軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ふんわり玉子焼き~甘いのとしょっぱいのと~

「さすが雫ちゃん。桁が違う」

まさに。ゼロが一個多い。あからさまに多い。

今回は初回ボーナスで二倍になって、二万ポイントなのだろうが、そもそものポイントが一万ポイントということだ。

これまで食べてもらった人は初回ボーナスで二千ポイント。二回目からは千ポイントだった。

「こうなると、雫ちゃんに食べてもらうのが一番だよね」

なんせ。にまんぽいんと。

次からもいちまんぽいんと。

雫ちゃん一人で十人分。

「……作為的なものを感じる」

どう考えても、雫ちゃんに食べてもらいたくなるようなポイントだもんね……。

これまでは、スキルの力がバレないよう、少数精鋭でやっていた。

初回ボーナスのことを考えれば、出会った人にどんどん振る舞って、どんどん広げていくのが効率がいいのだが、スキルの効果がバレるのは良くない。

ハストさんが情報をくれ、私に道を選ばせてくれたおかげで、こうしてここにいることができていたんだけど……。

「やっぱり……そうなのかな」

……私の力は。

――雫ちゃんにごはんを食べてもらうため。

――聖女の力を使ってもらうため。

そのためにある。

だから、雫ちゃんのポイントは高いのかもしれない。

「まぁ、ポイント表示ってちょっと変だから、気にしすぎるのもあれなんだけど……」

だって、ときどき語弊があるし。すごく語弊があるし。

レリィ君に食べてもらうと『美少年のはじめて』だもんね。語弊。

ポイント表示でいえば、アッシュさんに食べてもらうと『警備兵の初恋』になることがわかった。

北の騎士団に来る前に警備兵の中では、アッシュさんだけに食べてもらう機会があって、そのポイント表示が『警備兵の初恋』だったのだ。

そして、ギャブッシュに食べてもらったポイントは――

『ドラゴンの 番(つがい) 』

何度見ても、心が無になる。虚無になる。だって胎生だから。わたしはたまごをうまない。

しかも、さらに不思議なこともある。

「……なんでハストさんだけ、ポイント増えていくんだろう」

そう。ハストさんのポイント表示だけ、どんどん変わり、ポイントも増えているのだ。

最初は『騎士の笑顔』だった。みんなと同じように初回は二倍ボーナスで二千ポイントで次からは千ポイントだった。

けれど、それが『騎士の誓い』で初回は二倍の三千ポイントになり、今は――

『騎士の思慕 4000pt』

「きしのしぼ、よんせんぽいんと」

うん。また成長してる。

初回ボーナスで二倍になっているとはいえ、基礎ポイントも二千ポイントになったということだ。

そして、この成長については心当たりがある。ありすぎる。

「絶対、これのせいだ……」

そっと頭につけた髪留めに触れる。

これはハストさんがスキル『研磨』を使って作ってくれたもので、市場に買い出しに行った後にくれた。

はちみつ色に輝く石がとてもきれいなんだけど……。

「思慕とは」

思慕。思慕ってどんな意味だったかな……。

漢字まんまで考えると。思い慕う気持ち……。慕う……。した、う……。……いや、なんかこう、懐かしく思う気持ち、みたいなやつもあった気がする。それだ。北の騎士団に帰ってきて、懐かしいって言ってたし、きっとそれ。それったらそれ。

「思い出すと息の根が止まるから、やめよ……」

うん。台所にはだれも助けにきてくれないのに、とどめを刺されるからね。やめよ。

髪留めをもらって嬉しかった。そう。そういうこと。

ついでに、ポイントのことを考えるのもやめる。

考えたってどうしようもないし、よくわからないけど、ポイントがたまるならいいことだ。

というわけで。

「ありがとう、雫ちゃん。ありがとう、ハストさん……」

手を合わせてそっと拝む。

雫ちゃんさまさま。ハストさんさまさま。

雫ちゃんにはwinwinだね。なんて言ったけど、圧倒的に私が勝っている。明らかに私が得をしている。WIN!!!winって感じ。私は太字。

「さ、料理作ろう!」

拝んでいた手をぐうに変えて、気合を入れる。

今、大切なのはポイントじゃなくて、雫ちゃんにごはんを食べてもらって、聖女のスキルになにか変化があるのかってことだもんね。

「今回は、卵とそれからみりんと……」

ポイント履歴から表示を変えて、食材を選んでいく。

さらに今回は調理器具も。手に入れたいものは――

「玉子焼き器!」

ポイント交換すれば、調理台が白く光り、そこには四角いフライパン。

そう! 今回作るのは玉子焼き!

お弁当の黄色の定番。居酒屋で頼んじゃうものNO.1。ついでにお寿司でも食べちゃう。日本人ならお馴染みの食べ物。

「雫ちゃんも喜んでくれるはず」

きっと。

うどんでとても感動してくれたので、そういう素朴な家庭料理っぽいものがいいかな、と思ったのだ。

朝食の後だけど、軽くつまめると思うし。

「よし。まずは玉子焼き器を温めるところから」

液晶から調理台に移動して、電熱器にポイント交換したばかりの玉子焼き器を乗せる。

電熱器は温まりが遅いから、早め早めにね。

そうして温めている間に、卵液を作るのに必要なものを取り出す。

「めんつゆと砂糖かな」

玉子焼きの作り方はいろいろある。

出汁をとったり、顆粒だしを使ったり。

で、今回は味付けはめんつゆに頼る。

「めんつゆは魔法の液だもんね……」

なんでもおいしくしてくれるよね……。

しかも早い。

計量カップにめんつゆと適量の水。これをボウルに入れて、卵を三個割って混ぜれば、もう卵液は完成してしまうのだ。

「玉子焼き器はもうちょっとかな」

卵液はすぐに完成してしまったので、まだ玉子焼き器が温まっていない。

そんなわけで、ちょっと待ちながら、てのひらをかざして、温度を確認。

しっかりと温まったところで、そこに油を入れた。

「よし、焼く!」

熱された玉子焼き器に卵液を半分流し込む。

ジュウッという音とともに、玉子焼き器に接した面がすぐに膜になっていく。

「空気を含ませて……」

その膜を壊すように、大きく素早く混ぜる。

水を入れた柔らかめの卵液が空気を含むと、ふわふわの玉子焼きになるのだ。

「うん。いい感じ」

素早く混ぜた卵液は波立ちながら、まだ半熟状態。

それを、奥から手前に向かって、手首を使って玉子焼き器に傾斜をつけ、ぐるぐると片側へと巻いていった。

菜箸でやっているので、ときどき穴が開く時もあるけれど、ここは中の部分になるので大丈夫。

黄色い玉子がころころと回り、いい具合の長方形。

「もう一回」

手前まで来た玉子焼きを押して、奥へと戻す。

そして、電熱器の上へ玉子焼き器を戻した。

巻く作業は玉子焼き器を電熱器から離す必要があるので、玉子焼き器の温度が下がってしまうのだ。

なので、卵を奥へ寄せたまま、もう一度、玉子焼き器を温める。

あまり温めすぎると、玉子焼きが焦げてしまうので、そこは気を付けて。

そうして玉子焼きが温まったら、残しておいた卵液をすべて入れ、同じ作業だ。

「空気を含ませて、玉子焼きを持ち上げて、卵液を入れて密着させて……」

また手首を使って傾斜をつけ、玉子焼きをぐるぐると巻いていく。

そうしてできあがった玉子焼きはやわらかく、ふわっとしていた。

「おいしそう……」

ほかほかと湯気を上げる、黄色い玉子焼き。

玉子の焼ける香ばしい匂いがなんともお腹に響く。

味見をしたいけれど、ぐっと我慢。

できあがった玉子焼きをころんとまな板に乗せれば、まずは一つめが完成!

「あとは余熱で火が通るから、二つめを」

そう。今回は雫ちゃんだけじゃなく、みんなの分も作ることにしたのだ。

雫ちゃん一人で食べるよりも、みんなでわいわい食べたほうが楽しいかな、と。

ハストさんやレリィ君、それにゼズグラッドさんやギャブッシュにも食べてもらえるとうれしい。

そんなわけで、先ほどの作業をもう一度。

玉子焼き器を温めて、その間に卵液を作る。そして、しっかり混ぜたあと、巻いていけば、二本目の卵焼きも完成!

「ふわふわだ……」

まな板に乗った二本の玉子焼き。

でも、今回はこれで終わりではない。

玉子焼き器をもう一度温め、今度はめんつゆに足す水は少なくし、砂糖とみりんも加えた。

「次は甘い玉子焼きで」

うん。やっぱり玉子焼きはしょっぱい派と甘い派がある。

雫ちゃんがどっちかわからないので、両方作ってしまおうという魂胆だ。……ほら、まーくんもどっちも食べるのが好きだったしね。ゼズグラッドさんがいるしね……。

味が変わっても、作業は同じ。

砂糖が入っている分、少し焦げやすいが、それに気を付ければ、同じようにふわふわの玉子焼きができた。

そうしてできあがった玉子焼きは四本。しょっぱいのと甘いのが二本ずつだ。

それを包丁で切っていけば――

「おお……さすが台所……」

切り終わった頃に、いつも通りに出てくるお皿。

今回は黒と白の長角皿二枚とそれを載せるお盆。さらに、みんなのお箸が入った木のカトラリー入れもあった。

完璧……。いつもながらのスパダリ……。

「好き……」

呟きながら、すりすりなでなで。

いつまでも愛でていたいが、冷めないうちに持っていかなければ。

――ふんわり玉子焼き。甘いのとしょっぱいの!

「『できあがり』!」