軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

時をかける冷蔵庫

にやつきから一転。真顔でバジルを刻む。さくさくさくさくさ。

『田舎者が草をさくさく!くさくさく! ははっ!』

……私の幻聴、レベルが低いな。

自分で自分がこわいけれど、これは私のレベルではなく、幻聴元のせいだから仕方がない。

そんな幻聴の中、ちょうどよいサイズになったバジルを器に取っておいたトマトと合わせる。

そして、新たにポイント交換したものを手に取った。

「トマト、バジルと来たら、やっぱりこれ! オリーブオイル!」

イタリアン三兄弟!

濃い緑色のびんがきらっと光る。

オリーブオイルはスーパーにもたくさんの種類があって、値段もピンキリだ。

私は少し割高でも、遮光性のある小さ目のびんのものを買っていた。

オリーブオイルはドレッシングや直接かけて使うことが多いので、風味が落ちないように、開封後は早く使い切りたいもんね。

まあ、サラダ油も開封後は早く使い切ったほうがいいんだけど、そちらはあまり厳密じゃなくてもいいので、大きいサイズだった。

揚げ油に使うと一気になくなっちゃうしね。

濃い緑色のびんの蓋を開けながら、よく使う油を思い出す。すると、心にはある思いがむくむくと出てきて……。

「……揚げ物食べたいな」

さくっとした衣にジューシーな肉汁。しょうゆと酒、にんにく、しょうがで仕込んだあっつあつのもも肉のからあげ。

二度揚げした手羽先ににんにくしょうゆの甘いタレを塗った、お酒がすすむ手羽先からあげ。

胸肉はチキンカツにしてもいいし、ハストさんの作ってくれた包丁で粗みじんにした後、チキンナゲットにしてもいいかもしれない。

「鶏……鶏食べたい……」

おやつ時なのに、口の中がにわとりを求めている。

今度作ろう。絶対作ろう。

「でも、まずはこれ」

そう。今はとりではなくトマト。

トマトとバジルの入った器にオリーブオイルをかけ、そこに塩をひとつまみ。

そして、菜箸で全体を絡ませれば、まずはこれで完成!

「トマトのオリーブオイル和え!」

簡単! そして見た目がすごくきれい!

真っ赤なトマトと緑のバジルは食欲をそそる。

できあがったばかりなので、今はまだ味が馴染んでいない。あと、一時間もすれば少しだけ入れた塩とオリーブオイルに漬けこまれ、トマトの甘さがしっかり引き立ってくるはずだ。

「さあ。今日はこれの実験をしよう」

トマトのオリーブオイル和えを持って、それの前に立つ。

それは白い四角い箱。

「この冷蔵庫はどこまでできるのか……」

ごくりと喉を鳴らす。

「とりあえず、中に入れれば腐ることがないんだよね」

そう。実はこの冷蔵庫、中に入ったものが腐らない、まさかの機能を持っていた。

食材をポイント交換で手に入れて、一応日付とかもちゃんと覚えていたけれど、それも限界がある。

ポイント交換したものには賞味期限が印字されていなかったから、ラベルを作るかメモが必要だなぁと思っていたのに、中に入れたものが悪くなる気配がまったくなかったのだ。

そして、そのことに気づいた後、実験としてもやしをポイント交換した。

もやしは足が早い。気づいたらすぐに悪くなってしまう。

なので、もやしには大変申し訳ないが、ニ、三日で結果がわかるし、見た目から痛んだことがすぐにわかるので、それを冷蔵庫に入れておいた。

「うん。やっぱり腐ってない」

冷蔵庫を開けて、そっともやしを取り出す。

いつも通りのパッケージのそれは、今も同じように真っ白な茎と黄色の葉のまま。

「三週間は経ったのに……」

ありえない。普通なら絶対にありえない。

買ってきて三週間もすれば、液体化してると思うんだよね。あれ? 私、もやしじゃなくて、なにかしらのドロドロ買ったっけ? っていう……。

「こっちも腐ってない」

そして、もう一つ、お皿に乗ったオートミール粥。

実は朝食に出たものをちょっと失礼して、ここに保管してみた。

もしかしたら、冷蔵庫ではなく、ポイント交換したものが腐らないのかもしれないと思ったから。

でも、この世界で育った植物をこの世界の調理器具とこの世界の調理人が作ったものも、できあがった当時の姿のままここにある。

においもそのまま。こわいけど毎日食べてみた結果、ここ三週間、味も変わらなかった。いつもちゃんとオートミール粥。

つまり――

「冷蔵庫はタイムマシン」

この冷蔵庫、時を支配している。間違いない。

というわけで、腐らないことは確認できたので、次の段階へ進む。

この台所は私にかなり都合よく動いてくれるので、もしかしたら、と、ある考えが浮かんだのだ。

「冷蔵庫は時を止めるだけじゃなく、時を進めることもできる」

例えば、ゼリー。

固まるまで時間がかかるはずだが、この冷蔵庫ならばさっと固めてくれるのではないか。

次に、煮物。

しっかり火を通した後、冷めていく過程で味が入っていく。

だから、まだ味が染みていない状態でも、この冷蔵庫に入れれば、しみしみーとおいしくできあがるのではないか。

「それなら、トマトのオリーブオイル和えもあっという間に……」

そう。まだ和えたばかりだから、味が馴染み、おいしくなるには、一時間はかかる。でも、この冷蔵庫に入れれば、時間が短縮できるはず……!

まだ仮定の段階だけど。

それを今日、証明する!

「おいしくなぁれ」

なんとなく呪文を唱えて、そっと冷蔵庫に入れる。

そして、冷蔵庫のドアをぱたんと閉めて、もう一度開けると――

「できてる……っ!」

できてる。

さっきまでフレッシュなトマトにオイルがかかっていただけだったのが、今はトマトがしっとりとしている。

トマトの角がどことなく丸くなり、全体的に赤味が増した。バジルの緑色も濃くなり、しっかりとオイルと合わさっていて……。

「一時間かかるはずが、ワンドアぱたん、でできあがってる……!」

神かよ。

この冷蔵庫は入れた状態を保持するわけではない。

そのものにとってベストな状態にし、それを維持し続ける。

しかも、そのベストな状態っていうのは、私のスキルだから私の思いのままということで……。

「好き……この台所大好き……」

冷蔵庫の前にかがみこんで、すりすりと撫でる。

ついでに、左手で流しの下の開き戸も撫でた。

私のスキル『台所召喚』。

ポテンシャルの高さがすごい!