軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4、決まりなので。

クラヴィルが最上階に到着して随分経ったあと、

「ふわぁぁ〜とーちゃくっ!! 超絶キツッ〜」

ようやくステイシーがたどり着いた。

やり切った、といった感じで床に座り込んだステイシーは、汗で張り付く髪と息を整えた後。

「おおー絶景っ。風、気持ちいいー」

そう言って展望台から外を覗く。

夕焼けに闇色が混ざり始めた。街に明かりが灯り始め、頬を撫でる風は冷たく、もうすぐ夜がやってくるのだと告げる。

「待ちくたびれた」

「さすがクズい旦那さま。第一声がそれですか。デート相手を気遣って、歩みを緩めたり手を引いたり振り返ったりする事すらせずに早々に自分だけ駆け上がって行っただけはありますね!」

少々休んで落ち着いたステイシーは即座に笑顔で応戦する。

「腹ごなしだと言ったのはステイシーだろ」

理不尽、と眉間の皺を深くしたクラヴィルに、

「ラブいイベント全飛ばし。コレが本番なら赤点ですよ?」

相手が私で良かったですね♡と本日のデートを評価するステイシー。

結婚してから今まで口ゲンカでステイシーに勝てた試しはなく、確かにデートらしさは皆無だったので、クラヴィルとしては黙るしかない。

「ふはっ、冗談ですよ、旦那さま」

本当に素直なんですから、と取り繕わずに笑うステイシーは、

「それより、見てくださいな」

濃くなっていく空を背景にミルクティー色の髪を風で靡かせ、

「王都が一望できるなんて贅沢でしょ? ここが私のとっておきの場所なんです」

ご堪能頂けました? と両手を広げてクラヴィルに自慢する。

「とっておき?」

「はい、一度自分の足で来てみたかったのです。今までは魔術制御鍛錬の一環でしかなかったので」

ステイシーの落とした声が星の瞬き始めた空に消える。

「一般的なデートも考えたんですけど」

空に手を翳したステイシーはここではない何処を栗色の瞳に映し、

「いつか、旦那さまが最愛の人とその場所を訪れた時、一瞬でも 当て馬妻(ノイズ) がチラついたら嫌だな、って……思ってしまって」

選べませんでした、と静かに言葉を紡ぐ。

「こんな所に付き合わせてしまってすみません。他に思いつかなかったのです。旦那さまの人生に全く関わりのない場所が」

クラヴィルの恋物語がハッピーエンドを迎えたら、当て馬妻はお役御免だ。だが、そんな日が来ても、物語の先でクラヴィルの未来は続いていく。

きっとこれから先クラヴィルはヒロインと数え切れないくらい素敵なデートをするだろう。それこそ、国内のデートスポットを制覇してしまうくらい。

物語で描かれていた舞台以外にも赴くだろうクラヴィル達の未来はステイシーには予測できない。だけど、例えそれが何処であったとしても当て馬妻である自分がクラヴィルと一緒に行っては行けない気がしたのだ。

「デート、は惹かれ合う二人がお互いを知るためにするものです。だから、その楽しみはそれまで取っておいてください。きっと旦那さまが相手を思って選んだ場所なら、何処であっても素敵な時間になるはずですから」

ご期待に添えず申し訳ありません、と謝罪を口にしたステイシーはただ誠実であることを選ぶ。

いつもとは違うステイシーを前にしてクラヴィルの中でパズルがカチリと急速にハマっていく。

『私は、結局あなたに"夢"を諦めさせてしまいました』

ティアリスがそう言っていた、ステイシーの"夢"。

ステイシーが"院生"だとは聞いていた。そして、この結婚のために卒業が叶わず、退学したことも。

『何故、魔術式を組み立てられるのか?』

この世界には魔術が生活に根付いているが、お伽話のように願えば魔法が使えるわけではない。

魔力適性者の体内や魔石の中に存在する魔力と呼ばれるエネルギー。魔法はそのエネルギーを複雑な術式で使える形に変換できなければ発動しない。

その要である魔術式の構造を理解しているというのなら、それだけの知識を身につける努力をステイシーがしてきたからに他ならない。

カードゲームで誰にも気づかれずにイカサマができるくらい手先が器用な理由も、ステイシーが魔術師を目指していたのなら納得できる。

『だってコレも僕にとっては訓練だからさぁ』

魔術制御するには手先が器用でないと、とやたらと奇術めいたイタズラを仕掛けてくる魔術師団長のナチが言っていたから。

クラヴィルはステイシーに近づき、彼女の上着に手を伸ばす。ステイシーは静かに頷き抵抗しなかった。ステイシーの上着をそっと脱がせれば、予想通り彼女の左の上腕には魔力封じの紋様が入れられており、クラヴィルはそれを見て息を呑む。

「決まりですから」

魔法は便利だ。だが、危険でもある。それ故に魔法を扱うには適正と知識が必要で、広く一般に魔術という形で扱えるようにする魔術師は国家資格を保有していなくてはならない。

そして、魔術師の国家資格を取得できなかった者は、その力を彼らが目指した魔法によって"剥奪"されるのだ。