軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

180.スティーブンの村の由来

スティーブンの村。

日はすっかり落ちて、夜の闇が辺りをすっかり覆い隠していた。

ヒールベリーの村に比べると東にあるだけ、少し暖かい。

村人達は突然やってきたステラ達を快く歓迎した。

なにせ魔物は倒されて、お金が戻ってきたのだ。

謎の冒険者様々である。

宿屋ではなく、村長の家で宴が行われていた。

それほど大きくない村では、村長の家が上客を迎える場となるのは珍しくない。

宴の場は広い食堂のようなもので、数十人が収容できそうだった。

黒竜騎士団の面々も呼ばれて着席している。

村長がかしこまりながら、

「ささ、どうぞお召し上がりください。村一番の料理人に用意させました。夏の野菜と果物をふんだんに使ってます」

テーブルの上にはカボチャを豪快に使ったグラタンとマンゴーのシロップ掛けが用意されていた。

「ほう、おいしそうだぞ」

食事が始まると、マルコシアスはもぐもぐと勢い良く食べる。

「夏の野菜ですか、今は冬なのに……」

「よく揃ったね」

ナナは着ぐるみを収納していた。

思えばレアな、青髪少女の姿である。

もぐもぐ……。

ステラとナナも優雅に食事を始める。

冒険者とはいえ、二人とも礼儀作法には通じている。

マルコシアスもエルトとステラから教育されているので、問題はない。

「美味しいですね……!」

「うん、できてる」

よく火が通ったカボチャが甘い。

そこにグラタンのチーズの香ばしさが合わさり、美しい調和を生み出していた。

ステラとナナも驚くほどの味であった。

ラダン達、黒竜騎士団も舌鼓を打つ。

「ほう、これは……なるほど、素晴らしいですね」

「……でもこれは……?」

もぐもぐ。

ステラはしかし、引っ掛かりを感じた。

この美味しいカボチャ……食べたことがある。

五感の鋭いステラにはわかった。

間違いなく食べたことのある味だ。

ステラが小首を傾げていると、村長が頷く。

「不思議でございましょうな。真冬にこれほどのカボチャ。実は最近、流通してきたものなのです」

「……まさか」

「ザンザスの近くに、季節外れの野菜や果物を育てる村があるとか。これらの野菜や果物はそこから仕入れたものなのですよ」

ヒールベリーの村だ!

ステラは納得した。

食べたことがあるも何も、毎日食べている。

だがマルコシアスはよく分かってないようだ。

「ふーん、聞いたことがある話だぞ」

「ええ、それとここだけの話ですがね……。そこの領主様はたいそう恐ろしい人だそうですが」

「そうなのかー?」

マルコシアスがマンゴーを頬張りながら聞く。

「なんでも植物の栽培にかけては優れているそうですが……領民も植物みたいに土に埋めることがあるとか」

「恐ろしい話なんだぞ」

「……へ、へぇ……」

目を見開くマルコシアスと目が泳ぐステラ。

明らかにドリアードか土風呂のことである。

滅茶苦茶、話が歪んで伝わっている……!

ラダン達はなんと反応したらいいか、固まっている。

「しかも鳥型の魔物を放し飼いにして、好きにさせているとも……」

「ほぼ地獄だぞ。いや、むしろ地獄もそこまで悪くはないぞ」

「仰る通り。しかし農作物のおかげで富んではいるようです。領民は大変でしょうが、野菜や果物を美味しく食べることで彼らも浮かばれましょう」

手を合わせて祈る村長と村人達。

ステラは思った。

なんかすごい話になってる……!

訂正すべきかどうか……ステラはむむっと唸った。

だけどナナが素早くステラの雰囲気を察する。

……ヒールベリーの村について話し始めると、自分達の正体だとかも言わなければならなくなる。

話題を変えるべし。

ナナはそんな視線をラダンへと送る。

ラダンも心得たとばかりに小さく頷く。

「村と言えば、この村はスティーブンの村という名前だね。もしかして村を作った人の名前かな?」

「さぞ有能な人だったのでしょうなぁ」

ナナとラダンが村トークを振った。

村長が少しだけ早口になって喋り始める。

「ええ、数百年前の話ですがね。スティーブンという冒険者が通り掛かりまして……魔物に怯えているこの地を救ってくださったのですよ。まぁ、その時は村ではなく小さな家族がひとつふたつだけだったそうですが」

「へぇ、その時も魔物の大発生が?」

「まさに、同じようなことがあったそうで」

そう言うと村長は棚の上に置いてあった小さな木の像を取って来た。

手のひらほどサイズの小さな像である。

「これがそのスティーブン様の像です」

木の像は細かな作りだが、不思議な点もあった。

フードを被っていて顔を出していないのだ。だがフードの耳の位置が尖っている。

ナナはこの像の人物はエルフだと推測した。

「へー……エルフの冒険者なんだね」

「そうです。耳が尖っていたそうで……」

「顔がわからないのは……」

「大雨の日にやってきたそうで、フードをしておられたのだとか。なのでお顔はわからないので」

「武器もないな。普通、これほどよく出来た像には付属してそうなものだが」

ラダンも沢山の像を見てきた。

騎士の像だと剣や槍、弓を装備しているのがほとんどだ。

「へへぇ。なんでも素手で倒してしまわれたとのことで」

村長が誇らしげに言う。

「ストーンドラゴンを素手でございますよ。しかもお金も受け取らずドラゴンもそのまま……。そのドラゴンの素材を売ったお金で、この村の基礎ができたんで……!」

「……母上、顔色がちょっと悪いぞ」

「ふぁっ!? な、なんでもありませんよ」

ステラは色白い顔をさらに白くしている。

珍しい反応だった。

今の話に、そんな反応になる要素があったのか?

ナナは明晰な頭脳で村長の話を振り返る。

数百年前……エルフの冒険者……素手……。

どこかで思い切り聞いたことのある話だ。

スティーブンの顔はわからない……。

フードをしてたから。

この村は東の国とザンザスの間に位置する……。

スティーブン、ステラ、スティーブン、ステラ。

ステラ、スティーブン……。

ナナは恐ろしい考えに辿り着いた。

ぼそっと言ってみる。

「年月を経て訛った……?」

「びくっ」

ステラが反応する。

「……ここに前に来たことがある?」

「びくびくっ」

村長がナナの言葉にいぶかしむ。

「ど、どうかされましたんで?」

「いや……スティーブンさんのその後とか、知られているの?」

「いいえ、それがすぐに立ち去ってしまわれたみたいで。とても奥ゆかしい人物だったそうで。今なら、一週間は宴をしますのに……!」

村長がぐっと拳を握る。

「ドラゴンですよ、ドラゴン……! まさに偉業! ろくにおもてなし出来なかったのを、先祖は大いに悔いてましたので」

「びくっ」

「……ふぅん」

ナナがじとーとステラを見る。

忘れてたな、本人も……。

きっとそうだ。

一瞬でぽこぽこしたので、記憶に残っていなかったのだろう。

「しかし、今回はこうしておもてなし出来まして、心が晴れるようでございます。ささっ、お代わりもたんとありますよ」

「……なるほど」

ナナは色々と察した。

その上でまた話題を変えることにする。

ステラとスティーブンが同一人物とバレたら、容易に立ち去らせてはくれないだろう。

「ザンザスの近くの村だけど……正式な名前はヒールベリーの村と言ってね――」