に対面してきたこと。

燕のことも知っていたこと。

これはエルフの国でも極一部しか知らない。偽物の可能性は低いはずだった。

確かに歴史書にはこうある。

燕を封じるのに英雄ステラが関与した、と。

それらを聞いた女王は瞳を閉じて、少しの間に思案した。やがて目を開くと、はっきりと言う。

「……呼ぶにしても、儀式には間に合いません。間に合ったとしても、私は呼びません」

「なぜですか……?」

半ばわかっていながら、クラリッサは呟いた。

王家の務め、数多くの民、国の安泰。

そして――呪縛。

王家はこれまで、多くの犠牲を払ってきた。

いまさら王家以外の人間を頼れないのだ。

おそらく自分もそうなるだろう、とクラリッサは思った。

母を亡くせば、助けを求めようとは考えなくなる。

「クラリッサ、あなたは賢くて強い。国を、民を守りなさい。きっと出来るはずです」

女王が力強く言い切ったその瞬間――慌てた家臣が入室してくる。

「申し上げます! ステラ様と名乗る方々が、門前に……!」

「えっ……!?」

クラリッサは心底驚いた。

いま、まさに彼女を必要としていたのだから。

クラリッサは家臣に号令を飛ばす。

「お通ししてください、今すぐに!」

そして、謁見の間に通されたステラ達。

ステラの目の前にはクラリッサの母である女王がいた。

……もっとも、ステラやナナから見るとひどく弱っているように見えたが。

「あなた方が、クラリッサの話していた英雄ステラ様とその御一行でございますか」

女王の言葉には、戸惑いがある。

やはり信じられないらしい。

それらの目を気にせず、ステラは背筋を伸ばしたまま、

「女王におかれましては、ご機嫌麗しく」

ステラは古式にのっとり、左の手のひらを広げて、右手の拳を打ち合わせる。

抱拳礼(ほうけんれい) である。

バシッ、と小気味よい音が鳴る。

その威風堂々とした見事な所作に、女王と家臣達は目を丸くする。

一歩後ろに控えたマルコシアスが小声でナナに聞く。

「……真似した方がいいのかだぞ?」

「や、やらなくていいと思う」

この礼法はナナもよく知らない。

それに着ぐるみでは音は鳴らないし。

ステラはすっと構えを解く。

「早速ではございますが、燕の討伐をいたします。白き泉までの通行許可を頂きたく思います」

きっぱりと言い切ったステラに、クラリッサは言い知れない頼もしさを感じた。

だが女王は軽く首を振る。

「……燕を封印している白き泉までご存知でしたか。あなたが只者ではないとはわかります。しかし、認められません。たとえ、あなたが例え英雄ステラ本人であったとしても」

「それは、なぜですか?」

「これは我ら王家の負うべき歴史だからです」

ぴしゃりと女王は言った。

「史書によれば、確かに英雄ステラの助けにより王家は燕を抑えることができました。国を立て直し、守ってきたのはターラ様の血統なのです。ご理解ください。私達には歴史と誇りがあります」

女王の言葉に、ステラははっきりと言い返した。

ステラはこうなるだろうと推測はしていた。

あっさり行くわけがないと。

だから、最大限の一撃を見舞った。

「それは偽りです」

謁見の間の全員が凍りつく。

不遜。

その一言だが、誰も動けなかった。

マルコシアスだけがふんふんと頷いている。

よくわかってなさそうだな、とナナは思った。

そしてステラは魔力をみなぎらせて、女王達を見渡す。

「いまこそ、真実を語ります。ターラの妹であった、私の口から」