軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

スキル『研磨』

バーバーシロクマではイケメン理容師によるアシンメトリーカットを推しているようだ。使用する道具は木の棒。すっごく先が鋭いやつ。わぁ斬新。

散髪をし、金髪おかっぱから金髪アシメになった男に、ハストさんが低い声で施術の終了を告げた。

「勤務に戻られては?」

「ひっ、ひゃい!」

尻もちをついて動けなくなっていた金髪アシメはその言葉に悲鳴を上げながら、バタバタと去っていった。

うん。便利な相槌はひふへほの「ひ」を独占しているね。

「イサライ様」

その後ろ姿を見ていると、ハストさんが私の名前を呼び、そっと近づいてくる。

さっきまでまとっていた吹雪は消え、しゃがみ込んでいる私に合わせるように、その隣で片膝をついた。

「申し訳ありません。不快な思いをさせました」

「いえいえ。まったく気にしてませんから」

そう。田舎者の落ちぶれ令嬢と言われてもピンとこないためか、あんまりイライラしない。行き遅れ発言については、いいから放っておけ、とただただ思う。

怒鳴られるのや、ずっとついてくるのはめんどくさかったが、ハストさんがしっかり散髪してくれたので、もはや彼に思うことはなにもない。あ、仕事がんばれ。

「……聖女様にお会いしたのでは?」

「ああ、そっちですか」

ハストさんの眉尻が少しだけ下がって、そのちょっとした変化で私を心配していくれているのがわかる。

どうやら、裏庭でのことがもうハストさんに伝わっているらしい。

……いや、というか、ハストさんは休みだったのでは?

「あの、もしかして私のせいで、休みだったのに呼び出されたんでしょうか」

それなら大変申し訳ない。

こちらこそ謝らなくては、とハストさんを見ると、ハストさんは静かに首を横に振った。

「いいえ。実は本日も王宮へ出仕しておりました」

「え」

「もちろんイサライ様と相談し、決めたことは守ります。イサライ様も常に私がいては気を抜くこともできないでしょう」

ただ……とハストさんは目を逸らす。

「もし何かあればすぐに駆けつけたい、と」

うん。確かにすごく早かった。

聖女様のことがあってから、すぐだもんね。

「……つまり、休んでなかったってことですか?」

「……そうですね」

ハーブ畑の前に片膝をつき、バツの悪そうな顔になるハストさん。

木の棒を石に突き刺しちゃうようなすごくつよい人なのに……。

「ちゃんと休まないと」

「……はい」

「私はハストさんと一緒にいたくなくて、ハストさんに休みを取って欲しいと言っていたわけじゃないですから」

目の前にある水色の目を覗きこむ。

そして、その目に笑いかけた。

「元気でいて欲しいだけです」

どうやら、ハストさんは私がずっとハストさんといるのが嫌なのではないかと考えて、休みを取るようにしていたらしい。

だから、私の護衛につかない日を作りながらも、実際には休んでいなかったのだろう。

「一緒にいるのは楽しいですよ。ハストさんつよすぎです」

石壁に突き刺さった木の棒を見て、あははと声を上げる。

ありえなさすぎて笑っちゃうよ。

「そ、う、ですか」

「すごいです。今日は私の作ったごはんを食べたわけではないから、本来のハストさんの実力ってことですもんね」

私の言葉になぜか目が泳いでいるハストさん。

そんな彼だか、今回の石壁に木の棒の件は食べるとつよくなるパワーではない。

二人でいろいろと検証したところ、私のごはんを食べてパワーアップするのはだいたい半日。それも食べれば食べるほどつよくなるわけではなかった。

パワーアップする量は何度食べても同じで、効果持続時間は最後に食べた時間から半日だ。

ハストさんは今日は私の護衛についていないから、朝食は一緒にとっていない。

だから、ハストさんが最後に私のごはんを食べたのは昨夜の夕食で、すでに半日が経っている。

つまり、これは私のごはんとは関係なくハストさん自身が持つ力だ。

「木の棒がすごく尖っていましたけど、ここではそういう武器を使うんですか」

「いえ、それは私のスキルです」

「ハストさんのスキル?」

私の言葉に目が泳いでカタコトになっていたハストさんがまたしっかりと私を見る。

そして、土の上に落ちていた石を一つ手に取り、私に見えるようにてのひらに置いた。

すると、その石が淡く輝いて――

「おおっ!」

少しごつごつとしていた石が瞬く間に鋭く尖っていく。

光が消えた後、ハストさんのてのひらの上には石の矢じりのようなものが出来上がっていた。

「これが私のスキル『研磨』です」

「すごい……。『研磨』、つまり物を研いで、刃物のようにできるということなんですね」

「はい。材質は基本的には問いません。刃物のように鋭く研ぐだけでなく、物の形を変えることができるスキルです」

そう言って、もう一つ石をとる。

すると、その石が淡く輝いて、今度は丸い球体になった。

「わぁ! すごく応用が効きそうなスキルですね」

「最初はあまりいいスキルだとは思いませんでしたが、これのおかげでとても助かっています」

ハストさんの言葉にうんうんと頷く。

そうだよね、ハストさんは北にある魔獣を相手にする騎士団にいたと言っていたから、そこで団員の武器の手入れなどもしていたのかもしれない。

きっと、たくさんの人の役に立ったことだろう。

「魔獣は人間より脂肪が多いので、刃がすぐにだめになり、切るのが難しくなるのです。このスキルがあれば、単身で乗り込んでも、刃がだめになることがなく、ただひたすらに目の前の獲物を切るだけで済みます」

……うん?

「剣が折れた際も、木の棒や石、骨、なんでも武器にできますので、一刺しごとに武器を交換できるのです。亡骸から引き抜く手間を省け、とても重宝しています」

……なにそれこわい。

思ってたんとちがう。活用方法が全然ちがう。

「本当は剣術や体術に関するスキルが欲しかったのですが、こればかりは仕方ありません」

「え。……え」

ハストさんがさらっと告げた言葉。でも、それが信じられない。

……いや、持ってるよね。なんか戦闘に使えそうなスキル。絶対持ってる。わたし、しっている。

「あの、気配察知とか怪力とか吹雪とか氷漬けとか持ってますよね?」

「いえ?」

「……あの、たとえ木の棒を限界まで研いだとしても、石には刺さらないと思うんですよ」

物理的に。世界の法則的に。

「そうですね。そこは訓練によるものだと思います」

「くんれん」

そうか。鍛えれば鋭くとがった木の棒を石に突き刺すことができる。そうか。うん。わたし、しらなかった。

「イサライ様の作った料理を食べると、スキルに不思議な作用もあるようです。先日の警備兵の剣を切る際にスキルを使ったわけではないのですが、とてもよく切れましたから」

「……なるほど」

金髪アシメの家宝の剣。木の棒で切っていたけど、それはハストさんのスキルとも関係していたらしい。

ただスキルを発動したわけではないから、木の棒自身が鋭くなったわけではない。……あれかな、やっぱり『気』的ななにかなのかな。

なるほど、と答えたけれど、ハストさんの力についてはちょっとよくわからない。

この世界の人がすごく強いの? ハストさんがつよすぎるの?

金髪アシメの反応を見るに、やっぱりハストさんがつよいんだろうけれど。

そして、そんなハストさんの力を知って、思いつくことがあって……。

「あの、もし迷惑じゃなければ……」

水色の目をじっと見つめる。

「包丁を作ってくれませんか?」

なんかすごいのができそう!