軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6、何も知らないくせに

「さて、と。無事旦那さまをお仕事に送り出したし、"社交"と言う名の情報収集でもしましょうかね」

ステイシーは当て馬妻だ。

いつかクラヴィルに捨てられると分かってはいるが、小説はヒロイン視点で書かれていたためその"いつか"がいつなのか、ステイシーには正確な時期がわからない。

流石に結婚当初ではなかった気がするが、なんだったら早々にお譲りしても構わない。

「確か、彼女は貴族の庶子できょうだいから虐げられてるはず」

なんて王道設定、とステイシーがつぶやいたところで。

「やぁ、これはヘイリス公爵夫人ではないですか。結婚お披露目以来ですなぁ」

会場に一人でいるステイシーをめざとく見つけ、声をかけてきた相手がいた。

「あら、ガーランド伯爵。その節はお越し頂きありがとうございました」

武装した笑顔の下でステイシーはこっそりため息をつく。

本来、身分が高い者に目下の者から声をかけるのは失礼に当たる。

何の影響力もない、という理由だけで妻に選ばれた貧乏伯爵家の娘が調子に乗るな、と軽んじられているのだろう。

「あぁ、夫人は本日もお美しいですなぁ。さすが公爵家。一流の仕立て屋の仕事だと一目で分かる。皆公爵夫人の美しさに目を奪われておりますよ」

「まぁ、もったいないお言葉ですわ」

馬子にも衣装ってことだろうか?

なんて捻りのないとステイシーは失笑して受け流す。

確かガーランド家の娘もクラヴィルに熱を上げており、野心家で娘に甘いガーランド伯爵はクラヴィル公爵家と縁を持ちたがっていたはず。

だとしてもわざわざ喧嘩を買ってやる必要はない。どうせクラヴィルとは彼が運命の恋に落ちるまでの短い縁だ。

さっさと切り上げて何処かで大人しくクラヴィルの帰りでも待とうとステイシーが適当な相槌を打っていると。

「それにしても、エルネア伯爵家も災難でしたなぁ。王命とはいえ、娘を生贄に差し出さねばならぬなんて」

「それは、どういう?」

「おや。おやおやおや? 夫人はご存じないのですか? 閣下が婚約者に出された条件を」

ガーランド伯爵はニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる。

「ああ、我々にはできませんなぁ。可愛い我が子に愛のない結婚の強要など」

反論せず沈黙しているステイシーに追い討ちをかけるようにそんな言葉が投げつけられた。

「私も聞いたことがありますよ。閣下の結婚相手への条件は、必要時パートナーとして公務を果たせる愛さなくて良い存在、だとか」

いつのまにか集まって来たガーランドの一派から向けられる悪意と好奇の視線がステイシーに容赦なく降り注ぐ。

「戦場での閣下の活躍は我らも聞き及んでおりますよ。冷酷に斬り捨てる様はまさに鬼神。いやはや、彼にはヒトの心というものがないのか」

「初めての夜会で置いてけぼりとは。苦労されますなぁ、閣下の奥方は」

一つの悪意はまるで水面に落とされた小石のように波紋となって瞬く間に広がっていく。

話を聞いているうちに沸々とした感情が胸の内に湧いてきた。

何も知らないくせに、と。

「なぁに、我々はいつでも夫人の味方ですよ。そうだ。夫人のお耳に入れておきたいことがあるんでした。是非あちらで」

「それはそれは、興味深いお話ですわね」

ステイシーはにこっと淑女の笑みを浮かべる。

「私少し退屈をしておりましたの。良ければあちらでカードゲームでもしながらお話しするのはいかがです?」

栗色の瞳は好奇心いっぱい、無邪気にはしゃぐ。

「それは楽しそうだ」

獲物がかかったとばかりに人の良い笑顔を浮かべたガーランド伯爵達はステイシーを伴ってテーブルへと移動した。

「タダでお話聞かせて頂くのもなんですし、せっかくですから"賭け"でもいたしましょうか?」

ステイシーはパラパラとカードを切りながらそう笑う。

「ほう、何を賭けられますか?」

「そうですねぇ。"クラヴィル・ヘイリス公爵の妻の座"なんてどうです?」

ご令嬢がお望みでは? と淡々とした口調でステイシーは賭け金を提示する。

「本気ですかな」

すっ、と目が細められコチラを値踏みするようにガーランド伯爵が尋ねる。

「ええ、勿論。ただし、同等のモノをおかけくださいな。ゲームはイーブンでないと。それとも、お逃げになります?」

パラパラとカードを捌く軽快な音と挑発するようなステイシーの大きな瞳。

カードゲームは紳士の嗜みのひとつ。

相手は碌碌社交界を知らない貧乏貴族の小娘。

それに、こちらには仲間もいる。万に一つも負けるわけがない。

「いいでしょう。では、種目はポーカーで」

それぞれ賭け金が記された契約書を眺め、不備がないことを確認したステイシーは、

「じゃ、ゲームをはじめましょうか?」

にこやかにゲーム開始を告げた。