軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

はちみつキャラメリゼのナッツスコーン

温泉が一日にしてなったのは夕方のこと。

そこから、私たちは一度解散することにした。

スラスターさんが特務隊を引き止めてくれていたが、限界が近そうだったからだ。

朝から夕方まで雫ちゃんを連れて行ったままだったけど、特務隊の人たちが心配してイライラし始めたらしい。

さらにそれを引き止めるスラスターさんもレリィ君が足りなくなってイライラ。

各々が各々の必要な栄養素(雫ちゃんとレリィ君)を摂るべき。一刻も早く摂るべき。そう判断したのだ。

そんなわけで、解散して、私はいつも通りに騎士団のみんなと夕食後、部屋に戻ってきていた。

そして、今は――

「なるほど……電子レンジを買うには家電収納庫がいる。そして、家電収納庫を置くにはスペース拡張がいるんだな……」

台所で液晶を操作しながら、ふむふむと一人で確認。

そう! 新たな家電をね! ポイント交換しようと思ってね!

雫ちゃんと一緒に料理ができるとわかってから、ポイント交換をガンガンしている。タガが外れている。でも、ずっと欲しかったものだし。自分一人じゃないって思うと、なんかいろいろ欲しくなってしまう。後悔はしない。絶対。だから、さっそく!

「スペース拡張! 家電収納庫! そして、オーブンレンジ!」

軽快にタップして、ポイント交換。

すると、台所が白く輝いて――

「おお……広くなった!」

まず、台所のスペース自体が一回り大きくなった。そして、今までなかった家電収納庫が冷蔵庫の向かい側にポンと置かれていた。

今までの狭さなら、家電収納庫を置いてしまうと、冷蔵庫のドアは開かなくなる。

でも、広くなった今はどちらにも干渉せず、かといって遠くなりすぎて、移動に手間取ることはなさそう。うん、ちょうどいい!

そして、なんにも乗っていない家電収納庫の中で一つだけ置かれた、あれは――

「大型オーブンレンジ! はー素敵。はーかわいいー」

近寄って、その姿を存分に愛でる。

お高いけれど、これで電子レンジでちょっと温めたり、オーブンで焼いたりができるように……!

「……雫ちゃんとお菓子作りもできちゃう」

浮かび上がった妄想の姿に、にんまりと……にんまりと口角が上がってしまう。

今回20万ポイントを越えて使ったので、ためていたポイントは四桁になってしまった。

でもいい。雫ちゃんと一緒にお菓子が作るから。クッキー作るから。

「よし、試してみよう」

そう。せっかく新しく手に入れたんだから、まずは使ってみないとね。

雫ちゃんとは一緒にお風呂に入る約束をしているけれど、それまで時間がある。

なので、さっそくオーブンレンジの試用を。

「もう作るものは決めてるしね」

うん。もう決めているのだ。

なので、ささっと液晶を操作して、調理に必要なものをポイント交換。

「無塩バターとオーブンシートとビニール手袋、ラップ……と」

これで、材料と器具はオッケー。

調理台の上に必要なものが空えばさっそく調理開始!

お菓子作りは計量が命なので、まずは材料の計量だ。

といっても、ホットケーキミックスとバターと牛乳しか計るめのはないのであっという間。

そして、今回は実はあらかじめ持ち込んでいたものもあって――

「ナッツのはちみつ漬け!」

瓶の中できらきら光る琥珀色とそれに浸ったたっぷりのミックスナッツ。

これは雫ちゃんが来る前に、ハストさんやレリィ君、ゼズグラッドさんと市場で買い出したものだ。

花の王国と謳われるこの国は、はちみつが名産。それに売っていたナッツを合わせて、ナッツのはちみつ漬けを作っておいた。

ローストしたナッツをはちみつに漬けておくだけの簡単なもので、ヨーグルトにかけたり、パンに載せたりして食べると最高なんだけど、今日はこれに一手間。

「ナッツをキャラメリゼにする!」

――キャラメリゼ。

なんか魔法みたいな響きだけど、要は砂糖を飴化してパリパリにしたものだ。

はちみつでも可能で、今回はナッツをコーティングしたいと思う。

「オーブンシートを切って、フライパンを火にかけて……」

温めたフライパンにナッツのはちみつ漬けを投入!

ナッツとはちみつの割合は4対1ぐらい。焦げないように箸でぐるぐる混ぜるだけの簡単作業だ。

いい具合になったところで、オーブンシートに広げ、できるだけ一つ一つに分けて……

「よし。あとはワンドアぱたんで完成」

オーブンシートごと冷蔵庫に入れれば、あっという間に完成!

ワンドアぱたんした後のナッツは、キャラメル色の飴にきれいにコーティングされていた。

さすが時をかける冷蔵庫。今日も時空を越える。

「具はできたから、次は生地!」

ナッツのキャラメリゼができたので、それを持って調理台に戻る。

ナッツのキャラメリゼは横に置いて、ボウルの中にホットケーキミックスと細かく切っておいた無塩バターを入れる。

そして、ビニール手袋をつけた手で、無塩バターをすり混ぜていった。

バターを指で潰して、それを粉と合わせて……。

最初は固形だったバターが粉に紛れてなくなるように、両手を合わせて、さらさらと……。

「うん。焼き菓子作ってるって感じがする……」

手で潰されるバターとぎゅっと力を入れると固まる粉。

これが、おー焼き菓子作ってるぞーって思う。食事を作るときにはあまりやらない工程だからね。

そうして、粉とバターに分かれていたボウルの中身は、一見すると粉しか見えなくなる。

ただ、力を入れればぎゅっと固まることで、バターが混ぜられていることがわかるのだ。

そこに量っておいた牛乳とナッツのキャラメリゼを投入。

水分を吸った粉にナッツが混ざれば、一まとめにしてまな板へ。

それを、平たく潰した。

「よし。じゃあ層を作っていこ」

平たく潰した生地を包丁で四分割して、それを重ねていく。

そしてまた、最初の圧さぐらいに平たく潰した。

これを繰り返せば層ができていくのだ。

何度かその作業をして、最終的に厚さ2cmぐらいの平たい長方形にして、四分割。

「生地完成!」

難しい工程はなんにもない。ただ混ぜて長方形にしていっただけ。

で、なぜ、四つに分けたかというと――

「やっぱり楽をしたいから……」

……ほら、難しい工程はないけど、毎回作ってたら疲れるし。

生地を作るときって一回分を作るのも四回分を作るのも大した違いはない。

だったら、一気に作っておいたほうが断然お得。うちの冷蔵庫は時をかけているしね。確実に完璧な状態でいい感じに保存してくれるしね……。

「じゃ、ラップに包んで、冷蔵庫、と」

四つに分けたものをそれぞれラップに包んで、冷蔵庫へ。

これぞ、秘技・一回の下ごしらえで四回分の生地!

「というわけで、オーブンレンジを使ってみよう」

どきどき、わくわく。

まずはボタンを押してオーブンに。ピッという電子音がすばらしい。そして、予熱のために180度に設定すると――

「……!! よ、予熱が一瞬で……!?」

――なんということでしょう。

これは現実でしょうか。レシピにさりげなく書かれている割に重要で時間がかかる、あの予熱作業がこんな一瞬で……?

レシピに『・あらかじめ予熱しておいた200度のオーブンで10分』とか書かれて、おいおい、いつ予熱なんて頼まれたよ? うちのオーブンは100Vのオーブンだから200度にするまで10分はかかるぜ? 生地ダレダレじゃねーか! ははは……はは……、神よ……みたいな悲劇が起こらない、そういうこと……?

「好き……大好き……」

すりすり。オーブンレンジすりすり。予熱ですでに熱いから、あちってなった……。

余熱ができているなら、生地を分割して、焼けばいいだけだ。

私はオーブンレンジを愛でるのを一度辞め、冷蔵庫から生地を一つ取り出した。

ラップをはがして、包丁で分割。

今回は細長く成形して、計12個にした。

それをオーブンシートを敷いた天板に等間隔に並べれば、あとは焼くだけ!

「……これ、もしかして……」

もしかして。

「ワンドアぱたんだったり……」

する?

しちゃう?

「予熱しておいたオーブンに入れて、扉を閉めて……時間を設定したら――」

ピピーピピーピピー

「――っ!! やっぱり!!」

できてる……!

本来なら15分焼こうと思っていたのに……! できましたよの電子音がすでに鳴っている……!

「すごい……『台所召喚』はすごい……」

これは夢に見たリアル3分間クッキングが可能……。テレビでよく見る「できあがったものはこちらです」みたいなのが入るから、実際の調理時間は全然3分じゃないな。そうか放送時間が3分間クッキングってことね。なるほどなるほど。が、実際にできてしまう……!

「結婚しよ……」

とわにともに

「よし、とにかく取り出してみよう」

結婚式は後日にして、まずは既成事実の確認をね。

というわけで、天板を取り出す取っ手を使って、オーブンから出してみれば――

「うん! おいしそう……!」

白かった生地はこんがりと焼き色が付き、キャラメリゼされたナッツから飴がとろりと流れている。

上がる湯気に乗ったバターと小麦の香りが鼻に届いた。

最初より膨らんだ生地は所々に割れ目があって、見た目からしてもうサクサク感!

「すばらしいスコーン……!」

できあがったそれに思わず自画自賛してしまう。

いや、だってこのおいしそうさは完璧……! スコーン感が完璧!

「……これならみんなも食べられるよね」

そう。今回スコーンを作ったのには理由がある。

温泉を作っていたときにガレーズさんが教えてくれた、ハストさんの男前エピソード。

ハストさんがめちゃつよという話だったけど、私は魔獣の森の危険性に驚いてしまった。

その話からわかったのは鹿狩りが命の危険を伴う任務になり得ること。しかもそれが偶発的、突発的に起こってしまうことだった。

魔獣の森の結界があるから大丈夫ということではない。

北の騎士団が任務をこなそうと思えば、必ずある危険。

それを聞いて、私もなにかしたい、と思ったのだ。

といっても私にできることなんて限られている。

結果、みんなが困ったときに、私の作ったものを食べることができれば、力になれるのではないか、と思った。

「それに必要なのは日持ちがして、持ち歩きやすい食べ物」

任務は外で行うし、みんな体を使う。

動くときにポケットやちょっとした袋に入れても、割れたり邪魔になったりしないもの。常温保存で、特別な管理はいらない。さっと取り出して、そのまま食べられる。

さらに栄養豊富なナッツに糖分と塩分。バターのカロリーと小麦粉の腹持ち感で、携帯栄養食を作ろうと考えたのだ。

「このスコーンなら全部叶えられる」

少量でも詰まっている感じがして、クッキーよりボロボロになりにくいし、しっかり焼くから日持ちもする。

今回はオーブンの試用とそれの試作も兼ねたのだけど、思いのほかうまくいった。

というわけで。

「さっそく味見!」

焼きたてのスコーンを熱いうちに食べる!

「一番形が悪いやつにして……あちっ」

天板を調理台に置いて、そこから一番形が悪いものを選んだ。

やっぱり、みんなにあげるやつはきれいなほうがいいから。

まだアツアツの細長いスコーンを手にして口に運んで――

「おいしい……!」

ザクザクっとした噛み応えの外側とホロホロくずれていく中側。

キャラメリゼしたナッツのカリカリ感もちょうどよく、お腹にしっかりとたまる。

口の中いっぱいにひろがるバターの香りも最高!

「じゃあ、残りは置いといて、温泉のあとにみんなに食べてみてもらおう」

そう! この後はもう一度、雫ちゃんと合流して、温泉に入る予定なのだ。

なので、スコーンはこのまま天板の上で冷まして、お風呂上がりに一緒に食べることにする。

夜の焼き菓子は罪の味がして最高においしいからね……。ハストさんやレリィ君、雫ちゃんに罪の味を覚えてもらわなきゃね……。

にんまりと笑いながら、一応さっと片付け。

あとは、部屋に戻って、温泉へ行くだけ!

――はちみつキャラメリゼのナッツスコーン。

「『できあがり』」