軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

自由の翼

腰から頭にかけて、ぞくぞくっと寒気が走る。

これまで感じたことのない、悪寒。

「レリィ君……私、ごはん、作ってくる」

粟立つ肌を感じながら、隣に立つレリィ君を見つめた。

そう。今、私にできることがある。

――『台所召喚』。

食べると強くなって、元気になる。

きっと、私の力が役に立つ。

ごはんを作って、騎士団のみんなに……ハストさんに、持って行きたい。

「……っ、シーナさんは、今の状況の危険性についてはわかってるよね」

「うん」

心配そうに、眉根を寄せるレリィ君に、しっかりと頷く。

王宮での鳥型の魔獣が出たときも、温泉でのイノシシ型の魔獣が出たときも、危険だった。

でも、今はその比じゃない。

さっきから収まらない悪寒がそれを証明している。

それでも――

「……シーナさん。台所に行く前に、聞いて欲しいことがあるんだ」

レリィ君は一度、目を伏せて……。

若葉色の目で私を見上げた。

「シーナさんには言ってなかったけど、シーナさんが北の騎士団に行くにあたって、上から命令が出たんだ」

「命令?」

「うん……。シーナさんが北の騎士団に行く条件。……兄さんに言って、取り消してもらっても良かったんだけど、その条件があれば、シーナさんの安全を守れるんじゃないかって。……結界が壊れたときに、必要になるんじゃないかって」

「……ちょうど今みたいなときのことだね」

「……何事もないのが一番いい。でも、もし。本当に結界がなくなったら……そのときは、北の騎士団が世界で一番危ない場所になってしまうから……。」

レリィ君の言う通り。

北の騎士団は魔獣と戦うための騎士団。その最前線だ。

結界が壊れたときは、ここが一番危ない場所になる。

だからこそ、ハストさんは北に帰ると言ったのだ。最前線でハストさんの力を使えるように。……魔獣からみんなを守れるように。

「もちろんヴォルさんと僕で絶対に守る。でも……シーナさんだけでも、ここを離れる方法が必要かもしれないって考えたんだ」

「ここを離れる?」

「うん……。ヴォルさんはここを離れない。最後まで戦う。……でも、シーナさんはどこか安全なところに、いつでも行けるように」

レリィ君の話にぎゅっと唇を噛む。

すると、今まで話を聞いているだけだった、ゼズグラッドさんが立ち上がり、こちらへと視線を向けた。

「俺だ」

金色の目がじっと私を見ていて――

「俺が、お前が北の騎士団に行くための条件だった」

「……ゼズグラッドさんが」

「ああ。結界が壊れて、ここが危険になれば、お前を連れてギャブッシュで飛ぶ……王宮に連れて来いって言われてる。お前の逃げ道だ」

けっと吐き捨てた。

「あの変態ヤローが言ってたよ。俺は首輪だって。……おかしなスキルを持ったお前が死なないように……どっかに行かないように、王宮に連れ戻すための首輪だって」

「首輪……」

その単語に、あるシーンが蘇る。

それは、まだ王宮にいたころ。警備兵のみんなとローストチキンを作ったときだ。

そのときにスラスターさんはこう言っていた。

『多少の首輪はつけますが、基本的には好きにしてくださって結構 』と。

その首輪が――ゼズグラッドさん。

「そうだったんですね……」

「……今まで話さなくてごめんね」

レリィ君が若葉色の目を曇らせて、黙っていたことを謝ってくれる。

私はそれに首を横に振って答えた。

「ううん。みんなでいろいろと考えてくれたんだよね。ありがとう」

きっと言いにくかったと思う。

話をせず、丸め込むみたいにして、私をギャブッシュに乗せてしまうのが一番簡単だったはずだ。

でも、レリィ君はちゃんと説明してくれた。

「これでいろいろ繋がったよ」

そもそもスラスターさんが、何の策も取らずにレリィ君をここに滞在させるとは考えにくい。

私を王宮に戻すと言っているが、十中八九、私を戻すことによってレリィ君がついてくることを予想してのことだろう。

そして、当たり前だけど、このことはハストさんも知っているはずだ。

だから、さっき、あんな別れの挨拶みたいになったんだと思う。

「ゼズグラッドさんもいろいろありがとうございます。……きっとすごく嫌でしたよね」

……お前は首輪だ、なんて言われて。

そりゃしかたなくついていくんだって悪態をつきたくもなる。

そんなゼズグラッドさんの態度に、ハストさんは諫めることはあっても、追い払ったり、剣を向けるようなことはなかった。

きっと、ゼズグラッドさんの気持ちをわかりながら、それでも必要だと思ったから。

「……最初に会ったときの言葉はお前に言うべきことじゃなかった。……首輪つけられたヤツだって、好きでつけられたわけじゃねぇ」

悪かったな、と呟いた。

「……それにお前といるのがすげぇ嫌だったわけじゃねぇから。……お前、話易いし……」

「まーくん……」

「おい!」

「ふふんラッシュ……」

「お前! 楽しんでるな!?」

ギンッと睨みつけてくる金色の目に、親指を立てて返す。

すると、ゼズグラッドさんは、しょうがねーヤツ、と笑った。

「……俺のイライラとか全部、お前には効かねぇからな」

窓からこちらへと近づいてくるゼズグラッドさん。

そして――

「……お前は逃げない」

私の肩に、そっと手を置いた。

「だろ?」

その感触に釣られるように顔を上げれば、ニッと笑うゼズグラッドさん。

そんな笑顔見たことなくて――

「お前はヘラヘラ笑って、うまいメシ作って、最後まで走るんだろうからな」

「ですね。ごはん作って、食べてもらって、ポイントを手に入れないといけないですから」

金色の目が輝く。

だから、私もにんまり笑って返した。

「あと、ゼズグラッドさんは首輪なんかじゃありません」

そう。そんなの全然似合わない。

「羽です。……世界一速いドラゴンのギャブッシュとそれを乗りこなす竜騎士」

ゼズグラッドさんの好きそうな感じで言えば――

「――自由の翼です」

どこまでも飛んでいける。

そんな人が首輪なわけがない。

「……なんかそれかっこいいな」

そんな私の言葉に、ゼズグラッドさんは一瞬ぽかんとして。

ありだな、と、しっかり頷いた。

「よし。……シーナ!」

突然、名前を呼ばれる。

その金色の目はきらきらとしていて――

「――お兄ちゃんって呼んでいいぞ」

「え」

「今日からお前は妹にしてやる」

「いもうと」

いや、え?

え?

妹って今日付けでなれるものですか?

「あ、いや、ちょっと男兄弟は間に合ってるというか」

みんなのおとうと、で十分というか。

隣にいるレリィ君へと視線を移す。

そこには、わかっているよ、と笑うレリィ君がいた。

「シーナさん。また、『はじめて』を奪ったんだね」

語弊。

「……僕はシーナさんを守りたい。兄さんの言う通りに、王宮へ戻る必要はないと思うけど、シーナさんが安全なところに行くことができれば、それがいいと思う。でも……」

「レリィ君。私はみんなのところに行きたい。力を貸してほしい」

「……うん」

レリィ君は困ったように笑って……。

そして、任せて! と頷いた。

「僕の炎で、みんなのところまでシーナさんを連れていく」

「お願いします」

粟立つ肌はさっきからずっと抑えられない。

それでも、三人で、よし、と頷き合えば、胸に勇気が湧いてくるから――

「じゃあ、俺は俺のできることをする。魔獣の森に近づきすぎると、結界が戻ったときにギャブッシュも閉じ込められちまうから、行くことはできねぇ。だが、ここから出ていこうとする魔獣の相手ならできる」

「あ、ギャブッシュは結界に閉じ込められちゃうんですね」

「ああ」

結界は魔獣を封じ込めるもの。

ギャブッシュは動物とは生態が違うと言っていたから、結界も作用してしまうようだ。

それなら――

「世界一速いドラゴンと、その相棒にお願いがあります」

「なんだ! なんでも言ってみろ!」

私の言葉にゼズグラッドさんの金色の目が輝く。

その目を見つめて……。

思い出すのは、金茶の髪。

いつも、HAで笑っていたあの人。

「……連れてきてほしい人がいて」

北の騎士団からは遠いけれど、ギャブッシュの速さならたどり着けるはず。

「ハストさんと訓練をして、避けるのが上手で……。私の力を知ってて……すごく、頼りになる人がいるんです」

――きっと、助けにきてくれる。