軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

食べると元気になる

ハストさんと美少年と目から光のなくなった私。三人で部屋へと移動する。

その間も美少年は幾度も私の心のやわらかいところをすりおろした。

やめて。

もう私のなにかのライフはゼロよ。

そうしてようやくたどり着いた部屋の中でまずは簡単な挨拶を。

「イサライ様。レリィグラン・サージです」

「レリィグランです。レリィと呼んで下さい」

「レリィ。こちらはシーナ・イサライ様。私の護衛対象だ」

「 小井(いさらい) です」

ハストさんから簡単にだけど、それぞれの紹介がされる。

私がソファに座り、その横にはぴったりと美少年、レリィ君。ハストさんはソファの向かいに立っており、手にはデトックスウォーターの入ったガラス瓶を持っていた。

そんなハストさんにおおまかにだけど、現状を説明する。

レリィ君が通路に座り込んでいたこと。

思わず駆け寄ったこと。

その体は熱く、苦しそうなのが見ていられなかったこと。

私が訓練場から離れたのはハストに差し入れをしたかったからで、たまたま持っていたそれをレリィ君に飲んでもらったこと。

すると体から黒いもやが出て――。

「……ハストさん?」

とりあえず一通りは説明した。ハストさんはなにかを即座に理解してくれたけれど、実際にこうして説明を聞けば、その展開に一緒に困惑してくれるんじゃないかと思った。

なのに、なぜかハストさんは口元を緩めていて……。

……ハストさん、なぜか笑ってるな。

「……差し入れ」

そして、ぽつりと呟くと、その手に持っていたガラス瓶を嬉しそうに眺めた。

え。そっち?

黒いもやより差し入れ?

……そんなにおなかが減っていたのか。

それともやはり訓練後だから喉が渇いていたのかも?

お茶でも用意したほうがいいかと思い、ハストさんを見上げると、ハストさんは私の視線に気づいたようで、こほんと一つ咳払いをした後、いつもの表情へと戻した。

「つまり、イサライ様が通路で倒れているレリィを見つけて、ちょうど持っていたこのガラス瓶に入った飲み物を渡した、ということですね」

「あ、はい」

「お姉さんが渡してくれたもの、とてもきれいで、すごく冷たくて……。知らない人から物をもらうのは気が引けたんだけど、どうしても飲みたくなったんだ」

「そうだな。普段なら危ないことをするな、と怒るところだが、イサライ様の作るものならば仕方がない」

見れば飲みたくなるのは当然。

よくわかる、とハストさんは深く頷いた。

「そして、それを飲むと、体から黒いもやが出て、その後、体がとても軽くなったんだな?」

「うん。ずっと苦しかった胸が、熱かった体が、すべて楽になったよ」

「なるほど」

ハストさんとレリィ君で会話が続いていく。

とりあえず横からその話を聞いていた私にハストさんの水色の目がまっすぐに向いた。

「……イサライ様。レリィは生まれつき、体があまり強くありませんでした。その体に強いスキルを持っていたために、レリィは苦しんでいたのです」

「……そうなんですね」

「僕のスキルは『炎魔法』。それを制御することができず、常に死と隣り合わせでした」

レリィ君もその若葉色の目で私をじっと見つめる。

「まだ小さいときは良かった。体は弱かったけれど、その分スキルも弱くて、それなりにバランスを保てていたんです。でも、体が成長する毎にスキルの力は強くなっていって……。それを抑えるために極力体力は温存して、こうしてスキルを封じるためにたくさんの魔具をつけて過ごしていました。――でも、もう限界だろう、と」

レリィ君が首元にある金色のネックレスや、手首につけていたブレスレットを見せてくれる。

きっと、これが魔具と呼ばれるものなのだろう。強すぎるレリィ君のスキルを抑え、命を長らえさせてくれるもの。

「あ、でも、それだと私はすごくまずいことをしたんじゃ……」

これまでハストさんに食べてもらって、私の料理が食べた人に影響を与えることはわかっている。

それは『食べると強くなる』ということ。

身体能力が上がり、スキルの力も強くなる。

レリィ君にとって身体能力が強くなるのは悪いことではないだろうが、スキルの力が強くなるのは、毒を増やしてしまうようなものなのでは……?

不安になってハストさんを見ると、ハストさんはそんな私の不安を払拭するようにしっかりと頷いてくれた。

そしてレリィ君へと目線を移し、力強い声で説明を続ける。

「レリィ。実際にイサライ様の料理を食べてわかったと思うが、イサライ様は不思議な力を持っていらっしゃる」

「うん」

「イサライ様の料理は……」

「お姉さんの料理は?」

「食べると強くなる」

「たべるとつよくなる」

あ、それそれ。前のやつね。

「そして、レリィに起こった変化を見て、もう一つ確証を得た。それは……」

「それは?」

「食べると元気になる」

「「たべるとげんきになる」」

新しいの出た。

なにその、仙人の豆。

猫が育ててるやつ感。

「前から考えてはいました。もしかして疲労回復や傷病回復のような効果もあるのではないかと。しかし私は疲労感を感じたことがほとんどなく、また病気もなく、怪我もあまりしません。してもすぐに治りますので、それについては確認ができませんでした」

「うん。ヴォルさんは昔から強かったもんね」

「……元気ですね」

さすがシロクマハストさん。疲れず、怪我せす、すぐに治る!

「きっと、身体能力の向上とその疲労回復、傷病回復効果でレリィの体に変化が起こったのだと思います。スキルが強いのは悪いことではない。ただレリィはコップにひびや割れがあり、小さいのに中身が多すぎた。コップを修復しようにも、中身が多すぎるので直しようがない」

「うん。体を強くしようと思っても、外で運動したり、魔力をうまく使う訓練をしたりはできなかった。体力がなくなると命が危険だから、と」

「けれど、イサライ様により、コップは修復され、さらに大きなコップへとなったのだと思います。イサライ様は中身を多くする作用もありますが、コップ自体が大きくなれば、なにも問題はない」

そっか。つまり食べると元気になるのだから、強くなったとしてもスキルだけが暴走することはない。

だから、レリィ君は――。

「……じゃあ、僕がスキルに悩まされることは……。いつまで生きられるんだろうって思うことは……。」

――もう、ないんだ。

噛み締めるような声。

そして、ぎゅうと左腕を抱きしめられた。

「ありがとう。……あ、りが……」

「うん」

「僕、……僕、本当は……ずっと……」

「うん」

「こわ、くて……」

「うん」

「苦しく、て……」

「うん」

こんなのただの成り行き。

感謝されるようなことはしていないし、私自身の力だって誇れるようなものでもない。

でも、それでも。

小さな体でこうやってずっと耐えていたんだとしたら。

「今日、会えてよかった。レリィ君の助けになれたなら、本当によかった」

私の腕を抱きしめたまま、顔を上げられないレリィ君の青い髪をよしよしと撫でる。

すると、ハストさんも近づいてきて、レリィ君の前で片膝をついた。

「レリィが苦しんでいたことを知っていた。もしかしたらイサライ様にはそれを救う力があることも勘付いてはいた。でも、二人を進んで引き合わせようとはしなかった」

「う、うん……。うん。いいんだ、この体はヴォルさんのせいじゃない。ヴォルさんが魔獣を倒して、その素材でこの魔具を作ってくれてたことも知ってる。ヴォルさんには感謝しかないよ」

ハストさんの真摯な声にレリィ君は一度深呼吸をした後、顔を上げた。

そして、微笑んだ後、まだ濡れたままの若葉色の目で私を見上げる。

「それにヴォルさんの気持ちもわかる。――ちゃんと守ってあげないとね」

「……ああ」

ハストさんの水色の目も私を見る。

そうして二人に見つめられると、なんだか胸がそわそわして……。

「私の! 私のレリィは!!」

すると、突然廊下から大きな声が響いた。

そして、バタンッと乱暴に部屋の扉が開く。

そこにいるのは青い髪の男の人。

その人は私の腕を抱きしめているレリィ君を見て悲鳴を上げた。

「ああ! ああ、あああ! 私の可愛い子ウサギが……!!!」