軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ピクニック

そうして、しずくちゃんが来ることがわかり、さらにハストさんがその辺りを仕切ることに決まった。

これから、迎える準備をするわけだけど、いろいろと確認しておかなければならないこともある。

団長室での話を終えた私たちは、一度、私の部屋へと戻り、話をすることにした。

現在、私が暮らしている北の騎士団は中心に堅牢な石作りの建物。そして、その周りをぐるりと背の高い石壁が覆っている。

石壁の上は人が巡回できるようにもなっていて、見張りをしたり、敵が来たときに上から攻撃したりするらしい。

規模としては王宮より小さいし、華やかさもないので、砦と表現するのが一番わかりやすいと思う。

中心の石作りの建物は背が高く、塔のようなんだけど、実際にはそこはあまり使用されていなかった。

どうやら、日常生活を送るには少し使い勝手がよくないようだ。

そんなわけで、石壁の中には木造の建物があった。

団員はそちらで暮らしているようで、私も団員と同じように、木造の建物に住んでいる。

二階建てで横に伸びるその形は木造校舎に似ているかな。

そこに団員それぞれの部屋があって、私は二階の角部屋をもらった。

王宮の端の端で暮らしていたときに比べれば、日当たりも良くなって、部屋も少し広い。

部屋の中にはベッドとローテーブルを真ん中にした応接セット。さらに窓際にはダイニングテーブルとイスが四脚あって、大きめなワンルームといった印象だ。

その部屋のソファに座った私の左側にはレリィ君がいて、正面はハストさん。

そして、いじけたままのまーくんは出窓に座り、外を見ていた。

まーくんは会話には参加しないだろうが、特に問題はないだろう。

というわけで、腰を落ち着けた私は、気になっていたことを質問することにした。

「それで、私のスキルは使ってもいいんでしょうか」

そう。とりあえず、しずくちゃんには会える雰囲気があるが、私はスキルをどうするべきなのか。

隠したほうがいいのか。それとも使用してもいいものなのか。

現在、北の騎士団の団員には私が異世界から来たことは説明してある。

そして、スキルについては、『食べると強くなる』や『食べると元気になる』は伝えていないが、私が目の前で消えたり、現れたりしても驚かないように、とは伝えてあるらしい。

なので、ここ一週間はそれなりに自由に暮らしていたんだけど、しずくちゃんが来るということは、特務隊の人も来るということで、そうなると、王宮での暮らしと同じようにしたほうがいいのかも?

そんな私の疑問にハストさんはすこし考えてから、答えてくれた。

「ここの団員がシーナ様のことを漏らすことはありえません。また外との交流はほぼないので、シーナ様のことを知ったとしても、問題はないだろうと考え、スキルについても話していました。しかし、聖女様はともかくとして、特務隊が知るとどうなるか」

「うん。僕はシーナさんの力のことは絶対に国に知られないほうがいいと思う」

レリィ君がいつもより強い口調でしっかりと私を見る。

「ヴォルさんはね、きっとシーナさんを心配させないようにあまり怖いことは言ってないかもしれない。でも、僕は強いスキルを持つっていうのがどんなことになるか知ってる。僕はたまたま体が弱かったから……それに、兄さんがいるから、こうして自由にできてる」

「……うん」

「もちろん、シーナさんのスキルのことを知られたとしても、僕は精いっぱい守る。どこまでだってついていく」

そのしっかりとした言葉に、胸があたたかくなると同時に、背筋もピッと伸ばされた気がする。

そう。『台所召喚』なんていうぼやっとした名前のスキルだけど、その効果についてはレリィ君のことやアッシュさんの回復したところを見たから、わかっているのだ。

これは本当にすごいスキルだから。

「シーナさんが利用されるなんていやだ。シーナさんにはいつも笑っていて欲しいし、いつだって優しいままのシーナさんでいて欲しい」

「……なんだか照れるね」

でも、その若葉色の目がまっすぐすぎて、さすがにちょっと照れる。

なんだか口元がむずむずして、どんな顔をしようか困ってしまう。

すると、さっきまであんなに明るかった若葉色の目がぎらっと暗く光った。

「――この国だろうと、ほかの国だろうと。七日もあれば燃やし尽せる」

……火の七日間!

だめだよ。それはくさってやがるになっちゃう。

「レリィ君……それは、体がどろどろにとけちゃうやつ……」

「え、シーナさんが僕をとろとろにとろかしてくれるの?」

語弊。

さっきまで暗かった若葉色が今ではうっとりとした色になっている。

こわい。どっちの色もこわい。若葉色こわい。

そっと左手の重みから目をそらす。

すると、正面にいたハストさんが話題を戻すように、いつもの冷静な声で話を続けた。

「シーナ様。レリィの言うことも一理ある。レリィはこの国だけの問題ではなく、他国も絡むかもしれないと思っているのです」

「……はい」

そう。レリィ君は『ほかの国も燃やす』と言っている。

つまり、私のスキルがこの国に利用されること、聖女と絡むこと、それだけじゃなく、もっと重大な問題に巻き込まれるかもしれない、と考えているのだ。

――それだけ、このスキルは可能性を秘めている。

「……例えば。レリィの言うように世界を焼き尽くしたとして。普通の人間なら生きていくのは難しいでしょう。世界で一人きりになって植物も動物もいなくなれば生き残ったとしてもどうしようもない」

ハストさんの優しい水色の目。

でも、今はそれがすこし怖くて――

「けれど、シーナ様は違う」

冷静なそれはじっと私を見つめている。

「この世界で一人でも、そのスキルがあれば生きていける。水と食糧。そして、だれにも侵すことのできない安全な場所。そのすべてをシーナ様は持っているのです」

「……そ、うですね。そう考えれば、例えこの世界がなくなったとしても……生きては行けるかもしれないです」

ハストさんに言われて、そのときのこと考えてみる。

だれもいない世界。

焼けた大地。

そこには動物も植物もない。

そんな世界で私は――

「……台所でポイント交換して。ごはんを作って。なにもない世界で『おいしいー!』ってベーコンエッグを食べてるかもしれないですね……」

うん。ホラーです。

私が真剣に頷きながら呟くと、なぜかハストさんは水色の目を少し大きくした。

「ベーコンエッグですか?」

「はい。ポイントが少なくていいかなって」

「シーナさん、僕のはじめて、は?」

「うん。はじめてというか、デトックスウォーターだね。そうだね。それも飲もうかな」

レリィくんの提案にも真剣に頷く。

「なにもない世界でベーコンエッグを食べて、デトックスウォーターを飲む……」

うん。ホラーです。

「……シーナさん。僕も一緒がいいな」

「うん。私もやっぱりひとりぼっちはいやだから、なにもない世界でレリィ君とベーコンエッグを食べて、デトックスウォーターを飲もうかな」

「……シーナ様。私もご一緒しても?」

「もちろん! じゃあなにもない世界でハストさんとレリィ君と一緒にベーコンエッグを食べながら、デトックスウォーターを飲む」

うーん。

「これ、ピクニックですね」

終末なにしてますか?

ピクニックしています。

私がそう呟くと、左手がふふふ、あははっと揺れた。

そして、正面のハストさんの目ももう怖くなくて――

「シーナさんにかかるとなんでも楽しくなっちゃうね」

「……本当に」

レリィ君の明るい笑い声とハストさんの優しい水色の目。

そのおかげで緊張していた空気がほわほわとやわらかいものに変わる。

「もしそんなことになったらピクニックなんて言ってる場合じゃねーよ」

どうやら、会話は聞いていたようで、まーくんもなにかを言っている。

でもべつにいやな感じではなく、むしろ、その声はどこか楽しそうだった。

「シーナ様、やはり、特務隊の前でスキルを使うのは危険か、と」

「はい。そうですね。終末ピクニックは避けたいですしね」

ハストさんの言葉にうんうんと頷く。

すると、ハストさんはゆっくりと言葉を発した。

「ただ、聖女様にシーナ様の料理を食べていただくのはいいかもしれません」