軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミルク色の……

レリィ君は薪用のコンロに火の準備をし、その間にハストさんと二人でたまねぎとベーコンを切ることにした。

私は大量のたまねぎを薄切りに。ハストさんにはベーコンを頼む。

「ハストさん、ベーコンは小指の先ぐらいの角切りにしてもらってもいいですか?」

「はい」

大きなベーコンがハストさんの手によって、あっという間に角切りになっていく。

ハストさんはスキル『研磨』を使うのではなく、包丁で切っている。

かき氷を作ってもらったときにはスキル『研磨』が大活躍したが、それは薄く削るという作業だったかららしい。

こうして物を切るとき、ハストさんは包丁を使っていた。

そうして、下ごしらえを進めていると、薪の準備を終わらせたレリィ君が声をかけてくる。

「シーナさん、あとは薪に火をつけるだけだけど、どう?」

「レリィ君、もうちょっと下ごしらえに時間がかかりそうだから、少し待ってもらってもいいかな」

「ほかに手伝うことあるかな?」

「それじゃあ、小麦粉をふるって欲しいな」

「うん!」

手が空いたレリィ君には量っておいた小麦粉をふるってもらって、あとはもうひたすらに切るだけだ。

大人数に作るのは作業の工程数はあまり変わらないが、なにせ量が増える。

なんとか下ごしらえを終わらせて、ようやく着火。

「じゃあレリィ君、中火でお願いします」

「任せて」

うん! と元気よく頷いたレリィ君の手から青い炎が出て、薪へと乗り移る。

薪は火をつけるときに少しコツがいるが、レリィ君に任せれば、あっという間だ。

「さすがレリィ君」

「いいスキルだな」

しっかりと燃える火を見て、ハストさんと二人でレリィ君に声をかけると、レリィ君は照れたように微笑む。

きっとこの場に眼鏡のあの人がいれば、『ああ……かぐわしい、かぐわしい』と喜んでいただろう。

そして、膝にすがりつき、私には100%嫉妬の目を――

うん。忘れよう。

「シーナ様。鍋はこちらでいいですか?」

「はい、わぁ大きい鍋ですね」

私が記憶をデリートしているうちに、ハストさんは大きな鍋を持ってきてくれていた。

それは小学校の給食室で見たことがあるような感じで、直径は両手で抱えられるぐらいで、深さは50cmぐらい。業務用の円付鍋に似ている。

その鍋をそのままコンロに置いてもらって、さっそく調理!

「まずは、ベーコンを入れてしっかり炒めます」

ハストさんが切ってくれた角切りのベーコンを鍋に入れると、ベーコンからじんわりと油が出ていく。

全体に火が通るように、大きな木べらで混ぜれば、ベーコンからはジュッジュッと音が鳴った。

その様子に私の隣で鍋を覗いていたレリィ君の目がきらきらと光る。

「ベーコンって炒めると、すごくいい香りがする!」

「うん。『かぐわしい』よね」

これが正しい使用法。

結局、忘れたくても忘れられていない。

うん。弟のことを大好きな兄が、どうしてもちらつくよね……。

そうしている間にもベーコンに火は入っていき、パチパチと鍋の中で跳ねるような音に変わっていった。

「ベーコンから油が出たら、次はたまねぎを入れます」

「では、混ぜるのは私が担当します。量が多いと重くなりますので」

ベーコンの様子を見て、たまねぎを入れようとすると、木べらで混ぜるのをハストさんが代わってくれる。

大きな鍋に大量のたまねぎを入れると、混ぜるだけで肉体労働感がすごいので、ここはハストさんに任せたほうがいいだろう。

なので、私は、切っておいたたまねぎをどんどん鍋の中に入れていった。

「たまねぎはしんなりして半透明になるまでお願いします」

「はい」

大量のたまねぎで重くなったはずだけど、ハストさんは鍋底から、てこの原理を使っている感じで、しっかりと混ぜてくれている。

やはり、量が多いものの調理に慣れているんだろう。

さすがハストさん。頼もしい。

「あ、炒まってきたので、次は小麦粉を入れます」

「僕が振るったやつ?」

「うん」

「じゃあ持ってくるね!」

私の言葉に、レリィ君はサッと動き、作業台に置いていた小麦粉を持ってきてくれる。

振るっておいた小麦粉はダマがなく、ふかふかだ。

「ハストさん、小麦粉を入れると焦げやすくなるんですけど、焦げないように混ぜて、小麦粉と油がしっかり馴染むようにして欲しいです」

「はい。お任せください」

「レリィ君、弱火に」

「うん!」

ハストさんに混ぜてもらいながら、レリィ君に火力を調整してもらう。

「では、入れますね」

レリィ君が弱火にしてくれたのを確認してから、小麦粉を鍋へと入れていく。

そして、鍋の中身を混ぜると、しっかりと出ていたベーコンの油が小麦粉と馴染み、色が変わる。

ベーコンとたまねぎはそんな小麦粉をまとい、少しだけもったりとしていた。

「ハストさん、このままお願いします。今はもったりとした小麦粉がさらりとするまでです」

「はい」

ここからは小麦粉が焦げやすくなるので、ハストさんにはずっと混ぜてもらうことになる。

なので、ハストさんに鍋を任せ、私は次に入れるものを取りにいった。

「よし、運ぶ……!」

そして、あるものの前で、一人気合を入れる。

私の前にあるのはあのミルク缶。

そう。ふふんラッシュが運ぶあれだ。

「え、シーナさんが運ぶの?」

「うん、他にいないし。私、案外、力があるんだ」

ついてきてくれたレリィ君が心配そうだから、任せて、と頷く。

ハストさんは鍋から離れられない。

レリィ君は力があるタイプじゃない。

だから、ミルク缶を運ぶのは私……!

明らかに重そうだけど、大丈夫。やれる。私は今から、ふふんラッシュになる……!

私はできる子、と鼓舞し、手をぎゅっぎゅっと何度か握った後、ミルク缶に手を伸ばす。

けれど、私の手が届く前に、そのミルク缶は動き出して――

「パンは切り終わったぞ。これを持ってけばいいのか?」

驚いて、ミルク缶を動かした持ち主を見上げれば、そこにあるのは据わった金色の目。

けっと言う声はぶっきらぼうだが、私がやろうとしたことを的確にやってくれた。

その重いミルク缶を軽々と持ち上げ、運んでいく後ろ姿に胸の奥がきゅうっとして――

「……ふふんラッシュ」

思わず、感謝を込めて呟いてしまう。

だって、もはや彼はふふんラッシュだ。

ミルク缶を運ぶ、後ろ姿はふふんラッシュだ。

「おい! なんか新しいの出たな!? 『ふふんらっしゅ』ってなんだ!? なんだそれは!?」

「大きな犬です」

「犬!?」

優しくて、健気で、ご主人思いの。

「シーナさんは犬が好きなの?」

「うん。かわいいよね。あと、頼もしい感じがする」

運ばれていくミルク缶についていきながら、レリィ君と話す。

すると、ハストさんは、鍋の元に戻った私を、水色の目でじっと見た。

「シーナ様。私は『北の犬』と呼ばれていました」

……うん。知ってる。

なぜ、いきなりここでその話になったのか、わからないけれど、犬繋がりということで、ハストさんは王宮でのことを思い出したのかもしれない。

『北の犬』は、初めて会ったアッシュさん(当時おかっぱ)が、言ってたやつだ。

王宮の騎士とは雰囲気の違う、この北の騎士団をそう言う風に呼ぶ人もいる、と。

でも、それはよくない意味だったはずだ。

それに、ハストさんは犬と言うより――

「ハストさんは犬よりもっと大きくて、強い動物って感じです」

そう。具体的にはシロクマです。

アザラシを狩るイメージです。

「すごくかっこよくて、頼もしいです」

だから、にんまりと笑って、ハストさんを見上げると、ハストさんはゴホッと一度むせた。

でも、その後、私に見せてくれた顔は、すごく嬉しそうで――

「納得いかねぇ! なんかこの流れ、納得いかねぇ! なんで俺が犬で、こいつはそれより強い動物なんだよ!」

そうだね。まーくんはまーくんだよね。

なんかごめんね、まーくん。

「その目!! 俺はまーくんじゃねぇからな!!!」