軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4、契約の範囲内ですよ

「夜会、ですか?」

メイド服のままでいいから、と促され夕食の席に着いたステイシーに切り出されたのは夜会への同伴依頼だった。

騎士団長を務め、遠方に長期で出ることの多いクラヴィルはあまり社交の場には出ない。大きな夜会では王族の警護に駆り出されることも常だ。

が、公爵であるが故に不可避イベントはいくつか存在する。その一つが今回の夜会への招待らしかった。

「ああ、少々探る必要があってな」

「なるほど。拝命いたします」

素直に受けてくれたステイシーに驚くクラヴィル。そんな彼を見て、

「初めから契約事項に入っていたではありませんか? 必要時はパートナーとして公務を果たす、って」

出ますよ、夜会。とステイシーはにこやかに笑う。

「そう、だが。仕事だし、会場では君を一人で放置することになる」

「なるほど。それも契約通りですね……ってどうしました?」

歯切れ悪く言い淀んだクラヴィルを見て、栗色の瞳が怪訝そうに尋ねる。

「いや、そんなにあっさり承諾されるとは思わなくて。初めての夜会でエスコートもしないのかこのクズが、くらい言われるかと」

「私の事なんだと思ってるんですか」

失礼な、と頬を膨らませたステイシーは、

「旦那さまのお仕事は尊いですよ。旦那さまが身体を張って守ってくれるから、この国は平和なんです。そこは、誇っていいところですよ」

ふわっと優しく笑い、クラヴィルを称賛する。

「それに、心配しなくても恋物語は勝手に始まりますよ。あなたが愛しい人に出会えば」

そしたら誰もクズ旦那なんて言わなくなりますとステイシーは食事のついでのようにそう言った。

「なんだ、その恋物語って」

「そうですねぇ。具体的には、真実の愛に目覚めた旦那さまがヒロインに骨抜きにされてスパダリ属性を発揮し、守ったり守られたりしながらヒロインに愛を乞います」

問われたステイシーはあっさりネタバレする。

が、彼女の不可解な予告はクラヴィルの眉間の皺を深くさせるだけ。

「なんだ、そのホラーな展開。笑えない冗談だな」

知りもしない誰かに恋をして、愛を乞うだと? 全く以て想像がつかない。

というか、クラヴィル的にホラーでしかない。

今までこの容姿で随分苦労し、女性関係でいい思い出など皆無だ。

愛する人? そんな相手、これから先も現れない。暗い思考に囚われかけたクラヴィルの耳に、

「ふふ、信じられませんか。初恋拗らせてじれじれですよ?」

凛と通る明るい声が届く。

「だから、心を揺さぶられる相手に出会ったら手放しちゃダメですよ。私の事は心置きなく切り捨てちゃっていいので」

顔を上げれば、栗色の瞳がふわりと笑った。

「あ、でも離婚する時は慰謝料多めにお願いします!」

それまできっちり 当て馬(お仕事) しますから! と平常運転のステイシー。

「わぁ、コレすっごく美味しい! 今度レシピ教えてもーらおうっ」

そんなステイシーを見ながらクラヴィルは濃紺の瞳を瞬かせる。

会話の中身は新婚とは思えないほど、全く以て色気がないし。

妻になった彼女は、クラヴィルなんてそっちのけで夕食に夢中。よく見せようなんて全く考えておらず、あむっと幸せそうにかつ遠慮なく食べ続けている。

「どうしました、旦那さま。好き嫌いせず食べなきゃダメですよ。騎士は身体が資本でしょ」

「ああ」

促されたクラヴィルは食事を口に運ぶ。

「美味しいでしょ。私も下準備手伝ったんですよ」

「ああ、美味いな。さすがうちのシェフの料理だ」

「ふふ、まぁ本当の事なので良しとします」

そう言ったきり、ステイシーはまた自身の皿に舌鼓を打ちはじめる。

結婚が決まった時はただただ憂鬱で。

初夜の前は逃げ出したいくらい嫌だったのに。

女性と二人で食事をしているというのに、今は嫌悪を感じないどころか、久しぶりになんだか食事が美味しくて。

「さっきの話、善処する」

その事に驚きつつクラヴィルは少しだけ口元に笑みを浮かべ、そう返した。

「はいっ! それはぜひ」

お仕事頑張るぞ、と気合い十分のステイシー。

普通の気負わない会話。それがこんなに心地よいなんて。ステイシーといると驚かされてばかりだ。

なんて思ったことは口に出さず、クラヴィルはワインと共に流し込んだ。