作品タイトル不明
2、一人じゃないから頑張れる。
デートプランはステイシーに丸投げした。だから、彼女にどこへ連れて行かれても文句を言うつもりはなかったけれど。
デートだというのにステイシーが普段彼女が社交の時に纏うドレスよりも着飾ることなく、普段着よりのワンピースとブーツというラフな姿で現れた時に突っ込むべきだった。
何故こんな得体の知れない店を選んだんだ、とクラヴィルの中でステイシーへの信頼が揺らぐ。
普段貴婦人のお茶会になんて出ないクラヴィルは下の段から食べるなんてマナーはガン無視し、ブラックコーヒーが残っているうちに上段の攻略に取り掛かる……が。
「甘っ。コレ、全部はさすがにキツいぞ」
元々甘いモノはそこまで得意ではないので、スリーティアーズいっぱいに並べられたお菓子を見るだけで胸焼けしそうだ。
「旦那さまは3段目のサンドイッチとキッシュをお願いします。あと、こっちのワインゼリーは食べやすいかと。1段目のペストリーは責任持って私が……最悪お持ち帰りしてでも頑張ります」
なんとかします、と意気込むステイシーはクラヴィルが食べやすいだろう下段を譲り2段目のスコーンに手を伸ばす。
「わぁー苺のジャムとクロテッドクリームがよくあってすごく美味しいです!」
可愛い見た目も味も文句はないけれど。
「ただ旦那さまには少し甘過ぎかもしれませんね。こちらも私が……」
頑張れるかなぁ、と想定外の量の多さにちょっと頼んだことを後悔するステイシー。
黙々と消費を頑張っていたが、マカロン2つ目で手が止まってしまったステイシーを見て、
「どうしてココだったんだ?」
クラヴィルはステイシーに理由を尋ねる。
「店は他にもあっただろ」
デートなんてまともにした事のないクラヴィルなので女性が好みそうな場所は知らないが、王都内ならこんなに騒がしい女性だらけのカフェに来なくても、もっと上流階級向きの落ち着いたカフェがあるのは知っている。
他にもステイシーが好みそうな演劇が鑑賞できる劇場なら個室を押さえて軽食を楽しみながらゆっくり観劇もできたので、そもそもはじめからそちらに出向けば事足りた。
つまり、こんな風に晒しモノになりながらコーヒーを飲む必要は全くなかったわけで。
社交をほとんどしない自分ですら知っていることをステイシーが知らないとは思えず、クラヴィルはそう尋ねてみたのだが。
「ここに来てみたかったのは本当なんです」
ステイシーはカフェオレをコクンと飲んで静かにカップを置く。
ヴァルメロ商会という伝手ができ、その人脈を駆使してヒロインを物語開始時期より早く探し出せないかと試みた。
前世の記憶を頼りに容姿や髪色などもっと詳しい情報も出せたけれど、公爵夫人が秘密裏にそんな特徴の子を探していると知れればヒロインが良からぬ悪巧みに巻き込まれる可能性もゼロではない。
だからステイシーの伝えた貴族の庶子である十代の女の子という情報だけで、見つけ出せていないのは仕方ないことだけど。
「もしかしたら、いるんじゃないか……って」
店名は出なかったけれど、女の子に人気のカフェで働いていたというエピソードがあったことを思い出して来てみたが。
「現実はお菓子みたいに甘くはないですね」
そう言ってステイシーはため息を吐く。
男主人公を連れて歩いたところで、運命とやらは簡単には引き寄せられてくれないらしい。
仕方ない、次よ次! と自己完結してしまったステイシーに、
「ステイシー。話が全然読めない」
置いてけぼりのクラヴィルが続きを促すも。
「こっちの話なので旦那さまは気にしないでください」
キパッと話はそこで打ち切られた。
その後もどこか他所他所しく視線を店内や店員に向けコチラを見ないステイシー。
「腹の探り合いなしで会話を楽しみながらお茶をして、愚痴をこぼしたり、相談できるような関係になる、って言ったのはステイシーなのに」
ぼそっと不満気にそう言ったクラヴィルは一気にコーヒーを煽る。
「へ?」
「俺は、察するのは得意ではない。ので、聞きたい」
驚いた表情を見せるステイシーを他所に、
「星屑ビターラッシュ追加で」
店員を呼び止めて、普段なら絶対言わない 商品名(セリフ) を自ら口にして、追加注文したクラヴィルは、
「今、君の目の前にいるのは俺だろう?」
不機嫌な濃紺の双眸でステイシーに訴えかけた。
確かに居もしないヒロインを気にして、デート中の相手を放置するのは頂けない。
「まさか、この手のことで旦那さまからお叱りを受けるとは」
申し訳ありません、と素直に謝ったステイシーは、クラヴィルを栗色の瞳に映す。
結婚した当初とは違い、クラヴィルの目にはきちんとステイシーが映っている。変わろうとしている推しを見ないなんて、読者の風上にも置けないわと反省したステイシーは、今度こそクラヴィルに意識を向ける。
「選定理由……のその前に」
甘いカフェオレで流し込むのは厳しいと判断したステイシーは、
「すみません、苦めの紅茶ストレートで」
と飲み物を追加注文する。
「待った。このクソ恥ずかしい商品名言わなくていいのか!?」
「いや、だってどれがどんな飲み物なのかこの名前から察するの無理ゲーじゃないですか?」
私は今この甘いモノをなんとかしたいと主張するステイシー。
ステイシーらしい物言いに、
「……言い損」
不貞腐れたように額に手をやり視線を逸らすクラヴィル。
「ふふっ、天下の騎士団長様がファンシーなカフェで可愛らしいメニューの注文なんて萌えますねぇ」
にやにやします、とステイシーがいつもの調子を取り戻したところで、
「お待たせいたしました♡星屑ビターラッシュと月灯りシルエットロマンスになります!」
可愛らしい店員さんが追加の飲み物と伝票を置いていった。
「おおーダージリンでしたね。いい茶葉使ってる」
「……紅茶要素微塵も無ぇ」
商品名と出てきたダージリンを見比べて感想を漏らしたクラヴィルに、
「いいんですよ、可愛くて美味しければ」
とステイシーは満足気に頷いた。
「そうだ。お店の選定理由でしたね」
「後で、でいい。とりあえず出るぞ」
長居は無用といったクラヴィルは一番上の段から苺のミニタルトを手に取る。
「旦那さま、それは」
クラヴィルの苦手な甘いお菓子。
頼んだのはステイシーなので、自分でなんとかすると言うより早く、
「どう考えても、ステイシーだけで消費できないだろ」
クラヴィルはそう言って一口でタルトを平らげる。
「戦場では諦めた奴からくたばる」
なんとかいける、と追加注文したコーヒーで流し込むクラヴィル。
「ここ、戦場じゃないんですけど」
クスクスと笑ったステイシーは、
「旦那さま、ありがとうございます」
私も頑張りますとモンブランの攻略に取り掛かった。