作品タイトル不明
大きくて熱いモノ
私たちが真珠を見ていたころ、中央広場のステージは大変なことになっていたらしい。
そして、一番祭りを盛り上げたということで、海の男グランプリとして表彰されたようだ。
祭りはまだ続くようだったけれど、行く先々で人だかりができてしまうため、私たちは早々に宿屋へと入っていた。
聞いていた通り、この街は観光スポットでもあるようで、リゾート地といった感じだ。
たくさんの舟がある港から離れると、そこには白い砂浜。
そして、同じような作りの一戸建てが何件も建っており、それが今回の宿泊場所だった。
私たちはそのうちの3棟を借りている。
眠る前に話をしようということで、エルジャさん、ハストさん、ゼズグラッドさんが泊まる棟のリビングに集まることになった。
「今日はとっても楽しかったネ!」
エルジャさんがハハハッ! と笑う。
その声が広いリビングに響いた。
普通より高い天井になっていて、開放感がある。
三人掛けのソファと対面に一人掛けのソファが二つ。両サイドにはスツールが置かれ、ローテーブルを囲むようになっていた。
私と雫ちゃん、レリィ君で三人掛けのソファに座らせてもらって、対面の一人掛けのソファにはエルジャさんとスラスターさんがそれぞれ座っている。
うん……スラスターさんがレリィ君の足元に侍らずに座っているだけで、不思議な感覚になるよね……。慣れってこわい。
ほか、アッシュさんはスツールに座り、ハストさんは三人掛けのソファの横に立っていた。
ゼズグラッドさんはいまだ逃走中である。
ハンターから逃げているんだろう。
「ボク、お祭りは初めてだったけど、すごく楽しかった」
「私も楽しかったです」
「そうだね。お祭りの日に来ることができてよかったね」
エルジャさんの言葉にレリィ君と雫ちゃんが頷く。
私も同じ気持ちだ。
おいしいごはんをたくさん食べられたし、本当にいい一日だった!
「ボクはやっぱり最後にグランプリを獲れたのが楽しかったナ! 女の子がみんなボクを見てたくさん周りに集まってくれた。旅はこうでないとネ!」
エルジャさんの頬にはたくさんのキスマーク。
……うん。おたのしみでしたね。
「そのせいで、その後はなにもできなくなったな」
「……そうだっ! 『あとで』もなくなってしまった」
望み通りに女の子と遊べたエルジャさんと違い、珍しくハストさんとアッシュさんの意見が一致している。
二人はチラリと私を見て、はぁとため息をこぼした。
「ハハハッ! それを言うならボクだってシーナ君とは遊んでいないサ! いいじゃないカ! 旅の日程はまだまだあるんだからネ!」
そんな二人をエルジャさんが笑い飛ばす。
すると、スラスターさんが、ローテーブルの上になにかを置いた。
「あなたたちがバカをやっている間に、私たちはこれを入手しました」
スラスターさんがローテーブルに置いたもの。
それは怪しい店で買った、真珠のイヤリングだ。
「これは?」
瞬間、エルジャさんは表情を変え、真珠へと注目した。
さっきまでの顔が嘘のように、紫の目は真剣な色をしていた。
「すごいネ、こんな石、見たことがないヨ」
「ああ……これは、石なのか?」
「購入した店主は石と言っていましたが」
エルジャさんの声にハストさんも同調する。
口振りから、この世界では真珠が一般的ではないのが感じられた。
「路地に入ったところで声をかけられ、地下にある店に連れて行かれました。そこで売っていたのがこれです」
「待て。では、私たちが舞台にいる間に、シーナ様も怪しい店に入ったということか?」
「ええ。私たち四人が別々になるよりは一緒にいたほうが安全と判断しました」
「すみません。もしなにかあったら雫ちゃんと一緒に台所に逃げればいいかと考えて……。スラスターさんの鼻で情報があるとわかったので」
ね。トリュフ豚だからね。
スラスターさんを冷たい目で見下ろすハストさんに、私からも事情を説明する。
だって、寒いから……。この部屋の気温が下がったからね……。
すると、ハストさんは首を振った。
「シーナ様の判断について異を唱えたいわけではないのです。ただ……私がそばにいたかった、と」
「無理ですよ。あちらは金を持っていそうな男女の観光客を狙っていたようですから。ヴォルヴィたちがいては声をかけられることはなかったでしょう」
ハストさんの言葉をスラスターさんは即座に切り捨てた。
そうなんだよね……たぶん、ハストさんがいるときじゃダメだったんだと思う。
「レリィ君も一緒だったので、安全だと思いました。最終的にはスラスターさんからのレリィ君への愛を信じただけなので……」
信じられるのは、ハァハァしているほうのスラスターさん。
「……たしかに、スラスターはレリィへの愛という一点のみは信頼できます」
うん。一点のみ。
「ハストさんが私たちを心配して言ってくれているのはわかります。ありがとうございます」
そう。ハストさんは私たちが怪しい店に入ったことを怒っているわけではなくて、本当に心配してくれているのだ。
なので、ハストさんを見上げて、笑顔を向けた。
それに――
「もしなにかあっても、ハストさんならすぐに来てくれるって思いました」
この胸に、ずっとある。
ハストさんがいれば、絶対に大丈夫だって。
「……本当に、シーナ様には敵いません」
ハストさんの水色の目がやわらかく細まる。
スラスターさんは、部屋の気温が元に戻ったのを確認したのか、話を続けた。
「では本題を進めましょう。店主の話を聞く限りでは、この石は最近、この辺りで採れるようになり、秘密裏に売買されているということでした。新たな鉱物や特産品ができた場合は国に報告することになっていますが、この石についての報告はありません」
「そうだネ。ボクの知らない話ダ」
スラスターさんの言葉にエルジャさんが頷く。
次期宰相と王太子様が知らないんだから、本当にまだ商売を始めたばかりか、隠れてやっているのだろう。
ただの石ならば、多少の問題ではあっても重要視するほどではないと思う。
でも、この真珠はただのアクセサリーとして売られていたわけではなくて――
「あのね、その石には魔力があるみたいだよ」
「レリィが見たのカ?」
「うん。僕のつけている魔石と同じ。純度の高い、濃い魔力を感じる」
「魔力が……」
「まさか!」
エルジャさんの問いにレリィ君が答える。
魔力があるというのはとても重要なようで、エルジャさんの目はより真剣味を増した。
さらに、ハストさんとアッシュさんも言葉を零す。
レリィ君の言葉はみんなにとって、驚くものだったようだ。
「あの、それに魔力があるのはそんなに、すごいことなんですか?」
雫ちゃんがおずおずと話に混ざる。
私たちには異世界の常識がわからないから、みんなの驚きがよくわからないしね。
「レリィ君がつけている赤い石は魔獣から採れるんだよね?」
「うん。ヴォルさんが獲って、加工してくれたんだ」
私の言葉にレリィ君が頷いて返す。
すると、スラスターさんが説明を加えてくれた。
「魔石は魔獣からしか採れない。そして、レリィがつけている赤い石しか存在しません。管理は国が行い、利用しています」
「今はシズク君が使った結界の装置や大がかりなもの以外では使われることは、ほとんどないけどネ!」
「魔獣を倒しても、採ることができる魔石はほんのすこし。命をかける必要はないと私は思います」
北の騎士団で魔獣と相対していたハストさんだからこその言葉の重み。
ハストさん自体はとても強いから、魔獣を倒すことができる。
けれど、もし、北の騎士団のみんなだけで魔獣を倒して魔石を採れと命令が下れば、すごく苦労するだろう。
「僕は魔石がないと生きていけなかったから……」
レリィ君がそう言って、そっと胸元の赤い石に触れた。
こうやって個人で使用しているのは珍しいのだろう。
「レリィ君と一緒に旅ができてよかった」
ふわふわの青い髪をそっと撫でる。
こうして過ごせるときは、当たり前なんかじゃない。
レリィ君が、たくさんのつらくいこと、苦しいことを乗り越えたから。
だから、今がある。
「シーナさんの優しさが、僕を助けてくれたんだ」
そう言って笑うレリィ君は――
「僕の全部をシーナさんは作り変えてくれた」
――うっとりと笑っている。
……いけない! これはいけない! 私のやわらかいところ! 逃げて!
でも、私の退避命令も虚しく、レリィ君のうっとりはより強くなって……。
「シーナさんの大きくて熱いモノを僕の中に挿れてくれたから」
語弊。