軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

豚肉パーティー

私の食欲が結界を凌駕してしまうとして。

それがすごく危険な能力であることはわかる。

お腹すいたなーお肉食べたいなーと思ったとき、「はい、よろこんで!」と魔獣が来てしまっては困るわけだ。

ということで、話し合いで決まったことは以下の二点。

・お肉のことは考えない

・秘密厳守で

……うん。そうだね、そうだろうね。

まったく根本的な解決にはなっていない。

まあ、話し合ってた時間が深夜だったし、本当に魔獣が出てしまうのかの確認などをするわけにもいかなかったしね。

検証や詳しいことは翌日以降に持ち越しとし、私たちは解散した。

そして、今日は――

「豚肉パーティーを、しましょう!」

『おー!』

場所は騎士団の調理場。

私の掛け声にお馴染み、一班のみんなが拳を天井へ突き上げた。

……ほら。まずはさ、難しいことは置いといて腹ごしらえをね。

朝から、暗くてできなかったところの片付けを行っていたので、魔獣の検証はまだできていない。

今はこれから、お昼の準備をしよう、というところだ。

ちなみに団長は報告書に追われて、目が死に、虚空をみつめながら手を動かしていた。

昨日から働きづめなので、みんな疲れている。そして、疲れには豚。ビタミンB1配合。

「シーナ様。黒豚はこちらに」

「はい、ありがとうございます」

盛り上がるみんなを手で制したハストさんが、私にこちらです、と食材を見せてくれる。

木の机に乗っているのは、きれいなピンク色の肉の塊。

うん。黒豚をね、早速解体してもらったよね。

騎士団のみんなはさすが狩人の雰囲気を持っているだけあって、解体は得意中の得意ということだった。

「シーナ様に頼まれていた肩部分です」

「わぁ……すごくおいしそう……」

ピンク色の肉はしっとりと輝き、白い脂が走っている。

程よくついた脂は火を通すと、じゅわっと染み出てくるはずで――

「黒豚、ありがとう……」

おいしくいただきます。

「シーナさん! 僕はラードを作ったよ!」

つぶらな瞳のぶひっと鳴いていた豚に感謝をしていると、レリィ君が見て見て! と鍋の中身を見せてくれる。

それはパングラタンの具材を作ったときに使った円付鍋で、今はそこには白い脂が半分固まったような状態でたっぷりと入っていた。

そう! 豚と言えばラードだよね!

豚はしっかりと皮下脂肪をつける動物で、さすがにそれを全部食べることはない。

肉を食用に加工する段階でいらない部分は取り除くわけだけど、その脂からはこうしてラードが抽出できるのだ。

「レリィ君ありがとう」

「シーナさんに頼まれた通り、背脂を小さく切って、水と一緒に脂を炒めるだけだったから簡単だったよ!」

「量が多いから大変じゃなかった?」

「ううん! 僕は主に火加減を見て、混ぜるのはゼズさんがやってくれたから大丈夫だったんだ」

「そうだったんだね。ゼズグラッドさんもありがとうございます」

「……別にこれぐらいどうってことねぇ」

ゼズグラッドさんがけっと吐き捨てる。

でも、大丈夫。うん。わかってる、わかってるよ……。

ラードを作るために大事なのは焦げないようにすること。

そして、作ってくれたラードは真っ白で、まったく焦げていない。

こんな大量のラードを作るには、レリィ君による火加減も重要だが、混ぜるのも大変だったはずだ。

今日もまた与えられた任務を全うしようとして……ふふんラッシュ……。

「おい! その目ぇ!」

あたたかい目をすると、即座にふふんラッシュ……まーくん……ゼズグラッドさんが突っ込んでくる。

相変わらず、察知能力が高い。

「あの、椎奈さん。私も手伝っていいんですか……?」

「もちろん!」

私があたたかい目をしていると、隣からおずおずと声がかかる。

そちらを見ると、かわいい水色のエプロンをつけた雫ちゃん。服装もドレスじゃなく、昨日みたいなワンピースだ。

かわいい。かわいいがすぎる。

「エプロンがすごく似合うね。レリィ君が用意してくれたんだよね?」

「うん! 僕のエプロンとお揃いのエプロンを兄さんが持ってたみたい。昨日は知らなかったんだけど、今朝わかったんだ。もったいないって言って、鍵付きのトランクに未使用のまま入ってて……」

気持ち悪いよね、とレリィ君は一瞬ゴミを見る目になった。

「兄さんは使う気はないみたいだし、水色のフリルエプロンなんて似合わないから、きっと聖女様に似合うと思って」

「うん。最高にかわいいね」

スラスターさんが自分には小さいサイズのレリィ君とお揃いのフリルエプロンを持ち歩いていたのか?

こわい。こわさしかない。

もうそれは触れないでおこう。

エプロンもさ、スラスターさんに持たれているよりも、雫ちゃんに使ってもらったほうが本望だもんね。絶対。

「雫ちゃんは今の話聞いて、いやになってない?」

まさかこのかわいい水色フリルエプロンにこわさが潜んでいるなんてね……。

レリィ君の話を聞いて、雫ちゃんが嫌な気分になるかと思ったが、雫ちゃんは首を横に振った。

「あの、……椎奈さんが、かわいいって言ってくれたので」

頬を染めて、ふわっと笑う雫ちゃん。

かわいい。かわいいがすぎる。エプロンのこわさ? 知らないな。

スラスターさんはいつも通りに特務隊を引き止めてくれているので、ここに現れることもないしね。

「では調理をしていきましょう!」

『おー!』

スラスターさんの気持ち悪さを吹き飛ばすように声を上げれば、一班のみんながまた天井に向かって拳を突き上げる。

今度はレリィ君も一緒に拳を上げ、雫ちゃんもおずおずと少しだけ上げた。

ハストさんはしっかりと頷いてくれ、ゼズグラッドさんはけっと吐き捨てる。

それぞれの返事を確認した私は、調理作業の分担を支持していく。

「では一班のみなさんはパン粉を作って下さい」

「パン粉?」

「パンを細かくしたものなんです。固くなったパンをすりおろしたり、砕いたりしたらできるんです。あのチーズをすりおろすやつとかでできると思うんですが……」

「うぃーっす! 了解っす! パンと道具を用意したらまた呼んでいいっすか?」

「はい。お願いします」

今回はいつもの大きな丸いパンをパン粉にして使う予定だ。

ここには塊のチーズを粉チーズにするような調理器具はあったので、それを使ってもらえば作れると思う。

一班の班長であるガレーズさんは簡単な説明で理解してくれたようで、班員に指示をしながらパンや道具を準備してくれている。

あとでちょっとだけ一緒にやれば、すぐにパン粉作製を会得してくれそう。

「ハストさんには豚肉をこれぐらいの厚みに切って欲しいです」

お肉の前に移動をし、親指と人差し指で厚さを伝えて、お願いをする。

厚みはだいたい2cmぐらい。

「わかりました」

ハストさんに厚さを伝えるとハストさんはお肉の塊にスッと包丁を入れた。

……うん。さすがハストさん。お肉をね、すごく正確にしかも素早く2cmの厚さに切っていくよね。もはや機械だよね。ミートスライサーだよね。

「あとはレリィ君、ゼズグラッドさんには肉の筋切りをお願いしたいです」

「すじぎり?」

私の言葉にレリィ君が首をこてんと傾げる。

私はうん、と頷いてから、ハストさんの切ってくれている2cmの厚みになった肉をまな板に置いた。

「ハストさんの切ってくれたお肉なんだけど、この脂身と赤身の間にね、包丁で切れ目を入れて欲しくて」

説明をしながら、実際に包丁をお肉に入れていく。

刃先を入れて、間隔は1cmぐらいかな。

「こうしておくと、豚肉に火が通ったときにお肉が反ったり、縮んだりしないんだ」

「うん、わかったよ!」

レリィ君が明るく頷いてくれるので、はい、と包丁を渡す。

ゼズグラッドさんは興味のない素振りを見せながらも、しっかりとその工程を見てくれていた。

「ふーん……そんなんするんだな」

そして、ぼそっと呟く。

うん。ちゃんと伝わったようでなにより。

ゼズグラッドさんなら器用にこなしてくれるだろう。

というわけで。

「それじゃあ雫ちゃんには私と一緒に台所に行ってもらっていいかな?」

「はい」

雫ちゃんがわかりました、と頷く。

そして、作業をするみんなを見ながら、こっそりと私に耳打ちをした。

「……あの、椎奈さん、これってやっぱり、あれを作るんですか?」

「うん。今回は魔獣に戦って勝ったところだからね」

そう! パン粉と豚の肩ロースと言えば、やっぱりあれ!

――勝った! 勝った! 昼食はとんかつだ!