軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

薄いベーコンと黒こしょう

「できあがり!」

その言葉を発すると、体が元いた部屋へとワープした。

うん、なるほど。

どうやら『できあがり』の言葉がワープの合図になっているようだ。

『台所召喚』で台所へ行き、『できあがり』で戻ってくる。

よし、完全習得!

にんまり笑うと、コンコンと扉がノックされた。

ちょうどいいタイミングすぎて、肩がびくぅとなる。

「っはい」

「ハストです。よろしいですか」

「はい、どうぞ」

ウォルヴィ・ハストさん。イケメンシロクマ。

なんか気配がどうとここうとか言ってたけど、本当にわかってるみたいだ。

だってめちゃくちゃタイミングがいい。私が戻ってきた途端のノック。心臓に悪いノック。

普通は扉を隔てた向こう側に人がいるかどうかなんてわからない。

そりゃ声がするとか物音がするとかならわかるけど、私は声も出していないし、音を立てていない。

だから、本気で気配だけで察知しているのだろう。

……イケメンシロクマ、すごいな。

イケメンシロクマの能力に感動していると、扉が開き、彼が部屋へと入ってくる。

そして、私の手元を見た途端、水色の目がきらきらと輝いた。

「おいしそうです」

「いや、本当にたいしたものじゃないんですけどね。子供でも作れますし」

「これを…、子供が……」

あまりにきらきらと輝く目に謙遜すれば、なぜかイケメンシロクマは目を見開き、私の手元をじっと覗きこんだ。

「子供がベーコンをこんなに薄く、均一に切れるとは……」

イケメンシロクマの信じられない……という呟き。その呟きに彼の驚きの原因がわかった。

なるほど。そういうことね。

「いえいえ、このベーコンはすでに切った状態でお店に売られているんです」

「切った状態で?」

「はい。私のいたところでは、この薄いベーコンの方が庶民的でブロックベーコンの方が豪華な感じがするんです」

「この技術が庶民的……」

かなり高度な剣術のスキルを感じる、とイケメンシロクマは呟いた。

いや、剣術スキルじゃないよ。

機械がね、たぶんやってくれてる。

「こんな薄さのベーコンは初めてです。……実は、イサライ様がさきほど召し上がっているのを見て、それがとても気になっていたのです。もし、イサライ様がこのベーコンを切ったのであれば、一度手合わせをしたいな、と」

「いや、無理ですから」

気配察知がどうとかこうとか言う人と手合わせなんかできるわけない。即死だよ。オーバーキルだよ。

「熱いうちにどうぞ。立って食べるのもあれなんでソファヘ」

本当ならテーブルとイスがあればいいんだけど、この部屋にはない。

だから、イケメンシロクマにソファを勧めて、二人で横並びに座った。

イケメンシロクマは遠慮していたが、他に座るところはないから仕方がない。

「これはどのように食べればいいですか?」

「いやもう好きに食べてください。そんな決まりがあるようなすごい料理ではないですから」

白身から食べて、黄身を最後まで残すもよし。

逆に黄身を食べてしまってから、白身を食べてもよし。

ベーコンと目玉焼きを別々にしてしまってもいい。

好みに合わせて、自由自在! それがベーコンエッグ! 懐が深い!

「では、イサライ様のおすすめの食べ方を教えてください」

「私のですか?」

「はい」

フォークを手に持って、イケメンシロクマがきらきらとした目で私を見る。

だから、私もその目に応えようと、にんまり笑った。

「ではまず、黄身を少しだけ割って下さい」

「黄身ですね、わかりました」

私の言葉にイケメンシロクマのフォークが動く。

黄身にそっとフォークの側面を当てると、プツッと表面が破れ、中からとろりと黄身が流れ出た。

「次に白身ごと、ベーコンを一枚切り離します」

「はい」

ベーコンは三枚を川の字のように。そして、一枚を川の字の上を蓋をするような形で並べている。計四枚。そのうちの一番左側のベーコンに沿って、白身に筋を入れる。

そうして、ベーコンを少しだけずらせば、白身の乗ったままのベーコンが一枚だけ切り離された。

「それを口に入るぐらいに畳んで、フォークに刺したりしてください」

「ベーコンと白身を一緒にフォークに取るんですね?」

「はい」

イケメンシロクマが器用にベーコン一枚とその上に乗った白身とを一緒にフォークに刺す。

それを口に入れれば、ベーコンの塩気と白身の食感がとてもおいしいはず。

でも……。

「さっき黄身を割ったところにベーコンと白身をたっぷり絡ませて、食べてみてください」

やっぱり、黄身を絡めて欲しい!

そんな私の言葉に、イケメンシロクマはしっかりと黄身をつける。

そして、それを口に運んで……。

「……うまい」

彼から、思わず、といった風に言葉が漏れる。

敬語ではないそれ。

その低い呟きが彼が本当においしいと思ってくれたように感じられて、口元が緩んでしまった。

「ベーコンは薄いながらもしっかりと燻製の香りがします。それにナイフなどを使わずに手軽に食べられるのもいいですね。ベーコンの油、白身の食感、それに黄身のまろやかなうま味が合わせって……」

そこでふと言葉を終えた彼が味を確認するようにゆっくりと口を動かした。

「これは黒こしょうですか」

イケメンシロクマは手元にあるベーコンエッグを観察しながら、私へと問いかける。

うまいとは言ってくれたけど、もしかして、こしょうは苦手だったのかも。

「あ、辛いのダメでしたか?」

「いえ、とてもおいしいです。本当に。ただこの国ではこしょうをこのような使い方はしないので」

……もしかして、黒こしょうが貴重だったり?

十字軍が遠征に来たり、その貴重さゆえに取り合いになって、金と同等の価値があったりしますか…!

「こしょうはあまり使わないのですか? すごく貴重で手に入らないとか…?」

中世ヨーロッパとインドの関係を思い出しながら、そっと尋ねる。

けれど、イケメンシロクマはそれには首を振った。

「いえ。確かに調味料としては少し割高ではありますが、手に入らないということはありません。ただ、使用する際は他のスパイスとともに細かくすりつぶし、肉などに擦り付けて焼いたり、スープに粒のまま入れて、食べる際には取り出すのが一般的です」

そして、また水色の目をきらきらと輝かせた。

「こんな風に仕上げとして直接砕いたものを上にかけるのは見たことがありません」

ただのベーコンエッグなのに、宝物を見るかのようにじっくりと観察している。

そして、おいしそうに二口目に入った。

「本当にとてもおいしい。ピリとした辛さももちろんですが、なによりも香りがいい。ベーコンと一緒に食べ、歯で砕いた時がたまりませんね」

どうやら、黒こしょうをとても気に入ってくれたようだ。

お皿の上のベーコンエッグがあっという間になくなっていく。

「とてもおいしかったです」

とろりとこぼれる黄身を器用にベーコンですくって食べたようで、お皿の上はまっさら。

そして、私を見て、とても嬉しそうに笑った。

「ごちそうさまでした」

イケメンシロクマが目と目の間。鼻のところがくしゃっとなる。

いつもは鋭い目も穏やかに細くなっていて……。

……なんかかわいい。

私より年上であるイケメンシロクマにこんな風に思うのは変だけど、なんだかとってもかわいい。

その笑顔が子供がするような、無邪気な笑顔だったから、思わず私も笑顔になってしまった。

「いえ、おいしく食べて頂いてありがとうございます」

ただのベーコンエッグだけど。作る手間なんてほとんどないけど。

でも、やっぱりおいしいって言ってもらえるとうれしい。

心がぽっとあたたかくなる。

笑い合えば、距離がぐっと近くなるよね。

そうして、二人で笑っていると、ベーコンエッグのお皿がきらきらと光って消えていく。彼が持っていたフォークも。

そして――

「え。なんか光って……」

「これは……」

――イケメンシロクマが輝きだした。