軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

怪獣大決戦

台所へと移動した私は、冷蔵庫に保管していたスコーンの生地を取り出して分割。

ワンドアぱたんオーブンで、あっという間にスコーンを焼き上げた。

ね。持ってて良かった保管生地。

夜おやつに取っておいたスコーンと合わせてカゴに入れ、温泉前に帰還。

そして、待っていてくれてたガレーズさんと、丘を下りていく。

「イサライ様! 戦闘は始まってるみたいっす!」

「っ音が聞こえますね」

「あの土煙の辺りだと思うんで、近づいたら気を付けて欲しいっす!」

「わかりました」

砦に向かって走りながら、ガレーズさんと会話。

どうやら砦にはまだ魔獣は侵入していないようで、魔獣の森と砦の塀との間で戦っているようだ。

金属の擦れる音や打撃音、動物の悲鳴が上がる方向へと近づいてみれば――

「――これはひどい」

ひどい。

王宮で見た光景再び。

「このイノシシは副団長が仕留めてるっすね。木でグッサリやられてるっす」

「オブジェですね」

「この辺りは弟君っすかね。こんがり焦げてるっす」

「よく焼きですね」

ねー。王宮でもそうだったよねー。二人が強すぎて、私の決意の空回り感ねー。

どうやら今回出現したのはイノシシ型の魔獣だったようで、大きいのは4LDK、小さいのはワンルームぐらいのイノシシたちが磔&黒焦げ。

どっからどう見てもハストさんとレリィ君の所業である。鬼の所業である。

「あ、団員発見! おい! いけてんのか!」

「おー! こっちはいつも通り五人一組でいけてる! 副団長と弟君が大半を引き受けてくれてるからなんとかなりそうだぜ!」

「他のヤツらは!」

「もっと魔獣の森側で戦ってる! 俺は剣が折れちまったから一回撤退だ。またすぐ戻る」

「結界はあるよな?」

「結界はなんも変わってねぇ。いきなりこのイノシシ型だけ出てきやがった」

ちょうど魔獣の森のほうから団員が走ってきて、私たちと合流した。

ガレーズさんが簡単に情報収集をしているが、話を聞く限りこちらが優位そう。

乳白色の結界は私の目にも見えているし、維持はされているのだろう。

ということは、王宮のときのように、一か所、または一瞬だけ結界の弱いところができてしまって、そこから偶然魔獣が出てしまったのかもしれない。

「じゃ、俺は行くぜ!」

「あ、待ってください」

とりあえずの話を終えたらしい団員さんが砦に向かおうとする。

私はそれを引き止めると、はい、とスコーンを配った。

「これ食べてください。食べると力が強くなるんで」

「おお、噂に聞いてたやつ! あー……でも、女性にお菓子をもらうの初めてなんで、もっと味わって食べたいっす……というか、持って帰って部屋に飾りたい……」

すぐに食べてもらえるように小さめに作ったスコーン。

それをこの大きな体の団員は、それはそれは大切なものをもらったかのように両手で受け取った。

目はきらきらとして、本当に宝物を見つけたときのようで――

「うるせぇ! 俺なんかさっきからずっと見てんのに、もらってもねぇんだぞ! いいから食え!」

そんな男性にいつもニコニコ笑っていると思っていたガレーズさんはイラッとしたらしい。

宝物スコーンを奪い取り、無理やり団員の口へ入れる。

団員はふがふが言いながら食べ終え、その体がきらきらと光った。

「うめー!!」

そして、空に吸い込まれていく歓声。

「めっちゃうまい! なんだこれ! サクサクッ!」

「うるせぇ! 行け!」

「なんか今なら素手で魔獣を倒せる気がするぜ! イサライ様、ありがとうございまっす!」

団員は破顔して、手を振りながら去っていく。

私もそれに手を振り返していると、ガレーズさんの目線を手元に感じて――

「これならまだいくらでも作れますから」

「本当っすか!?」

「はい。とりあえず今日は食べていない人の分という感じで……」

「いや、俺もそれはわかってるっす! 俺たちは昼にいただきましたからね!」

そう。今日のお昼に一班のみんなやハストさんたちには昼食としてカルボナーラを食べてもらった。

なので、パワーアップ効果は現在も持続しているはずなのだ。

「でも、ほら、力が強くなるのとは別として、イサライ様のメシを食いたいんすよね。俺、めっちゃ好きなんで!」

ガレーズさんはそう言うと、うしっ! と気合をいれた。

「またイサライ様のメシを食うために、とりあえず今を乗り切るっす! じゃあ、もうちょっと近づいてみましょう!」

「はい!」

もう一度進み始めたガレーズさんに小走りでついていく。

イノシシ型魔獣は相変わらず焦げたり、磔や首だけごろんの状態でその辺に転がっていた。

うーん。凄惨。

それを横目で見ながら、どんどんと魔獣の森へと近づいていく。

この感じから考えるに、ハストさんたちは塀の前のほうに待機していて、まずはそこで戦闘があったのだろう。そこから魔獣の森へと戦線を押し上げているようだ。

「あ、そろそろ現場っす。気を付けてくださいね!」

ガレーズさんの言葉に顔を前へ向け、目を凝らす。

そこには――

「上空からの火の雨で集団撃破。同じく上空からドラゴンの閃光で離脱したやつを撃破。地上では木の杭が個別撃破してますね……」

これはひどい。

一応、人間対魔獣っぽいところとしては、団員五人一組VS一匹の魔獣っていうところもある。

でも、ほとんどの魔獣は空を飛んでるレリィ君が降らせる火の雨で撃破され、そこから逃れようとした魔獣はギャブッシュが口から吐いた閃光で吹き飛ばされていた。

なんとか生き残っていた魔獣の群れもハストさんによる木の杭で確実に息の根を仕留められているし……。わー。逃げ場がないんだなー……。

「おおー!! すごいっすね! 俺、興奮してきました……!」

「はぁ」

「副団長も人間じゃないっすけど、弟君も人間じゃないんすね!」

「ふむ」

「ギャブッシュ先輩はもちろん人間じゃないし!」

「へぇ」

ここは怪獣大決戦か。

「あ、でも、イサライ様には特に副団長に注目して欲しいっす。確かに弟君もすごいし、ギャブッシュ先輩もさすがなんすけど、ああいうのって案外、難しくないんすよ!」

「ほぉ」

「たくさんいる的に集中砲火って、力がある限りはいけるんすけど、やっぱり体力勝負みたいになるし。あと、群れから逃げていくやつも案外追いやすいっす。でも、副団長はすごいんすよ。群れの中にいながら、まだ意思のあるヤツ、力を蓄えているヤツを狙っていきますから。しかも無駄玉なし。一撃必殺。あーしびれるっすよね!!!」

「……なるほど」

ガレーズさんの言葉のワクワク感とは反対に私の心は凪いでいくけどね。

つまりハストさんはさ、部隊の頭を確実にとっていくぜ! みたいなことだよね。大将首から狙う、みたいな。魔獣なんて見た目はほぼ一緒なのに、なにかしらかで察知してるんだもんね。

たぶん、このシロクマに死んだふりは通じない。死んだふりしたら即食われる。こわい。

「副団長たちがイサライ様を傷つけるとは思わないっすけど、危ないんでこれ以上は近づかない感じで! スコーンは俺が代わりに配ってきますんで!」

「あ、はい!」

「俺は身のこなしには自信があるんで、全部避けれるっすから! ちょっと行ってくるっす!」

ガレーズさんはそう言うと、スコーンの入ったカゴを私から受け取り、決戦会場に向かって走っていった。

降ってくる炎や、突然出る閃光、猛スピードで飛んでくる木の杭を難なく避けながら、横のほうで戦っている団員たちに素早く配ってくれている。

本当に身のこなしがすごい。

ガレーズさんのおかげで団員のみんなにもスコーンが行き渡ったようで、あちこちで体が光っている。

魔獣も今戦っている群れが最後のようで、たぶんもうひと押しだ。

そんなわけで、警戒をしながらも、ほっと息を吐いたとき――

「……っ!」

群れにいた魔獣の一匹と目が合った。

確実に私を認識した色。

そして、その魔獣は予備動作もなく。まっすぐに私に向かってくる。

さすがはイノシシ型の魔獣ということだろう。

その突進力とスピードは並みのものではなく、一瞬、みんなの反応が遅れた。

「シーナさんっ!」

遠くでレリィ君の声がする。

それと同時に隣に聞こえる、低い声。

「シーナ様、ここは私が」

……っ!

「……ハストさんっ!?」

び、びっくりした。

魔獣と目が合ったよりもびっくりした。

遠くにいたはずのハストさんが隣にいる!? すごい速度すぎない!? いや、今はそれよりも!

「は、ハストさん、あの、私にやらせてください!」

そう!! 私にはあれがあるから!

迫りくる魔獣に焦りながらも、台所からスコーンと一緒に持ってきていたアレを目の前にかざす。

「わかりました、では支援します」

ハストさんは私のそれを見ると、頷き、私の安全を守れるような位置で、かつ視界を塞がない場所へと移動してくれた。

なので、私は目前に迫った魔獣に右手に持っていたそれを向ける。

そして――

「おいしくなぁれ!」

――うなれ聖剣!(包丁)

その切っ先が向いた途端、巨大なイノシシ型の魔獣はぱあっと体を光らせた。

そう。私はハストさんが作ってくれた聖剣……いや、三徳包丁を持ってきていたのだ。

……ほら、魔獣に向けたら、食材になる可能性がワンチャンあるかなって。

体を光らせた魔獣はみるみるうちに体が小さくなり――

「こ、これは……!」

その姿にごくりと唾を飲みこむ。

そう。そこに出現したのは――

「くろぶた」

黒豚!